新春インタビュー 4種校長会長に聞く② 北海道中学校長会会長 森田聖吾氏(関係団体 2024-01-17付)
道中学校長会森田聖吾会長
◆新たな足跡 後進につなぐ
―校長会としての新年展望をお伺いします。
昨年5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類へと移行され、北海道中学校長会(以下、道中)は、会員、教職員、生徒の安全・安心を最優先としつつも、校長の学びを止めない、喫緊の諸課題と向き合うために、本会の各種研修会等を極力参集形式で開催してまいりました。
道中研究大会小樽大会をはじめ、地区を越えて、会員同士が直接交流することで、確かなつながりと広く深い学びが実現し、学校経営に対する視座を高められたと実感しております。
そこで得た学びは、市町村や地区校長会の発展にもつながるものであり、本会の極めて重要な目的と考えております。
また、校長が職能向上を目指して学び続ける意味は「組織は、リーダーの力量以上に伸びない」からでありまして、道中事務局役員も、全日本中学校長会(以下、全日中)等としっかりとつながり、教育情勢等の理解を深めるとともに、北海道教育委員会との意見交換等を通して、全道の中学校が抱える教育課題の解決に努めております。
今後も「新たな時代へ連携し、しなやかに歩む 道中」として、全道561校の校長の皆さまと「子どもを主語にする学校づくり」という目標を共有し「チーム」で、新たな時代の中学校教育を推進してまいりたいと考えております。
さて、新年の展望ということですが、文部科学省から示された「令和の日本型学校教育」を受け、全道の校長先生方が現行の学習指導要領の全面実施と併せて、全ての生徒の可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた対応に尽力されていることと思います。
これらの対応には、カリキュラム・マネジメント、ICT環境の整備、教職員の育成など、管理職によるリーダーシップの発揮が一層求められております。
また、いわゆる「骨太の方針2023」「次期教育振興基本計画」が昨年6月に閣議決定されました。骨太の方針には、働き方改革のさらなる加速化、指導・運営体制の充実などを進めるために、本年度からの3年間を集中改革期間として施策が進められることが明記されました。
一方、次期基本計画では、教育政策におけるコンセプトとも言うべき総括的な基本方針として「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」および「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」を掲げております。
また、多様な生徒への適切な対応、デジタル教科書の活用、社会の変化への対応など、今日までの教師としての経験と実践だけでは解決できない課題も山積しております。
道中は、このような時こそ、会員の皆さまにビジョンを明確に発信し、関係諸機関との連携を深め、校長の英知と情熱を結集し「しなやかさ」を持って、それらの解決のために「チーム」として挑むことが大切であると考えております。
新しい年は、国の動向を注視しながら、校長という視座で、子どもたちと教職員の未来、学校の未来の姿をしっかりと描き、全道の校長先生方と「心を一つ」「思いを一つ」に、学校からの教育改革を推し進める年にしてまいりたいと強く願っております。
―校長会の抱える課題と対策をお聞かせください。
▼教員不足の解消
道内の中学校において、ここ数年は年度当初からの教員欠員数が増えており、年度途中に生じる産休・育休や病休などに伴う代替教員の確保はさらに厳しい現状にあります。そのため、免許外教科担任制度の活用や部活動のかけ持ちなどが余儀なくされることになり、子どもたちの教育活動への影響とともにほかの教職員への業務負担増につながっており、早急に改善が必要な課題であります。
また、近年は、教員採用倍率の低下が顕著となっており、教師に対するイメージの悪化が要因の一つと言われてます。その払拭には、学校現場でやりがいと誇りを持って働いている教師の姿を積極的に発信していかねばならないと思います。
子どもたちが生き生きと働く先生の様子に憧れ、そんな先生方に大切にされた経験を持てることが、将来の教員志望の原点になると確信しております。
従いまして、まずは教職への魅力を、各学校の生徒や保護者、地域の方々に理解いただけるよう「教職員が笑顔になり、その先にいる子どもたちも笑顔になれる働き方改革の推進」を皆さまと共に加速してまいりたいと考えております。
このような折、道教委では6年度から始まる第3期「北海道アクション・プラン」の作成に着手しており、学校における働き方改革推進会議には、本会からも構成員として参加しております。
