新春インタビュー 4種校長会長に聞く④ 北海道特別支援学校長会会長 須見千慶氏(関係団体 2024-01-19付)
道特別支援学校長会須見千慶会長
◆子の個性と可能性引き出す
―校長会として新年の展望をお伺いします。
昨年5月に、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類へ移行となり、徐々に日常を取り戻しつつありますが、長く続いたコロナ禍の影響で教育現場には大きな困難と変化がもたらされました。特別支援学校では感染防止に配慮しつつ、新たな教育活動への転換など様々な対応が求められ、障がいのある子どもたちの学びと生活を守るために、学校一丸となって取り組んでまいりました。本年は昨年までの経験を踏まえて、特別支援教育の在り方について、さらに深く考えていく必要があると考えています。
中教審特別部会「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」では、障がいのある子どもたちの学びの場の整備・連携強化、特別支援教育を担う教師の専門性の向上、ICT利活用等による特別支援教育の質の向上、関係機関の連携強化による切れ目ない支援の充実という4点が提言されました。
会としては、これらの提言に沿って、特別支援学校の役割と位置付けを明確にし、障がいのある子どもたちの個性と可能性を最大限に引き出す教育を実践していきたいと考えています。そのために、特別支援学校同士の連携や情報交換、他の教育機関、地域社会との協働、教育委員会や行政との対話などが不可欠です。教師の専門性や資質の向上にも研修や研究などを通じて、積極的に取り組んでいきたいと思います。
―新年度の重点的取組は。
視覚障がい教育では、札幌などの4校が各圏域の視覚障がい教育のセンター的役割を担いつつ、自校の教育活動を展開しています。各校共に、在籍する幼児児童生徒の実態に応じたきめ細かな教育で保護者等から高い評価を得ています。
一方、在籍者減少による1人学級や欠学年があり、子ども同士が学び合う環境の確保と、教職員の専門性の維持・継承が喫緊の課題となっています。子ども同士が学び合い・教え合う協働的な学びについて、これまでの道内4校間のICT活用による交流に加え、全国の盲学校との遠隔授業等を積極的に推進します。
全国に点在する同じ障がいのある同年代の子ども同士の学びの機会を拡大し、学びの質の向上を図ります。4校が行う小・中学校等との交流・共同学習に他の盲学校の児童生徒がオンライン参加できる機会を設定するなど多様な学びの場をつくってまいります。
教職員の専門性向上は、4校を中心に組織する道視覚障害教育研究会の「教科等指導サークル」で研究・研修を進めます。
オンラインと参集を組み合わせ新時代に合わせた合同研究を展開し、専門性の向上に努めてまいります。昨年から同研究会主導でオンライン講義、オンデマンド研修動画の配信を始めました。初回講義には、全国の盲学校27校、150人を超える視聴がありました。
今後も通信技術の活用を進め、研究成果の全国発信に取り組みます。学校間の垣根を越えた取組の充実を一層図り、4校どの学校も、等しく専門性の高い教育を提供できるよう努めてまいります。
聴覚障がい教育では、7校の聾学校等が各地の特色や学校運営協議会の力を生かし、相互に連携した教育を推し進めています。
近年国が進めている難聴児の早期支援に向けた保健・医療・福祉・教育の連携プロジェクトに関わり、療育施設の研修のための職員派遣を行うほか、道聴覚障害乳幼児療育事業で0歳の最早期から聴覚障がいがある子どもや保護者への支援の充実を図っています。
広域性のある本道では聾学校等が果たすべき役割が大きく、これまで培ってきたスキルと経験を生かし、引き続き地域の聴覚障がい教育のセンターとしての役割を果たしてまいります。
学習指導は、言語の獲得と活用のための学習、言語を基盤とした各教科・領域等の学習など、基礎的・基本的事項の習得と定着を目指して取り組んでいます。
各校では幼児児童生徒の減少と重複障がいがある児童生徒の在籍率の増加が続いている中、ICTを活用した学習や道内外の聾学校等とのオンライン学習の充実等に取り組んでいます。
教職員の専門性向上に向けては、道聴覚障害教育研究大会の参集実施を再開し、授業実践をもとにして指導技術や専門性の向上に努めています。
各校で実施する研修会の他校へのオンライン配信も継続するほか、学校を越えた研修素材のクラウド共有を図ることで、働き方改革につながる業務効率化と、聴覚障がい教育のスキルの維持・向上や人材育成を進めています。
聴覚障がい児・者に関わっては日本各地で手話言語条例の制定が進むほか、令和3年に開始されて4年目に入る電話リレーサービス、音声を文字情報に変換するアプリの普及など、制度やインフラの整備が少しずつ進んでいます。
