3定道議会予算特別委の質問・答弁概要(28年10月4日)(道議会 2017-01-19付)
三定道議会予算特別委員会第二分科会(二十八年十月四日開催)における安住太伸委員(北海道結志会)、中野渡志穂委員(公明党)の質問、および柴田達夫教育長、北村善春学校教育局長、磯貝隆之学校教育局特別支援教育担当局長、松浦英則生涯学習推進局長、河原範毅高校教育課長、鈴木淳義務教育課長、山本純史特別支援教育課長、川端雄一学校教育局参事(生徒指導・学校安全)、長内純子文化財・博物館課長の答弁の概要はつぎのとおり。
◆職業教育について
安住委員 教育の大切な目的の一つは、子どもたちがやがて社会に出て、一人の人間として実社会の中で生きていくための力の習得にあると考えている。
この点、実際に社会に出た子どもたちが、自立した暮らしを営んでいくことができるようになるためには、周囲の方々と適切なコミュニケーションを図る力が必要であったり、基本的な算術、計算力も必要であったりということで、個々の発達の段階に応じた適切な学習課題が設定され、具体的な教育が展開されてきているものと承知している。
そこで、そのような社会に出て生きていくために必要な力、素養にかかわり、その一つとしての職業観の醸成が重要と考えているが、道教委の見解を伺う。
鈴木義務教育課長 職業観の育成について。本道の子どもたちが、将来、時代の変化に柔軟に対応しながら社会人・職業人として自立していくことができるよう、小学校から高校までの発達の段階に応じて望ましい勤労観や職業観を育む教育を充実させることが重要であると認識している。
このため、学校教育においては、企業や地域と連携・協働した体験活動などを通じて、子どもたち一人ひとりが学校で学ぶことと社会とのつながりを考え、働くことの意義や未来の自分の可能性、様々な仕事の厳しさや楽しさなどについて理解を深めることが大切であると考えている。
安住委員 子どもたち自身が、学校での学びが社会や働くこととどのようにつながっているのかをしっかりと感じ取っていけるような取組が重要であろうし、また、大変だけれども面白い、やってみたいと子どもたちが感じ取りながら、職業に対し夢や希望を抱いて、自分自身も気づいていない、周りも気づけていない可能性を閉ざすことなく、大人や社会が子どもたちの可能性を伸ばしてあげられる環境整備が重要であると考えている。
しかし、現実は多くの場合、子どもたちが職業としてイメージするのは、最近ではパティシエやデザイナーなど、かっこいいと感じる職業に偏っているのが実態ではないか。
災害発生時にはいち早く現場に駆けつけ、状況確認や復旧作業を行うなど、極めて重要な役割を担うのは建設業だが、その建設業が、今直面している課題の一つが、人材の確保ならびにその育成である。
道がことし二月に取りまとめた『北海道建設業若年労働者入職に関する実態調査業務報告書』によれば、アンケートに協力した二千三百十五社のうち、経営課題として人材の確保を掲げたのは五〇・九%でトップとなっている。また、業界が、人手不足の要因として最も多く挙げた回答は、「業界のイメージが良くない」の五二・五%だった。
実際に建設業では、働く若者から見た人手不足の要因の回答も、「業界のイメージが良くない」の五七・三%である。つまり、建設業に対しては、きつい、危険などのマイナスのイメージが固定化しており、結果として応募が偏り、採用難に陥っている、その持続性に赤信号がともりかねない事態が生まれていると認識している。
こうした状況を乗り越えるためには、小さいうちから、直接建設業にふれられる体験の機会を提供することで、素晴らしさや、そこで働く人々の立派な生き方があることを理解することが極めて重要と考えている。
そこで、小学生の職業体験の機会づくりにかかわり、特に、建設業と連携した取組が本道において、どのように取り組まれているのか伺う。
鈴木義務教育課長 建設業に関する職場体験について。道内の小学校では、特別活動や総合的な学習の時間などにおいて、働くことの意義や自己の生き方などを考えることをねらいに、例えば、地元企業等と連携し、重機などに試乗する体験や、測量器を用いて距離を計測する体験、工業高校の協力を得て、測量などの技術を活用しながらグラウンドにラインを引いたり、杭を打ったりする活動など、建築や土木に関する仕事を実感させる体験活動も行われている。
