防災教育の在り方に一石 災害時の心情・情景を「小説」に 札幌澄川小で札学院大・大槻さん研究
(札幌市 2024-11-08付)


友人の前で自作の小説を披露する児童たち

 児童が災害時の心情や情景を執筆する「防災小説」の調査研究が札幌市立澄川小学校(附田裕哉校長)で進められている。札幌学院大学の大槻レナさん(4年)が卒業研究の一環として取り組んでいるもので、児童は感受性を高めながら、自然災害が発生した際に起こり得る戸惑いや不安を率直に表現。大槻さんは「自ら考える力の育成が求められる中、新しい防災教育の在り方の一つになれば」と期待を寄せる。

◆自分事として 防災を考える

 「ヘチマの水やりをしていた朝、揺れている実を見ておかしな状況に気が付いた。“地震だ。死ぬかも、怖い”。震度7だった。僕はどんどん心が不安になってきた」。

 10月23日、4年2組の国語の授業。児童一人ひとりが思いを込めて書いた小説を発表した。被災経験がない中で、想像力を働かせて書いた小説は、200字詰めの原稿用紙4~6枚分。感極まって声を詰まらせ、最後まで読み上げることができなかった児童の姿もあった。

 防災小説の取組は、平成28年に高知県土佐清水市の中学校で始まった。道内では道教育大学釧路校の境智洋教授による出前授業が釧路市内の中学校などで展開されており、想像力を働かせることで防災を自分事として捉える力の育成に注目が集まっている。

 防災小説を書き上げた児童の一人、斎藤稜久さんは7週間の避難所生活を続ける中で、店舗の営業再開に希望を捨てない大人の姿に生きる勇気をもらうストーリーに仕上げた。ニュースで見た能登半島地震の被災者の姿に影響を受け、小説のヒントにしたという。授業では多くの友人が「家族全員で生き残りたい」と強い思いを発表しているのを聞き、自身も同様の感情を抱いた。「家族が亡くなった経験がないので、誰かが死ぬのは怖い。小説を書く経験を通して、より一層自然災害が怖くなった」と振り返った。

 同校は、かつて市のスクールカウンセラーを務めていた札幌学院大心理学部の菊池浩光教授と附田校長の親交によって、本年度から防災小説の教育効果の研究に協力。附田校長は「児童の創造力の可能性を感じた。真剣に取り組む姿勢から防災への意識は確実に高まったのではないか」と効果を実感する。

 児童90人が小説を完成させるまでに要した時数は5時間。4年生の社会科「北海道の自然災害」と、国語の作文を書く単元の教科等横断的学習で取り組んだ。社会科では「震度7の地震発生時、市はどのような対応をするのか」を切り口に、小学生の自分たちにできることを考える場を設定。国語科の防災に関するまとめの文章を書く単元につなげた。

 小学生という発達段階で小説を書く例が少ない中、指導は児童が書きやすい枠組みを工夫。「自分ではない主人公をイメージしても良い」「ハッピーエンドで結末を迎えること」を条件に主人公の性格や家族構成、周囲に大人がいない場合の心境などを整理するワークシートの導入、起承転結の構成ポイントを教示することで児童の想像力を膨らませた。

 同校によると、児童は書き上げた小説を家庭で読み上げたり、家庭学習で防災バッグについて調べる学習に取り組んだりするなど、防災意識の変容が見られたという。取組に関わった鵜野伊久磨教務主任は「子どもたちは地震が発生した際、“大人が助けてくれるはず”という発想があると思うが予測不能で限界があるのが事実。“家族と相談しておけば、悲しい思いが減る”ということを日常的に感じてもらうとともに、社会に参画する目を育む契機になれば」と期待する。

 今後は菊池教授のゼミに所属する大槻さんが児童へのアンケートを通して、授業前後の危機意識の変化を見取り、卒業論文としてまとめる。

 大槻さんは避難訓練などに限られる防災教育の形骸化を危惧し、自助・共助を児童自身が主体的に考える新しい防災教育の広がりを願う。「児童が考えた小説を家庭や地域で発信することで、防災意識の高揚が波及できれば」と話している。

(札幌市 2024-11-08付)

その他の記事( 札幌市)

札幌平岡小 学びを確かめる会 学び、高め合う子育成 1年算数 計算方法を共有

平岡小学びを確かめる会  札幌市立平岡小学校(大滝和寛校長)は10月31日、同校で学びを確かめる会を開いた。研究主題「主体的に学び、高め合う子どもの育成」のもと、低・中・高・特別支援の4ブロックで7授業を公開。低学...