日本では初開催となる2025年デフリンピック東京大会が来年に迫り、全国各地の聾学校等の卒業生の活躍が期待されています。手話や各種制度、デフスポーツ等のさらなる理解と啓発、ろう・難聴など聞こえにくさがある方への理解や配慮を進め、子どもたちが夢と希望を持って社会参加と自立を目指すことができるよう、教育の充実を図ってまいります。
知的障がい教育校は、札幌市立、私立、附属を含め42校が設置されています。小学部、中学部、高等部の3学部が併設された義務校と、高等部単独の単置校があり、その中で、分校や分教室を併設する学校を含めると、全道で52校の知的障がい教育校があります。
知的障がい教育校といっても児童生徒の障がいの程度や必要とされる支援の内容は多種多様で、各地域等によっても抱える課題が大きく異なるのが現状です。
そのような中、都市部・道内中核都市周辺の義務校を中心に就学を希望する児童生徒は増加し、深刻な教室不足の状態が続き、狭あい化はなかなか解消されません。児童生徒数に見合った教室数の確保など、学習環境の基礎的整備が急務となっております。
高等部教育においては、障がいの程度によって選択する高等部から、学ぶ内容で選択する高等部へと転換して4年が経過しました。今後、学ぶ内容の趣旨が生徒のニーズに合致しているのか、高等部の学科編成や生徒の進路状況がどのように変化したのかを検証しながら、今後の高等部の在り方を道教委、関係各所と協議していく予定です。
ICT機器を活用した学習は、知的障がい教育としての、主体的・対話的で深い学びの実現に向け、どのように効果的かつ効率的に教育活動に結び付けるか、各校で実践を積み重ね、検証を始めています。
教員の専門性向上に向けては、本年度から新たな研修制度が始まりましたが、今後、オンライン研修等も含め、教員の専門性の向上に向け、教員個々の意識を高めていけるような方策を校長会でも考えていく必要があると思っています。
知的障がい教育校の校長会の専門性向上の機会として、昨年夏には全国特別支援学校知的障害教育校長会の全国研究大会が札幌市で開催されました。参集での開催は、令和元年以来となり、全国から260人を超える参加がありました。
ICT機器の活用も含めこれまでの教育実践で新たに広げられた教育資産を今後も活用し、新たに広げていく実践を知的障がい教育校として図って参ります。
肢体不自由・病弱教育では、平成31年3月に校長会と副校長・教頭会合同で策定した「肢体不自由教育・病弱教育ビジョン」のもと、学校間で連携・協力し課題解決に向けた取組を進めてきました。
成果の一つとして挙げられる体育大会は、本年度から名称が肢体不自由・病弱教育校スポーツ大会に変更となりました。前年度からオンライン開催としておりますが、来年度は本年度の反省から内容を一部変え、開催時期も含めて検討していくこととなりました。
このほか、道教委で新たな特別支援教育に関する基本方針が策定されたことを踏まえ、このビジョンの成果と課題を検証し、今後の取組の方向性について検討したいと考えています。
肢体不自由教育関係では、学びを通して子どもたちの可能性を広げることが大切であり、その実現のために教職員の専門性の維持・向上を図ってきました。本年度は専門性向上セミナーを参集で行いました。久々に全道の参加者が一堂に集い、実りある研修会となりました。
道肢体不自由教育研究大会岩見沢大会はオンラインで行い、各校の授業改善につながる充実した研修となりました。7年度には、全国肢体不自由教育研究協議会が旭川で行われます。
旭川養護学校が開催校、岩見沢高等養護学校が事務局校となりますが、全道の肢体不自由校で準備・運営を担い、全国の先進的な実践や取組などから教育活動のより一層の充実につなげていきたいと思います。
病弱教育関係では、本年度から手稲養護学校三角山分校で札幌市内の医療機関に入院する小中学生を受け入れる訪問教育の取組が始まりました。教育環境を整え、体制整備を図りつつ、前籍校との連携による学びの連続性を重視した教育実践を積み上げています。従来からの長期の入院生の場合は、テレワークによる就労体験をはじめ社会とつながる遠隔学習等が重要であり、それぞれの教育的ニーズに応じた取組を一層工夫・充実していきたいと考えています。
病弱3校では、ICTを積極的に活用した授業改善に取り組んできており、その成果を共有し、広く情報発信するため、道病弱虚弱教育研究会の活動など、学校間の連携・協力を強めていきたいと思います。
◆略歴
昭和62年道教育大旭川校卒。同年七飯養護で教員生活をスタート。平成21年室蘭聾教頭、24年札幌聾教頭、27年旭川聾教頭、28年帯広聾校長、31年札幌聾校長を経て、令和4年高等聾校長。
昭和38年6月7日生まれ、60歳。旭川市出身。
(関係団体 2024-01-19付)
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