また、各地域では、青少年教育施設が主催する河川の改修工事現場で土除け作業を体験する活動や、家庭教育サポート企業が実施する災害復旧の現場見学など、建設業が地域振興や防災に果たす役割などについて理解を深める体験活動が行われている。
安住委員 学校現場では、様々な取組が行われているという紹介があった。建設業の人材確保にかかわって、つい先ごろも知事は「建設業団体の意見も伺いながら、担い手の育成・確保に向けた各般にわたる取組を充実・強化し、今回の災害復旧など、それぞれの地域で大きな役割を担っている建設業の持続的発展につなげていく」旨の答弁をしている。
しかしながら、道労働局が公表している二十八年三月新規高校卒業者の職業紹介状況によると、道内の主な産業別の求人数に対する内定者数の割合を示す求人充足率において、建設業の求人充足率は二九・七%となっており、必ずしも高くない数値となっている。こうした状況についての道教委としての認識を伺う。
河原高校教育課長 建設業への就職について。道労働局が毎年行っている新規高校卒業者就職状況調査によると、二十八年三月末における産業全体の道内求人充足率は、四四・三%であるのに対し、建設業は二九・七%と低い状況であるが、建設業に就職した者は七百十八人で、五年前に比べて百五十八人増加しており、産業別の就職者数の比較においても、製造業、卸売・小売業に次いで上位にある。
また、全就職者数に占める建設業に就職した生徒の割合は、過去五年間、一〇%前後で推移しながら、微増の傾向にある。
道教委では、これまで、生徒が職業や職場に関する正確な知識や情報を収集し、主体的に進路選択できるよう、十四管内すべてで「高校就職促進マッチング事業」を実施してきており、昨年度は、建設関係企業十一社を含む百二十三社の協力をいただき、生徒や保護者を対象とした職場見学や従業者との意見交換などを行ってきている。
今後においても、地域の企業等との連携のもと、建設業をはじめ、地域産業に対する理解がより深まるよう、キャリア教育の一層の充実に努めていく。
安住委員 人手が足りているかどうかということでは、答えは「足りていない」ということだと思う。確かに、国や道を含め、各自治体において取り組まれてきた景気経済対策と、皆さんの努力が功を奏しているが、充足率は二九・七%で少ない、求めているけど集まらないというのが現状である。
今、取組状況について話があったが、これが、建設業によらず、本道の発展、成長そのものにも大きく影響するということを申し上げたい。今回の建設業にかかわらず、人口減少が加速している本道においては、適切な職業教育いかんで、その持続性に支障を来しかねない採用難をもたらし、本道の持続的発展に大きく影響を及ぼしかねない。
そのことは一方で、子どもにとっても選択の幅や可能性を狭める結果を招きかねず、双方にとって好ましくない事態となってしまう。こうした事態を防ぐために鍵を握るのが、できるだけ早いうちからの様々な職業体験の機会を提供すること、職業体験の機会を小学生から高校生まで系統的に取り組むことが重要と考えるが、道教委では、今後、どのように取り組んでいくのか伺う。
柴田教育長 職業教育における今後の取組について。職場体験などの職業や自己の将来にかかわる体験活動は、望ましい勤労観や職業観を育む効果があり、小学校の段階では、身の回りの仕事への関心や意欲などを高める活動、中学校段階では、将来の生き方・働き方などを考えさせる活動、高校段階では、現実的な社会・職業について理解を深めさせる活動など、発達の段階に応じ、系統的、発展的に行っていくことが大切であると考えている。
道教委では、今後、道内すべての管内で行っている小中高が一貫したふるさとキャリア教育推進事業の実践事例を各学校に情報提供するほか、地域の特色を生かした職場体験の取組事例などを収集し、ウェブページに掲載して普及するなどして、それぞれの学校が、地域や関係機関と連携を密にし、子ども一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な能力や態度を育む教育活動を充実することができるよう支援していきたいと考えている。
―指摘―
安住委員 東京にキッザニアという施設がある。子どもたちが様々な仕事にチャレンジし、楽しみながら仕事への理解や社会の仕組みを学ぶことができる施設である。そこで体験できる仕事の種類は百種類。いろいろな社会体験を通して、生き抜く力を育むことを主眼とした施設で、そこでは、ものづくりとして石けん工場のスタッフ、機械を使う仕事として住宅建築現場、人やまちを守る仕事、地下鉄の軌道作業員、議会の仕事もある。
