道小 第63回北見大会 誌上交流②(関係団体 2021-01-21付)
◆第3分科会 評価・改善
【研究課題】
学校教育の充実を図るための評価・改善と校長の在り方
【研究発表】
「“学校経営ビジョン”の実現に向けた経営方針の共有化・具現化」のための学校評価・人事評価の在り方
発表者=様似町立様似小学校・松田陽一校長
本研究は、日高地区校長会が校長の指導性の発揮について学校評価と人事評価を検証ツールとして活用し、研究課題の究明に向けて共同研究を進めてきたものである。
▼研究内容
学校経営ビジョンの実現に向けた校内組織の活性化と教職員の資質向上を具体化するためには、マネジメントの視点を明確にした校長の的確な組織マネジメントが必要である。
そこで、研究内容については、これからの時代に必要な資質・能力の育成に向けた主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善およびカリキュラム・マネジメントに一層焦点化することとし、研究の実践過程を、PDCAのマネジメントサイクルに基づいて位置付け、実践・検証することとした。
特に、C(評価)とA(改善)にかかる大きなツールが学校評価と人事評価になることから、評価項目やアンケートの工夫改善、学校評価の複数回実施、小まめな職員面談の実施に取り組む学校も多くなっている。
▼実践例
▽小中一貫教育校での取組例
小中一貫校では、学校評価項目の改善点としてグランドデザインの重点とリンクさせるようにした。また、評価項目を保護者、児童生徒、教職員および学校関係者のすべてのアンケートをそろえることによって、小・中学校で成果と課題の共有化を図り、改善に向けての視点を一緒にする取組に着手した。9年間を通した子どもの育ちを支えるため、経営方針の一体化と組織改革を進めている。
人事評価については、学校設定項目を「小中一貫教育にかかる自己のかかわり」と設定し、それを観点に各教員に目標や方策を立てさせ、両校長が互いの教員の状況や実態を考慮し学校経営に生かしている。
経営方針・組織体制の統一については、校長間で協議して小・中学校のグランドデザインの統一や経営方針の検討、分掌組織の再編に着手し、学校評価の改善や人事評価結果の内容整理によって経営方針を統一させた。さらに、小・中学校の協働性を加速させるために、組織再編、推進計画の変更について両校教員間で熟議し、一貫教育のさらなる充実を図ることができた。
▽中学校区連携型CS校での取組例
日高管内は中学校区で学校運営協議会を行っているところが多い。そこで、地域ぐるみで子どもを育てるための取組として、「学校経営」「学習指導」「生徒指導」「家庭・地域連携」を共通視点として、学校アンケートを行い、次年度の経営方針やコミュニティ・スクールの活動計画に反映している。地域ぐるみで子どもを育てる仕組みづくりを学校評価の機能を活用し実践している。
▽働き方改革の推進に評価を活用している例
管内の多くの学校では、学校評価において、「やりがい・働きがい」「自己の時間管理」「業務の平準化」の項目や「働き方改革についての意見欄」を設けることで、教員の実態を知り、具体策を立てている。
また、人事評価においても学校設定項目において、自らの働き方について目標と取組を設定することによって行動変容を期待し、働き方を改善するツールとして活用している学校もある。
▽継続した地区の取組から本年度成果を上げた例
①校長によるリーダー会議の設定
校長、教頭、主幹教諭、教務主任によって学校評価結果を検証することで、協働体制の構築や若手・中堅層職員の経営参画意識の向上、職員への経営重点の浸透が図られ、学校改革につながり、管理職後継者の育成を図ることができた。
②個人シートの活用と面談の工夫
若年層教員の面談において、シートの具体的事項の聞き取りや日常的な面談によって指導の成果が表れた。コンプライアンス順守や教育公務員としての使命の自覚が芽生え、職員の資質・能力、実践的指導力が向上し、保護者からの信頼も厚くなった。
【感想や意見】
▼学校評価や人事評価の活用に当たって
▽マネジメントサイクルが強調されている昨今、学校評価と人事評価は校長にとって重要なツールである
▽評価を効果的に活用することに難しさを感じている。今回の提言での具体的な取組は大変参考になった
▼人材育成のツールとしての活用例について
