文科省委託学校図書館利活用の調査研究 授業利用回数が大幅増 紋別市教委が報告書まとめる
(市町村 2020-04-20付)

 【網走発】紋別市教委は、文部科学省委託「学校図書館ガイドラインを踏まえた学校図書館の利活用にかかる調査研究」の令和元年度実施報告書をまとめた。南丘小学校と紋別中学校を研究指定校に、巡回司書との連携などを推進。授業での学校図書館の利用回数が大幅に増加するなどの成果が表れた。

 市教委は元年度、平成30年度に続き調査研究の委託を受け、南丘小と紋別中の2校を研究指定校に、従前からの取組をさらに強化し、ほかの地域や学校の参考となる先進的な取組に関する調査研究を行う取組拡充型で研究を進めてきた。

 中心となって取組を進めてきた南丘小では、調べ方・学び方の指導、読書通帳の作成、公開研究会の開催、“南小農園”収穫物販売益による図書購入などを推進した。

 調べ方・学び方の指導については、週1回来校する市立図書館の巡回司書と連携。学校図書館利用のため時間割を調整し、担任と巡回司書によるチーム・ティーチングで調べ方の授業を実施した。

 読書通帳について、紋別高校から協力を受け、総合ビジネス科の生徒が課題研究の一環で作成した読書通帳を活用。児童の読書習慣づくりにつなげた。

 公開研究会については、現役の学校司書を講師に招き、公開授業や講演などを通して、学校司書が配置された場合どのような授業が可能になるか、担任との役割分担等について理解を深めた。

 南小農園は、総合的な学習の時間で行ったもので、地域住民の協力のもと、農作物の生産から販売までの一連の流れを学年ごとに役割分担して実施。利益を図書購入費に充て、蔵書の充実を図るとともに、児童に働くことの意味を体験的に学ばせた。

 結果、授業での学校図書館の利用回数が107回となり、30年度の47回から大幅に増加した。

 30分以上読書をする児童の割合が、30年度比4割増の54人に。紋別中の定期テスト前の部活動停止期間を共同で家庭学習強化週間「超勉強週間(CBS)」と設定し、課題の一つに家庭での読書を位置付けたこと、読書通帳への記帳が励みとなったことなどによるものとみている。

 児童の平均貸出冊数は2・8冊で、29年度から比べると3・5倍に増加。読書量が増えたことで、読解力・活用力が向上し、全国学力・学習状況調査において、国語で12ポイント、算数で7ポイント全国平均を上回る結果につながったと分析している。

◆「いつでも読書」提唱 実施報告書における成果と課題

 紋別市教委がまとめた文部科学省委託「学校図書館ガイドラインを踏まえた学校図書館の利活用にかかる調査研究」令和元年度実施報告書における成果と課題はつぎのとおり。

【学校図書館関係の指標】

▼児童生徒が学校図書館・公共図書館を利用した回数

 学校図書館の利用回数は前年度に比べ増えたが、公共図書館(市立図書館)の利用は増えていない(どちらかといえば減少)。市立図書館は校区外にあり、その利用には保護者の送迎が必要で、子どもが自力でアクセスすることは難しい。そのため、市立図書館の利用は、子どもを定期的に連れて行っている一部の家庭にとどまる。

 市立図書館に児童が自力で通えるよう、バスの乗り方教室やバス会社と連携した読書感想画コンクールの取組を行ったが、新たな市立図書館利用者の開拓にはつながっていない。地域において読書活動を推進するには、学校図書館の整備と利用促進が不可欠。

▼児童生徒、教職員が1ヵ月に読んだ本の冊数

 平成30年度、学校図書館管理システム(バーコードによる貸出)が導入されてから、貸出・返却の手続きが容易になり、学校図書館を利用する児童が学校全体としては増加傾向にある。

 また、隣接する紋別高校総合ビジネス科との連携によって読書通帳を制作し、読んだ本の履歴を書かせる取組を始めたところ、通帳をコレクションすることが児童の励みになり、貸出冊数の増加をあと押ししたものと思われる。

▼各教科等の授業における学校図書館の活用回数

 30年度に比べ、教科・総合的な学習の時間での利用が増加した。教科は主に国語科で、総合的な学習の時間では調べ学習の際に活用されている。

 ただし、0類をはじめ、調べ学習に対応できる資料が少なく、国語辞典↓百科事典↓専門書↓インターネットと、段階的な調べ学習を学校図書館内で行うことは、現在の南丘小の施設ではまだ難しい。

 また、外国語の授業用に、英語の絵本などの資料を学校図書館に配置したが、授業での利用にはまだ十分ではない。

▼図書委員児童生徒による自主的な企画や展示等の活動回数

 図書委員会の企画は児童から好評であった。普段、あまり学校図書館を利用していない児童の来館のきっかけとして効果的であった。

 また、前年度に続き、常に読みかけの本を1冊、教室の自分の机の中に入れておく「いつでも読書」運動を図書委員会で提唱し、読みかけの本に挟んでおくしおりをすべての児童に持たせた。

