【新春インタビュー】北教組・信岡聡委員長に聞く―抜本的な勤務・教育条件改善を 創造ある実践支え、子どもの実態に即した教育求める(関係団体 2018-01-01付)
運動の方向性などを語った
二〇一八年の幕開けを迎え、北教組の信岡聡執行委員長に新年の方向性についてインタビューした。
◆過酷な勤務 抜本的な改善を
―学校現場の超勤・多忙化の状況とその解消など教育条件・勤務条件改善に向けたとりくみについて、お聞かせください。
連合総研や文部科学省が行った勤務実態調査は「過労死ライン」とされる月八十時間を超える時間外勤務を行った教員が、医師や建設業など超勤が多い他業種の労働者と比べ際立って高い過酷な状況を明らかにしました。また、家族との団らんの時間もとれない「生活時間の貧困」も指摘されました。
こうした実態は社会的な反響を呼び、中央教育審議会で審議が開始されました。昨年十一月、道教委も一昨年十一月実施の第一期「勤務実態調査」の結果を公表しました。学校行事などが少ない時期にもかかわらず、小中で一日二時間以上、月換算で過労死認定基準の八十時間を超える超勤実態が明らかになりました。
今始まったものではなく「ゆとり教育」批判の中で、授業時数が大幅に増加したのにもかかわらず、抜本的な定数改善を行うことなく、本務外の業務や現場の実態とかい離した点数学力向上策の押し付けによって現場教職員に負担を押し付けてきたことに主な要因があります。
ことしから、改訂「学習指導要領」が先行実施されますが、すでに学校現場では先取りや押し付けなどで、「小学校英語」をはじめ持ち授業時間数が増え、一層超勤・多忙化しているとの報告がされています。
年末賃金の最終交渉において、道教委に対し実効ある改善を求めました。柴田達夫教育長からは「時間外勤務等の縮減に向けて、アクションプランや効果的な推進方策について鋭意検討を進める」との回答がありましたが、前年実施した調査結果は一期分しか公表されておらず「長期休業中の閉庁日」などの対策を一部盛り込んだものの、国追随で具体性のない内容にとどまっています。
中教審特別部会も昨年十一月に「中間まとめ素案」を出しました。しかし、改訂「学習指導要領」に対応するよう勤務条件を改善するとし、一月の残業時間を四十五時間程度に抑え、登下校や放課後の見守り活動、給食費の徴収を業務から切り離すなど小手先の負担軽減策が中心です。
中学校で膨大な時間外となっている部活動についても、学校の業務だが、必ずしも教員が担う必要がないとして「外部人材の積極的な活用」「将来の環境が整えば地域単位の取組とすることもあり得る」など、部活動が教育課程外であるとの認識自体、不明確なものとなっています。
さらに、肝心の「給特法」は「引き続き議論」にとどまっています。これらの改善策は予算の裏付けも不十分、市町村や学校現場に対策を丸投げするもので、学校現場の実態を踏まえたものではなく、現場の期待に反するものです。
道教委はまず、やむを得ず行った超勤を完全回復すること。勤務の割り振り変更などによる「超勤の実質的な回復」は一定効果を上げているものの、十分に活用されていないことが明らかとなっており、周知徹底を図るとともに、現場の意見をもとに対象業務を拡大・拡充することが必要です。
その上で、①月八時間程度の手当措置で時間外・休日手当が支給されず、働かせ放題の元凶となってきた「給特法・条例」の見直し②他府県では独自の少人数学級や定数の弾力的運用が行われている実態を踏まえ、遅れている少人数学級実現による教職員定数改善と持ち授業時間数削減③長期休業中における「学校休校日」の設定や校外研修の保障④本務外の様々な調査や依頼業務の削減⑤点数学力偏重の教育施策の押しつけや官制研修の見直し⑥部活動では当面、「一斉休止日」の完全実施とともに将来的な社会教育への移行に向け環境整備を急ぐ―など、国への要請とともに道教委としてできることを明確にし、スピード感をもって実施すべきです。
私たちは昨年、「STOP!長時間労働!!緊急シンポジウム」を開催するなど、道民の皆さんに現場実態を知ってもらうとともに、文科省や国会要請を行い早急な改善を求めてきました。
あらためて、ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」が一日の担当科目・時数、計画や準備、評価、子どもや保護者との相談を勤務時間内に行うよう考慮し、持ち時間数と定数を決定するよう求めていることなど、あるべき現場の在り方を訴え、国際的に立ち遅れ、過度に教職員に頼り切っている現場を改善し、働きやすい職場を実現していきたいと考えています。
◆教育の自由奪う学習指導要領
―改訂「学習指導要領」に関する考えと今後の対応について考えをお聞かせください。
昨年告示された改訂「学習指導要領」は、国や企業の要請にもとづく人づくり政策を忠実に実行しようとするもので、これまで以上に教育内容や方法・評価など教育課程に詳細に介入して、現場の超勤・多忙化を加速させるものとなっています。
