馳文科大臣の年頭所感全文 期待に応える行政推進へ
( 2016-01-06付)

 馳浩文科大臣の平成二十八年年頭所感はつぎのとおり。

◆次世代の指導体制強化目指す

【はじめに】

平成二十八年の新春を迎え、謹んでお慶びを申し上げます。

 昨年十月の就任以来、私は教育再生、科学技術・学術、スポーツ、文化芸術の振興に全力で取り組んでまいりました。

 年頭に当たり、国民各位の期待に応える文部科学行政の推進に向けて、決意を新たにしております。

 私は国会議員となって以来、終始一貫して、教育、科学技術・学術、スポーツ、文化芸術がわが国の未来を開く重要な役割を担っているということを強く認識しながら、様々な議員立法をはじめ、種々の取組を進めてまいりました。私は、高校の教員、オリンピックへの出場、さらにはプロレスラーの経験もあり、こうした経験を経て培ってきた想いや現場感覚、人脈も大切にしながら、誠心誠意丁寧に全力で取り組んでまいります。

【一億総活躍社会の実現に向けた取組】

 一億総活躍社会の実現は、内閣の極めて重要な政策課題となっています。

 文部科学省では、昨年十一月に生産性革命、すべての人が自らの可能性を開花できる社会や、生き活き社会の実現を目指し、「緊急対策プラン」を公表しました。

 今後さらに政府としての「ニッポン一億総活躍プラン」を取りまとめる予定となっています。文科省としては、特別な支援を要する子どもも含めたすべての子どもが社会で自立し活躍する力を育むための教育の充実や、生産性革命を支える優れた人材の育成による世界トップレベルの科学技術イノベーションの推進に取り組むとともに、文化GDPやスポーツGDPなどの伸びしろのある分野を開拓します。

 また、出生率の向上に向け、貧困の連鎖を断ち切り、誰もが安心して教育を受けられるよう、教育費負担軽減に取り組むほか、教職員定数の戦略的充実や学校施設の耐震化、老朽化対策等を進めてまいります。

 日本の未来を創る「未来省」たる文科省として、一億総活躍社会の実現に向けて積極的に貢献をしてまいります。

【東日本大震災からの復旧・復興】

 東日本大震災からの復旧・復興については、学校の復旧、就学支援、児童生徒の心のケア、学習支援等をはじめ、復興を支える人材育成や大学・研究機関による地域再生への貢献など、被災者の心に寄り添った復興に今後も全力を尽くしてまいります。昨年四月には、福島県双葉郡に、文科省が設置を支援し続けてきた「ふたば未来学園高校」が開校しました。また、ことし四月には、東北薬科大学が東北医科薬科大学と名称変更し、医学部を開学する予定です。被災地の未来への歩みを引き続き支援してまいります。

 原子力災害からの復興については、除染や廃炉に関する研究開発や人材育成にかかる取組を加速させるとともに、原子力損害賠償についても、迅速、公平かつ適正な賠償に万全を期してまいります。

【教育再生】

 教育再生は、国の最重要政策です。教育再生実行会議の議論等を踏まえ、必要な施策を推進してまいります。現在、中央教育審議会においては、これからの時代に求められる資質・能力の育成のために、「何を知っているか」だけではなく、「それを使ってどのように社会・世界とかかわり、よりよい人生を送るか」までを視野に入れ、教育が普遍的に目指す根幹を大事にしつつ、社会の変化を柔軟に受け止める「社会に開かれた教育課程」という観点から、学習指導要領等の構造的な見直しを行っています。アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善、カリキュラムマネジメントの充実、小学校からの英語教育の充実、高校における新科目の在り方などの検討が進められております。また、道徳の時間の「特別の教科」化などによって、道徳教育の充実を図ります。

 幼児教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることから、幼稚園教育要領の見直しも行っています。また、教員研修等の支援の充実など、幼児教育の質の向上に向けた体制の構築を進めます。

 障害のある子どもたちのため、教職員の専門性向上、通級による指導の充実、拡大教科書などの普及・充実、学校施設のバリアフリー化等の必要な教育条件を整備し、インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育を推進します。

 昨年もいじめによる痛ましい事件がありました。いじめは絶対に許されません。いじめを積極的に認知し、適切に対応するよう、学校と教育委員会の組織的対応を徹底して強化し、いじめ防止対策推進法をもとに、総合的な対策の実施を進めます。

 さらに、日本語能力が十分ではない外国人の子どもたちのため、日本語指導や学校への適応に必要な体制整備を総合的に推進します。また、情報化社会の進展に伴い、授業におけるICT活用の促進やICT環境整備などの教育の情報化により一層取り組みます。

