【28年新春インタビュー】北教組・小関顕太郎委員長に聞く すべての子に豊かな教育保障したい 給付型奨学金制度、国政としての確立を
(関係団体 2016-01-01付)

p2北教組小関顕微太郎
【新春インタビュー】北教組・小関委員長

◆学習権保障で実効ある措置

 ―給与の独自削減措置、超過勤務の縮減について

 二〇一五年末確定交渉において、十七年間に及ぶ全国一長い独自削減措置の停止に至りました。全道の教職員・家族の皆さんのこれまでの生活設計を変更しながらも耐えてきたという現実を考えれば、この間、北教組・地公三者に結集しながらも闘ってきていただいたことに対する感謝の一言しかありません。また、この十七年間に独自削減措置を受けながら退職していかれた諸先輩には申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 私たちはこの間、「人事委員会勧告制度と独自削減措置の矛盾」「実態賃金を反映しようとしない人事委員会勧告制度の矛盾」「地方自治体財政の確立と地方自治」の観点から発言し、行動も展開してきました。しかし、残念ながらこの根源的な問いかけについて、当事者である国・道や人事委員会は明確に答えていないというのも事実です。地方分権否定、地方自治破壊の政策が続けられる限り、新たな独自削減の危険性は横たわっていると言えます。そういう意味では、「地方財政の確立」「人件費削減に因らない自治体財政の確立」という観点からの運動を、広く道民の皆さんと連携させながら進めていく決意を固めているところです。

 一方で、教職員の超過勤務の縮減は喫緊の課題となっているところです。教職員の健康を害しての早期退職、休職の実態は何ら改善されておらず、慢性的な疲労や通院などを余儀なくされている教職員も含めるならば、その数は膨大なものとなります。こうした状況を何とか改善しようと、道教委をはじめ教育関係団体は縮減策を模索しているのですが、残念ながら実効あるものとはなっていないというのが現状ではないでしょうか。また、再任用が義務化となったにもかかわらず、希望者が五割にも満たないという現状は深刻なものと言わざるを得ません。教育現場の労働環境・条件の整備は、子どもたちの学習権を保障する観点から言っても重要な案件です。

 労使双方が子どもたちの学習権保障という共通のテーブルで実効ある措置を模索すべき段階に来ていると考えます。

◆査定昇給は学校現場にそぐわぬ

 ―勤務実績に基づく昇給制度、査定昇給制度について

 業務の効率化と向上を謳い民間レベルで先行導入された査定昇給等制度については、多くの企業で見直しあるいは撤廃という方向に進んでいるというのが現状です。しかし、公務公共サービス部門では、こうした現状の検証がほとんどなされることなく導入された経緯があります。その結果、教育を含む多くの公務現場で歪みが報告されていることを知っていただきたいと思います。

 教育現場について言えば、様々な可能性を秘めた子どもたちが生活しており、その子たちの可能性を引き出すべく、多くの教職員が様々な形でかかわっています。成功したり失敗したりの連続の中で、子どもも教職員もともに育つ空間が学校という場です。時間軸で考えても、時間のかかるものもあれば、短期間で効果を上げるものもあります。また、様々な生活環境をもった子どもたちは、様々な価値観をもっています。こうした価値観をもつ子どもたちは、あらゆる教育活動を通して、互いの価値観を認め合うという成長過程を歩みます。

 学校現場に評価・評定というものをもちこむこと、さらにはその評価が賃金に影響してくるという制度の危険性というものを、多くの方々に知ってもらいたいと思います。教職員を評価・評定で図る考え方を現場にもちこむことは、残念ながら、子どもたちの教育活動を評定することにつながり、ひいては、多くの側面をもつ子どもたちの一面だけを見て判断せざるを得ない教育活動を招きかねないということなのです。百害あって一利なし。学校現場にそぐわない制度であることを、教育関係団体の皆さんだけでなく、多くの道民の方々に理解してもらう運動を展開していきたいと考えています。

◆過度の競争・序列化が席巻

 ―全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)に対する考えは。

 冒頭申し上げておきたいことは、私たちは学力の向上そのものを否定しているわけではないということです。この間、何度も指摘していることですが、学力そのものは数値化できるものと数値化できないものがあるということを第一義的に理解していただきたいのです。

 私たちは、この調査導入に対して、過度の競争と序列化を招くこと、過去に同様の不幸な出来事があったことを理由として、再三再四断念を求めてきました。残念ながら、現状は「過度の競争と序列化」が全国を席巻していると言っても過言ではありません。