こういう施設に類する取組として、札幌駅前通地下歩行空間に二十八年一月十五日から十七日まで三日間、建設産業ふれあい展が開催された。建設業が地域を支え、安全・安心を担っていることを広く道民にPRするため、関係団体の協力を得て、札幌市と共催で実施し、三日間で一万二千人の来場を記録したという。キッザニアもそうだが、実際に様々な職業体験を、非常にリアルな施設等を通して子どもたちが体験して学ぶ機会を得るということで、非常に素晴らしいと思う。
道教委としても、様々な現場で非常に素晴らしい取組をしてきているわけであるし、そういったことが、一部の施設・機会ではなく、広く全道で関係団体と協力しながら展開されるよう願ってやまない。
建設業と道が問題意識をもって、担い手確保育成にかかる推進会議を開いてきているが、その中で最も言われてきたことは、教育機関との連携ということであるから、どうか、これからも連携協力のもとに、子どもたちがしっかりとした職業観を醸成し、生きる力を育んでいけるように、さらなる取組を期待する。
◆防災教育について
中野渡委員 一連の台風災害によって、全道各地で、多くの児童生徒が被災したと承知している。今回のような災害に備え、児童生徒自身が、自分の身を守る行動がとれるような力を身に付けさせることが重要であると考える。
防災教育について、これまで、どのような取組を行ってきたのか伺う。
川端学校教育局参事(生徒指導・学校安全) これまでの防災教育の取組について。道教委では、自然災害等の危機に際し、児童生徒が自らの安全を確保できるよう、災害時の適切な行動を説明する啓発資料『学んDE防災』を各学校種のすべての新入生に配布するとともに、初任段階教員の研修の手引きにも掲載するほか、十年経験者研修でも防災教育を位置付け、指導の充実を図ってきている。
また、本年度更新した理科教育センターのサイエンスカーに搭載している「3D防災シアター」を活用して、学校に直接出向き、移動理科教室等の中で、児童生徒に災害の発生を疑似体験させる学習に新たに取り組んでいるほか、「北海道実践的安全教育モデル構築事業」において、児童生徒が安全に行動できるよう取組をまとめた冊子を作成し、全道の学校等に配布し、防災学習等への活用を促してきている。
中野渡委員 疑似体験学習にも新たに取り組んでいるとのことだが、災害による被害を最小限にするためにも、日ごろから、児童生徒の防災意識を高め、必要な知識等をしっかりと身に付けさせることが大切と考える。各学校において、授業とのかかわりの中で、どのように取り組んでいるのか伺う。
川端学校教育局参事(生徒指導・学校安全) 授業における取組について。道内の各学校では、児童生徒が様々な災害について正しく理解するとともに、適切な行動をとることができる能力を身に付けさせることをねらいとして、理科や社会科、保健体育などの教科の中で、自然災害の特性や防災への努力、災害時の適切な行動の在り方などについて指導するほか、特別活動等において、地域住民から過去に起きた災害の話を聞く活動や、気象台や開発局の職員による出前授業を行っている学校もある。
中野渡委員 地域住民から過去の災害の話を聴く特別活動などを行っている学校もあるとのことだが、児童生徒が自らの命を守ることができるよう、自分の地域における災害を予想したり、身の危険に対して自ら考え判断し、適切に行動できるといった力を身に付けさせる必要がある。そのためには、児童生徒が体験的に学ぶことが大切であると考える。各学校は、どのように取り組んでいるのか伺う。
川端学校教育局参事(生徒指導・学校安全) 体験的な活動について。各学校では、特別活動や総合的な学習の時間等において、地域や関係機関と連携した体験的な取組を行っており、例えば、小学校では、津波を想定し、地域のハザードマップを活用して安全な避難経路を確認する避難訓練を実施したり、中学校では、地域の協力のもと、避難所運営を模擬体験したりする学習が行われている。
また、高校では、小学生を誘導しながら行う避難活動などを取り入れ、地域社会と連携した避難訓練等が行われている。
中野渡委員 被災した地域では、毎日、不安を抱えながら避難所生活を送ることを余儀なくされた児童生徒が多くいると承知している。被災した地域の児童生徒や教職員は、何に困難を抱え、何が必要だったのかなどといった声に耳を傾け、今後、災害が起きたときに、学校が十分な備えをもって対応できるように努めるべきであると考える。今後、道教委として、どのように取り組んでいくのか伺う。