 これらの「教育再生」の取組を実現するためには、教職員定数の充実をはじめとした条件整備が不可欠です。昨年は、地方自治体や教育関係団体から教職員定数の充実などについて、多くのご要望をいただき、現場の切実さをあらためて痛感しました。そのことを踏まえて、次世代の学校指導体制の強化に向けて、迅速に検討を進めてまいります。

 学校を取り巻いている複雑化・困難化した課題を解決するためには、教員一人ひとりが自らの専門性を発揮するとともに、心理や福祉などの多様な専門スタッフと連携・分担して、チームとして職務を担うことが効果的です。そのため、教員を中心としたチームとしての学校に必要な指導体制の整備を進めてまいります。

 また、教員の指導力の向上を図るには、教員が教職生涯を通じて研鑚する環境づくりが重要であり、その基盤としての養成・採用・研修の一体的改革に取り組むとともに、独立行政法人教員研修センターを教員の資質能力の向上の全国的な支援拠点へと転換してまいります。

 不登校などの課題を抱える子どもたちのために、安心して学べるような教育環境の整備を図ります。また、総理のご指示も踏まえ、フリースクールなど多様な場で自信をもって学べる環境を整えます。そして、夜間中学の設置促進に向けた取組を進めます。

 グローバル化に対応した教育環境づくりの観点から、外国語教育の強化、国際バカロレアの推進、ESD(持続可能な開発のための教育)などを進めます。

 大学は国の知的基盤です。社会を生き抜く力の養成のための高大接続改革、産業構造の変化や新たなニーズに対応するための実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化の検討、未来の飛躍を実現する人材を養成するためのグローバル化やイノベーションを創出するための研究力強化に取り組みます。

 このためにも、国立大学法人運営費交付金や施設整備費補助金、私学助成を安定的に確保するとともに、改革を進める大学を重点的に支援します。

 意欲と能力ある若者全員に留学機会を付与し、日本人留学生の倍増を目指すため、「トビタテ!留学JAPAN」を推進します。また、日本留学の魅力を高め、優秀な外国人留学生を確保するため、海外での募集選考の強化など受入れ環境充実のための支援を強化します。

 子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることや、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、指導体制の充実を通じた学校教育による学力保障の取組、財源確保と並行した幼児教育の段階的な無償化の推進、福祉機関との連携強化、地域未来塾による学習支援や家庭教育支援の充実など、子どもの貧困対策に関する大綱を踏まえた取組を総合的に推進してまいります。

 高校生等奨学給付金や大学等奨学金事業における無利子奨学金の拡充、および、二十九年度進学者からの適用を目指した「所得連動返還型奨学金制度」の導入に向けた取組、授業料減免などの充実、経済的に修学困難な専門学校生への支援に取り組み、教育費の負担軽減を図ります。

 社会総がかりでの教育の実現を図るため、コミュニティ・スクールや地域全体で未来を担う子どもの成長を支える「地域学校協働本部」など、学校と地域の連携・協働を進めていくための仕組みづくりを積極的に推進するとともに、大学が他の大学や自治体、地域の中小企業等と連携し、地域を担う人材を育成するための取組を進めることを支援し、地方創生の実現を目指します。

 学校施設は、子どもたちの学習・生活の場であるとともに、災害時には地域住民の避難所としても重要な役割を果たすものであり、その安全性・機能性の確保は不可欠です。学校施設の耐震化や防災機能の強化・老朽化対策や空調設置、トイレ改修、給食施設整備など、安全・安心な教育環境の整備を推進します。

 本年五月には、伊勢志摩サミットに関連した先進七ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)倉敷教育大臣会合を開催し、「教育におけるイノベーション」をテーマとして多文化共生社会の構築に向けた国際的協働とG7各国の教育政策の充実に資する議論を行います。

 教育再生実行会議では、これからの時代を見据え、日本の教育の強みは大切にしつつ、多様な個性が長所として肯定され生かされる教育への転換について議論を行うとともに、「提言フォローアップ会合」を開催し、これまでの八次にわたる提言の進捗状況をフォローしつつ、提言の着実な実現を図ってまいります。特に、提言の実現のためにも、教育投資の充実につながるよう、国民の皆様との対話をしていきたいと思います。

◆グローバルに活躍できる人材を

【科学技術イノベーション】

 科学技術イノベーションは、成長戦略の最も重要な柱です。昨年は、大村智教授がノーベル生理学・医学賞を、梶田隆章教授がノーベル物理学賞を受賞され、あらためてわが国の学術研究、基礎研究の水準の高さを世界に示すことができました。科学技術イノベーションは、わが国が持続的な成長を続けるための鍵であり、世界で最もイノベーションに適した国を目指して、来年度からの五ヵ年計画である第五期科学技術基本計画に基づき、全力で取り組んでまいります。

