【新春インタビュー】北教組・信岡聡委員長に聞く―すべての子どもに豊かな教育を保障 給付型奨学金制度「はざま」にかかる負担軽減(関係団体 2017-01-01付)
信岡聡中央執行委員長
◆勤務条件の改善が急務
―中央執行委員長としてその任に当たられて六ヵ月が経ちましたが、いじめや暴力行為、不登校の増加など、北海道の子どもたちの教育をめぐる現状とその対応について、考えをお聞かせください。
昨年度の小・中学校、高校のいじめ件数は、過去最多で二十二万件を上回り、暴力行為も約五万七千件で、小・中学校の不登校も十二万六千人にのぼりました。小学校では、いじめ・暴力・不登校がすべて過去最多と報告されました。
北海道でも、不登校は小・中学校で四千五百九十五人、いじめは小・中学校、高校、特別支援学校で五千五百三十七件と大幅に増加しました。
これは、「貧困と格差」が拡大する中で「教育の機会均等」が損なわれているということ。そうした状況を顧みることなく、「全国学力テスト」に基づく「点数学力」が競わされ、特定の価値観を押しつけ、管理する政府主導の教育が進めれていることが背景にあります。
子どもたちは、こうした社会・経済、教育をめぐる状況の中で、学ぶ喜びを奪われ、自己肯定感や学習意欲をもてず、様々な形で大人に悩みを発信し助けを求めています。
昨年十一月、福島の原発から避難していた中学一年生の子どもの「いじめ」が発覚し、金銭被害を把握しながら、問題を放置した責任が問われていますが、しかし、そもそも、子どもに寄り添い、人権を保障する日常的な教育実践が行われていたのか、教職員が協力・協働の中で問題に対処できる職場体制にあったのか疑問があります。
こうした問題の要因を明らかにして、「貧困と格差」を是正し、学校を子どもたちが安心して過ごし、意欲をもって学べる場とするための教育条件整備や教職員の超勤解消など勤務条件の改善が急務です。
―学校現場の超過勤務の縮減に向けた取組について、伺います。
電通の新入社員の過労自殺が社会に衝撃を与え、若者を食い物にするブラック企業の横行も社会問題化しています。しかし、学校現場の教職員の勤務条件も過酷です。子どもや地域の実態とかい離した「政策」や、「免許更新」「研修」などの押しつけによって超勤・多忙化させられています。
文部科学省も、こうした状況に対し「業務改善の指針」を出しましたが、授業時間を増やし、小学校での「英語の教科化」など「詰め込み教育」に逆戻りする「学習指導要領」改訂が進められる中では、実効性のないものと言わざるを得ません。
道教委は二〇〇八年、学校現場の超過勤務に歯止めをかけてきた「協定書」を一方的に破棄通告しましたが、交渉で教職員の超勤削減に向け実効ある縮減策の策定を約束しました。その後、「勤務時間の割振り変更」などによって実質的に超勤解消を図る施策などを進めてきましたが、抜本的な解消策となっておらず、一方で、国に追随する「点数学力」の施策や官制研修を現場に押しつけ、超勤に拍車をかけています。
電通の過労自殺した社員の発症前の一ヵ月の残業時間が月約百五時間に達したとの報道がありましたが、北教組調査でも、超勤時間は月平均で小学校八十一時間、中学校で百四時間、高校で九十三時間と、厚生労働省の過労死認定の八十時間を超える教職員も多数報告されており、命を削りながら教育を進める過酷な現場実態となっています。
こうした中で、二〇一四年度の北海道の教職員の病休者は四百三十二人(総数に占める割合〇・九六%)、そのうち、精神疾患者は二百九十三人(同〇・六五%)と全国で最も高い割合となっています。
年末賃金交渉で、北教組は、超勤・多忙化の是正に向け、道教委の責務として具体策を講ずるよう要求し、最終交渉では「対応可能な実効ある取組について、できるだけ早期に実施できるよう検討を進める」との回答がありました。道教委は教職員の命と子どもの教育にかかわる最重要課題として真摯に受け止め、主体性をもって実効ある超勤縮減策を早急に講ずるべきです。
◆査定昇給、学校現場になじまず
―二十七年一月一日から導入された勤務実績に基づく昇給制度、三十年一月からは新たに「学校職員人事評価制度」となる昇給制度について、今後、どのように対応していくのか、考えをお聞かせください。
北教組は、査定昇給などが、差別賃金につながりかねず、協力・協働で営まれる教育に成果主義の制度がなじまないなどの課題をもつことを指摘し導入に反対してきました。
そもそも、教育労働者をはじめとした公務員は、業績・成果主義的な査定昇給等制度がなじまないことは、これまでの報告から明らかです。