北村学校教育局長 今後の取組について。このたびの台風等の災害で被害が大きかった地域の学校においては、校舎の一部や校庭などが使用できなくなるほか、給食調理ができなくなるなど、教育活動を行う上での支障が生じたことから、道教委では、児童生徒への学習指導や心のケアに加えて、教職員の業務補助など必要な支援について学校長から聞き取るなどして、支援を行った。
道教委では、今後、災害発生時に学校が、より適切に対応できるよう被災した児童生徒や保護者、教職員等から、災害時の状況や必要な備え、支援策等に関して必要な情報を収集し、その情報を学校等に提供するとともに、学校防災マニュアル等に反映させるなど、指導助言に努めていく考えである。
―意見―
中野渡委員 避難に関する教育については、地震や交通事故、不審者を想定したものが比較的多いのではないだろうか。今回の災害によって、ゲリラ豪雨を想定した防災教育もあらためて重視し、取り組むことが重要であると実感した。特に、避難経路については、ゲリラ豪雨と地震や不審者対策とでは違う場合がある。このことについては、専門家の指導もいただきながら、地域の地形や実情に応じた避難経路や誘導を事前によく確認した上で、現実的にどう動くかということが重要であると考える。ぜひ、防災教育に取り入れていただけるようお願いする。
また、被災地では、今回の体験を通して、例えば、どのようなものがあれば便利だったか、良かったかなどを話し合い、マイリュックなどに備えていくような取組があると、今回の不安体験を表に出したり、対策をとることで、安心感や安定した気持ちを取り戻すメンタルケアにもつながると思う。
さらに、あったら良いものを宿題にするなど、家族と考える機会をつくるといったことがあると、家族にも備えと安心感を広げられるのではないだろうか。
今回の災害を体験した児童生徒から出てきた災害対策の貴重な声を、ぜひ、今後の全道の防災教育に生かしていただくようお願いする。
◆日本遺産認定に向けた取組
中野渡委員 先の一般質問において、わが党の同僚議員が日本遺産について伺ったところ、日本遺産は、地域が様々な文化財を中心に、食や観光などを含めてパッケージ化し、魅力あるストーリーとして国内外に発信することによって、地域の活性化を図ることを目的としており、現在、二十九年度認定に向けて、江差町では、国指定の重要文化財である「旧中村家住宅」や全国的にも知名度の高い「江差追分」などを中心として、また、函館市と松前町では道外の九自治体とともに北前船寄港地の繁栄の歴史などを中心として、それぞれストーリーの作成が進められている旨の答弁があった。
江差町については、単一市町村でストーリーが完結する、いわゆる「地域型」で、申請に向け、取組を進めていると承知している。一方、函館市と松前町は、道外も含めた複数市町村にまたがってストーリーが展開する、いわゆる「シリアル型」での認定を目指しているとのことであるが、このような広域にわたる認定に向けて、地元では、どのように取組を進めてきたのかを伺う。
長内文化財・博物館課長 北前船寄港地にかかる取組について。十九年から日本海側の寄港地の連携と地域間交流による地域活性化を図ることを目的とした「北前船寄港地フォーラム」が民間団体や関係市町村によって開催されてきており、昨年のフォーラムにおいて、北前船寄港地の繁栄の歴史をベースとした日本遺産への取組が提案された。
これを踏まえ、ことし六月、道内からは函館市や松前町が参画し、関係する十一の市や町による「北前船寄港地日本遺産登録推進協議会」が設立され、現在、本協議会の事務局である民間のシンクタンクが、ストーリーなどの企画・提案や、各市町村との調整をするなど、認定に向けた取組が進められていると承知している。
中野渡委員 「北前船寄港地日本遺産登録推進協議会」では、民間のシンクタンクが事務局となり、現在、ストーリーの作成などについて検討を進めているとのことであるが、道教委としても、二十九年度の認定に向けて積極的にかかわっていくべきと考える。この取組に対する認識と、今後の道教委の対応について所見を伺う。
松浦生涯学習推進局長 日本遺産の認定に向けた今後の対応について。北前船は、各寄港地において大きな経済効果をもたらしただけではなく、食や文化にも影響を与えるなど、歴史的に重要な役割を果たしてきており、こうした北前船にかかわる魅力ある文化財も数多く残されていると認識している。