▽教頭やミドルリーダー等の育成と組織の活性化は学校が抱える共通の課題であり、学校評価・人事評価を解決のツールとして積極的に活用する考え方に共感した
▽教頭やミドルクラスの教員が、つぎに生かすために何をチェックするかという視点で学校評価の項目を検討したり、組織に対しどのような貢献をすべきかを考えながら自己目標を設定し自己評価したりすることが機能し始めると、学校改善につながっていくと感じた
▽意図的にミドルリーダーに学校評価項目や分析・考察・改善案を作成させている取組が、ミドルリーダーや組織全体の経営参画意識の高まりにつながっている
▽児童生徒の評価、地域の評価が担任の意識改革に大きくつながっており、資質・能力の向上が期待できる
▽人事評価は、教師一人ひとりの資質・能力の向上と学校の組織の活性化に資するものでなくてはならない。その成果が児童に還元されなければならない
▽学校評価や人事評価を効果的に活用することで、先輩教員が後輩教員にアドバイスをするというメンター制のメリットをより生かせると感じさせられた
▼小中一貫、CSの推進ツールとしての活用例について
▽小中一貫校で学校評価項目をグランドデザインの重点とリンクさせ、教職員、保護者、児童生徒、学校関係者アンケートの項目もそろえるという取組に感銘を受けた。目指すところを共有し、その観点で評価することで改善のポイントが明確となる取組であると感じた
▽学校アンケートを活用した取組や小・中学校が連携した人事評価の取組例は、自校でのCSの実施に向けた方向性を示していただいた
▽小中連携校で学校評価の保護者アンケートに同じ設問を設けることで、小・中学校それぞれの取組が保護者からどう見えているのかを知る手がかりとなり得る
▽CSの取組を進めるために共通視点を定めた地域住民による学校評価の実施は、全体での成果や課題を明確にするのに効果的な取組だと感じた
▼働き方改革の推進ツールとしての活用例について
▽働き方改革に関する項目を学校評価や人事評価に意図的に設定することで、教職員一人ひとりに主体的な意識をもたせることができると考える
▼評価・改善を推し進める校長の指導性について
▽小・中学校でグランドデザインを統一し、分掌体制と業務内容をそろえたことに、強いリーダーシップを感じ、校長の本気度が問われていると気付かされた
▽地区の各校長がリーダーシップを発揮し学校改善を進める中で上げた成果は素晴らしく、課題としてミドルリーダーの育成が急務という着眼も同様に感じた
▽校長会が一枚岩となり、目に見える成果を上げていることが大変素晴らしく、力強さを感じた
―以上の感想や意見から、日高地区校長会の取組は、多くの校長の共感を得るとともに、今後の学校経営の一助となる研究成果であることが確認できた。
【質問(Q)・回答(A)】
Q 学校評価項目をグランドデザインの重点とリンクさせた学校アンケートの取組について、具体的な成果や課題があれば教えていただきたい。
A すべてがリンクしているので、学校としての9年間の成果と課題や経年変化が読み取りやすく、課題に対してすぐに対応できる。また、落ち込みを方針として示せるので、前年踏襲とはならない。課題は、職員の経営参画意識に差がみられること(いかにしてすべてを巻き込むか)。
Q 教職員の改善意識を高め学校評価をマンネリ化させないことが重要だと感じるが、よい方策があれば教えていただきたい。
A 成果があるものをいつまでも評価していても仕方ないので、毎年見直しをすることが肝要と考える。課題は即次年度の重点にするなど、何をしなければいけないのかを職員に明示している。
Q 学校評価や人事評価にかかる会議や面談等の時間を生み出すための工夫を知りたい。
A 長期休業中の活用、校長の指示による協議内容の明確化(会議時間の短縮化)、職員会議の後段に分掌会議を設定(会議の効率化)、会議時間のリミットセッティングなど。
【まとめ】
▼研究発表
日高地区校長会では、管内の課題を踏まえた上で、管内すべての小・中学校長が共通の研究課題の究明に向けて共同研究を推進しており、学校経営ビジョンの実現に向けた校内組織の活性化と教職員の資質向上を図るため、校内組織の活性化と教職員の資質向上を切り口に、各学校において学校評価や人事評価をツールとして活用した取組が行われている。