二〇〇八年の厚生労働省の報告では、経済協力開発機構(OECD)の公務員を対象とする業績給などの調査・分析から、「本来組織やチーム全体の成果であって、個人の成果に帰属させること自体が難しく、恣意的制度運用に堕してしまう」「成果主義給与の効果は限定的で、むしろ意欲低下をもたらしている」ことなどを明確に指摘しています。
ところが、道教委は独自削減が長期にわたる中で、若年層を中心に民間と比べ賃金が低下している現状を踏まえ、導入を図る意図を明らかにしたことから、私たちは差別賃金とさせず、すべての教職員の賃金改善に資することを前提に取り組んできました。
しかし、現在も一部の校長などが、制度を十分に理解せずに、恣意的な運用を図る状況も報告されています。
新たな「学校職員人事評価制度」の導入に当たって道教委は、制度の趣旨をしっかりと理解させるよう、地教委や校長への周知徹底と十分な意思疎通を図ることが不可欠です。職場の差別・分断とさせず、公正・公平な制度とさせるよう取り組んでいく必要があります。
―この一年間の道教委の施策について、どう思われますか。北教組の地域や現場に寄り添う教育の実現に向けた取組を含め、考えをお聞かせください。
この一年間、道教委は、国に追随する点数学力偏重や管理を強化する施策ばかりを進め、北海道の子どもたちの実態に即した教育を進める主体性に欠けています。
市町村教委をはじめ、教育関係者との意思疎通も不十分で、学校現場の状況を視察に出かけても、表面的な指導ばかりを重視し、子どもたちや教職員をめぐる過酷で切実な現状について、分かっていても、改善に向けた取組を怠っていると言わざるを得ません。
北教組はこれまでも、子どもたちの実態に即した教育実践を展開するため、現場の厳しい状況やそれを改善するための膨大な提言を行ってきましたが、道教委はこれを十分に受け止めていません。
国際労働機関(ILO)とユネスコ(UNESCO)は、「教員の地位に関する勧告」で教職員団体の教育政策の決定への関与を認めており、これに基づけば、教育政策の立案や義務教育費国庫負担制度堅持や定数改善、多忙化解消問題、貧困解消などは、当然、一緒に取り組まなければならない課題です。
今後も私たちは道教委に対して、子どもたちの学びを保障し、教職員の創造ある実践を支える観点で、北教組はもとより保護者や地域住民の意見を聞いて、北海道の実情に即した教育を実現するよう、主体的な姿勢をもつべきことを求めていきます。
◆生きて働く「学び」を
―二十八年度全国学力・学習状況等調査は改善の傾向はみられるものの、全国平均を下回る結果となり、道教委では新たに「二十九年度には、すべての教科で全国平均以上となるよう、授業改善と生活習慣の確立に向けた取組を、さらに、その質の向上を図りながら、組織的に推進していく」との考えを表明しました。北教組として、このことをどうとらえ、今後どのように対応していくべきか、考えをお聞かせください。
「全国学力・学習状況等調査」が二〇〇七年に開始され、十年が過ぎましたが、あらためて道教委は、北海道の子どもたちの学力を「全国平均以上にする」との方針を掲げた、この間の「施策」を顧みるべきです。
道内それぞれの学校では、地域の特色や子どもの実態に即し、子どもたちの「人格の完成」を目的にした優れた教育実践が積み重ねられてきました。
しかし、道教委の結果公表と点数学力偏重の「施策」によって、日常の授業がテスト対策に傾斜させられる中で、一人ひとりに寄り添う創意ある実践はないがしろにされ、「調査」の点数や入試学力ばかりを追い求める競争的な教育に拍車がかかり、学校教育は歪められています。
学校は、学習活動を通して子どもたちが知識や技能、問題の解決方法、他者との関係性などを身につけるとともに、子どもたち一人ひとりが夢や希望をもち、自らが主権者であることを自覚し、社会を変えていくという意志が生み出される「人格の完成」の場でなければなりません。
差別や選別、序列化ではなく、道内のそれぞれの地域や子どもの実態に即し、生きて働く「学び」を保障する主体的で創造的な教育実践を尊重し、保障することが必要です。
「国際学習到達度調査」(PISA)でトップの成績をあげたフィンランドの教育改革は、少人数学級を実現し、責任と権限を学校現場に委ね、教える誇りと喜びを教職員に与えること。そして、宿題を廃止し、放課後は外で遊ぶよう子どもたちに求め、子どもたちに学ぶ喜びを味わわせることに成功しました。
一方で、政府・文科省や道教委の施策はどうでしょうか。現場が求める根本的な定数改善は行わず、授業時間増や補習・宿題の奨励、生活習慣への介入など、教育課程に介入してさらなる点数学力向上施策の徹底を求めています。
子どもたちから学ぶ喜びを失わせ、学びから遠ざけており、冒頭述べたようにいじめなど子どもたちの苦悩を深刻化させ、追い詰めています。まったく真逆の施策です。