 科学技術イノベーションの中核を担うのは「人材」です。特に、グローバルに活躍できる人材の確保が急務です。スーパーサイエンスハイスクールなどによる初等中等教育段階からの人材育成、多様なキャリアパスの整備、出産・育児等にかかる女性研究者などへの支援に加え、国際的な頭脳循環における世界第一線級の人材確保にかかる取組を引き続き支援します。

 国力の源とも言える学術研究や基礎研究を推進します。また、改革が進みつつある大学と産業界との連携を引き続き強化し、研究成果の実用化を強力に進めるとともに、国立研究開発法人の改革を加速します。国立研究開発法人をハブにした様々な人と知の循環などを通じ、研究開発力を駆動力とした「世界で勝てる」産業の創出を推進します。

 様々な分野の基盤となる世界トップレベルの研究施設・設備についても、着実に整備・運用を行い、産学官の利用のさらなる拡大を進めます。健康・医療戦略推進本部の方針に基づき、iPS細胞等を用いた再生医療研究や脳科学研究、がんの革新的治療法の研究などの医療分野の研究開発を通じ、健康で豊かな社会の実現に取り組みます。また、「超スマート社会」の実現に向けた人工知能を中核とした研究開発や、スーパーコンピュータを活用したシミュレーション技術などの情報科学技術分野、材料分野の研究開発を強力に推進します。

 さらに、国家として取り組むべき基幹的な技術に関する研究開発を加速します。「宇宙・航空」分野では、昨年、四機のロケット打ち上げに成功しました。特に、昨年十一月にはわが国初の商業衛星の打ち上げに成功し、まさに宇宙産業にとって記念すべき年となりました。高い信頼性に経済性も加えた日の丸ロケットの充実に向け、H3ロケットの開発に取り組むとともに、国際宇宙ステーション計画・宇宙探査、安全保障・防災に貢献する衛星、次世代航空機技術などの研究開発に取り組み、国際競争力を強化します。

 原子力については、日本原子力研究開発機構に対し、安全を最優先とし、国民に信頼される組織となるよう指導してまいります。特に、「もんじゅ」については、原子力規制委員会からの勧告を踏まえ、安全に運転管理を行う能力を有する運営主体の在り方について早急に検討を進めてまいります。高温ガス炉や高レベル放射性廃棄物処分の研究開発などについても、着実に進めてまいります。

 海洋・極域分野研究や、環境エネルギー、核融合、地震・防災についても研究開発を進めてまいります。

【スポーツ・文化】

 スポーツには希望があり、フェアプレー精神があり、高い教育効果があります。また、文化芸術は、世界に誇るわが国のソフトパワーの根幹です。今後はスポーツ・文化について、GDPの拡大につなげていくことも視野に、その振興を図ってまいります。

 スポーツについては、昨年、スポーツ庁が創設されました。スポーツに関連する施策を総合的かつ一体的に推進する組織として、国際競技力の向上はもとより、スポーツによる健康増進、障害者スポーツの推進、スポーツを通じた地域や経済の活性化、国際貢献などを推進します。

 文化力により輝く地域と日本を目指し、わが国の文化・伝統を語るストーリーを認定する仕組みである「日本遺産」を活用するなど、文化資源を活用した地域の活性化・観光振興を図ります。また、実演芸術やメディア芸術などの幅広い芸術の振興を図り、日本文化の魅力を国内外に積極的に発信します。

 また、環太平洋パートナーシップ協定の実施に向けた著作権法の整備をはじめ、著作物などの保護と利用の促進に取り組みます。

 二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、日本社会を元気にする契機となるものです。東京大会に向けた取組を社会総がかりで推進し、大会開催の効果を全国に波及させていきます。「復興五輪」として、大会が復興の後押しとなるよう取り組むなど、大会を日本全体の「スポーツと文化の祭典」と位置付け、ことしのリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会直後の十月に「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」を開催するなど、二〇二〇年に向け、史上最大規模で、様々な取組を全国津々浦々で展開していきます。海外選手団のキャンプ地などが広く全国で展開されるように取り組みます。

 国民のスポーツに取り組む機運を一層醸成するため、最新のスポーツ医・科学などに基づくスポーツの普及やスポーツ無関心層に興味・関心を喚起する取組の支援を行うとともに、障害者や高齢者がスポーツに親しめる環境を整備してまいります。

 また、東京大会を契機として、わが国の文化の魅力を国内外に積極的に発信します。ことしのリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会後から、民間団体、地方公共団体、国が力を一つにして様々な文化プログラムを実施してまいります。

 二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の前年には、わが国でラグビーワールドカップが開催されます。両大会の成功に向けて、競技者の育成強化、競技場の整備などに取り組みます。

【おわりに】

 私としては、文部科学行政全般にわたり、一つ一つの懸案を正面から見据えて課題を解決していくという姿勢で、様々な取組を進めてまいりたいと考えております。引き続き関係各位のご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

( 2016-01-06付)