具体的には、小中一貫教育での取組例(教育推進のための学校評価と人事評価の活用、経営方針・組織体制の統一)、中学校区連携型CS校での取組例、働き方改革の推進に評価を活用している例、継続した地区の取組から本年度成果を上げた例(校長によるリーダー会議の設定、個人シートの活用と工夫による校長面談、研究会評価のアンケート結果から)などについての紹介を通して
▽持続可能な学校づくりのためには、学校評価の客観的な数字や事実をもとにして、校長の経営ビジョンのもと、学校全体で改善の方策を立てていくことが今後求められる
▽人事評価の活用によって、校長のリーダーシップのもと、教頭を中心に主幹・主任・ミドルクラスが機能的かつ効率的に関与する組織づくりを構築していくことが管内的には急務であるとまとめられていた
▼誌上交流
誌上交流として寄せられた感想、意見、質問等から、
▽ミドルクラスや組織全体の経営参画意識の向上に向けて、意図的にミドルクラスに学校評価項目や分析・考察・改善案を作成させるなど、学校評価・人事評価を解決のツールとして積極的に活用すること
▽学校評価項目をグランドデザインの重点とリンクさせ、教職員、保護者、児童生徒、学校関係者のすべてのアンケートにおいて評価項目をそろえることによって、目指すところを共有し、改善のポイントを明確にすること
―の重要性などについて確認することができた。
【成果と課題】
学校評価と人事評価をツールとした組織マネジメントの改善等について、研究発表および誌上交流から、つぎのとおり成果と課題をまとめる。
▼成果
▽学校評価と人事評価を効果的に活用するために、学校経営ビジョンの明確化と保護者・地域との共有化の重要性があらためて共有された
▽学校評価の実効性が確保できる推進組織を中核とした評価システムの構築・機能化および評価内容・評価方法の工夫改善が重要であることがあらためて共有された
③学校評価や人事評価において、評価項目を意図的に設定し、経営ビジョンの具現化を通して、教職員の指導性と学校経営の参画意識の高揚を図る重要性が共有された
▼課題
▽教職員個々の資質・能カ・意欲の向上に向けての組織マネジメントの視点を生かした評価を工夫していく必要がある
▽ミドルクラスが機能的かつ効率的に関与する組織づくりに向けての評価の工夫が必要である
◆第4分科会 知性・創造性
【研究課題】
知性・創造性を育むカリキュラム・マネジメントと校長の在り方
【研究発表】
「学ぶ力」を育む校長のかかわり~先生も子どもも楽しく問題解決的な学習を目指して
発表者=札幌市立平岸西小学校・山本秀夫校長、札幌市立八軒西小学校・白崎正校長、札幌市立北陽小学校・松田諭知校長、札幌市立発寒南小学校・田中義直校長
▼研究の概要
テーマの背景には、「教師に問題解決的な学習への取組や授業の質を高める楽しさを伝えたい」という私たち校長の願いがある。もし、教師が実感と納得を伴いながら、「楽しく問題解決的な学習」への取組に対する価値を感じることができれば、授業力向上へ向けた教師の主体的な動きが始まる。
校長は、長期的な展望を描きつつ、今どんなかかわりが必要なのかを考えながら、取り組むことが大切である。そうすることで、始めは校長が中心となって動いていた取組が、少しずつ教師の手に委ねられていく。
▼実践内容
▽意識改革を促し、目指す授業イメージを共有化する校長のかかわり
校長が自校の実態をとらえ、切り込み口を探る。その切り込み口をもとに目指す授業のイメージと具現化の手立てを明確にし、全教職員と共有する。教職員のもてる力を最大限発揮させることで、学校の授業力が向上すると考える。
子どもを見取る観点「夢中」を設定することで、授業の目標設定、指導の具体、評価に一貫性をもたせる実践
・「子どもは夢中になっているか」と、見取る観点を示すことで、より意欲を基軸とした見取りへと変化する
・日常の学校生活・研究全体会・職員集会など、様々な場で「夢中」という観点を子どもの姿で具体化し、教師に伝える
・研究部や教務部と連携することで、組織的な動きをつくり、見通しのある授業力向上への動きをつくることにつながる
・子どもを見取る観点を示すことで、目標設定・指導の具体と授業評価の一貫性を生むことができた
▽わくわくする教育課程の編成に向けた校長のかかわり
子どもの学ぶ力の育成や教師の授業力向上に結び付く教育課程の編成を目指している。そのためには、子どもも教師もわくわくする問題解決的な学習の構築と教育課程への位置付けが大切である。
