釧路市教委の教育行政執行方針―林教育長説明 学力向上・ICT活用の実践的な研修開催へ
(市町村 2016-03-10付)

釧路市教委林義則
釧路市教委・林義則教育長

 【釧路発】釧路市教委の林義則教育長=写真=は二月下旬、市議会二月定例会で二十八年度教育行政執行方針を説明した。授業力向上に向けた実践的な研修講座の開催、ICT機器の積極的な活用などに取り組んでいくことを表明した。

 執行方針の主な内容はつぎのとおり。

【はじめに】

 地域社会が人口減少の進行をはじめ、産業のグローバル化、情報通信や交通ネットワークの進展などに伴って急速に変化する中、子どもたちの学力や体力の低下、人間関係の希薄化など、社会環境の変化に連動した様々な課題が指摘されている。

 また、近年の学校教育を巡る教育改革や地方創生の方向性においても、未来を担う子どもたちが変化の激しい社会の中で自立して生き抜く力を育むために、コミュニティ・スクールやチームとしての学校の実現など、学校と地域が連携、協働した適切な対応策が求められている。

 このような中、市教委としては、新たに教育推進基本計画を策定するとともに、社会教育推進計画の改定を行い、子どもたち一人ひとりが自分自身に誇りと自信をもち、未来を支える生きる力を培うことができるよう各種施策に取り組んできた。

 新年度においても、市教育の基本理念「釧路の風土で育まれ 未来を拓く 心豊かな人づくり」の実現に向け、「人づくり」を根幹に据えたつぎの三つの基本姿勢に基づき、両計画に掲げた施策と目標達成に向けた取組を着実に実行していく。

▽生きる力を育む学校教育の推進

 子どもたちがこれからの厳しい時代を、夢と希望をもって生き抜くための必要な力を育むために、基礎学力や体力の向上、心の教育の充実に向けた取組を推進し、各学校での指導がさらに充実するよう努めていく。

▽育ちと学びを支える教育環境の充実

 学校施設や学習環境の計画的な整備と併せて、地域に開かれた学校づくりをより一層進める中で、学校・家庭・地域がそれぞれの役割や責任を果たすとともに、子どもたちをともに育てるパートナーとして相互に協力し合いながら、子どもたちの心身の成長と学びを支えていく。

▽新たな学びを創る生涯学習の推進

 市民の誰もが、いつでも、どこでも、生涯にわたって生き生きと学習できる環境の充実を目指すとともに、新年度からスタートする「市子ども読書活動推進計画」に基づき、子どもたちの豊かな人間性やコミュニケーション能力を高める読書環境の整備に向けて、地域の多彩な資源を活用した魅力と特色ある生涯学習の推進に努めていく。

【基本姿勢】

▼生きる力を育む学校教育の推進

▽確かな学力の確立

 これまでの全国学力・学習状況調査や市標準学力調査の結果から、市の子どもたちの学力は着実に向上していることがうかがえるが、学習内容の定着に課題を残す子どもたちも少なくない。そのため、標準学力検査の実施日を当該年度の学習状況の把握ができる十二月に変更するとともに、対象学年に新たに小学六年生を加え、基礎的・基本的な知識や技能の確実な習得に向け、個に応じた復習教材の導入を図るなど、補充的な学習サポート体制を充実していく。

 また、授業でのICT機器の積極的な活用とともに、授業力向上に向けた実践的な研修講座の開催などによって、子どもたちの理解が一層深まるよう、分かりやすい授業の推進と学習ルールの確立に力を注いでいく。

▽豊かな心の育成

 子どもたちが豊かな心をもち、互いに尊重し合って生きていくためには、学校・家庭・地域が連携して、規範意識や生命の大切さを尊重する倫理観をはじめ、様々な出会いや感動体験を通じて思いやりの心や社会性を育むことが極めて大切である。

 そのため、今後の「道徳の教科化」に向けて、その要となる「道徳の時間」の授業研究を充実させるとともに、保護者への授業公開などによる相互の連携した取組について共通理解を深めていく。