(2024-11-12)  全て読む

札幌屯田北小 20周年記念式典 諦めず“夢”を形に 記念ロゴやキャラ発表も

 札幌市立屯田北小学校(山縣昌志校長)は10月25日、同校で開校20周年記念式典・感謝の集いを執り行った。全校児童約400人が出席し、同校の節目を盛大に祝った。山縣校長は、夢を形にする大切さ...

(2024-11-11)  全て読む

学校の教育情報化実態調査 札幌市分 ネット接続率など100% 1人当たりPC台数1台超

 文部科学省の5年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(確定値)によると、札幌市では、インターネット接続率など4項目で100%を達成した。児童生徒1人当たりのコンピューター台数...

(2024-11-11)  全て読む

札幌市 札幌手稲高で食育講座 朝食を毎日食べよう 簡単レシピで習慣づくり

食育出前講座  札幌市手稲区は10月21日から5日間、札幌手稲高校(久保肇校長)の1年生約320人を対象に食育出前講座を開いた。生徒たちは簡単にできる朝食レシピの調理などに挑戦し、朝食を毎日食べる習慣づく...

(2024-11-08)  全て読む

札幌屯田北中 人間尊重の教育 多様な性 理解促進へ LGBTQ当事者招き講演

屯田北中・人間尊重の教育  札幌市立屯田北中学校(川原明子校長)は本年度、市教委が進める「人間尊重の教育」推進事業の研究推進校として、多様な性について生徒や教職員の理解を深める取組を進めている。LGBTQ当事者を招い...

(2024-11-08)  全て読む

リーディングDX校の札幌発寒東小 授業や校務で積極的推進 50周年式典 AIで作曲等

発寒東小・式典  文部科学省のリーディングDXスクール事業に指定されている札幌市立発寒東小学校(鳥丸俊郎校長)は、授業や校務におけるDXを積極的に推進している。10月31日に開いた開校50周年記念式典と公開...

(2024-11-07)  全て読む

札幌市P協 7年度文教要望概要〈下〉

意見書 ▼幼稚園について ▽預かり保育・保育時間の延長を希望する ▽給食の導入を希望する ▽先生の増員を希望する ▼授業・学習について ▽少人数学級について、小中学校の全学年35...

(2024-11-07)  全て読む

“命”の大切さを実感 札幌陵陽中 親子ふれあい教室

陵陽中親子ふれあい教室  札幌市立陵陽中学校(石井貴司校長)で10月28、29日の2日間、親子ふれあい教室が行われた。同校の3年生が直接乳児と触れ合い、母親から育児の大切さを聞くことで、命の大切さや親としての役割を...

(2024-11-07)  全て読む

札幌市立小・中屋内運動場 非構造部材落下防止対策 19・7%に 15年度まで耐震改修推進

 文部科学省が10月29日に公表した公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査結果(10月31日付1面既報)によると、札幌市立小・中学校の屋内運動場における非構造部材の落下防止対策状況が1...

(2024-11-06)  全て読む

札幌市 成人式記念品購入 ガバメントCFを試行 平岸高生デザインのタンブラー

ガバメントCFQRコード  札幌市市民文化局は、成人式参加者への記念品を購入するため、ガバメントクラウドファンディングの活用を試行している。来年1月に執り行われる豊平区・白石区の成人の日行事で、市立札幌平岸高校デザイ...

(2024-11-06)  全て読む