本年度の予算においても、「学力向上」対策を行う学校への加配措置や小学校英語の強化事業への予算増、全国学力調査は悉皆に加え、抽出での中学校英語に七億円増の六十億円もの予算を計上するなど、子どもを競争させ、序列化させる事業ばかりにお金をかけています。
むしろ、自治体間の格差が広がっている保護者負担や、十分でない教育条件の改善にこそ財源を傾注すべきではないでしょうか。
◆「貧困と格差」解消へ
―主任手当の社会的還元事業として、始められた「給付型奨学金制度」の意義、今後の取組などについて、お聞かせください。
私たちの調査では、義務制での教材費などの学校徴収金は一年間で小学校が六十万円弱、中学校では八十万円以上が保護者の負担となっており、本来公費で賄われなければならない図書費や備品費をPTA会費や寄付金で賄っているのが実態です。
さらに、これらの金額は自治体間によって相当格差があることも明らかになっています。
また、市町村から就学援助を受ける小中学生は全体の一五%を超えています。まさに、教育の機会均等、義務教育の無償の原則が空洞化し、子どもたちの学習権が十分に保障されていない状況が広がっています。
こうした状況の改善に向け、北教組が二〇一三年から開始した給付型奨学金事業は、道教委が受け取らない主任手当の社会的還元として進めてきました。
中学三年生を対象に、高校への入学金など準備のための資金を援助する奨学金は今までになかったことから、その“はざま”にかかる保護者負担を軽減させる目的で始めました。
希望している全道の子どもたちの数からいえば、ささやかな規模ですが、市町村や教育関係者、多くの道民の皆さんに応援や激励をいただいており、少しでも寄与できればと考え、継続していきます。
その他の社会還元事業についても、NPO団体への支援とともに、昨年は道内の台風被害があったことから、被災した市町村や教育委員会、関係団体への支援を行いました。また、「子どもと保護者のための電話相談室」は年々相談者も増加しており、引き続きその意義を踏まえて進めていきます。
一方で、「無償の奨学金」など、子どもの学習権保障の責任は行政にあるとの考えから、労働福祉団体や連合などと連携し、政府へ働きかけてきました。不十分ながら、政府も給付型奨学金事業に取り組む姿勢をみせており、引き続き、子どもたちの「貧困と格差」解消に向け、取組を進めていきます。
◆組織拡大センター設置
―昨年創立七十周年を迎えられましたが、これからの北教組の在り方について、組織強化・拡大に向けての取組も含め、考えをお聞かせください。
昨年は、北教組の結成七十周年ということで、多くの教育関係者や労組・OB、マスコミの方々にも参加をいただき、記念レセプションを開催し記念誌を発行しました。参加をいただいた皆さんに感謝を申し上げます。
私たち北教組は組合結成以来、自らの生活と権利を守ること、そして、子どもたちが意欲をもって学べるよう民主教育を確立することが、「二度と過ちを繰り返さない力」であるとの確信をもち、運動を進めてきました。
現政権のもと「戦争する国づくり」に向けて、憲法「改正」の動きとともに戦前回帰の教育が進められています。
私たちは、結成の原点に立ち返り、憲法を守り生かすとともに、子どもたちの輝く未来を守るため、一層団結し、運動をすすめていきたいと考えています。
北教組運動を強化し、子どもの側に立つ教育と生活と権利を守るため、若い教職員の皆さんの組織への加入が重要です。昨年度から、新たに本部に組織拡大センターを設置し、「青年委員会」を立ち上げ、支部や各専門部と連携し、三十五歳以下の教職員を重点に加入を目指しています。若い教職員の豊かな発想や協力を得ながら、組織拡大につなげたいと考えております。
組合への加入は、教職員の仲間や他労組の組合員とも話し合いができるなど、日常の業務にはない人間的なふれあいや交流ができ、そのことによって社会の仕組みや政治の流れなど社会に対する見方や考え方など世界観が広がります。連帯することの素晴らしさを実感できることも重要な組合参加の意義と思っています。「査定昇給」や「人事評価制度」など教職員を競争させ管理統制となりかねない制度の導入に対して、職場を分断させず、協力・協働の民主的な職場をつくっていくためには、組合員の存在が不可欠です。
こうした組合の意義や役割を訴えるとともに、北教組運動に自信と確信をもって組織拡大を図っていけるよう魅力ある運動を展開していきたいと考えています。
―ありがとうございました。
(関係団体 2017-01-01付)
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