小学校五・六年は「英語」を教科化、三・四年は「外国語活動」を前倒しし、授業時間数が年三十五時間増加しました。これによって「二十八時間が限度」とされてきた週時数が、四年生以上で「週二十九時間相当」となりました。
増加した分の時間確保は給食時間のあとや下校前の時間などの短時間学習、土曜授業の活用などが例示され、学校現場で工夫するよう丸投げされています。教育課程はこれ以上入り込む隙のないほど過密化され、ゆとりは全くなく、これでは授業準備や研修の時間はもとより、子どもに寄り添う時間も取れず、多忙化解消と逆行するものです。
「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)による授業改善や「カリキュラム・マネジメント」は、子どもの要求とかい離し、詳細に内容や方法を縛るものです。学校での教育は、目の前の子どもの実態に合わせ、教育の目標や内容・方法を現場で創り上げていくものです。しかし、各教科の内容に詳細な目標を加え「どのような資質・能力をめざすのか」を全面に打ち出し、その達成に向けて内容・方法・評価の在り方まで細かく言及することは本末転倒で、学校から裁量権や教育の自由を奪い、形式的で画一的な授業を招きかねません。
また「特別の教科 道徳」は「検定教科書」を導入し、二十二の徳目によって子どもに、国に都合のよい価値観を押し付けるもので、評価によって成長・発達の途上にある子どもたちの内心に踏み込むことが危惧されています。今回の改訂では、政府見解の押し付けや戦前の陸軍の「銃剣道」を中学校武道に追加するなど、戦前回帰の内容が顕著です。
今回の改訂は、新たな「格差」を生み出し、子どもたちを一層追い詰め、学びを空洞化させ、学びから遠ざけるものです。文科省調査において、「いじめ」や「不登校」が過去最多と報告されるなど、子どもの「苦悩」が深刻化しています。私たちは、価値観の押し付けや競争と序列化で子どもたちをバラバラにするのではなく、今を生きることが将来の生き方につながり、学ぶことと生きることのかかわりを日常のふれ合いの中で培うよう、組織的に学び、学ぶ喜びと希望を育む、科学的で系統的な創造力溢れる教育実践をすすめていくことが重要と考えています。
◆点数偏重 創造的実践を萎縮
―「全国学力・学習状況調査」「新たな高校教育に関する指針と配置計画」などの教育施策について、北教組の考えと今後の対応をお聞かせください。
道教委も文科省に追随し、全国学力・学習状況調査の平均点を上げることに奔走し、点数が高いことが教育の成果であるとして、子どもたちを差別・分断しています。
ことし、調査は開始十年となりました。道教委は「全国の平均正答率との差が小・中学校とも改善の傾向にある」として、十年間の施策の総括を行うことなく、依然として全国平均以上を指標に、平均点が全国で上位の県を参考にして、チャレンジテストや過去問、宿題や家庭学習など、断片的な知識や技能の「詰め込み」と「訓練」など点数学力向上策を現場に押し付けています。
道内の市町村やそれぞれの学校では、地域の特性や子どもたちの実態に即して、子どもたち一人ひとりの個性や意欲を大切にし「人格の完成」をめざす優れた実践が進められてきました。しかし、こうした国追随の結果公表や点数偏重の施策によって、日常の実践がテスト対策に傾斜させられ、競争的な教育が押し付けられる中で、創造的な活動や実践は委縮し、学校教育は大きく歪められてきました。競争や序列化による教育は、手っ取り早く人間を奮い立たせる力は一部にあるものの、目標を他人に置くため自分自身を見失い、本質的で継続的な学びにつながらないことはこれまでの研究で明らかです。
また、財政論にもとづく「新たな高校教育に関する指針と配置計画」は、この十年間、機械的再編・統廃合を繰り返し、道内の高校を四十校減少させ、高校のない市町村を五十に拡大させるなど、地域の疲弊と一層の「格差」を生み出しました。
十年ぶりに見直すとして公表した「これからの高校づくりに関する指針(素案)」では、これまでの「地域キャンパス」を「地域連携特例校」と改称し、再編基準について現行の入学者二十人未満から十人未満に緩和したことは、子どもや保護者・地域の願い、私たちの要求を一定程度受け止めた内容となっています。
しかし、これも「地域の取組を勘案」としており、「一学年四~八学級」を望ましい学校規模として、中卒者の減少に依拠した機械的な学科再編・統廃合を進める基本的な姿勢は変わっていません。
道教委はこの間、国に追随する教育施策ばかりを進め、依然として市町村教委をはじめ、教育関係者との意思疎通も不十分です。子どもや教職員をめぐる過酷で切実な現状について、分かっていても、改善に向けた取組を怠っていると言わざるを得ません。
北教組は引き続き、道教委に対して、子どもたちの学びを保障し、教職員の創造ある実践を支える観点で、北教組はもとより保護者や地域住民の意見を聞き、北海道の子どもの実態に即した教育を進めるよう主体的な姿勢をもつべきことを求めていきます。
