新春インタビュー―北教組・信岡聡委員長に聞く 創造力溢れる教育をすべての学校で推進 人権や民主主義根付かせる実践が不可欠
(関係団体 2019-01-01付)

日付不明写真_231年北教組信岡聡インタビュー
北教組運動の在り方などについて語った

 ―学校現場の超勤・多忙化の解消など教育条件・勤務条件改善に向けた取組について、お聞かせください。

 昨年十月に公表された政府の『過労死等防止対策白書』によると、二〇一七年度の教員一日当たりの平均勤務時間は、小・中・高すべてが十一時間を上回り、業務に関連するストレスや悩みの内容では、「長時間勤務の多さ」が四割を超え、過重勤務防止の対策として八割が「教員の増員」を望んでいることが示されました。

 しかし、こうした現場実態への詳細な分析を行うこともなく、改訂した「学習指導要領」に基づき、昨年四月から移行措置が実施されています。すでに、小学校では「外国語科・外国語活動」などで、年間授業時間数が三十五時間上積みされ、小学校高学年では上限の週二十九時間授業となった学校や午前中に五時間の授業を行う学校も現れるなど、教育課程が一層過密化し、教職員の負担に拍車をかけています。

 学校現場の超勤・多忙化状況は、「学習指導要領」の改訂のたびに、年間総授業時数を大幅に増やし、一人の教員の持ち授業時間数を増加させてきたにもかかわらず、抜本的な定数改善を行わず、本務外の業務や現場の実態とかい離した点数学力向上策、研修事業など、つぎつぎと教職員に負担を押し付けてきたことに主な要因があります。

 十二月に、学校現場の長時間労働是正を議論してきた中央教育審議会が「答申素案」等をまとめました。その内容は、単なる業務の効率化や組織機構整備が中心で、教職員の職務と勤務対応の特殊性を口実に、労働基準法三六条・三七条を適用除外しタダ働きを認めてきた「給特法」を抜本的に見直すことなく、罰則規定のない「勤務時間の上限規制のガイドライン」の策定と「一年単位の変形労働時間制」導入にとどまりました。これでは、教員の膨大な長時間労働を是正するどころか、上限まで時間外労働を黙認して、多忙化を助長させかねないものです。

 また、「働き方改革」に関連する予算要求として文部科学省は、教職員定数改善二千六百十五人増の要求を行いましたが、基礎定数化に伴う定数増二百四十六人と合わせても、自然減二千八百七十二人にも届いておらず、極めて不十分なものです。「スクールサポートスタッフ」や「部活動指導員」の増員要求も、全国すべての公立小中に配置するものとなっておらず、抜本的定数改善にはほど遠く、賃金や待遇の不十分さから人員確保も懸念される一方、予算もかけず、安上がりの教育を進めるもので、むしろ学校の在り方を大きく変質させかねないものです。

 文科省・中教審の「働き方改革」は、多忙化解消とは名ばかりで、抜本的な改革から社会の注目をそらし、改訂「学習指導要領」定着を目指すための対症療法的で場当たり的な対策となっており、子どもや教職員の負担をますます増加させ、子どもと教職員を追い込むものです。

 道教委の「アクション・プラン」は、「部活動休養日を原則週二日」とすることや「勤務の割り振り変更」の対象業務拡大など、実質的な超勤解消・回復に向け評価できる内容もあるものの、多くが具体性や実効性に欠け、国追随の小手先の業務削減にとどまっています。

 昨年の年末賃金交渉では、教育長自ら聞き取りを行って、「業務の削減の検討」をはじめ「プラン」の見直しを進めるとの主体的な回答がありました。

 ブラックな職場との認識が定着し、教職員の希望者が激減、代替など教職員不足が深刻化する非常事態を回避するためにも、本来、正規の勤務時間内に業務を終えることが可能な「定数増」と「持ち授業時間数減」が不可欠です。併せて、超過勤務を助長させてきた「給特法」の見直し、少なくともやむを得ず行った超勤に対し、「時間単位の回復措置」と、欧米などで行われている「休暇制度(調整休暇)」などの法的な整備などが必要です。

 国に対し抜本的な勤務・教育条件改善を求めるとともに、道教委に対し主体性をもって、現場実態に即した業務削減をはじめ実効ある対策を早急に進めるよう引き続き要求していきます。

 ―新学習指導要領に関する北教組の考えと今後の対応について、お聞かせください。

 「学習指導要領」は、およそ十年に一回改訂され、法的拘束力を強め実施されてきましたが、今次改訂はこれまで以上に、国の大綱的基準としての性格を大きく逸脱し、政財界が求める「資質・能力」の育成を通して、国際競争に打ち勝つ人材づくりを目指すものです。