計画の素案にはICTの活用による校務の効率化や、教頭の業務の縮減などが盛り込まれており、様々な改善策への学校現場の考えや本来学校以外が担うべき業務の問題など行政の皆さまと積極的に意見交換を行い、「働きやすさ」と「働きがい」のある職場づくりを目指したいと思います。行政と学校では立ち位置が違いますが、願っていること、実現しようとしていることは同じであり、しっかり連携してまいりたいと考えております。
▼教職員の育成
いつの時代も学校教育の成否は、教員の力量にかかっています。私ども校長は、教育を取り巻く環境の変化を前向きに受け止め、先生方が教職生涯を通じて、探究心を持ちつつ、自律的かつ継続的に新しい知識・技能を学び続けることができる教師へと成長する、そんな学校を創造してまいりたいと考えております。
新たな研修制度が始まったこの時期だからこそ、教室の中でリアルに展開される教師の指導や生徒への関わり方など、一人ひとりの子どもを見ての「個別最適な学び」や、学習集団の状況に応じた「協働的な学び」、そこの質の在り方をどういうふうに高めていけるか、そういったことを先生方同士が「学び合う」ことができる研修を充実していきたいと強く思っています。
昨年は4年ぶりに校内での授業研究や全道・全国規模の教科教育研究大会が各地で開催されました。
そのような大会の場での学校を越えた教員同士の交流や協議など、協働的な学びを通じて、自らの教育実践を振り返ることによって授業改善につながる気付きや、自立的に成長するためのモチベーションの高まりが期待できます。
このように、新たな教員研修制度を教職員にとって実り多いものにするためには、地動説で著名なイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが残した言葉である「人にものを教えることはできない。自ら気付く手助けができるだけだ」という、この名言の意味するところを大切に、校長の対話に基づく受講奨励を進めていきたいと思っております。
▼部活動の地域移行
部活動の地域移行に向けた3年間の「改革移行期間」に入りましたが、各中学校の校長先生は「学校部活動の維持」と「自治体が進める地域移行への取組」とのはざまの中で、今後の推移を見守っている状況が続いていることと推察します。
昨年10月に、全日中から学校部活動の現状に関する全国調査の結果が公表されました。部活動に関わる最近5年間の課題は、81・7%の学校が「学校部活動における教員の負担や顧問の決定」を挙げています。
また、道中が昨年5月に実施した調査では「休日の学校部活動の地域移行」の見通しとして、現段階で7年度までに実現可能と回答した学校は14・2%にとどまっております。
ご承知のとおり、スポーツ庁、文化庁は「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を公表していますが、この移行の背景や内容、計画等については、各自治体が取り組むことになっています。
この改革推進には、様々な課題がありますが、中学生の活躍の場の創出と、教師のウェルビーイングの実現に寄与するスタンスでの協力が不可欠であります。
今後とも、中学校教育の大きな変革となる部活動の地域移行について、各地区の課題や進捗状況等を共有し、皆さまの学校経営や、市町村への具申等に役立てることができればと考えております。
▼おわりに
本年の9月27、28の両日、帯広市で第65回道中研究大会十勝・帯広大会を開催します。
昨年の小樽大会に引き続き、全道各地区校長会の実践の共有と、地区を越えた校長同士の交流を通して、北海道の中学校教育に果たしてきた本会の足跡・役割を再認識し、さらに発展させ、子どもと教師の未来へとつなぐ大会となることを大いに期待しています。
最後に、道中は「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」の教えを踏まえ、「不易」と「流行」をしっかりと見極め、新たな時代の「中学校教育の振興」を図るために、学校からの教育改革を、会員の皆さまと「しなやか」に進めてまいりたいと考えております。
道なき雪原(新たな時代)は、リーダーを先頭に一歩一歩着実に歩むことになりますし、後に続く者は、その軌跡を頼りに進みます。
校長会の活動は、まさに雪原に新たな足跡を残す、後進への針路や新たな流れをつくる、翌年、さらに翌々年につながる活動でありたいと願っております。
新しい年も、皆さまのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
◆略歴
昭和63年道教育大旭川分校卒、平成13年道教育大院修。昭和63年旭川市立旭川第一中を振り出しに、平成16年旭川市教委教育指導課指導主事、21年同課長補佐、24年旭川第二中教頭、26年光陽中教頭、28年東光中教頭、30年神居東中校長、令和2年北星中校長を経て、4年忠和中校長(現職)。
昭和39年9月11日生まれ、59歳。滝川市出身。
(関係団体 2024-01-17付)
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