人が育つ組織づくりの実現に向けて 管理職と教職員の関わり合いに着目して 道教育大教職大学院 北村善春特任教授 第5回 勤務校越えて 共に学び合う研修 テーマ5「名寄市の実践から学ぶ②」( 2024-03-27付)
1 はじめに
前回は、名寄市のスクールリーダー研修会の概要と第1回の内容を紹介しました。特に、働き方改革を職場全体で進めていくため、教職員一人ひとりの認識や関心を知ることからスタートする意義や「対話」の重要性を紹介しました。今回は、第2回と第3回の内容を紹介し、スクールリーダーとしての行動の在り方や勤務校を越えて共に学び合う研修の意義について探ります。
2 第2回研修会の内容
第2回は、8月に開催しました。テーマは「勤務校の実態からの考察と今後戦略」でした。5月からの実践は、メンバーそれぞれの職場の教職員が「自校の働き方改革の目的」と「時間を確保したい業務」をどのように考えているかを聞き取り、教職員とメンバーの関心や認識の同異を確認したり、そこから分かったことを整理したりすることでした。
この結果を共有し、取組の構想を練ったのが第2回の研修会です。聞き取りの結果では、働き方改革の目的として、健康の保持と自身の業務時間の確保などが教職員とメンバーで共通していました。
一方、確保したい業務は様々であり、加えて、業務の削減は量か質か、将来教師になる人を増やすため、働き方改革の優先順位の難しさなど、学校全体を俯瞰した観点も出されました。
このような結果に対して、ゴールイメージを共有することや、「どんな教材研究をイメージしているのかなど、深く話を聞いて交流する必要がある」など、より具体化したり対象を広げたりする聞き取りが必要との認識も出されました。
なお、メンバー間では共通して「率直に、何に困っている等を言うことができる土壌」の重要性も挙げられていました。これらは、今後の取組を構想する上で示唆的な気付きと言えます。「対話」を継続しながら、心理的安全な職場づくりを模索するとともに、その過程を通じて、教職員と一緒に検討する重要性です。
これが、第2回研修会後の実践に向けて、メンバーが導き出した方向性でした。このように第2回は、認識の「ずれ」を理解した上で、実践で目指すゴールとそこにたどり着く過程を構想するという意義を有していました。
3 第3回研修会の内容
第3回は、11月に開催しました。テーマは「今年度の実践からの考察と次年度に向けた戦略」でした。8月からは、構想した取組を実行し、その経過や結果を記録しながら考察する実践です。
この実践に向けて、筆者からワークシートを提供しました。ワークシートの項目は、実践可能な取組を検討する観点として「実践の目的」「実践の内容」「目指したい結果(成果目標)」「教職員の関係性(プロセス目標)」です。
また、月ごとの実践の項目として「実践内容」「手応えがあったこと」「しっくりこないこと」を位置付けました。これは、設定した目的や目標を踏まえながら、月ごとの実践との関わりを関連付けて振り返り、必要な検討を行った流れを可視化できるようにしたものです。
さらに、4ヵ月間の実践を整理できるよう、第3回の研修会前に「働き方改革に対する教職員の意識を踏まえて実践した内容は何か」「それをどのような段取りで行ったか」「その結果、明らかにできたことは何か」「次年度の学校経営方針に盛り込めそうな観点は何か」の4観点を位置付けたワークシートを提供しました。
第3回の研修会では、これらのワークシートを全て統合した共有シートをメンバーに提供しました。このシートを共有して行った交流では、放課後に教職員個々が行いたかった業務を行えるよう、コアチームや全職員で話し合い、隔週で定期的な時間を確保した事例や、運営会議において事前に調整することで、会議時間の短縮化が実現したなどの事例が生き生きと語られました。
また、教職員にとって、良いと感じられる取組は年度途中でも推進が可能であることも挙げられていました。これには、年度途中からの取組を管理職にも積極的に支援してもらうようなスクールリーダーの働きかけも見られました。まさに、実践そのものが、職場における「ミドル・アップダウン・マネジメント」であることをあらためて認識し、その必要性・重要性をメンバーで確認しました。
4 スクールリーダー研修会からの示唆
研修会を通じて、スクールリーダーが実感した教職員との関わりはつぎのような点でした。教職員一人ひとりの問題意識を把握し、より多くの教職員が前向きに解決した方が良いと考える問題を析出して、職場の課題として設定したり「対話」によって相互の認識と「ずれ」を明らかにした上で、課題や方策を決定する「議論」を行うという、場面に応じたコミュニケーションを行ったりするリーダーの行動の手応えでした。
また、教職員一人ひとりの疑問や意見を吸い上げ、教職員と連携を図りながら目標を実現していく過程は、どのような課題に対しても共通して活用できることを実感したことも挙げられました。
つまり、本年度の取組から、つぎの点が示唆されました。1点目は、個人の認識の「ずれ」や関心等は、自身の経験や勤務校の状況とも関連して生じることを、同じ職にあるメンバーが体験的に学べたことです。これは、自身の認識や実践を協働的に省察する意義とも言えます。
2点目は、悩みや手応えを共有する体験を継続することで、職場の心理的安全な関係性を構築する過程を体験的に学べたことです。これは、メンバーが安心や自信を獲得する意義も有していました。
3点目は、上記の2点を踏まえ、実践と研修会を行き来しながら、学校課題解決に向けたアイデアの交流やフィードバックを受けることが極めて重要であることを実感し、各学校の教職員コミュニティーを形成する自身の関わりを獲得したことです。
今回の研修会を振り返ると、スクールリーダー同士で、これまでの教育実践とこれからの学校教育を形づくる新たな教育実践を創造するための探究と試行錯誤が、絶え間なく行われた自由な時間と場であったと言えます。
そして、各学校では、スクールリーダーの関わりによって、日常的に教職員との対話が行われ、教職員の意見を取り入れた当該学校独自のアイデアが創造されました。さらに、それが学校全体での実践として実現した学校もありました。
このように、市内全ての学校において、教職員同士で思慮を巡らせるコミュニティーへの転換が始まることを期待させました。
つまり、勤務校を越えて共に学び合う研修は、スクールリーダー個人の成長や自己変革を超えて、市内全域の学校の変革と組織開発を実現するプロセスを獲得したということです。
読者には、これらの点を「新たな教師の学び」の実現に参考とされてはいかがでしょうか。
本研修に関心を持たれた方は、お問い合わせいただければ、研修計画の情報をご提供いたします。
連絡先:kitamura.yoshiharu@a.hokkyodai.ac.jp
以上、2回にわたり名寄市スクールリーダー研修会の実践を紹介しました。このような取組は、端緒に開いたばかりです。今後は、さらに試行錯誤を重ね、その結果を広く全道に発信していただくよう期待します。貴重な情報の提供にご快諾いただきました全ての関係者に、心より感謝いたします。
次回は、管理職の協働的な学びの実践をご紹介いたします。
( 2024-03-27付)