【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.3社会科・中学校編(上)北海道社会科教育連盟(新保元康委員長)「習得・活用・探究のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-05付)
解決に向けて地図帳を活用し、意欲的に追究する生徒たち
◆授業の柱をとらえ、学ぶ場面の準備を
新学習指導要領では、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの資質・能力の育成が重視されている。特に基礎的・基本的な知識及び技能については、単なる理解ではなく、生きて働く知識及び技能の習得はもとより、活用・探究の学習が求められている。全面実施に向けて、社会科の学力・授業について改めて見直さなければならないと感じている。
①授業は「なぜだろう、どうしてだろう」から
「富士山の山頂の自動販売機。一本いくらでしょう?」。「二百円」「四百円」と反応が出る中で、ジュースの値段(一本五百円)を提示する。「どうしてこんなに高いんだろう」「こんなに高くても売れるのか」など反応は様々だ。
予想とは異なる資料や、これまでの学習では解決できないような問題を提示すると、生徒の学習に対する姿勢が高まっていく。生徒の意見を拾いながら需要と供給の関係に迫っていくことができる。
「では、もっと簡単に輸送できたら価格はどうなるだろう」「他にも山小屋ができて、そのお店で安く販売し始めたらどうなるのだろう」と違う視点から発問をすることで、関心や探究心を高めながら、これまでに習得した価格と流通や競争などの関係の知識や技能を活用させる授業が展開できる。
②ノートの活用
知識及び技能を活用させるには、ノート指導も重要である。
ノートは、学習課題を最初に、最後に授業のまとめを書く形がオーソドックスだろう。学習課題とまとめは同じ色のペンで囲む、重要語句は朱書きするなど、約束事はいくつかあるが、多くの生徒は板書と連動させて上手に色分けしている。
短冊状にカットした色上質紙に授業のまとめを書かせるなどの工夫をすると、ノートにメリハリがつき点検もしやすくなる。
また、自国と他国の関係(貿易など)や産業の変化(ビフォーアフター)など、できるだけ構造化した板書を心がけると、生徒も既習事項と結びつけやすくなる。
例えば、ブラジルの工業化について考える時、中国やロシアの学習と同じような構造でまとめておくと、国土面積と豊富な鉱産資源に注目しながら答えやすくなる。このように、ノートを振り返らせ、学んだことを活用させる場面を授業の中で設定したい。
③授業で扱う語句の整理
つぎの語句は、三分野の教科書に記載されている公害に関する語句の一部をピックアアップしたものだが、これらをすべて説明していたのでは、単なる知識の羅列となり、生徒たちは「社会科はすべての語句を暗記する教科である」と誤解しかねない。
特に公民的分野では、四大公害が発生した場所よりも、経済面を重視したことで公害が拡大したこと、それが現代の社会にどのようにつながっているのか、効率と公正、環境と安全という視点で学習すべき事項を整理する必要がある。それを踏まえた上で、何を教え、何を考えさせ、資料・発問・板書など、授業の柱を見失うことなく授業を構成していくことが大切である。
④テスト問題の工夫
知識及び技能を活用させるためには、テスト問題の作成でも工夫が必要である。
例えば、熱帯雨林の写真を提示し「この地域は何気候か。そのように判断した理由は何だろう」と出題する。文字ではなく、写真から気候の特色を読み取らせることで、知識や技能を活用させる。さらに、「この地域の気温はどんな特徴だろう」「このような光景はこの地域だけのものだろうか、他の地域でも見られるものだろうか」と問うこともできるだろう。
学習した知識及び技能を活用する場面を、テストやレポートなどにも設定していくことで、基礎的・基本的な知識や技能を定着させることができる。
⑤「繰り返し」を大切に
「エジプト文明」の授業で、授業者は、カイロ近郊が乾燥帯であることを確認した上で、1900年代初めのナイル川が氾濫した写真を提示した。
「乾燥帯であるカイロ近郊で、洪水が起きているのはなぜだろう」という発問に対し、生徒たちは地図帳を活用し、ナイル川の上流(青ナイル川)の気候に注目し始めた。降水量のグラフを示しながら、ナイル川下流域で定期的に洪水が起こる理由を、地理的分野の学習と関連付けながら考察し、太陽暦や象形文字などへと展開する実践だった。後に本校でも実践したが、「なるほど、そういうことかぁ」と納得した生徒の顔がとても印象的だった。
基礎的・基本的な知識や技能の定着に欠かせないことは、やはり既習をもとに「繰り返す」ことだろう。一問一答形式で繰り返し問題を解く、白地図に都道府県を繰り返し書き込むなどは、とても大切な学習活動だ。しかし、単なる繰り返しでは、生きて働く知識や技能は身に付かない。
知識や技能を関連付け、生徒自らが学習したことを活用(繰り返す)・探究する場面を準備しておかなければならない。そのためには、教師が学習内容を整理し、各時間で習得すべき知識や技能を明確にし、他のどの単元や領域の学習と関連付け、今後どの単元や領域で関連付けられるのかを構造的にとらえることが必要だと考えている。
(北海道社会科教育連盟札幌地区 札幌市立西陵中学校 教頭 田丸明史)
※次回は「資料活用のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-05付)
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