 また、子どもたちに演劇の感動を届ける、劇団四季による「こころの劇場」の鑑賞のほか、文化団体連絡協議会など関係団体の協力を得ながら、日本の伝統文化や優れた文化芸術にふれる機会を通して、子どもたちの豊かな感性を育んでいく。

 いじめの問題については、「いじめは、どの学校でも、どの子どもにも起こりうることだが、決して許されるものではない」との思いを地域全体で共有し、いじめ根絶に向けた全市での取組を推進するため、「市いじめ防止基本方針」の策定に取り組む。

 また、いじめを含む、学校生活で起こる諸問題の早期発見と早期解決に有効な「Q―U」や「アセス」などの調査を引き続き実施するとともに、子どもたちがネットによるいじめやネット犯罪の被害者や加害者にならないよう、ネットトラブルの未然防止に向けた情報モラル教育を全小・中学校で推進していく。

 不登校の児童生徒への支援については、学校と家庭をつなぐスクールソーシャルワーカーによる相談・支援体制を充実させる。また、福祉部や子ども健康部、子ども家庭支援センターなどの関係機関と連携して、教育と福祉の連携による不登校対策プログラムを推進するなど、包括的な支援を進めていく。

▽健やかな体の育成

 二十七年度の全国体力・運動能力、運動習慣などに関する調査において、小・中学校の男子・女子ともに多くの種目で全国や全道の平均を上回るなど、大きく改善が図られた。今後も体育専科教員の活用による小学校体育の充実や、新体力テストの有効活用に一層努めるとともに、家庭での運動習慣づくりの積極的な取組を働きかけていく。

 学校給食については、食に関する正しい知識や望ましい食習慣を身に付けるための取組を家庭と連携して推進するほか、地場産品を活用した食への感謝や郷土の食文化への理解を深める「ふるさと給食」を充実させるとともに、家庭との緊密な連携のもと、食物アレルギーを有する子どもへの対応を強化していく。

 歯と口腔の健康づくりにおいては、全小学校でのフッ化物洗口の普及に向けて、新年度は十一校で取組を実施していく。

 また、大地震や津波などの自然災害に際して、子どもたちが迅速かつ安全に避難行動がとれるよう、東日本大震災などから学んだ教訓や事例を生かした防災教育の充実を図っていく。

▼育ちと学びを支える教育環境の充実

▽充実した学びを支える教育環境の整備

 子どもたちが、個性と能力を十分発揮しながら、充実した学校生活を送り、健やかに成長していくためには、ソフト・ハードの両面にわたって教育環境を整えることが重要である。

 特別支援教育の充実については、子どもたち一人ひとりの特別な教育的ニーズに応じた適切な支援を推進するため、臨床心理士やスクールカウンセラーなど専門家チームを機動的に派遣するほか、個別の教育支援計画活用を促進するとともに、釧路教育研究センターでの特別支援教育にかかわる調査研究の成果を発信し、各学校での取組の充実を図っていく。

 また、就学援助については、生活保護基準の見直しによる影響が及ばないように対応していく。

 二十七年度をもって学校施設の耐震化工事が完了する。鶴野小学校、桜が丘中学校、大楽毛中学校については、引き続き大規模改造工事を実施するほか、学校施設の長寿命化計画の策定に向けて取り組んでいく。

 なお、阿寒湖小学校と阿寒湖中学校については、保護者や地域の皆さんと十分協議しながら、地域の資源を生かした特色ある教育活動の連続性に配慮した学校施設の整備を着実に進めていく。

 釧路北陽高校では、二年次目となる生徒用机・椅子の計画的な更新のほか、ガス暖房機器の取替工事を実施する。

 また、子どもたちの読書活動を推進するため、引き続き学校図書の充足率の向上に努めるとともに、市立図書館や民間団体などとの連携によって、東雲小学校と鳥取小学校で「ブックフェスティバル」を新たに開催するなど、児童生徒の読書環境の充実を図っていく。