 自分でつくったしおりを持つことで、読書に一層の親しみをもたせることに効果があったと考えられる。

 給食の配膳待ち時間、テストが早く終わった際の残り時間など、隙間時間を有効活用して読書を行う習慣づくりに役立った。

▼家庭における読書時間、全く読んでいない児童の人数

 学校での読書習慣は身に付いてきているが、家庭での読書は個人差が大きい。とりわけ1~3年生の不読率が高い。

 一方、4年生以降は、学校での読書習慣が家庭にも波及しており、6年生に至っては、不読率ゼロである。引き続き、本がそばにある生活環境を整え、読書を生活リズムの中に入れていくことが重要と考える。

▼新聞を読んでいる回数、人数

 前年度からPTAの協力で小学生新聞を3紙購読し、児童が最もよく通る階段脇のスペースに新聞広場を設置した。日常的に新聞を読む児童が増え、自然発生的に社会性の高い会話が生まれている。古新聞は、巡回司書が学校図書館で管理し、一部は国語の学習の意見文や要約文の作成などに活用している。週末の宿題として、新聞記事の要約を行っている学年では、週1回以上新聞を読む児童の割合が100%に達し、学力向上に役立っている。

【学校の課題に関する指標(学校図書館関係以外の指標)】

▼学力状況に関する指標 標準学力検査 偏差値

 全体的な傾向として、小学校においては、学年が上がるほど上位層の児童が増える傾向にある。入学時点の学力は近隣他校と大きな違いはないが、読書活動を含む日々の生活や学習の積み重ねが学力を形成しているものと思われる。授業の質とそれを児童の学習活動を支える学校図書館の質が、地域の学力向上に重要な役割を果たしていると考えられる。

 しかし、中学校進学後は、ほかの小学校の卒業児童と一緒になるため、小学校時代に形成された学習や読書の習慣が継続されず、学力は下がる傾向にある。少なくとも中学校区内の小学校で学校図書館を整備し、同様の取組を行うことが重要である。

▼忘れ物や宿題忘れの件数(または人数)

 読書週間中(6月4~11日、10月16~23日)に忘れ物をした児童の人数。学年差はあるが、学校全体で前年度より半数以下に減少している。家庭での読書習慣とともに、宿題をやり、時間割をそろえる行動の流れをつくることで、忘れ物を削減することができると考えられる。

▼登校時刻遅刻の人数

 読書週間中に特別な理由なく遅刻した児童の数。年間を通じて遅刻する児童が少なく、読書活動との関連は見いだせなかった。ただし、遅刻には至らないまでも遅めに登校する児童の数は、減っている印象は感じられる。朝読書に遅れる児童は、ほぼみられない。

▼不登校・不登校傾向の児童生徒の人数

 小学校では不登校児童はないが、中学校では学年が上がると不登校生徒が増える傾向にある。学力不振や友人関係などが背景と考えられるが、読書活動と通じて語い力や表現力が育ち、言語能力やコミュニケーション能力を高めることで、不登校児童生徒を減らすことができると考えられる。

 また、不登校傾向の児童生徒には、教室に入れなくとも学校図書館に通うことで、通常の学校生活への復帰に近づけることもできると考えられる。

 そのためにも、学校図書館に学校司書を常駐させ、常時開館することが望ましい。

▼いじめ・問題行動の認知件数

 南丘小学校・紋別中学校で元年6・11月に行ったいじめアンケートにおいて、年度中に「嫌なことをされた」とする児童生徒の数。いずれもその後の調査で、いじめには該当しないことが確認された。数字の上では読書習慣との関連は認められなかったが、他者や集団との望ましい付き合い方や関係性について、読書や学校司書とのかかわりを通じて身に付けることで、いじめ対策になることが考えられる。

▼保健室の利用人数

 保健室の利用者数については、読書活動との関連を見いだすことはできなかった。

 ただし、外科的利用については、大きな行事(運動会・学芸会)のあとに、読書週間を設けることで学校生活のリズムを整え、落ち着いた生活をさせることでけがを防ぎ、保健室利用が減ることも考えられる。内科的利用はインフルエンザの流行時期等によって、変動が大きい。

▼むし歯のある(ない)児童の数

 むし歯のある児童数については、読書活動との関連を見いだすことはできなかった。読書活動を含む正しい生活リズム・生活習慣を形成することで、間接的にむし歯を減らす効果が期待されると考える。

▼一人で公共交通機関を使って公共図書館などに行った経験の児童生徒の人数・回数

 市内路線バスを使って自力で市立図書館に行った経験のある児童の数は、ほとんど変わらず、バス利用はごく一部にとどまる。市立図書館の利用自体は一定数あるが、ほぼ保護者による自家用車送迎と思われる。

 市立図書館は校区外にあり、児童の利用は保護者に依存している。このため、保護者の意識と都合が、市立図書館利用の機会の差となっている。

 また、市立図書館を利用している児童の間でも利用回数には大きな個人差がみられる。

 この状況を改善することは非常に難しく、子どもにとって身近な学校図書館を整備し、読書活動や調べ学習等に使えるようにすることが、子どもが置かれている社会環境の不利を補う有効な手立てになると考えられる。

(市町村 2020-04-20付)

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