新春インタビュー 札幌市教委 山根直樹教育長に聞く
(札幌市 2025-01-01付)

 新年を迎え、札幌市教委の山根直樹教育長に変化の激しい時代を生き抜く子どもたちに身に付けさせたい力や子どもの意見を反映する学校運営など、市教委としての展望、学校現場に期待することを聞いた。

―札幌市の教育の現状と課題のほか、今後の対応について、教育長の考えをお聞かせください

 昨年は、能登半島地震に始まり、引き続く物価高騰や揺れ動く国際情勢など、不安定な社会環境の中、子どもが安心して充実した学校生活を送ることができるよう、多方面からお力添えいただいた皆さまに、あらためて心から感謝申し上げたい。

 さて、本市では、令和4月に、今後10年間の札幌市の教育に関する施策を総合的・体系的に進めていくための「第2期札幌市教育振興基本計画」を施行した。本計画においては、「一人一人が自他のよさや可能性を認め合える学びの推進」「学校・家庭・地域総ぐるみで育み、生涯にわたり学び続ける機会の拡充」「社会の変化に対応した教育環境の充実」を基本的方向性として掲げ、学校教育や生涯学習に係る様々な施策に取り組んでいるところ。

 また、第1期計画期間を振り返り、他者を大切に思う気持ちに比べて自己肯定感が相対的に低いことや、いじめの認知件数や不登校児童生徒数が増加傾向にあること、そして、体力・運動能力の低下傾向が続いているという課題が明らかになったため「共生社会を担う力の育成」「誰一人取り残されない教育の推進」「生涯にわたる健やかな体の育成」という三つの重点項目を設定することで、しっかりと課題への対応を進めていきたいと考えている。今後も、本計画において掲げた各事業・取組に精力的に取り組み「自立した札幌人」の実現を目指していく。

 6年4月には「札幌市いじめの防止等のための基本的な方針」を改定した。各校では新しい方針を踏まえていじめへの組織的な対応をさらに強化するなど、方針の内容が定着してきていると認識している。

 さらに、6年度から全ての学校で、1人1台端末に「心の健康観察アプリ」を導入した。子どもが自ら心身の状態を毎日入力し、相談したいときには相談先も選ぶことが可能となっており、子どもからは安心感があるという声や、相談につながりやすくなったとの声が上がっている。

 これらの取組を通して、全ての教職員が子どもの些細な変化に気付き、子どもの困りや悩みを早期に発見し、適切な対処ができるよう努めていくことで、本市が目指すいじめ防止のビジョンである「学校・家庭・地域総ぐるみで、いじめは“しない・させない・許さない”」のもと、本市全体でいじめの防止に取り組んでいきたい。

 不登校児童生徒数については、全国同様に増加傾向が続いており、毎年過去最多を更新している状況である。その要因として、子どもの不登校に対する保護者の意識の変化や、児童生徒に対する早期からの適切な指導や必要な支援が不十分であったこと等が挙げられる。

 そこで、6年4月には、教室に入ることが難しい子どもの校内の居場所として、空き教室等を活用して校内教育支援センターを設置している。

 また、市立全小・中学校に「相談支援パートナー」を配置しており、不登校や不登校の心配がある子どもや家庭に対して、早い段階から子ども一人ひとりに寄り添った支援ができるよう環境整備に努めているところ。

 このほか、教育支援センターをサテライト含め市内10区全てに設置し、学校以外の学びの場を充実させるとともに、メタバースを活用したオンライン支援を試行実施するなど、子どもの学びの保障に向けて取り組んでいく。

 本市では、インクルーシブ教育システムの充実に向け、特別支援学級や通級指導教室の設置など教育環境の整備に努めている。

 また、医療的ケアが必要な幼児児童生徒のための看護師配置の実施や、特別な教育的支援を必要とする児童生徒のための学びのサポーター、介助アシスタントの配置など、地域の学校での学びを希望する児童生徒に対し、できる限り寄り添った対応ができるようにしている。特に学びのサポーターの活用については、小学校では全校、中学校についても9割以上の学校が活用しており、多くの学校や保護者等から感謝の言葉や事業拡大を望む声が寄せられている。

 安藤忠雄建築研究所が北海道大学に建築・寄付し、札幌市も運営に参画する子ども向け図書施設「仮称・こども本の森」について、運営に関する方向性を定めるための基本方針の策定を進めているところ。

 基本方針案では、この施設を読書離れが進む小中学生に対して、読書に対する興味・関心を引き出す取組を行う、新たな市立図書館として設置することや、北海道大学の構内に立地するという独自性を生かした取組などについてまとめている。

 基本方針案に対して市民の皆さまからのご意見を募集するため、パブリックコメント・キッズコメントを1月28日まで実施している。いただいたご意見を踏まえて、2月中に基本方針を策定する予定。

 また、令和6年12月からふるさと納税等を活用した寄付金の募集を開始した。この施設を将来にわたって運営していくため、広く寄付を呼びかけていく。いただいた寄付金は施設の運営経費などに活用する。

