新春インタビュー 北教組・木下真一中央執行委員長に聞く(関係団体 2021-01-01付)
北教組・木下真一委員長
◆過酷な勤務実態浮き彫りに
―学校現場の超勤・多忙化の現状と、教育条件、勤務条件改善に向けた取組についての北教組の考え、今後の取組についてお聞かせください。
私たちは、本年度から実施された改正給特法・条例に基づき定められた上限時間に関し、新型コロナウイルス感染症拡大防止業務等の業務が加わった6月に学校現場から報告を受けました。残念ですが、多くの組合員が上限時間を超え、「休憩時間の業務や休日の部活動が積算されていない」「割振り変更で勤務が8時間を超えた場合は60分の休憩時間が設定され、在校等時間から一律引かれている」などの実態が聞かれ、学校における勤務時間管理システムの信ぴょう性に疑問をもつことになりました。
そこで、当初6月に行う予定としていた勤務実態記録を9月に実施することとし、全道の組合員に協力を求めました。札幌市を除き、驚くことに9割以上の組合員から協力が得られました。組合員の皆さんに感謝するとともに、現場の状況を教育関係者でない方々にも理解してほしいと毎日の勤務時間を記録してくれたと思います。だからこそ、この記録を単なる資料に止めてはならないと決意しました。
実態を申し上げます。
改正給特法・条例に基づく時間外在校等時間上限(月45時間以内)順守の状況は、小学校で平均48時間33分、上限超え51・5%で、中学校においては平均66時間46分、上限超え71・9%となっています。これに文部科学省・道教委が「業務の持ち帰りは行わないことが原則」としているものを加算すると、小学校平均60時間49分、上限超え66・9%、中学校平均75時間13分、上限超え79・0%にもなっています。
完全学校週5日制による学習指導要領改定(1998年)に比べ、現行の標準授業時数は大幅に増加しています。
また、一部改正(2003年)によって「年間授業時数の標準を上回る適切な指導時間を確保」としたことから、過剰な余剰時数の確保が常態化して、教育課程の過密化がさらに厳しい状態となりました。
さらには、少人数学級やチーム・ティーチングによって1つの授業を複数の教員が受け持つことになり、加配措置が持ち授業時数を減らすことにつながらず、むしろ打ち合わせ等の時間が増えることとなったことが、その他必要不可欠な教材研究などを勤務時間外に行わざるを得ない状況にさせています。中学校では、小学校の状況に加えて休憩時間から部活動が行われており、子どもが学校にいる以上致し方ないとはいえ、記録に如実に表れています。
超勤多忙化解消については、業務の総量を減らし、教職員を増やすことと、子どもたちの学びを保障することを、双方バランスよく実現することが必要と考えています。業務の総量は一人当たりの持ち授業時数の多さが大きな比重を占めています。これに上限を設定することが必要であり、そのため、教職員定数改善が不可欠です。
しかし、現状は加配措置の教員、代替教職員未配置、つまり、定数に満たない状況で教育が行われている学校が多くあります。定数や時数は国が定めていますが、勤務時間管理や超勤多忙化解消は服務監督権者の責任とされています。このように、文科省・任命権者(道教委)と服務監督権者(市町村教委)が異なっている構造がこの問題の解決を難しくしているのではないでしょうか。
いずれにしても、業務平準化・効率化など、学校現場の自助努力では解消できるものではありません。給特法成立以来、学校現場・教員の献身的な姿勢によって成り立ってきた学校運営は限界であることが、一層明確となっています。国段階での抜本的で大胆な改革が必要なことは明らかです。
1年単位の変形労働時間制は超勤多忙化解消策にはならないことは明らかであり、あらためて「持ち授業時数の上限設定」「教職員の定数改善」「学習指導要領に基づく年間総授業時数の削減」「部活動の社会教育への移行」などが不可欠です。
さらに、タダで働かせ放題となっている給特法の廃止・抜本的見直しに向けて、組合員の期待に一日でも速く応えられるように、厳しい勤務実態を訴えていくことが責務であると考えています。
◆コロナ 学校の社会的意義再考
―新型コロナウイルス感染症の影響で学びの保障と感染防止対策が大きな課題となり、学校の負担が増加しています。北教組の考えをお聞かせください。
教職員は、緊急事態宣言に基づく長期臨時休校の間、子どもや家庭と定期的に連絡を取り合い、学びの機会を様々な手段で確保するとともに、子どもの生活保障・居場所づくり、心のケアなどに尽力しました。
しかし、国立成育医療研究センターの調査では、小学生以上の子どもの61%に就寝起床時間のずれが生じ、75%がストレス反応を呈し、62%の保護者が負担を感じていたとの結果もあります。コロナ禍での学びの保障における学校環境の改善という意味では、どこの自治体も教育委員会も迅速な対応に努力し、政府の第2次補正予算によって改善が進むようになったと報告を受けています。