 「子どもたちの学力を伸ばす」という誰もが否定できない文言で、今や「子ども、子ども」と言いながら、大人の競争になっている実態を猛省すべきです。

 さらには、学力向上という側面ばかりが強調されて、事前対策テストを行ったり、子どもたちが葛藤し合いながら学ぶ時間をも無駄な時間と切り捨てて教科に充てるといった状況が学校現場で起きていることの不自然さは、残念というより怒りすら覚えます。

 先ほど申し上げましたが、過去に取りやめた歴史的事実があることを教訓に、全国的に進行している不幸な実態を明らかにしながら、教育行政も含めた真摯な論議が交わされる場面を早急につくり、事態の改善に向けた努力を行う環境づくりをしていかなければならないと考えます。

 ―給付型奨学金事業について

 「教育を受ける権利」「教育の機会均等」「義務教育の無償」など、憲法は、教育を社会が保障すべき基本的人権として規定しています。しかし、「貧困と格差」が言われる社会の中で、子どもたちの学習権が十分に保障されていない実態が広がっていることは、政府さえ認める状況となっています。

 経済協力開発機構(OECD)は、昨年十一月に加盟各国の国内総生産に占める教育機関への公的支出の割合で、日本は加盟国の中で最下位という結果を公表したところです。つまり、公的支出が低く抑えられているということは、個人の負担などに依拠しているという実態の結果にほかならないことになります。「貧困と格差」は解消どころか、個人の負担に委ねられている限り、拡大の一途というほかありません。

 北海道においても、義務制学校で保護者から一年間で徴収せざるを得ない学習費は、北教組の教育費実態調査から、小学校六年生で平均七万五千円、中学校三年生で十三万一千円となっており、依然として増加傾向となっていることが報告されています。さらに、本来公費で賄うべき性格の支出項目をPТA会費や寄付金などからの支出に頼っている実態も浮き彫りとなっています。

 これは、単に道教委の施策というより地方自治体の財政状況が厳しい状況にあることも背景としてあると考えています。補助金や交付金体制で縛られる今の地方財政制度は、教育費などを含む社会保障へのしわ寄せとなって現れ、事態の深刻さを一層増幅させていると考えなければなりません。さらに、道内における深刻な雇用状況は、他の都府県よりも一段と厳しい状況におかれており、学齢期の子どもが複数いる世帯にあっては、その負担は大変な額にのぼり、多くの教職員も心を痛めているところです。

 私たちは、こうした実態について組織的に議論を行い、ご存知のように最もお金のかかる進学直前の中学校三年生対象の給付型奨学金制度を一昨年度から実施することとしたわけです。この取組は、希望している全道の対象者から言えば極めてささやかな規模ではありますが、徐々に対象者を拡大しながら少しでも寄与できればと思っているわけです。

 また、この取組については、全道各地の教育委員会、生活福祉関連団体、PТAや労働団体など各界各層の方々から応援をいただいており、その輪は確実に広がりを見せていることに、あらためて感謝するところです。

 一方で、こうした取組を通じて、「貸与された返還金を督促され続ける、いわば若者をローン地獄に追い込むような奨学金制度」の存在があることも知り、国政として「返還義務の生じない給付型奨学金制度」の確立の必要性を展望していかなければならないと考えています。

◆「教育の機会均等」堅持を

 ―すべての子どもたちに豊かな教育を保障するために

 いろいろな側面がありますが、ここでは大きく三つに絞って話したいと思います。

 第一に、「貧困と格差」が拡大し、なおかつ固定化している社会状況は、地域・保護者・子どもたちに大きく影を落としています。このことは「教育の機会均等」の拠って立つ基盤そのものが、根底から揺らいでいることにほかなりません。

 「教育の機会均等」が地域・財政・所得などあらゆる面から壊されてきているという現実をみなければならないと思います。その解決策の一つの方法として、先ほどふれた公的支出の拡充など地方財政の確立が喫緊の課題となります。学校現場がいかなる実態にあるのかを教育白書という形にして、学習権の保障という観点からも、未来を担う主人公としての子どもたちに対して、教職員の責務として教育費増額・地方財政確立の運動を社会的に発信していきたいと考えます。

 その中には、先ほど述べた「公的奨学金制度」確立の社会的な運動形成も重要な要素となると言えます。

 第二に、地方が破壊され働く場が失われています。働く場があったとしても、労働環境は極めて厳しく、非正規化の問題・ブラック企業化の問題が子どもたちの将来に横たわっているという問題があります。こうした状況を放置しておいて、子どもたちを過酷な競争と序列化に追い込んでいる現状や大人同士の競争となっている現状は、何とかして改善していかなければなりません。