 子どもが読書の楽しさを知り、心の豊かさ、創造力、好奇心を育み、成長の糧となる場として機能するよう、安藤忠雄建築研究所、北海道大学、札幌市の三者で連携を深め、8年夏頃の開館に向けて準備を進めていく。

―6年度に全ての教育活動を貫く重点「子どもの声を聴く」が定められ「さっぽろっ子サミット」の初開催など教育現場で子どもの自治的な活動が進められています。今後の方向性や学校現場に期待することをお聞かせください。

 現代社会は「予測困難な時代」などと言われているが、変化が激しい世の中を生きていく上で、どのような力を身に付けていくべきかについて本市の高校生にアンケートを取る機会があった。その回答には「コミュニケーション力」「臨機応変に対応する力」「正しい情報を見抜く力」などと様々な意見があり、今を生きる子どもたち自身が未来社会を見据えながら学んでいることを実感した。

 本市では、子どもたちを持続可能な社会の創り手として育んでいくため「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら課題を解決する資質・能力」の「学ぶ力」を「さっぽろっ子に育みたい共通の資質・能力」として学校教育の中核に位置付け、「課題探究的な学習」と「自治的な活動」を二本柱として、学校教育全般を通じた育成を進めている。

 二本柱の一つである自治的な活動については、4年度に子どもの手によって策定された全市共通の合言葉である「さっぽろっ子宣言“プラスのまほう”」の理念を具現化する上でも重要なものである。

 6年度に「さっぽろっ子自治的な活動」の定義を「子どもが“~したい”という意欲をもち、より良い方法を考えて動き、集団づくりや社会への参画を通して、変化を生み出した喜びを手応えとして心に残す主体的な活動」と定め「学ぶ力の育成」や「プラスのまほう」の具現化という視点から、さらなる取組の活性化を目指して、9月に「さっぽろっ子サミット」を初開催した。

 このイベントは、全ての中学校の代表生徒が一堂に会して、より良い学校生活の創造について協議するものであり、企画・運営は「自治的な活動」推進校である四つの中学校の生徒会事務局員で構成する子ども運営委員会が行った。

 当日のテーマや協議内容については、1人1台端末を活用しながら全市の子どもの意見を集約して決定した。このように、子どもの思いや願いを大切にして、その具体化を図ることは、6年度の札幌市学校教育において「全ての教育活動を貫く重点」に位置付けた「子どもの声を聴く」の考え方に基づくものである。

 サミット当日は、中学生約180人、高校生約40人が会場に集まり、協議のテーマ「みんなの笑顔があふれる楽しい学校へ~わたしたちができること」に基づき話し合いを行った。全市から集まった中学生は、近隣小学校の児童と事前協議を行い、テーマに係る意見を集約した上で参加した。グループ協議では、高校生がファシリテーターを務め、中学生は学校・地域の代表としての自覚を持ちながら活発に意見交換していた。

 参加した子どもたちは、他校の生徒の意見に刺激を受け、今後のより良い学校づくりに向けての意欲を高めていた。教職員からは「生徒の学校づくりに参画する意識の向上が図られた」など、自校の自治的な活動の推進につながる取組になったとの評価があった。

 今後も、子どもの主体性を大切にした学びの機会の一層の充実を図っていくために「さっぽろっ子サミット」を開催し、各学校における自治的な活動の活性化につなげていきたい。

 また、6年度から本格導入し、順次拡大していく予定の「札幌らしいコミュニティ・スクール」についても、学校運営協議会が子どもの自治的な活動を応援する窓口としての役割を担うものと考えており、学校・家庭・地域が一体となって子どもの声を聴き、子どもにとって本当に必要なことは何かを一緒に考えていくことを通じて、子どもが自らの人生や社会をよりよいものへと変えていこうとする意欲と行動力を育む取組が推進されていくことを期待している。

 6年度の「さっぽろっ子自治的な活動」の様子から改めて感じたのは「子どもは無限の可能性をもっている」いうこと。われわれ大人が、子どもの声に真摯に耳を傾け、子どもの思いや願いを生かした学校づくりをこれからも進めていきたい。

―近年の傾向として教員志願者が全国的に減少しています。市においても同様の傾向がみられる中、教員の確保に向けた取組のほか、学校現場における働き方改革、若手教員の育成・継承、心理的安全性の高い職場づくりなどについて考えをお聞かせください。

 教員は、子どもの成長に関わることのできるやりがいのある職業だが、教員の長時間勤務や多様な課題への対応が求められる業務のイメージが先行し、不安を抱く者も多いことなどから全国的に志願者が減少傾向にある。

 市では教員志望への意欲の向上を図ることを目的として、教職に興味がある高校生や、教員を志し教職課程を履修する大学生を対象に、教員の仕事ややりがいを発信するセミナーを実施している。例年秋ごろには、近郊の教職課程を持つ大学へ職員が赴き、本市の学校教育や教員採用検査について理解を深める場を提供している。

