道教大附属札幌中 2年次研究概要 第3回 「教える」バランス意識し授業改善 課題解決「委ねる」経験を(札幌市 2023-04-10付)
▼研究1年次の成果と課題
▽研究1年次の成果
期間は短かったものの、研究1年次の取組からは数多くの気付きを得ることができた。
まずは研究目標3に関わる成果として、第1回目の量的分析とその検証結果が挙げられる。今次研究の目的を踏まえ、学習や生活に関わる23項目のアンケートを作成・実施し、北海道教育大学教職大学院の川俣准教授に分析面での協力をいただきながら検証したものである。
この結果からは、批判的思考や自分の力だけでは解決の難しい課題に対して解決援助を求める方略である学業的援助要請に関するデータは参考値となる先行研究データよりも高い水準にある一方で、アイデア創造への自信や自己効力感は低い水準にあることが明らかとなった。
また、批判的思考・アイデア創造への自信・認知的方略と自己効力感の間には弱い正の相関が見られ、とりわけアイデア創造への自信の得点が低いことから、私たち教員が生徒の「課題」として捉えている点の克服には、このアイデア創造への自信が鍵となることが示唆される結果となった。
これは、今次研究の目的を設定する際に議論した生徒の「課題」が、私たち教員が育みを目指す姿や「願い」の実現によって克服される可能性を示すとともに、研究の方向性として着眼点に誤りがなかったことを意味していると解釈できる。
なお、アイデア創造への自信の低さに関わるこのような傾向は本校生徒に限ったものではない。
研究1年次における概要でも示したように、金沢大学附属中学校による調査からは、複数の附属中学校においても同様の傾向がみられるという結果が報告されている。
また、日本財団「18歳の意識調査」においても、社会への変容を生み出すような自信に対する回答結果が、調査対象となる6ヵ国の中で極めて低い数値であったことが報告されている。
これらの傾向から、将来の社会を担う若年層の自信や自己効力感をいかに高めていくかという視点は、わが国全体にとっても注目すべき課題であると言える。
重点を置いた研究目標2の取組においては「既習と未習」のそれぞれが生徒にとってどのような位置付けであるのか、あるいは「意識的につなぎ合わせる」ということの具体的な姿はどのようなものかを授業者自身が模索することで、日々の授業に対するより深い省察を生み出した。これは、研究目標2の設定自体が授業改善に向けた意識を高めることにつながり、生徒同士の関わりの質的な側面に着目しようとする「目」を養うという面でも有益だったと言える。
研究目標2には、課題解決の際に必要性や必然性を持った適切な学習課題の設定も前提として含めている。これは、批判的・創造的な思考やそのような指向性を育むためには「授業の目標や課題の文脈設定も非常に重要である」ことからも、その設定の適切さが重要な要因であるためである。
この点も踏まえ、日常的な授業における取組を見つめ直す契機として機能したと言える。これらを総合的に評価する視点として「授業に対する奥行きを感じる」といった生徒の声が聞かれたことも成果の表れと解釈することができる。
▽研究1年次の課題
しかし、上記のような成果ばかりではなく、課題も明らかになってきた。事例を挙げると「既習と未習」のそれぞれが何を指すのかという捉えが曖昧であったという点を指摘できる。生徒が学ぶ内容、個別具体的な知識、学びの系統性、あるいは学び方そのもの…等、様々な捉えがある中で、教員側の認識をある程度備えていく必要性を見出すことにつながった。
また「意識的につなぎ合わせる」の具体についても同様の課題が見られた。私たちの「願い」として整理した段階では「過去に学んだ内容や経験、自他の学びの成果」として捉えていたものの、授業という具体の中でどのような形として現れるものかを十分に想定しきれておらず、結果として生徒同士の関わりを通して何が、どのように「つなぎ合わせ」られたのか、さらにはそれが「意識的」であったのかどうかを見取るという点で不十分であった。
また、この「意識的につなぎ合わせる」という行為に関わって、生徒同士の関係性が果たして「自他の考えを冷静に捉えて批判的に分析しようと」するものであったかという点においても課題が見られた。
実態として積極的な関わりや協働性は見られるものの、そこに吟味するような思考が働いているか、あるいはそのような機会を設けているかという点、すなわち、生徒同士の関わりの質的な側面によって着目することが、研究目標2を改善していく際の一要因であるという認識を得るに至った。
「意識的につなぎ合わせる」際には、学び手自身の方略選択に関わる裁量権の保証が必要不可欠である。なぜなら、新たな価値を見出しながら課題解決に向かうような「創造的に学ぶ」姿を実現しようとする際に、決まりきった手順、あらかじめ周到に用意された活動ではそのような意欲の創出には結びつかないためである。
そのため、授業者は、生徒自らが解決を求める学習課題を生徒と共に生み出すことに加え、生徒がその解決に向けて複数ある方略から文脈に応じたものを選び取り、使ってみることができるような「委ねる」経験を保証することが重要となる。
その一方で、方略の定着が不十分である場合には「委ね」ても取捨選択する術がなく「放任」された状況となってしまう。ゆえに「委ねる」ことと「教える」こととのバランスにも意識を向けながら、授業改善を進めていく必要があると言える。
ここまで数点にわたって取組の課題を述べてきたが、取組期間の短さゆえに基本的にはこの研究目標2については大きな変更を加えずに2年次も取り組んでいく必要があることが共通認識として挙げられた。
また、そのような期間的な制約により研究目標2に重点を置いてきたため、結果として研究目標1については具体的な整理を進めるまでに至らなかった。
教師自身が教科内、さらには教科を横断したつながりを意識した結果をどのように形にしていくか、さらにはどのように生徒の学びへと還元していくかが研究2年次の取組に求められると言える。
(札幌市 2023-04-10付)
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