 教育環境と社会環境の整備等は密接にして不可分の関係にあると言えます。

 だからこそ、非正規・ブラック化の問題は子どもたちの将来の問題としても解決を目指さなければならない社会的な運動課題だと思います。その運動と一体的に、自治体も巻き込んだ形で保護者・子ども・教職員が参画して地域の未来を展望できる、未来を創る努力ができるような連携型の取組も積極的に展開していきたいものです。

 第三の課題は、第二の課題と一体となって行われるべきものです。つまり、学校現場が過酷な競争と序列化に追い込まれている状況や、画一的・管理的な側面ばかりが強調されている状況の改善です。子どもたちの自死・いじめ・不登校などの状況は、とかく「学校の指導体制や責任問題」「教職員の指導力不足」「子どもたちの脆弱な人間関係」「家庭の問題」の側面からのみ論じられることが多いと思います。

 こうした面を完全否定するものではありません。しかし、私たちはこうした子どもの状況を「問題行動」と位置付け、「規範意識の徹底」を学校や家庭・地域にまで強化・強制する動きには疑問を感じざるを得ません。少なくとも、私たち現場教職員は、この状況を現代の教育施策を含めた学校教育に対する顕在化した「苦悩の表出」として、真摯に受け止めなければならないと思います。

 そこから生み出される結論は、厳罰化によって社会へ適応させるということではありません。

 私たちがもつべきは一人ひとりの苦悩の背景を探り、子どもに寄り添いながらも解決しようとする態度であり、一人ひとりの違いを認め合いながらも、ともに育つ教育活動をいかに保障するかという姿勢だと思います。

 極めて抽象的な表現になってしまいましたが、「すべての子どもたちに豊かな教育を保障する」ため、全道各地ではこうした観点に立った具体的な教育実践が日々行われています。

 私たちは実践で勝負するしかありません。こうした実践を全道各地に発信・交流する取組を研究集会のみならず、ホームページなどを有効活用しながら全体のものとして共有化できる取組を強化していきたいと考えています。

◆交流起点に人間関係広げて

 ―これからの北教組の在り方について

 組織の取組の一端と、組織結成の原点についてふれます。

 北教組は現在、各級段階で「サマースクール」「語り場」「教育研究集会」を開催し、組合員はもとより未加入の青年層を交えて、悩みや課題を共有して解決を図る場を積極的にもつなど、相互の交流を図ることに重点を置いています。また、シンポジウムや各種集会にも積極的に青年層の参加を呼びかけているところです。

 全道各地域では、「沖縄研修~おじい・おばあとの交流」「広島研修~被爆者との交流」「福島ボランティア活動」など、さらに創意工夫した活動も展開されているところです。今では、こうした交流を起点に人間関係の輪が広がり、ほかの県との交流も企画されるようになってきました。

 道内においても各地域で、「ほかの組合との交流」はもとより福祉施設、ボランティア団体、地域おこし団体との積極的な交流が図られるようになってきていることも報告されています。

 ともすると、あらゆる悩みを背負い込んでしまいがちな学校職場において、職場の交流をはじめ、職場から一歩も二歩も地域に活動の範囲を広げていく。

 組合が組合の範ちゅうに収まらず、人との輪を広げていく。こうした取組を積極的に応援したり、交流したりする機会をさらに進めていければと考えています。

 私たちは「教え子を再び戦場に送らない」を組織結成の根幹に据えながら、様々な取組を展開してきましたし、今後も展開するつもりです。現状は、残念ながら私たちが求めてきた「平和・民主主義」とは全くかけ離れた「戦争・統制」の足音が聞こえる社会状況となっています。平和の危機と教育の危機は一体のものとしてやってくることは歴史が証明しています。私たちは歴史的な事実に対して謙虚でなければならないと考えます。

 私たちは「教え子を殺す側にも殺される側」にも立たせるわけにはいきません。私たちには「明るい未来」「平和な社会」を子どもたちに引き継いでいく責任があります。

 この間の動きに対して、戦争経験者のみならず世代や思想を超えた多くの人たちが全国津々浦々で声をあげ、行動を起こしました。そうしたことは、その行動に参加する教職員組合にとって、どれほどの勇気を与えてもらったか計り知れないものがあります。一方では、今後の運動の創り方にも大きな示唆を与えてもらったと思っています。