 さらに、校務の効率化を図るため、教職員用コンピュータの計画的な整備を推進する。

▽信頼に応える学校づくりの推進

 保護者や地域の信頼に応え、地域に根ざした特色ある学校づくりを進めるためには、学校の教育活動や運営などの情報を家庭や地域と積極的に共有することが不可欠である。

 そのため、保護者アンケートなどの学校評価の結果のほか、子どもたちの学力や体力、生活習慣などの実態を学校だよりやホームページなどを通じてより分かりやすく発信するなど、学校運営の改善に努めていく。

 また、コミュニティ・スクールについては、新たに鳥取小学校、共栄小学校、阿寒湖中学校の三校で導入するほか、共栄中学校、大楽毛中学校の二校で調査研究を進めていく。

 保護者や地域の参加と協力を得て実施する「土曜活動」については、新年度も全小・中学校で年四回実施する。

 さらに、教職員の不祥事は、教育の基盤となる信頼を一瞬にして崩壊させることから、その根絶に向けて職場研修や「コンプライアンス確立月間」の取組を全校で実施し、法令順守の意識向上を図っていく。 

▽健全な育ちを支える連携・協働の強化」「共に認め合う地域社会の構築」

 子どもたちの健全な育ちを支えるためには、教育委員会、学校・家庭・地域がそれぞれの役割と責任を果たしながら、連合町内会や小中学校校長会との「地域連携共同宣言」などに基づき、健全育成に関する取組を一体となって推進していく必要がある。

 学校間の連携については、これまで取り組んできた、近隣の小・中学校同士の情報交流や授業参観を通して、今後とも幼稚園や保育所などから小学校、小学校から中学校への円滑な連携・接続を図っていく。

 また、PTA連合会の協力を得て作成した「くしろっ子 共に育てる 十ヵ条」を新一年生の保護者説明会や幼稚園などの「子育て講座」などにおいて広く活用するなど、幼少期における基本的な生活習慣づくりの大切さについて周知、啓発に努めていく。

 子どもたちの通学時の安心・安全の確保に向けては、PTA連合会や連合町内会と連携した通学路交通安全プログラムの実施と併せ、各小学校での登下校時の見守り活動や交通安全マップづくりを推進するなど、子どもたちを地域で見守る意識の醸成に一層努めていく。

 このほか、学校支援ボランティア活動の充実に向けた「学校支援地域本部」の導入をはじめ、教育懇談会の実施や「くしろの子ども大集合」の開催などを通して、「釧路の子どもは市民みんなで育てる」体制づくりをさらに進めていく。

▼新たな学びを創る生涯学習の推進

▽主体的な学びの推進

 市民一人ひとりが生涯にわたって、心豊かに暮らしていくために、いつでも自由に学習できることが大切である。

 特に、自然や歴史、文化など地域の特性を生かした主体的な生涯学習活動は、まちの魅力の再発見とふるさとへの愛情や誇りを高めることにつながる。

 そのため、新年度に創立八十周年を迎える博物館では、これまでの取組の成果をまとめた研究紀要の発行や記念企画展などを開催するほか、館内展示を新たな手法を活用し、更新を図る。

 二十九年度のオープンを目指す新図書館については、「文学の街釧路」を広くアピールする「(仮称)釧路文学館」を併設し、本年度工事に着手する。

▽自然との共生と文化芸術の振興

 自然と共生し、自然を守り続けることが大切である。そのため、釧路地域の生態系の保全に向けて、釧路湿原周辺の動植物生息実態を総合的に調査する。

▽健康な心と身体を育む活動の推進

 スポーツを身近で気軽に楽しめることが重要である。誰もが気軽に参加できる運動講座や教室などの体力づくりや健康な体づくりの取組に関する情報を発信し、地域に元気をもたらす、子どもたちの様々な国際大会や全国大会などでの活躍の様子を広く紹介していく。

 スポーツ施設の整備、「釧路湿原マラソン」での釧路の魅力発信、スポーツ合宿の誘致など様々な活動を展開していく。

(市町村 2016-03-10付)

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