併せて、意図的に体験的な活動を取り入れるようにする。自然体験や社会体験が不足している子どもたちだからこそ、自然や人と直接かかわることが、実感的なわくわくする授業や教育課程の編成に結び付くと考えるからである。
前年度踏襲にこだわることなく、ねらいを明確にした体験的な活動を子どもの学びにつなげる総合的な学習の時間を、教師とともにつくる実践
・校長、教頭、教務主任、担任外、担任をメンバーに、授業構想チームを立ち上げた。授業の構想を伝え共有化を図り、それぞれの立場で、ねらい達成のために何ができるかを考え、チーム一人ひとりに役割意識をもたせるようにした
・子どもの変容が、教師の動きをつくるきっかけとなり、総合的な学習の時間を見直す動きにつながっていった
▽授業改善に向け活力を生む経営組織に関する校長のかかわり
授業改善に向けた活力ある動きをつくるためには、目指す子どもの姿を明確にする必要がある。併せて、授業を中核にPDCAに取り組む組織づくりを通してさらなる授業の充実を図ることが教師の授業力向上へ向けた取組の継続発展につながると考える。
子どもの姿を多面的に見取る仕組み(check)をつくることで、授業力向上に向けた動きを組織的につくる実践
・子どものよさと課題をとらえるための指標を提示し、教師が子どもを見取る観点の共有化を図る
・指標を通して、教師の指標目標と子どもの頑張る目標と教師の指導の自己評価と子どもの学びの自己評価を分かち難いものとし、教育活動の充実に向けて教師の課題意識を高めることにつながった
▼成果
▽校長は、長期的な展望を描きつつ、「今、何が必要か」を考え、つぎのかかわりを工夫することが重要であることが明らかになった
・「夢中」など、子どもや授業を見取る観点を示し、学校全体で共有する校長のかかわり
・校長の意志の有効性を、子どもの変容という結果に結び付けることで、実感と納得を生む校長のかかわり
・子どもを多面的に見取る指標を示し、子どもの目標と教師の指導目標をつなげる校長のかかわり
・校内の組織を見取り、日常的に授業を見合う場の設定など、学び合う仕組みをつくる校長のかかわり
▽校長が繰り返しかかわることで、目指す授業イメージそのものが質的に高まるとともに、チーム力も高まった
▽小さな実感と納得を積み重ねていくことで、校長の意志がチームの意志となり、学校を動かす原動力になった
▼課題
▽やる気、年齢、経験、こだわりなど、教師一人ひとりの様々な違いを、学校経営に生かすことが難しい
▽授業力の向上に向けた目的意識の共有と、学び合うシステムと人間関係の構築が必要である
【感想や意見】
▼授業力の向上について
▽「子どもは夢中になっているか」という子どもを見取る観点を示し、その姿を具体的にイメージすることは、授業像や評価を職員で共有できる大変素晴らしい方法である
▽問題解決的な学習を目指す校長のかかわりについて、非常に示唆に富んだ内容だった。子どもを見取る観点や指標づくり、授業構想チームづくり等の具体が大変参考になった
▽子どもの個性を生かした授業づくりは、子どもの所属感と意欲の向上につながる。子どもの学ぶ力を引き出すために、教師の学ぶ力に火をつける校長のかかわりを意識しなければと思う
▽子どもを育て導く主体である教職員自身、その問題解決にかかわる授業力を伸ばす手立てについて考えさせられた
▽GIGAスクール構想が推進される中で、デジタル教科書などのICT機器を活用した学習指導が浸透していくように働きかけ、知性と創造性を育成していくことが校長の使命ではないか。デジタル化を意識していくことが必要であり、働き方改革につながるものと信じている
▽小中9年間で目指す子どもの姿を共有し、計画的・継続的な指導を行うために、小中一貫した授業改善の取組にも目を向ける必要があるのではないか
▼教育課程の編成・実施・評価・改善について
▽学ぶ力の育成を目指すために、組織やカリキュラムをマネジメントする創意ある取組に共感を覚えた。子どもの知的好奇心や挑戦意欲を刺激し、子どもを見取る観点「夢中」の設定、わくわくする教育課程の編成など、実に興味深い取組である
▽コロナ禍のため教育課程を更新せざるを得ない中で、イメージの共有化は必要不可欠であり、それは、新人からベテランまで全教職員がイメージしやすいものがよい。イメージしやすいことで、具体的な方向性も示しやすくなる