 私たちはあらためて今、憲法前文に貫かれた考えを自分のものとする必要があります。あらためて、平和憲法の理念に貫かれた社会なのかを検証する必要があると思います。

 そのために、私たちはもちろん青年教職員をはじめ多くの方々に参加を呼びかけ、歴史と現実に学ぶ謙虚な姿勢をもって、生きた憲法学習を提起しているところです。平和であり続けるという尊さを学び、後世に引き継いでいきたいものですね。

(関係団体 2016-01-01付)

その他の記事( 関係団体)

【平成28年を迎えて 教育研究団体に聞く】北海道中学校英語教育研究会 加藤佳栄会長

 平成二十八年の新春を迎え、謹んで年頭のごあいさつを申し上げます。平素より本研究会の諸活動に対しまして、温かいご理解とご支援をたまわり厚くお礼申し上げます。  本会は、中学校の英語教育に関...

(2016-01-01)  全て読む

【平成28年を迎えて 教育研究団体に聞く】北海道中学校理科教育研究会 本間玲会長

 平成二十八年の新春を迎え、謹んで年頭のごあいさつを申し上げます。また、平素より本研究会の活動に対しまして、深いご理解と温かいご支援をいただいておりますことに厚く御礼申し上げます。  本研...

(2016-01-01)  全て読む

【平成28年を迎えて 教育研究団体に聞く】北海道小学校理科研究会 村上力成会長

 新春を迎え、謹んで年頭のごあいさつを申し上げます。また、平素より本会の活動に深いご理解と温かいご支援をいただいておりますことに厚くお礼申し上げます。  さて、発足して六十三年目の本会は、...

(2016-01-01)  全て読む

【平成28年を迎えて 教育研究団体に聞く】北海道社会科教育研究会 吉呑正美会長

 謹んで新春のお慶びを申し上げます。平素より本研究会の活動に対し、温かいご理解とご支援を賜り、厚くお礼申し上げます。  本研究会は、常に時代情勢を的確に捉え、北海道社会科教育の充実と発展を...

(2016-01-01)  全て読む

【平成28年を迎えて 教育研究団体に聞く】北海道社会科教育連盟 山岸徹委員長

 平成二十八年の新春を迎え、謹んでお喜びを申し上げます。皆様には、本連盟の活動に対し、平素より深いご理解と温かいご支援をいただいておりますことに厚くお礼申し上げます。  昨年、研究主題『自...

(2016-01-01)  全て読む

【平成28年を迎えて 教育研究団体に聞く】北海道国語教育連盟 川嶋英輝委員長

 平成二十八年の新春を迎え、謹んでお喜び申し上げます。皆様には、平素より本連盟の各事業に対し、深いご理解と温かいご支援を賜り、厚くお礼申し上げます。  昨年十月、第七十回北海道国語教育研究...

(2016-01-01)  全て読む

道高校長協会私立部会が研究協議会 私学経営の在り方研鑚 講演や提言もとに意見交換

道校長協私立部会研究協議会  【函館発】道高校長協会私立部会(会長・種市政己札幌大谷高校長)は十一月下旬、函館市内の遺愛女子高校で第二十二回研究協議会を開催した。全道各地より三十人の校長が参加し、講演や提言に基づいた研...

(2015-12-28)  全て読む

交通安全標語・ポスターコンクール 最優秀に鴨志田さん、石岡さん 作品集など配布―道高校長協会

交通安全ポスター  道高校長協会(富田敏明会長)は、第三十四回交通安全標語・ポスターコンクールの入選作品を決定した。交通安全標語では、佐呂間高校二年・鴨志田瑞穂さんの作品「待つ一秒 止まる一歩が 事故防止」、...

(2015-12-25)  全て読む

新会長に松山氏(月形町教委)選任 空知管内市町教委連教育長会

 【岩見沢発】空知管内市町教委連絡協議会教育長会は十八日、新役員を決定した。新会長として月形町教委の松山徹教育長を選出。前任の鈴木紀元会長が教育長を退任したことに伴い、新たに役員を決め直した...

(2015-12-25)  全て読む

清水町校長会が学校経営サークル研 安心な職場づくり目指し メンタルヘルスの在り方学ぶ

学校経営サークル研  【帯広発】清水町校長会(山下勇会長)は十五日、清水町役場で学校経営サークル第二回研修会を実施した=写真=。町内の校長や教頭、町教委職員など約二十人が参加。道教委教育職員局福利課兼健康・体育...

(2015-12-25)  全て読む