道教委としては、函館市や松前町と日本遺産登録に向けた今後の取組などについて情報交換するとともに、観光や地域振興など関係部局で構成する「日本遺産連絡調整会議」などを通じて知事部局との連携を図りながら、積極的に支援していく考えである。
◆デジタル音声教材
中野渡委員 発達障がいのある児童生徒などの中には、文字を読むことに著しい困難のある場合があり、こうした児童生徒が教科書の内容を理解するためには、音声読み上げのコンピューター等を利用した教材が効果的であると言われている。
国における来年度予算の概算要求においても、文部科学省が、「教科書デジタルデータを活用した音声教材等の普及促進プロジェクト」として、約二億六千万円を要求していると承知している。
この音声教材の代表的なものの一つに、「マルチメディアデイジー教科書」があり、この教材に関しては、国会におけるわが党の主張を受け、これまで、普及・導入が進んできた経緯があるが、二十八年四月に、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が、また、九月には「発達障害者支援法の一部を改正する法律」が施行されたという節目の年でもあり、発達障がいのある児童生徒に対し、個々の特性に応じた適切な教材を提供するという観点から、マルチメディアデイジー教科書のさらなる普及促進・活用促進に向け、道教委としても積極的に取り組むべきと考える。
本年七月に、文部科学省が、各都道府県教委に対して、来年度の使用教科書における音声教材の需要数について、調査を行っていると承知している。
調査結果の報告は、まだこれからであると思うが、把握している直近の状況として、マルチメディアデイジー教科書がどの程度活用されているのか、全国や本道の状況を伺う。
山本特別支援教育課長 マルチメディアデイジー教科書について。この教科書は、日本障害者リハビリテーション協会が、通常の教科書を読むことが困難な児童生徒に対して、検定教科書の内容をデジタル化し、文字の拡大や音声再生、文字の読み上げ個所の強調などの機能を活用できるようにしたものである。
道教委では、国の要請に基づき、次年度の使用教科書にかかるマルチメディアデイジー教科書を含む音声教材の需要数について、現在、調査を行っているが、協会の調べによると、二十八年九月現在、全国で二千六百八十七人、本道では六十二人の児童生徒が提供を受けているとされている。
中野渡委員 本道では六十二人の児童生徒が提供を受けているとのことだが、マルチメディアデイジー教科書を活用している児童生徒には、どのような教育効果があり、また、その教育効果を道教委として、どのように評価しているのか所見を伺う。
山本特別支援教育課長 活用の効果について。二十八年一月に、日本障害者リハビリテーション協会が実施した、二十七年度にマルチメディアデイジー教科書の利用を申請した一千四百六人へのアンケートにおいて、通常の教科書では読むことが困難な児童生徒を対象に、どのような効果があったかを聞いたところ、「読むことへの抵抗感、苦手感、嫌悪感が減った」「読みがスムーズになった」「読み間違えが少なくなった」と回答した割合がそれぞれ七割を超えるなど、マルチメディアデイジー教科書の活用によって、読む力や学習意欲の高まりがみられたことが示されており、道教委としても、個々の特性に応じた教材として、その有効性が期待できるものと認識している。
中野渡委員 読む力や学習意欲の高まりがみられたとのことだが、先ほども申し上げたとおり、国では、来年度予算の概算要求で、「教科書デジタルデータを活用した音声教材等の普及促進プロジェクト」として、約二億六千万円を計上していると承知している。本道における音声教材の普及促進に当たっては、このような国の事業を積極的に活用していくことが必要であると考える。所見を伺う。
山本特別支援教育課長 国の事業の活用について。文部科学省においては、発達障がい等のある児童生徒が十分な教育を受けられる環境を整備するため、教科書デジタルデータを活用した音声教材等に関する実践的な調査研究を行っており、二十九年度においては、音声教材を一元的に管理し、学校等での活用を可能とするため、新たに「音声教材等デジタル版教科用特定図書等ポータルサイト」の運営を開始するものと承知している。
今後、道教委としては、先ほど申し上げた需要数調査の結果から、支援を必要とする児童生徒の現状等を把握するとともに、音声教材等を活用するメリットや留意点を整理し、国が運営するポータルサイトの活用方法などと合わせて道内の各学校に広く周知していく考えである。