 学校での教育は、目の前の子どもの実態に合わせ、何が必要なのか、どういう方法がよいかを考え、現場で教育課程をつくり上げていくものです。しかし、これは「何ができるようになるか」を教育の目標に定めた「資質・能力」の養成を全面に打ち出し、その達成に向け、「主体的で深い学び」による授業改善や「カリキュラム・マネジメント」「プログラミング教育」などをつぎつぎと押し付け、内容・方法・評価まで細かく縛るものです。

 小学校「外国語科」新設や「外国語活動」の早期化・高度化は、過密な時間割に、さらに授業時数を増やし、子どもたちからゆとりを奪い、学びから遠ざけるものとなっています。特に「特別の教科 道徳」は、成長・発達の途上にある子どもの内面を評価し、規範意識や愛国心など特定の価値観を画一化して押し付けるものです。生活の中で培われる道徳教育とは大きく異なり、多様な考えや生き方の排除につながることが危惧されます。

 私たちは、学校改革・教育課程自主編成推進委員会を設置し、職場討議資料や報告書の作成を通して、改訂「学習指導要領」の問題を分析し、組織的に学習を深めてきました。

 今回の改訂は、豊かな学びを子どもたちに保障するものではなく、特定の価値観の押し付けや競争と序列化で子どもたちをバラバラにし、一層追い詰め、学びを空洞化させ、学びから遠ざけかねないものです。

 私たちは、政府主導の政策のねらいを明らかにして、一人ひとりの子どもたちが、今を生きることが将来の生き方につながり、学ぶことと生きることのかかわりを日常のふれ合いの中で培い、学ぶ喜びと希望を育むことができるよう、科学的で系統的な創造力溢れる教育実践を、全道すべての学校で進めてまいります。

 ―全国学力・学習状況調査などの教育施策について、北教組の考えと今後の対応について、お聞かせください。

 「学習指導要領」の定着を目的とする「全国学力調査」は、四十五億円もの膨大な予算をかけて、全国平均が縮小していることを明らかにするだけのもので、多くの弊害を生じさせています。大阪市が打ち出した、調査結果を人事評価や一時金、学校予算配分にまで反映させるとの方針は、学校・教職員を一層縛り、点数だけで表せない学力や様々な課題に直面し解決に努力している学校現場を蔑ろにし、教育の根本を大きく歪めるものです。

 一方、道教委も依然として、「点数学力」を上げるための事前対策を押し付けています。昨年実施の「学テの分析」が公表されましたが、「全国平均以上」を指標に、他県や全道の地域の比較に終始し、学力の一面にしか過ぎない「学テの点数」をどうやって上げるか、微に入り細に入り教育内容・方法に介入し、家庭生活まで立ち入って指導するものとなっています。道内の市町村やそれぞれの学校では、地域の特性や一人ひとりの子どもの個性や意欲を大切にした優れた実践が進められてきました。しかし、こうした施策は、日常実践をテスト対策に傾斜させ、多様な学びを萎縮させています。

 改訂「学習指導要領」や「全国学テ」に象徴されるように、テストの点数を学力として、学習内容や授業時間を増やして受験競争や競争社会に勝ち抜く子どもを早期に選び出す政府主導の政策は、子どもたちを孤立・分断化し、いじめ・不登校・引きこもり・暴力行為・自殺など、苦悩を深刻化させるものとなっています。

 昨年十月に公表された文科省「問題行動・不登校調査」(二〇一七年調査)において、全国の小中高校のいじめが四十一万件以上把握され前年度比で九万件増加し、「不登校」(年間三十日以上欠席)も十四万件以上となり前年比で約一万件増加するなど、ともに過去最多となりました。道内の子どものいじめや不登校の把握件数も過去最多となっています。

 文科省は「積極的な認知が進み、早期の対応につながっている」としていますが、自殺を含む重大事案が増加するなど、一層子どもたちの苦悩が深刻化しているとみるべきです。

 子どもたちは今、「格差」が拡大・固定化する社会の中で、努力しても報われない不安感をもちながら学校生活を過ごしています。子どもたちは家庭等環境に違いがあり、そのことが育ちや考え方、感性に違いを生じさせています。この違いを大切にして、学校はすべての子どもが対等・平等に人間として尊重され、安心して生活し学ぶ場としなければなりません。

 私たちは、憲法や「子どもの権利条約」の理念に基づく人権教育を強化し、子ども参画など自治の力を育み、人権や民主主義を根づかせる実践を、引き続き学び合う中で進めていきたいと考えています。

 ―道内の子どもたちの「貧困と格差」の現状と、北教組が主任手当の社会的還元事業として始めた「給付型奨学金制度」の意義、今後の取組などについて、お聞かせください。

 道と札幌市が実施した「子どもの生活実態調査」(二〇一六年・一部二〇一七年度実施)によると、年収百万円以上二百万円未満の世帯(「貧困世帯」)では、約四割の子どもが「学校の授業について分からない」と答え、約三割が進学について「高校まで」と回答しています。