▽「人は命令では動かない。状況の理解と納得で動く」という言葉のように、子どもを見取る観点の分かりやすい提示や、「わくわくする教育課程の編成」という文言に共感した。職員のボトムアップを図るためのよい方法である
▽校長が進めるカリキュラム・マネジメントにかかわり、「夢中」「授業構想チーム」「多面的に見取る」「子どもを見つめるフレーム」「相互不干渉の打破」など、まさに創造性に富むキーワードに刺激を受けることができた
▽教師に明確な道筋を示して、成果と課題の積み重ねによって確かな実感にする校長の関与について、自校でも生かしたい
▽校長主導の実施・評価・改善から一歩引いて、学校運営推進を担う教頭、教務などが中心となり、コアチームを立ち上げるなどして、教職員自らの力でカリキュラム・マネジメントがなされていくことを望みたい。校長は、歩みが遅くても少し我慢して、教職員を見取っていくスタンスにシフトチェンジしていくことも必要ではないか。もちろん、肝心なところで校長が適切にかかわるための見極める力が大切である
以上の感想・意見に加えて、前回大会で明らかになった「校長の意志をどのように伝え、教職員が自ら動き出すシステムをどのように構築していくか」という課題が、多くの校長の提言によって、より具体化されたという意見もいただいた。
また、提言を自校の学校経営に生かしたい、具体的な実践について直接話を聞きたかったという感想も多くあり、学ぶ力の育成に向けた札幌市小学校長会の研究実践が前年度からさらに積み上げられた成果であることが確かめられた。
【質問(Q)・回答(A)】
Q 単元のデザイン力、9年間を見通した見取りのフレームづくり、より具体的な経営戦略やイニシアチブの在り方などについて教えていただきたい。
A 札幌市では、市小中一貫した教育基本方針に基づき、令和4年度から全面実施となる予定である。本年度から、パートナー校(一つの中学校とそこに進学する小学校からなる集まり)において、課題探究的な学習や子ども理解を中心とした、9年間の系統性・連続性のある取組を進めている。
【まとめ】
本研究発表は、札幌地区の18人の校長の提言をもとに進めてきた研究の中から、3本の具体的な実践を中心にして、教師の授業力を高めるための校長のかかわりの具体について提言されたものである。これらの提言に寄せられた感想や意見を踏まえ、成果と課題をつぎのとおりまとめる。
【成果】
▽子どもを見取る観点を設定し、目指す授業イメージの共有と具体化の手立てを明確にすることで、目標設定、具体的な指導、評価に一貫性を生み、問題解決的な授業力の向上につながることが確認された
▽学習のねらいを明確にし、問題意識をもたせた体験的な授業をつくり、子どもの変容を教師が実感することで実効性のある教育課程の見直しに向かう動きにつながることが確認された
【課題】
▽教職員が課題意識をもち、自ら動き出すために、校長は常に自校の状況を見極め、何のために、どのようにかかわるかを決定、実行し、カリキュラム・マネジメントを進めていく必要がある
▽社会に開かれた教育課程の編成に向けて家庭や地域との連携を進めるためには、問題解決的な学習を中心とした9年間の系統性・連続性のある小中一貫した教育を推進していくことも大切である
【今後に向けて】
これからの社会で求められる子どもたちの資質・能力の育成を目指し、問題解決的な学習をベースとした教師の授業力を向上させるには、校長のリーダーシップが不可欠である。
留意すべきは、「目指す授業イメージの共有化」の言葉のとおり、どの教師が授業をしても、各教科・領域の特性を十分に考慮した上で、学校全体が一体感をもって日常の授業実践や種々の活動を展開していくことである。
さらに、教育課程については、積み重ねた実践を通して、PDCAサイクル、場合によっては想定外の事態に対する即断即行のためのOODAループも駆使しながら、内容・時数等の見直しや具体的な改善を迅速に行い、カリキュラム・マネジメントを実行していく必要がある。
私たち校長は、自校の状況を見極め、課題からビジョンを明確にして学校経営を展開している。今後も、組織的・協働的に実践を進め、成果と課題から改善を積み重ねることで、教師一人ひとりの意識とチーム力を高め、カリキュラム・マネジメントを進めていくことが重要である。
◆第5分科会 豊かな人間性
【研究課題】
豊かな人間性を育むカリキュラム・マネジメントと校長の在り方
【研究発表】
マネジメントサイクルにおける校長の役割
発表者=羅臼町立春松小学校・植島博幸校長