中野渡委員 視覚障がいのある児童生徒への拡大教科書や、発達障がいのある児童生徒へのマルチメディアデイジー教科書など、個々の障がい特性に応じ、適切に教材を提供することによって、障がいのある多くの児童生徒が、学習上の困難を乗り越え、学ぶ楽しさや学ぶ喜びを実感できると考える。
このような充実した学びの環境をつくっていくことは、今般の法律で示された合理的配慮としても必要な取組であると考える。今後、音声教材などの普及に向けて、道教委として、どのように対応していく考えであるのか伺う。
磯貝学校教育局特別支援教育担当局長 音声教材等の普及に向けた取組について。通常の教科書では読むことが困難であるといった障がいを有する児童生徒において、主体的に学習に取り組む態度や基礎的・基本的な知識の定着を図るためには、その障がいの特性等に応じた音声教材やその他の支援機器の活用が有効であり、道教委では、本年度、道立特別支援教育センターの研修講座の中で、マルチメディアデイジー教科書や、様々なデジタルツールを活用した実践事例を紹介してきた。
今後は、音声教材やその他の支援機器の活用および効果について、校長会議などを通じ情報提供するとともに、現在、道教委が実施している「発達障がい支援成果普及事業」の報告書に、教科書デジタルデータを活用した実践事例を掲載するなどして、道内すべての学校に紹介し、音声教材等を必要とする児童生徒への普及が進むよう、取り組んでいく考えである。
中野渡委員 道内すべての学校に紹介し、音声教材等を必要とする児童生徒への普及が進むように取り組んでいただけるとのことだが、発達障がいのある児童生徒などが、これらの音声教材などを利用することによって、周囲から特別視されたり、からかわれたりするなどの事例もあるのではないかと思う。
発達障がい等に関する理解が進むことで、早期からの適切な教育的対応ができるようになった一方、「障がいがある」とのレッテルがはられたり、障がいを理由に学級の子どもたちから差別されたりすることもあるのではないだろうか。
障がいのある児童生徒一人ひとりの障がいの特性に応じた教材の普及啓発を進めるとともに、障がいの有無にかかわらず、児童生徒が互いの個性や多様性を認め合うことができるよう、理解啓発を図ることが重要であると考える。教育長の所見を伺う。
柴田教育長 障がいのある児童生徒への理解について。障がいのある人とない人が、互いに人格と個性を尊重し支え合い、多様性を認め合うことができるよう、学校における教育活動全体を通じて障がいへの理解を深めていくことが重要であると考えている。
このため、道教委では、二十八年十二月に開催する特別支援教育教育課程研究協議会において、より効果的な交流および共同学習の在り方について研究協議を行うほか、二十九年一月に開催する学校における障がい者スポーツを通じて相互理解を図る「心のバリアフリー推進事業」の成果発表会において、障がい者理解の推進に向けた取組の成果や課題について、情報交流などを行うこととしている。
道教委としては、今後とも、こうした取組を積極的に進めながら、一人ひとりの教育的ニーズに応じた指導や支援の充実を図るとともに、共生社会の形成に向けて、障がいのある子どもとない子どもがともに学ぶインクルーシブ教育システムの理念を踏まえた、教育環境の整備に努めていく考えである。
―要望―
中野渡委員 マルチメディアデイジー教科書の必要性を別のことに例えると眼鏡。視力の低い人は、眼鏡やコンタクトレンズという道具を使っている。眼鏡を使わずに生活をすると、よく見えず、理解や確認が不十分になり、不安になったり、自信をもった言動ができなくなったり、本当はうまくできることも、できなくてストレスを感じたりはしないだろうか。デイジー教科書を必要としている児童生徒にとって、通常の教科書を使った学習は同様に不自由な状況にあると言える。
また、発達障がいのある児童生徒などの中には、文字を書くことのみ著しい困難がある場合があり、こうした児童生徒は鉛筆で文字を書くと一文を書くだけでも大変である。ところが、パソコンやタブレットを用意すると、思いのたけをどんどん書き連ねることができる。
このようなことから、児童生徒一人ひとりに適した学習環境の整備をお願い申し上げる。
(道議会 2017-01-19付)
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