金融経済教育・消費者教育テーマに討論 専門家や機関の活用を 公民科と家庭科の連携が大切(関係団体 2022-04-08付)
「高校生と先生のための北海道における金融教育シンポジウム」(7日付一部既報)では「金融経済教育・消費者教育の現状と課題」をテーマに教員向けのパネルディスカッションを行った。ネットやSNSを通じた詐欺などに合う危険性を懸念する声が相次ぎ、「公民科と家庭科の連携が大切」「学校だけで解決しようとせず専門家や機関を活用することが大切」といった対策のほか、「お金という視点で人生を賢く生きるための学びが体系化されていないのが大きな課題」「進路指導や奨学金についてもお金の視点で教えることが大切」などの意見が出された。
パネリストは北星学園大学の鳴海昌江文学部教授、道立消費生活センターの斎藤清美教育啓発部長、道高校遠隔授業配信センターの佐藤豊記教諭。コーディネーターは札幌学院大学の橋長真紀子経済経営学部教授(いずれも役職は当時のもの)。
概要はつぎのとおり。
=敬称略=
コーディネーター 18歳へ成年年齢引き下げに伴い、高校生にどのような危険が考えられるか、どのような教育をしていったら良いかの2点を話し合っていきたい。まずはどのような危険が考えられるか。
斎藤 消費者相談は20歳になると急に増える。高校生は問題が起きてもお小遣いの範囲内なので大したことにはならないが、20歳を過ぎると賃貸アパートの契約や自動車の購入などが加わる。
マルチまがいの商法の被害は高齢者よりも若者が多くなってきている。簡単に、誰でももうかるという怪しい商品をSNSや先輩を通じて契約し、消費者金融からお金を借り結局借金だけが残ったという相談が多い。
危険が自分にも及んでいるという想像力が不足している。成年年齢引き下げで、自分は大丈夫かと想像してみる視点が大切。
佐藤 18歳成人で契約の責任が拡大する。SNSやネット上の曖昧な情報でもうけ話や詐欺まがいのものに引っかかる可能性がある。
学校教育では、公民科は概念や仕組みは教えるが、それが私事として捉えられるかというとそうではない。家庭科の「家計」という視点を入れて見る連携が求められる。また、総合的な探究の時間を使ったり、外部講師を招いたりと重層的に伝えることがポイントと思う。
どういうことが具体的に問題なのかを学校で具体的に伝えていくことが大切。1人1台パソコンが入っているので、グーグルジャムボードやグーグルクラスルームなどを活用し、子ども同士で話し合わせることも大切。PTA等を通じ保護者と一緒に学ぶことも必要。
一方で、負の側面ばかりでなく、本人だけで保護者の許諾なく契約ができるので、子どもが自立していく救いにもなる。それを我々がどれだけサポートしていけるかだと思う。
鳴海 クレジットカードの契約や車のローンを組むことが親の同意なくできてしまう。学校では先生方はこのことについてどのような話をしているだろうか。
高校3年生はまだまだ子どもの一方で、成年年齢に達する。十分な知識や判断能力がないままに安易な消費契約や様々なわなが仕掛けられる。ビットコインへの投資など、よく分からないまま手を出し膨大な債務を負うことが懸念される。
ことし2月の日本貸金業協会の調査では、18・19歳の学生を貸付対象とするとの回答が16%。また、7割を超える業者が親の同意を取得しない方針。恐ろしいことである。
これまでは未成年者取消権で守られていたが、今後は高校生でも消費者トラブルに巻き込まれ、過重な債務を負うことがあり得る。
学校や家庭で経済への基本的なことを話す機会を、それぞれの立場で教えたり、話し合ったりする機会をぜひ増やしてほしい。
早い段階から、金融や消費者生活について体験的に自分事として捉え、懸命な判断・行動が取れるようにすることが大切。
今、消費者教育に関するコンテンツが官民問わずつくられており、それらを活用するのも手である。
斎藤 もうけ話を持ちかけられたら、なぜもうかるかを相手に聞くこと。信用している人でも、お金の話は一歩引いて、誰かに相談することが大切。
コーディネーター 2つ目の視点、どういった教育をすれば良いかについて。
佐藤 公民科、家庭科の年間計画に位置づけるのはなかなか難しいと思う。ただ、公民科と家庭科の先生が互いに教科書を見ながら共通項を理解していくことが大切だと思う。
授業の中で15~20分消費者教育について別の人が話すなど、教科書プラスアルファで話すことで記憶に残っていくと思う。
鳴海 小学校と高校における金融教育の例では、キャリア教育中心で「夢シート」に自分の夢を書き、そのためにはどう働けばよいか、得られる社会への貢献は何かを考えるのが小学校。高校はさらに具体的に考えていく。子どもにはクイズなども効果的である。
斎藤 昔は安くて良いものを買うことが重視された。今は製造年月日を見て買うなど価値観が変わってきた。
物を買うことは、それを作っている企業を応援することである。良くない会社のものをみんなが買わなければ、その会社は衰退していく。そうした行為をもとに望む社会に必要な事業者を伸ばしていくことも大切。
できるだけ小さいうちから物の相場がいくらか、一緒に買い物に行って教えてほしい。そして自由になるお金、貯めるお金を考えさせてほしい。「北海道の消費者教育」と検索すればいろいろな情報があるので、ぜひ利用してほしい。
佐藤 家庭での金融教育を私たちは十分受けていない。今の社会は貧困格差、人口減少、ジェンダーギャップなどの問題があり、ヤングケアラーなどの問題も起きている。こうしたことを包括し子どもと一緒に考える授業が求められる。
鳴海 これまでの日本社会は、お金のことは子どもの耳に入れない、大人が考えることという社会だった。学校では道徳で「貧しくても正直な良い人」を良しとした。昔話でもお金持ちは大体強欲で薄情に描かれることが多い。これが日本人の価値観である。しかし、お金儲けは悪いことだろうか?
高校生の進路選択も、とにかく人生をお金という現実的なファクターを抜きに、夢や希望、成績で考えていく。そして受験ギリギリになって金銭的な現実を突き付けられる。
お金という視点で人生を賢く生きるための学びが体系化されていないのが大きな課題。「契約」に関する体系的な学びも必要である。
高校の新学習指導要領では、公民科では金融を通した経済活動の活性化が盛り込まれている。家庭科では、家計管理、金融商品、資産形成の学びが加わっている。人生100年時代を生き抜く生きた知識を身に付けるよう改訂されている。学校にとっては、金融教育元年となるかもしれない。
しかし、教える側の教員の知識が不足している。金融教育を受けたことのある教師は少ない。学校だけで解決しようとせず、専門的な知識を持った機関や専門家などの活用が必要である。
これまでの進路指導は、どんな職業につきたいか、どこの大学に行きたいか、模擬試験を受けてその成績でランク判定して進路を指導しているのが高校の通常だと思う。その際に、なかなかお金の話が生徒からも、3者面談をしても保護者からも出てこない。
親や高校生がファイナンシャルプランナーなどの専門家から話を聞くと効果的だと思う。
奨学金という名の教育ローンについてもしっかりと教えることが大切。親でさえも気軽に「奨学金を借りればいい」などと言っている。
専門的に理解できるよう、PTAなどいろいろな場を通じ第三者から教わることが効果的と思う。また、学校ではこうした話に興味・関心が向くような教育を行っておくことが大切である。
(関係団体 2022-04-08付)
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