◆給付型奨学金で貧困改善を
―新たな「学校職員人事評価制度」についての考え方と対応について、考えをお聞かせください。
北教組は「査定昇給等」制度が差別賃金につながりかねず、協力・協働で営まれる教育に成果主義の制度がなじまないことを指摘し反対してきました。
しかし、道教委は独自削減が長期にわたる中、若年層を中心に民間と比べ賃金が低下している現状を踏まえ、導入を図る意図を明らかにし、私たちは交渉を重ね、差別賃金とさせず、すべての教職員の賃金改善に資することを前提にとりくんできました。
新たな「学校職員人事評価制度」が導入されますが、これまでの査定昇給等制度の運用状況をみると、一部の校長などが制度を十分に理解せず、恣意的な運用を図る状況も報告されています。あらためて道教委は制度の周知徹底と十分な意思疎通を図ることが不可欠です。私たちはこの制度が生涯年収に大きな影響を及ぼしかねないことから、職場の差別・分断とさせず、公正・公平な制度とさせるようとりくんでいく決意です。
―道内の子どもたちの貧困と格差、主任手当の社会的還元事業として始められた「給付型奨学金制度」の意義、今後の取組についてお聞かせください。
昨年四月に北海道が公表した子どもの貧困に関する調査は、経済的な理由から家族が必要とする食料が買えず、子どもを病院に連れていけなかった経験がある世帯が二割に及ぶなど、困窮する家庭や進学を諦めなければならない子どもたちの実態を浮き彫りにしました。
今、自民党は「教育の無償化」を改憲の突破口としていますが、これは党利党略以外の何物でもありません。「憲法二六条二項」は「義務教育はこれを無償とする」と定めていますが、現実は授業料のみが無償で、教科書代や教材費、給食費など保護者負担は膨大です。これを無償化しないで、大学の授業料を無償化するのは憲法の規定と矛盾するものです。まずは、義務教育段階の膨大な保護者負担を無償化し、その上で大学も含めた無償化を実現すべきです。
日本の教育予算は依然としてOECD二十八ヵ国中で最低であり「格差社会」の一層の拡大・固定化は、教育の機会均等や子どもたちの権利を奪っています。
私たちは、子どもたちの貧困の改善をめざし、北海道の連合・労福運動と一体に「給付型奨学金」実現に向けて取り組んできた結果、昨年国の制度として「給付型」が創設されました。
しかし、住民税非課税世帯などのうち、一学年二万人の給付にとどまり、現在国の制度を利用している対象者が約百三十万人に及び、返済に苦しむものが多い中ではきわめて限定的なものです。
政府の教育予算は、全国学テやその準備に約六十億も費やすなど子どもを競争・序列化させ、教職員を管理する事業ばかりにお金をかけています。端緒についた「給付型奨学金」の一層の拡大とともに保護者負担の無償化を進めるべきです。
私たち北教組は、二〇一三年度から主任手当の社会的還元として「無償の奨学金支援事業」を開始しました。昨年度も中学三年生を対象に、高校への入学金など準備のための資金を援助する事業を進めてきました。希望している全道の子どもの数からいえば僅かですが、昨年度も三百一人に手渡すことができました。多くの道民のみなさんから応援や激励をいただいており、今後も市町村や教育関係者の皆さんと連携する中で、少しでも子どもたちの実態の改善に寄与できればと考え、継続します。
◆組合の存在と力、今こそ必要
―二〇一八年度に向けた北教組の方針・運動の在り方について組織強化・拡大に向けた取組も含め、考えをお聞かせください。
私たち北教組は朝鮮戦争勃発の翌年「教え子を再び戦場に送るな!」のスローガンを掲げました。現政権のもと、憲法九条をはじめ改憲の動きが日程にのぼり、戦前回帰の教育が進められる歴史的転換期に立つ中で、あらためて、このスローガンに込められた意義を再確認して、平和憲法を守り生かし、子どもたちの輝く未来を守るため、一層団結し運動を進めてまいりたいと考えています。
昨年の百二十八回定期大会で運動課題として四つの重点を訴えました。第一は、憲法を守り・生かすための道民運動を強化すること、第二は、「給特法」・定数など抜本的な勤務・教育条件改善を進めること、第三に、青年委員会の活性化など未組織者の全員加入を図ること、第四に、改訂「学習指導要領」に対峙した自主編成運動の強化です。
北教組がめざす教職員の生活と権利を守り、子どもたちの側に立つ教育を実現するため、組合の存在と力が必要であることを若い教職員の皆さんに訴え、加入を進めてまいります。組織拡大センターや青年委員会を一層活性化させ、全道臨時教職員の会のとりくみも強化し、サマースクールや教研活動、日常実践を通して早期加入につなげていく考えです。引き続き、支部・支会・分会、専門部などと連携を密にし、若い教職員の豊かな発想や協力を得て組織強化・拡大を実現してまいります。
―ありがとうございました。
(関係団体 2018-01-01付)
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