【根室管内の研究の方向性】
根室の風士を生かし、心豊かにたくましく生きる力を育む社会に開かれた教育課程の創造
▼年次計画
全職員が人権教育というフィルターを通して自校の教育課程を見つめ直すことができるように、校長として働きかけることが大切であるため、重点的に研究を推進するとともに、つぎのとおり研究推進年次計画を策定し、組織的に課題解明に取り組むこととした。
▽1・2年次(令和2~3年度)=児童の人権感覚を養うための教科等横断的な指導と校長のかかわりについて
▽3年次(4年度)=道徳教育の充実を図る校長のかかわりについて
▽4年次(5年度)=成果の浸透・発展と研究のまとめ
▼豊かな人間性を育むための視点
一人ひとりに豊かな心を養うことを目指し、人権教育と道徳教育の関連性を図りながら、意図的・計画的に教育課程を編成・実施・評価・改善することで課題を解明していく。
▽人権教育の視点
児童が自分の大切さとともに、ほかの人の大切さを認めることができる。
▽道徳教育の視点
人としての生き方や社会の在り方について、よりよい方向を目指す資質・能力を養う。
【本研究を通して得られた豊かな人間性を育むためのマネジメントサイクルにおける校長の役割】
▼これからの社会に必要な資質・能力を踏まえ、自校のカリキュラムの課題を見抜く校長の役割
▽具体的な方策
・幼児期と小学校の生活を安心して移行できるだけでなく、児童の人権感覚を養う幼小中一貫した教育を充実させていく
・人権教育の目標を、性教育でのねらいである自己受容、他者受容と関連付けながら、誕生学として指導を進める
・環境保全や生命愛護の心情を養うために、道徳教育と関連付けながら、海洋学として編成していく
・徳育の側面を課題として人権教育と道徳教育の関連を踏まえ、中期的目標と次年度の重点を設定できるようなグランドデザインを構想する
▼自校の課題について見える化を図り、教職員の課題認識を促す力を養うような校長のかかわり
▽具体的な方策
・人権教育を通じて育てたい資質・能力を教職員に説明し、相手意識をもったコミュニケーション能力を高めていけるような活動に見直すようかかわった
・人権教育を各教科等との関連や実施時期について、教育課程委員会を活用しながら見直しをするようにかかわった
・道徳の内容項目と各教科等の内容および指導時期を関連させるように工夫した
・人権教育と道徳教育の関連を学校経営方針で丁寧に説明し、教育活動へ反映させていった
▼教職員や関係機関等による組織を編成し、課題解決に向けて教育課程の改善を図る校長の指導性
▽具体的な方策
・全教職員が人権教育の視点での課題意識をもち、児童に育てたい資質・能力に基づいた教育課程の改善や全教職員がカリキュラム・マネジメントの当事者であるという意識改革につなげた
・人権教育の視点から横断的に教育活動を見直すことで、学校としての取組全体をふかんし、新たな枠組みでの教育課程の編成につなげた
・学校経営方針の中で、人権教育や道徳教育の関連について明示したり、その内容を教育活動へ反映させたりするように教職員に示した
・道徳教育と人権教育は独立したものではなく、2つは相互に関連し合うものであるという意識改革につなげた
【感想や意見】
▼豊かな人間性を育むカリキュラム・マネジメントの工夫
▽道徳の時間と各教科等の密接な関連については、現任校でも同様の取組を進めているため、その重要性をあらためて確認できた
▽今後は、本研究課題を踏まえ、外国語活動や外国語科において、異文化理解等との関連を洗い出し、実践を深めていきたい
▽学校には、豊かな人間性と未来を切り拓く力を育む教育活動を展開していくことが求められている。人権教育と道徳教育の実践の中の異年齢集団の活動を通して育んでいくことが基盤となることが分かった
▽自校の課題の明確化、校長のかかわり、教育課程の改善のサイクルによって、子どもの育ちを重視する教育活動を通じ、教職員の意識改革につなげる重要性を感じた
▼豊かな人間性を育むカリキュラム・マネジメントにおける校長のかかわり
▽カリキュラム・マネジメントの効果的な推進のためには、校長として自校の課題を明確にし、教職員全体で教育課程の検証・改善を常に行う重要性を発信していきたい
▽教職員の参画意識が高まるようにかかわり、組織やスタッフのマネジメントを行うことが重要であることを学んだ
▼豊かな人間性を育むカリキュラム・マネジメントの今後に向けて