一方、学校再開支援経費が感染防止を中心に活用されているものの、配分された予算全額が学校長の判断で柔軟に対応できる経費となっているか疑問の声も寄せられています。また、教育課程・カリキュラムという意味での学びの保障では、多くの教職員は必要な取組を日課や長期休業の変更等による授業時数の確保ではなく、学習内容の重点化と行事等の精選であると考えているのではないでしょうか。
北教組として現在、教育課程実態調査を行ってコロナ禍による教育課程への影響や子どもたちの変化について報告を受けていますが、「子どもを置き去りにした授業となっていないか」など、危惧すべき回答が現時点でも寄せられており、さらに子どもたちの心の問題を心配する回答も見受けられます。
学びをどう保障するか、今回の長期にわたる休校はあらためて学校や教員の社会的意義を考え直す機会、学校の存在価値が社会的に再認識させられるものとなりました。保護者からは、「家庭で子どもと一緒に勉強したが、授業内容を理解させる大変さをつくづく実感した。学校で先生の授業を聞き、友達と共に学ぶことが何より大切」との声も届いています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、予測不可能な時代の到来を私たちに実感させ、どんなことが起こっても生き抜ける人間を育てるかが私たちの責務であり、その場が学校であることを認識せざるを得ませんでした。今の学校機能でその責任を果たせるでしょうか。
子ども自身が成長・発達するため、学習指導要領をはじめとするマニュアルに照らして“社会に適応する大人になること”に終始するのではなく、子どもたちの問いや想像力から生まれるものこそ本当の“学び”ではないか、それを保障することが必要ではないかということをあらためて考えながら実践することが大切だと思います。
◆子ども中心の学校づくりを
―増加するいじめ、不登校児童生徒の要因と対応について、お聞かせください。
文科省調査ですが、昨年度の道内におけるいじめの認知件数は2万2574件となり、不登校児童生徒もすべての校種で増加し、過去最多となっています。厚労省調査による児童虐待の相談件数も同様となっています。子どもたちを取り巻く課題は複合的に絡み合い、依然として厳しい状況が続いており、コロナウイルス感染症拡大によって、さらに深刻な状況になっているのではないか心配しています。
また、増え続ける児童虐待の背景の一つに貧困があることも指摘されており、2019年に成立した改正子どもの貧困対策推進法の規定にあるように、子どもの意見を尊重して、最善の利益を踏まえ総合的な子どもの貧困対策に取り組むことが必要と考えています。
世界では自国第一主義、不寛容な政策や姿勢が横行し、協調して物事を進める風潮が後退する、身近な大人社会にもそのような、自助とか自己責任で片づけようとする社会の在り方が広がり、学校での影響も看過できません。競争主義・点数至上主義一辺倒による過度に競争的なシステムを含むストレスの多い学校環境は、国連子どもの権利委員会が子どものいじめ、不登校、自死等の原因となる可能性を指摘しています。
全国学力・学習状況調査などの結果が公表され、能力主義や成果主義が過度に学校にもち込まれることが子どもの学びに影響を与える深刻な事態となっているのではないでしょうか。点数学力向上を目的とした画一的な枠組みに縛られるのではなく、子どもを中心に据えた学校づくりが必要であると考えています。
したがって、いじめが起こった場合の対応も重要でありますが、私たち教職員として、その原因をつくらない・減らすための環境がどうあるべきかを考えることも大切です。特に超勤多忙化による子どもたちに寄り添う時間の減少、管理強化によって教職員間の意思疎通が不十分になることや、こうしたことによって個々の教員の心情にあふれた指導が困難になっていないかなどについて、常に問い続けることに責任があると思っています。
◆給付型奨学金拡大求める
―貧困と格差の是正に向けて、北教組が主任手当の社会的還元事業として始めた給付型奨学金制度の意義、今後の取組などについて、お聞かせください。
貧困と格差は教育現場においても極めて深刻かつ重要な問題であると考えています。それは、平等や公平の大切さを教室で教えようとするとき、一人ひとりの子どもたちがもっている自己肯定感、つまり「自分が社会の中で存在意義がある」ということがとても大切で、逆に、貧しさを認識してしまった子どもがいたとすれば、「自分がいけないんだ」というような自己責任の名のもとに自らの境遇をそのように思い込んでしまうことが、その子の成長を考えるときに一番の課題というか大人の責任であると感じています。
学校現場においては、経済格差によって教育格差が生まれてしまい、社会に希望をもてない状況をつくり出すことがあってはならないと思います。
