道小 第63回北見大会 誌上交流④
(学校 2021-01-25付)

◆第9分科会 学校安全

【研究課題】

 命を守る防災教育・安全教育の推進と校長の在り方

【研究発表】

「生きる力」を育てる防災教育の充実~安全で安心な信頼される学校づくり

発表者=音更町立柳町小学校・伊藤道彦校長

▼研究の概要

 十勝地区校長会は、研究のねらいを「“生きる力”を育てる防災教育の充実における校長の役割を追究する」と設定し、平成29年度から令和元年度までの3ヵ年計画で研究を推進した。

 防災教育の機会の創設と、関係機関等と連携する機会を構築することを視点に研究を進め、3年間で3回のアンケート調査を実施した。各視点について、つぎのとおり項目を設定して調査し、校長の防災教育推進の意識や自校の具体的取組の改善を促した。

▽防災教育の機会の創設

・知識・技能の習得を図る学習機会の創設

・危険予測・危険回避能力を育む学習機会の創設

・知識・技能と当事者意識を高める職員研修機会の創設

▽関係機関等との連携の構築

・積極的な働きかけによる家庭や地域、関係機関との連携の構築

・防災教育、職員研修における地域等との連携の構築

▼実践内容

 元年度に実施した3回目のアンケート調査では、課題の解決に向けた進ちょく状況や特徴的な取組の情報収集などを行い、研究の成果と課題を明らかにして研究を進めた。

▽元年度前期段階における課題

・防災教育に関する検証改善サイクルの実効化を図る校長の指導性の向上

・災害に強い学校づくりに向けた校長のリーダーシップと具体的方策による防災への組織的な指導カ・対応力の向上

・家庭・地域・関係機関との連携・協働によるそれぞれの責任と役割の分担における地域全体の防災力の向上

▽元年度後期段階における進ちょく状況の把握

 3回目のアンケート調査の結果から、課題の解決に向けた進ちょく状況はつぎのとおりである。

・教職員の意識向上を図る研修機会の創設

 防災教育の計画や手引きの説明、総合防災訓練の実施、専門家等による研修については、取組が一定程度進んだため数値が低下したが、地域の総合防災訓練への参加や避難所運営の確認など、地域と連携した取組の数値が上昇した。

・連携した具体的な取組、体制整備の状況

 保護者への一斉メール配信や関係機関との避難所運営のための連携、子どもの緊急時引き渡し訓練など、具体的な取組や体制の整備が進んだ。

・防災教育における検証改善の具体的な方法

 危機管理マニュアルの見直しや訓練の早期反省とその改善など、検証改善を積極的に行わなければならないという校長の危機感が数値の高い項目に挙げられた。

・防災教育の推進における連携先別の成果

 保護者や地域との連携にかかわる成果はもちろんだが、小中一貰教育の推進による校種間で連携した取組の充実が特徴的な内容として挙がった。

▽アンケート結果による校長の役割についての考察

・児童生徒にかかわる校長の役割

 防災教育として必要な知識や能力を明確にし、さらに主体的な行動、支援者の基盤を育てる学習内容を示すことによって、教科等横断的な視点と義務教育9年間を見通した防災教育を確立すること。

・教職員にかかわる校長の役割

 校内研修等を位置付けた学校安全計画の継続的な更新、事前・発生時・事後の3段階での危機管理に対応した研修機会等を創設するなど、校内体制の整備を進めること。

・家庭・地域・関係機関にかかわる校長の役割

 家庭・地域・関係機関等への情報発信と協力依頼や、家庭や地域住民、関係機関・団体等との調整をスムーズにできるよう環境を整備し、防災教育の担い手、つなぎ手となる人材の発掘・育成を行うこと。

▼成果

▽防災教育の充実に対する校長の危機意識が高まり、防災教育を推進する校内体制づくりと検証改善サイクルに基づく防災教育の推進、家庭・地域・関係機関と役割を分担しながら実践的な防災教育の取組が進んだ

▽1日防災学校の活用や関係機関と連携した実践的な防災教育を推進することで、各校の立地条件に即した防災・減災に向けた取組が進んだ

▼課題

▽校長には、防災教育に対する豊富な知識が必要であり、そのための定期的・適時的な研修の機会を創設し、校長会として組織的に歩みを進める必要がある

▽防災教育における具体的な検証方法の交流によって、不断の検証改善に基づく組織的な指導力・対応力の向上を図る必要がある

▽各学校で実践している特徴的な防災教育の取組を収集し、全学校で行う実効性ある防災教育へと校長会が橋渡しをすることで、地域の防災力の向上に寄与していく必要がある

【感想や意見】

▽実効性の高い取組に感銘を受けたことについて

・大規模な自然災害を乗り越えて教育活動を死守し続けた経験に基づいているため、強い説得力を感じた

・リスクとクライシスの両面、発生時に特化したマネジメントについても研究を進めている点に感銘した

・児童生徒、教職員、家庭・地域・関係機関とのかかわりにおける校長の役割が大変勉強になった

・「校長自身の危機管理意識の高まりが防災教育を充実させるための鍵」「各校の実践事例に学ぶこと」など、多くを学ばせていただいた

▽教職員の意識改革について

・教職員全員が当事者として危険予知能力を高める取組は、全道のモデル的な取組といえる

・自然災害の場合、自分に被害が及んでいなければ、つい備えを怠りがちになってしまう。校長として、職員には「もし…」という視点をもつよう話している

▽連携構築について

・災害安全への集中的な取組は、多様な危機への予測や回避能力、安全への知識や技能を育むことになり、校内外の連携構築の確立にもつながると感じた

▽校長のリーダーシップの在り方に学んだことについて

・「地域の防災は学校が守る」という気概が伝わった

・校長は、学校運営協議会と協働して親子で学ぶ防災教育の授業の創造など、防災教育の推進に向けたリーダーシップを発揮しなければならないと考える

▽自校に生かすことについて

・研究発表を読んで、自校でも「教科等横断的な視点と9年間を見通した防災教育の確立」「事前・発生時・事後の3段階での危機管理に対応した研修」「防災教育の担い手、つなぎ手となる人材の発掘・育成」の3点を参考に防災教育の改善を図りたい