▽人権教育を幼小中の一貫教育に位置付け、地域の教育力との連携にも広げていく取組は、自校にも生かしていきたい
▽幼保小連携において、人権教育を通じて育てたい資質・能力を支える価値的・態度的側面と技能的側面の見通しをもって取組を進める教職員の姿がイメージできた。あらためて自校の教職員と確認していきたい
▽幼保小中の連携を進めるための校長のかかわりについて、自校における幼保小連携・接続推進リーダー活用事業の推進に向けて大きな示唆をいただいた
【質問(Q)・回答(A)】
Q 人権教育と道徳教育を教育課程編成の年間指導計画に位置付けた実践について、その詳細をもう少し教えていただきたい。
A 事例の当該校では、道徳教育において視点B「親切、思いやり」を重点として設定することとした。この内容項目の要点である「相手の気持ちや立場を推し量ること」と、人権教育の目標である「自分の大切さとともに、ほかの人の大切さを認めること」との関連を道徳教育全体計画と人権教育全体計画に明記した。
道徳教育と人権教育をつなぐ活動として、ユニセフに関する活動や一声運動(あいさつをはじめとした他者への適切な声かけ運動)を位置付けた。
その上で、道徳科の年間指導計画を作成する際、視点B「親切、思いやり」における題材と、ユニセフや一声運動との関連を示すようにした。
今後は視点CおよびDと、人権教育とのかかわりを明らかにしていくことが課題である。
Q 異年齢集団の活動について、交流の場面(時間)をどのように確保しているのか、事例があれば教えていただきたい。
A 根室管内における異年齢集団による活動はつぎのような事例が見られる。
▼小学校内の異学年交流
▽縦割り清掃
▽縦割り給食
▽縦割り遠足(学校行事)
▽縦割り集団による子ども祭り(学活)および雪中運動会(体育)
▼幼稚園児との異学年交流
▽幼稚園児との交流会および合同学習(学活・教科)
▽幼稚園児への学習成果発表(教科)
▽小学生による幼稚園児を対象にした校舎案内(学活)
児童と園児の交流ではないが、公開研究会や校内研究会(指導主事訪問含む)において授業を参観し合ったり、その後の研究協議に参加したりするなど、小学校と幼稚園の教育内容について相互理解を図る実践もみられる。
また、保幼小中交流会や幼小中高一貫教育協議会を設け、一貫性のある教育の在り方について検討している自治体もみられる。
【まとめ】
本分科会の研究の視点1「よりよい社会を創る人権教育の推進」、視点2「豊かな心を育む道徳教育の推進」に沿って、成果と課題を整理する。
【成果】
▼視点1「よりよい社会を創る人権教育の推進」
▽経営ビジョンと課題の明確化
人権尊重が根底に流れる教育ビジョンに基づく学校経営を推進するために、校長自身が自校の課題や地域の実態を把握する必要がある。
幼保中と連携・一貫した人権教育にかかわる経営ビジョンを明確にしていくことが、家庭・地域との連携・協働に結び付く。
▽組織マネジメント
人権教育というフィルターを通して自校の教育課程を見つめ直し、全教職員が課題意識を共有することが重要である。
教頭や担当教員等を窓口としながら、全教職員がかかわる仕組みをつくることで、人権教育推進への参画意識高揚につなげることができる。
▼視点2「豊かな心を育む道徳教育の推進」
▽経営ビジョンと課題の明確化
学校の教育目標を踏まえ、道徳教育において育てたい資質・能力を明確に示し、教職員の意識の共通化を図ることが重要である。
地域の特色を生かした豊かな心を育む道徳教育を推進するためには、中期的な目標を設定し、年度の重点を示すことも有効である。
▽カリキュラム・マネジメント
「特別の教科 道徳」と各教科等の相互の関連を踏まえた教育課程の検証・改善を学校の組織に位置付けて取り組んでいくことが重要である。
豊かな心を育む異学年活動や異校種交流については、育てたい資質・能力を明確にして教育課程に位置付け、検証・改善を重ねていくことが組織的に取り組んでいくために重要である。
【課題】
▼視点1「よりよい社会を創る人権教育の推進」
▽経営ビジョンの校内外への浸透
中・長期的なビジョンについて、教職員の共通理解とともに、家庭・地域へのビジョンの提示方法や取組の可視化等を工夫し、家庭や地域を巻き込んでいく必要がある。
コミュニティ・スクールの機能や他校種連携、一貫教育を充実させ、社会に開かれた教育課程を実現するため、目指す子ども像を共有する必要がある。