私たち北教組ができることは、主任手当の社会的還元事業としての給付型奨学金制度によって、高校等への進学を諦めていた子どもたちへの支援や、すべての子どもたちにゆたかな教育を保障するため、義務教育費の無償を基本に義務教育費国庫負担制度を今以上に改善し、教職員定数を増やすことや、30人以下の少人数学級実現などの教育予算の大幅拡充を保護者・地域の皆さんと取り組むことであると思います。道教委にも教育予算要求書を提出し、多くの改善を求めています。
9月に文科省が公表した概算要求では、少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備、小学校における専科教員の配置拡大、学習指導員、スクール・サポート・スタッフ、中学校における部活動指導員の配置拡充などが要求されています。少人数学級を事項要求としたことや、先日の萩生田文科大臣の少人数学級実現に向けた発言は注視するところですが、財務省が示す「学級規模の学力への影響は限定的」との見解もあることから、政府予算確定期の取組については日教組ともしっかり連携していきたいと考えています。
しかし、根本は政府の教育予算の在り方であり、突出した防衛予算、依然としてOECDの28ヵ国中最低であり、全国学力・学習状況調査に60億円を費やすなど、子どもを競争・序列化させ、教職員を管理強化する事業に予算をかけています。こうした予算を給付型奨学金の一層の拡大とともに保護者負担の無償化に措置すべきです。今後も市町村や教育関係者の皆さんと連携する中で、少しでも子どもたちの実態の改善に寄与できる運動を続けてまいります。
◆若い力も合わせ運動推進
―2021年度に向けた北教組の方針・運動の在り方、女性参画や組織強化・拡大に向けた取組について、考えをお聞かせください。
憲法9条をはじめとする改憲の動きがある中で、戦前回帰の教育が進められようとしています。また、新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちを今まで以上に多忙にしています。
一斉休校中も休んでいたわけではありません。オンライン対応が進まず批判されましたが、生徒の学習を止めない工夫をし、教育崩壊とならないよう日々子どもたちと向き合っていました。この未曾有の困難の前に教職員の自己犠牲だけで教育活動は維持できるのか、北教組は子どもたちの輝く未来のため、教育をさらに真剣に考え、一層力を合わせて運動を進めていくことが重要となっています。
また、昨今は文科省教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会が発表した教員養成改革が実行され、学習指導要領の内容を伝達する技術を校長経験者が教える授業が主流になり、国が求める定型の教員を育てる師範学校化、教員の同質化を懸念する指摘もあります。
これまで述べてきたように、学校現場がこれほどまでに社会の変化と密接につながっていることが明らかになった中で、私たちが求めてきた子どもたちと未来を切り開く、学校を変える運動がまさに社会を変える運動と密接な関係にあることは明らかです。
敗戦間もない1950年代の教育研究集会で、作文教育の意義について論議された記録をみる機会がありました。ある子どもの作文が学習指導要領に基づくものにはなっているけれど、自己主張や自己表現を育てる、言いたいことを真っ直ぐ表現させる指導となっているか、単に文書技術だけを教えることで作文教育を終了させてはいないか、書くことによって自分を客観視して、自分の力で自分を育てていく指導ができているかということを熱心に議論しているものです。
真の教育の姿ではないかと思いますが、はたして今の学校現場でその余裕や場面があるかどうかはお分かりのことと思います。
しかし、同質化か運動の進め方かどうか結論はありませんが、なかなか若い世代の教職員の中には、そうした私たち北教組が進める教育研究や実践交流の場に参加したり、仲間に加わろうと理解してくれたりする人が減っている傾向があると感じています。大きな問題です。
内部的には、過去の運動の歴史を踏まえつつ、このままの運動の進め方でよいのかを検討しなければ、若い世代の教職員に組合活動の意義を理解してもらえないとの議論もあります。
複雑・多様化するこの時代、一人ひとりの教職員・組合員がもっと教育を科学的かつ本質的に研究し、実践・検証するという、ゆたかな教育を目指すためには組合の力も必要であると考えています。このことを若い世代の教職員にもっともっと理解してもらいたい。そのためにゆとりをもって教育研究ができるためにも、生活と権利を守り勤務条件の改善が必要であり、一人でも多く仲間と教育を語ることが必要であることも。
―ありがとうございました。
(関係団体 2021-01-01付)
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