 校長のリーダーシップを発揮するのはもちろん、学校安全に関する知識・意識の醸成や関係機関とのつながりを大切にし、防災教育を推進していこうとする積極的な姿勢が表れるものが多く寄せられた。

【質問(Q)・回答(A)】

Q 防災教育の計画・手引作成の説明について、2年度が元年度を大きく下回っている理由を伺いたい。

A 甚大な台風被害をはじめとした昨今の状況によって防災教育への気運が高まり、もはや説明については行って当然というレベルまで浸透している。実際の災害を想定した具体的な体験、行動が研修機会の中心になっており、計画・手引作成段階から実践段階へと進んでいることが主な理由と考えられる。

【まとめ】

 十勝地区校長会からの研究発表と本分科会に寄せられた質問、意見、感想等からの誌上交流を通して、防災教育・安全教育において校長が果たすべき役割や指導性について研究を深めることができた。

 研究の視点に基づく具体的な方策を受け、成果や課題等を明らかにしながらまとめとする。

▼研究の視点から

▽視点1「自ら判断・行動できる子どもを育てる防災教育・安全教育の推進」

 十勝地区においては、視点1を「機会創設」として、児童生徒の学習機会や体験訓練機会の創設、教職員や家庭・地域・関係機関における研修機会の創設について研究が推進された。

 ねらいとして、防災教育において必要な児童生徒の知識・技能の習得、危機予測・危機回避能力の育成、教職員等においては知識・技能と当事者意識の向上について取り上げられた。

 具体的な方策として、つぎの3点を掲げて検証・改善が行われた。

・子どもに自分の命は自分で守る力を身に付けるための防災教育・安全教育を推進すること

・学校安全計画、年間指導計画などの整備と見直し、マンネリ化を防ぐために訓練等を改善すること

・計画・実施・評価を連動させるための校長の役割や指導性を発揮すること

▽視点2「家庭・地域等との連携を図った組織的かつ計画的な防災教育・安全教育の推進」

 十勝地区においては、視点2を「連携構築」として、防災・減災教育の充実を図っていくためのネットワークの整備、家庭・地域・関係機関との連携の構築について研究が推進された。

ねらいとして、家庭や地域、関係機関と連携していくための積極的な働きかけの促進、防災教育や職員研修などの実施における地域等との連携の強化について取り上げられた。

具体的な方策として、つぎの3点を掲げて検証・改善が行われた。

・家庭や地域、関係機関との綿密な連携体制を整備

・「自助」と「共助」の考えに立ち、学校・家庭・地域が連携し、地域全体の防災力を向上するための取組を推進

・家庭や地域、関係機関との連携を図った組織的・計画的な取組を推進するための校長の役割や指導性を発揮

▼成果

▽視点1にかかわって

・教職員の資質・能力向上

 防災教育・安全教育の充実には、教職員の資質・能力の向上が必要不可欠である。校長が適時性のある情報提供を行うとともに、役割の明確化や研修機会の充実に努め、必要感のある訓練等、当事者意識を醸成しながら組織的な対応力の向上を図ることが重要である。

・児童生徒の防災意識向上

 系統的・体系的な防災・安全教育を教科等横断的な視点によって教育課程に位置付けることが大切である。マンネリ化や受け身にならないよう意図的・計画的に訓練等を設定し、体験的な学びの中で適切な判断力の育成や意思決定へとつなげることが重要である。

▽視点2にかかわって

・積極的な情報発信と共有

 防災教育・安全教育の充実には、地域とともにある学校づくりと連動させて取り組むことが大切である。コミュニティ・スクールを推進していく中で、地域の防災関係者等を含めた組織づくりや協力体制を確立し、日常的な情報交流に努めることが重要である。

・立地条件に即した防災・減災

 防災・減災に対する地域の現状や課題を共有し、家庭や地域住民を巻き込んだ多様な体験的活動を通して、子どもに自助、共助の精神を養うことが大切である。明確なビジョンを示し、リーダーシップを発揮しながら、それぞれの役割分担を明らかにして、地域全体の防災力を向上させていくことが重要である。

▼課題

▽学び続ける校長の姿勢が大切であり、防災に対する意識を発信し続け、様々な関係機関との連携・協力体制を構築し、教職員の意識改革を図る必要がある

▽検証改善サイクルを機能させ、自校の取組を検証するとともに、各学校の特色ある取組についても交流を深め、防災教育の充実を組織的に進める必要がある

▽系統的・体系的な防災・安全教育におけるカリキュラム・マネジメントを確立し、義務教育9年間を見通した中で次代の安全文化を構築していく必要がある

▼今後に向けて

 現在、コロナ禍にあって学校現場は厳しい状況にある。また、これまで経験したことのない自然災害が頻繁に発生する時代、子どもが未来社会を生き抜くための資質・能力を育成する防災教育・安全教育を推進することの意義は大きい。

 安全・安心な学校づくりを通して、持続可能な社会の実現へとつなげていくことが求められる。

(学校 2021-01-25付)

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