▼視点2「豊かな心を育む道徳教育の推進」
▽豊かな心を育む教育の充実
地域の特色を生かした道徳教育を充実するために、道徳科と各教科等との相互の関連について、評価・分析しながら改善を重ねる必要がある。
道徳科における指導と評価の一体化について、道徳教育推進教師を中心として組織的かつ計画的に検証・改善していく必要がある。
【今後に向けて】
誌上交流では、異年齢集団の活動について、多くの意見や感想をいただいた。豊かな人間性の育成に資する人権教育、道徳教育の推進は、校種を超えた中・長期的な取組であることを再確認した。
また、子どもたちに豊かな心を育むために、校長は、校種間の連携や一貫も踏まえた実効性のある骨太のビジョンを提示し、組織的かつ計画的にカリキュラム・マネジメントを充実していくことの重要性が確認された。
(関係団体 2021-01-21付)
その他の記事( 関係団体)
ほっかいどう学推進フォーラム 地域教材が人材育成に 上川の魅力 支えるのは
【旭川発】特定非営利活動法人ほっかいどう学推進フォーラム(新保元康理事長)は23日、オンラインで第3回ほっかいどう学連続セミナーを開いた。テーマ「上川の魅力を支えるもの再発見」を踏まえ、基...(2021-01-27) 全て読む
センバツ高校野球 3月19日から開催 日本高野連
日本高校野球連盟は、第93回選抜高校野球大会の日程等を決め、ホームページ上で公表した。 大会日程は、3年3月19日から13日間、阪神甲子園球場で実施する。 出場校について、一般選考...(2021-01-27) 全て読む
道小 第63回北見大会 誌上交流⑤
◆第10分科会 危機対応 【研究課題】 様々な危機への対応と未然防止の体制づくりにおける校長の在り方 【研究発表】 コロナ危機下での学校の安全・安心の確保と学びの保障の在り方~緊急...(2021-01-26) 全て読む
道小 第63回北見大会 誌上交流③
◆第6分科会 健やかな体 【研究課題】 健やかな体を育むカリキュラム・マネジメントと校長の在り方 【研究発表】 健やかな体を育む教育活動の推進における校長の役割と指導性~「健やかな...(2021-01-22) 全て読む
道内小中高 元年の保健室利用 小36% 10年で6ポイント増 道養護教員会 調査結果報告
道養護教員会(佐藤芳美会長)は、保健室利用状況に関する調査結果をまとめた。在籍者数に占める利用者の割合は、平成21年の前回調査と比べ小学校が6・2ポイント増の36・0%と増加。平均対応時間...(2021-01-22) 全て読む
デジタル教科書の特色学ぶ オンライン授業でも活用 北社研第14回冬季セミナー
道社会科教育研究会(=北社研、小池千秋会長)は16日、ホテルライフォート札幌で第14回社会科教育冬季セミナー in Sapporoを開いた。約40人が参加。講演を通して、デジタル教科書の特...(2021-01-20) 全て読む
危機感もち感染症対策 道特別支援副校長・教頭会が研究協
道特別支援学校副校長・教頭会(星野健史会長)は8日、道立特別支援教育センターをメーン会場に各学校をウェブ会議システムZoomでつないで第2回研究協議会を開催した。91人が参加。開会式で星野...(2021-01-20) 全て読む
高校教頭・副校長会 第2回常任理事研 瀧澤会長 感染対策万全に 3年度運営方法など協議
道高校教頭・副校長会(瀧澤共喜会長)は15日、ホテルライフォート札幌で令和2年度第2回常任理事研究協議会を開いた。20人が参加し、本年度の中間報告のほか、3年度の研究協議会の運営方法などに...(2021-01-19) 全て読む
道高校長協会 管理職の手引き 研修の支援体制確立を 学校力向上目指す方策例示
道高校長協会(廣田定憲会長)は、『北海道版 管理職の手引き―新たな知識の創造のために』を作成した。「学校力の向上を目指す学校経営の在り方」についての調査研究の成果を集約。将来の学校組織を支...(2021-01-18) 全て読む
北肢研 オンラインで研究豊成大会 4つのテーマで実践発表 豊成養護 公開授業も
道肢体不自由教育研究協議会(=北肢研、秋保雅浩会長)は12日、第57回道肢体不自由教育研究大会豊成大会を開催した。初の試みとしてウェブ会議システムZoomを活用。拓北養護学校をメーン会場に...(2021-01-15) 全て読む