 いずれも全世帯の平均を上回っており、親の経済状況が子どもの学習の習熟度や進学に大きく影響を与えている傾向が明らかとなりました。学年が上がるほど学費など子育てにかけられる資金に世帯間で「格差」が拡大しており、家計で賄えず、借金をしたり、貯金を切り崩しながら子育てをする道内の「貧困世帯」の深刻な現状が浮き彫りになりました。

 道は「子ども食堂」のモデル事業の実施や低所得世帯の保護者への就労支援など、子どもの貧困対策に取り組む考えを示しましたが、不十分なもので早急な対策が必要です。

 「憲法二六条二項」は「義務教育はこれを無償とする」と定めていますが、現実は授業料のみが無償で、教科書代や教材費、給食費など保護者負担は膨大で、「貧困世帯」の子どもたちの進学や将来の生活に大きな影響を与えています。安倍政権は、大学の授業料を無償化することを憲法「改正」の口実として掲げていますが、これは憲法の規定とそもそも矛盾するものです。まずは、義務教育段階の膨大な保護者負担を無償化し、その上で大学も含めた無償化を実現すべきです。

 二〇一九年度の予算要求で文科省は、「給付型奨学金」について新規に二万人追加し給付人員は四万一千四百人となり、五十七万八千人への無利子奨学金(希望者全員)の貸与なども予算要求されていることは一定前進と言えます。しかし、国の奨学金制度を利用している対象者が約百三十一万人に及び、大学・短大生の二・六人に一人、「奨学金破産」が過去五年間で一万五千人にものぼるなど返済に苦しむ人が多い中で、住民税非課税世帯などのうち、一学年二万人の「給付」は極めて限定的なもので、人数も支給額も不十分です。一方で、現在政府の教育予算は、子どもを競争・序列化させ、教職員を管理する事業ばかりにお金をかけています。端緒についた「給付型奨学金」を必要とするすべての高校生に給付されるよう一層の拡充を求めるとともに、保護者負担の無償化を求めて運動を強化していかなければなりません。

 私たち北教組は、二〇一三年度から主任手当の社会的還元として「無償の奨学金支援事業」を開始し六年目となりました。昨年度も中学三年生を対象に、高校への入学金など準備のための資金を援助する事業を進めてきました。希望している全道の子どもの数からいえば僅かですが、昨年度も二百九十二人に手渡すことができました。多くの道民の皆さんから応援や激励をいただいており、今後も市町村や教育関係者の皆さんと連携する中で、少しでも子どもたちの実態の改善に寄与できればと考え、継続してまいります。その他、社会還元事業として進めてきた「NPO団体への支援」や「子どもと保護者のための電話相談室」などについても、引き続きその意義を踏まえて取組を進めてまいります。

 また、昨年九月、北海道胆振東部地震が発生し、胆振や日高、札幌市の学校や組合員の家屋などに甚大な被害がありました。日教組をはじめ全国の教職員組合や学校生活協同組合等からの災害見舞金を活用し、被災した市町村や教育委員会・関係団体、組合員へ支援を行いました。北教組は、子どもたちと地域の教育を守るため、引き続き運動を進めてまいります。

 ―二〇一九年度に向けた北教組の方針・運動の在り方について、組織強化・拡大に向けての取組も含め、考えをお聞かせください。

 今、憲法「改正」の動きとともに戦前回帰の教育が進められようとしています。私たちは、こうした状況に対し、平和と民主主義の理念が息づく社会をつくるため、子どもたちと学び合い、職場の仲間や保護者・住民など身近な人々と語り、連帯して運動を進めていきたいと考えています。

 昨年の中央委員会で運動課題の重点として四つの課題を訴えました。

 第一に、改憲発議を断じて許さず、憲法を守り、民主主義を取り戻す道民運動を強化すること、第二に、「給特法」改廃・定数改善など抜本的な勤務・教育条件改善を進めること、第三に、改訂「学習指導要領」に対峙し人権や民主主義を根づかせる実践を強化すること、第四に、こうしたすべての取組を若い教職員の加入拡大につなげることです。

 私たち北教組が目指す、教職員の生活と権利を守り、子どもの側に立つ民主的な教育を実現するためには、組合の存在と力が必要です。そのことを若い教職員の皆さんに訴え、加入拡大を進めていくことが喫緊の課題です。

 昨年、青年委員会、新たに設置した「全道臨時教職員の会」や青年委員会、全道各地で開催したサマースクールや教研集会などの取組を通じて、加入に向けた成果が徐々に表れ、前年度を超える若年層の加入を実現しました。引き続き、支部・支会・分会、各専門部と連携を密にし、日常実践を通して、若い教職員に自主編成をはじめとした北教組の運動と組合参加の意義を訴え、連帯する取組の中で組織の力量を高め、組織強化・拡大を実現してまいります。

 ―ありがとうございました。

(関係団体 2019-01-01付)

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