 また、5年度から、広範囲に教員採用に係る最新の情報を発信するため、公式ラインアカウントを開設し、教員採用検査や臨時教員の募集など、教職員の採用・募集に関する情報を定期的に発信していることに加え、6年度は、教員採用パンフレットや市公式ホームページのリニューアルを行い、採用広報の強化を図ったところ。

 学校現場での働き方改革については、部活動指導員の配置など外部人材の活用、学校休校日の導入、学校の優れた取組を表彰し取組事例を共有することによる意識改革、保護者連絡アプリやデジタル採点システムの導入などによるICTを活用した負担軽減・効率化などの業務改善の取組を進めている。

 また、新年度に向けて、初めて教壇に立つ新採用教員や臨時的任用教員の希望者を対象とした採用前研修を改編し、同期とのつながりを築く機会や、教員としての心構えや学習指導・学級経営の基礎基本などを学ぶ機会を創出することで、教師としての一歩を応援する取組を充実させていく。採用後の初任者研修では、主幹教諭や5年目教員との世代を越えた学び合いの場を設けることで、より実践的な学びや心理的安全性の高い職場づくりにつなげていきたい。

 このような取組とともに、スクールカウンセラーなどの専門性の高い職種や中堅教員などによるサポート体制についても、刷新したパンフレット・ホームページでは発信している。引き続き分かりやすい情報発信に努めるとともに、教員採用検査制度の見直し等、様々な工夫改善に取り組むことで、教員志願者が抱える不安を軽減し、教職に興味を持つ方を増やしてまいりたい。

―人口減少フェーズに突入した札幌市では、少子化対策が喫緊の課題となっていると存じます。札幌の子どもが持続可能な社会の創り手となるよう、求められる教育活動について、ふるさと教育やキャリア教育の視点などを踏まえて、考えをお聞かせください。

 少子高齢化や人口減少など、社会がこれまでにない局面を迎えている状況においても、社会の変化に柔軟に対応しながら、多様な人々との関わりのなかで、人間ならではの感性や創造力を発揮し、自他の良さや可能性を認め、高め合うことが大切。自分の軸とともに対立やジレンマに対処する強さと柔軟さ、いわば、しなやかさが備わり、自分の行動に責任を持って自分らしく生きていくことが可能となると考える。

 多様な生き方をしてきた人々の意見や考えを踏まえた上で、多面的・多角的に考察、構想し、これまでの自己の生活を振り返ったり、社会生活に生かそうとしたりして、新たな価値を創造し、主体的に社会の形成に参画していくことが、持続可能な社会の創り手として必要なことであり、本市では、こうした資質を有する「自立した札幌人」の育成を目指している。

 この方向性を踏まえ、学校教育においては、子どもたち一人ひとりの社会的・職業的自立に必要な基盤となる能力や態度を育てるために、地域の社会見学や職場体験・インターンシップ、社会人講話などの体験的な学習を効果的に活用しながらキャリア教育を推進している。今後も各学校段階に応じた一貫性・系統性のあるキャリア教育を積極的に推進し、生涯にわたって主体的に学び続け、自分らしさを発揮できる「自立した札幌人」の育成につなげていきたい。

 また、札幌の素晴らしい自然環境・人的環境・文化的環境などを生かした体験的な活動を教育課程に位置付けることにより、札幌の歴史・文化・自然・環境・公共等への理解を深め、札幌の特色や魅力について学ぶ機会の充実を図り「ふるさと札幌」への誇りと愛着を醸成する教育活動を推進している。

 将来、子どもが自らの歩みを振り返ったときに「ふるさと札幌」における学びや成長を実感し、その過程や経験に誇りをもって、未来に向かって心豊かにしなやかに歩み続けていくことができるよう、学校教育のさらなる充実を図っていく。

―新年を迎え、学校や関係機関、保護者、子どもたちに向けたメッセージをお願いします。 

 昨年は、日本選手団がパリオリンピックやパラリンピックにおいて多くのメダルを獲得したほか、野球の大谷翔平選手がホームラン50本、50盗塁以上の「50―50」を達成するという、大リーグで史上初めての快挙を成し遂げるなど、輝かしい活躍を見せていた。これらの功績は、日頃からのたゆまぬ努力がなければ、成し得なかったもの。

 新年を迎えるに当たって、子どもたちには、どんなに困難な状況に置かれても、主体的に課題を見いだし、その解決に向けて仲間と力を合わせて根気よく突き進める強い心を持ってほしい。

 保護者の皆さまには、日ごろから学校運営を支えていただいていることに感謝申し上げる。今後とも、子どもたちの日々の成長を温かく見守り、学校が家庭や地域と一体となって、子どもの育ちを継続して支えていけるよう、ご支援いただけたらと思う。

 最後に、札幌の全ての学校・園が、たくさんの笑顔であふれ、子どもたちがのびのびと成長できるように、皆さまと共に頑張ってまいりたいと思っているので、変わらぬご理解とご協力をお願い申し上げたい。

(札幌市 2025-01-01付)

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