小学校へ期待・安心感高める 幼保小接続 富良野市の取組・成果(市町村 2021-03-31付)
幼保職員と小学校教員が共に学びを深めた元年度の校内研修
【旭川発】富良野市では令和元年度から2年間、道教委による幼児教育と小学校教育の接続の円滑化モデル事業の指定を受け、幼保小接続の強化に取り組んできた。拠点校の扇山小学校(南部和紀校長)を中心に、連携校や幼児教育施設とともに保育者・教員の交流や幼児児童の交流などを展開。取組の成果を踏まえ、3月には各校におけるスタートカリキュラムの充実を図るため、市独自のハンドブックを作成した。事業終了後も継続的な連携が図られるよう、幼小共同の研修体制づくりや、ハンドブックの定期的な評価・改善などに力を入れていく。富良野市における2年間の取組・成果を紹介する。
事業は、モデル地域において幼小合同研修や交流機会の充実、継続的・計画的な連携・接続などの施策を推進するもの。
道教委は5市町を地域指定。うち、富良野市では、扇山小が拠点校に、富良野小学校・東小学校が連携校に選ばれた。
市ではこれまで、特別支援教育を中心に幼小連携の素地がつくられていた。平成29年度からは幼保小合同引継ぎ会を開催し、すべての幼児についての引き継ぎを充実。年度末に市教委主導のもと、市立図書館で学校ごとに部屋を分け、半日日程で引き継ぎを行っている。
市教委が各施設と日程調整することで、スムーズな引き継ぎ体制を構築している。
しかし、「入学を迎える保護者と幼児の不安解消に向けた取組に課題がある」「幼保小の教員等の交流の場が少ない」などの課題があったことから、すべての児童が幼児教育で培われた力をより効果的に発揮できるよう、事業の推進に乗り出した。
事業開始に当たり、拠点校の扇山小に幼小連携・接続推進コーディネーターを配置するとともに、組織体制として幼小接続推進協議会を立ち上げた。また、事業の周知をねらい、幼保小だよりを定期的に発行してきた。
【保育者・教員の交流】
▼幼保小合同研修会
富良野市は、幼稚園教諭・保育士と小学校教諭が交流・情報共有することで、各施設・学校の保育・教育活動への理解を深め、創意工夫と連携による円滑な幼小接続に取り組んでいる。
元年8月には、市教委主催で幼保小合同研修会を開催。幼保の年長担任・小学校管理職と今後幼小連携を担当していく教員が一堂に会し、これまでになかった合同での研修が実現した。道幼児教育推進センター職員による幼小連携の在り方についての講演や、幼保小共同で生活科の単元づくりを行う演習を実施。幼保小互いの教育を深く理解することで、それぞれの立場によって異なる視点や同じ視点などに気付くきっかけとなった。
▼小学校への授業参観
元年10月、年長時に担任をしていた幼保の教員が、1年生の国語、算数、生活、特別支援学級の算数の授業を参観。通常の参観日における見学とは異なり、目的をもって授業を参観する初めての機会となった。
参観した幼稚園教諭から「言葉のやりとりや伝え合いの活動の重要性を再確認した。今後の保育で意識して幼児の考えを引き出していきたい」などの感想があり、保育者が幼児の将来の学びを知ることで、今後の保育の見通しをもつことができた。
また、幼保の教員にとって未知の部分が多い特別支援学級の教室環境や授業構築を知ったことで、幼稚園教諭から「おとなしかった幼児が支援学級で生き生きしていた」と児童の変容に着目した感想が寄せられるなど、学びが保障されていることへの安心感につなげた。
▼校内研修(実技研修)
扇山小で例年行っている年2回の実技研修のうち、冬の研修で幼小連携を取り入れた。
元年度は幼保職員が参加し、共に「幼小連携の必要性」に関する講話や演習を行ったほか、「体育~リズム太鼓・マット運動・跳ぶ運動・投の運動」の実技研修を実施。
幼児期から児童期につながる実技について体育科の免許状をもつ教員から直接学ぶことで、幼児期に身に付けたい資質・能力を整理することができた。
参加した幼保職員からは「専門的な知識を得られたことで、あすからの保育に取り入れられそう」と研修を評価する声が上がっていた。
2年度は、幼稚園の園長を講師に招き、小学校教員が園で取り入れているリズム表現による音楽教育の方法「リトミック」を体験。
幼小の接続期から小学校高学年までの音楽ですぐに活用できる実践を学んだことで、早速授業に取り入れている教員の姿が多くみられた。
【幼児児童の交流】
▼幼小交流事業
幼小連携の取組として、富良野市では幼稚園・保育所の園児らと小学校の子どもが交流する機会を設けている。
2年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、2月に扇山小のみで実施。生活科の「あきのたからものらんど」で児童がどんぐりなどを使っておもちゃを製作し、園児を招待した。
児童は、「園児を招待する」という目的に応じ、遊びやすさや伝え方、安全性を意識して活動することで、年長者である自覚が芽生え、園児は具体的に小学校での学びを知ることで、小学校への期待感・安心感を高めた。
▼学習で制作した作品の交換展示
コロナ禍で直接の交流が難しかった2年度に生まれたアイデア。国語科で制作した「動物クイズ」と生活科での「あさがおの観察帳」を幼児教育施設で展示した。園児の作品も小学校に展示し、作品を通じた相互の交流を図った。
コロナ禍でも手軽に交流することができ、幼児から「これも勉強なの?」「楽しそう〓」との声が上がるなど、園児の入学への期待感を引き出し、高めた。小学校にとっては、3年度に迎え入れる児童の実態把握になった。
▼1日体験入学
事業前から2月ごろにすべての小学校で実施。
扇山小では元年度、5年生と遊んだあと、1年生と合同でおもちゃづくり・読み聞かせ・校内探検・レクリエーションなどの授業を行った。
児童は、次年度入学する園児とふれ合うことで、進級への意識が芽生えた。園児は、年の差のある年長者とふれ合う機会をもつことで、学校への安心感を得ることができた。
コロナ禍で異学年交流が難しかった2年度は、視点を変えた方法を工夫。扇山小教諭が各園から訪れた年長児を対象に、幼児教育の視点やグループ交流を取り入れた授業を行うことで、各園の年長同士が入学前にかかわりをもつ機会とした。
実施前には拠点校と連携校の教員が幼稚園を訪れ、園児からの小学校についての疑問に答える機会を設けたことで、体験入学の不安の解消・安心感の創出につなげている。
富良野市では幼稚園教諭・保育士と小学校教諭が交流・情報共有する機会をつくることで、それぞれの教育活動を理解するとともに、学びの連続性の確保につなげている。
また、子ども同士の交流によって、幼児が就学への見通しをもつことも実現している。
これらの取組の成果等を踏まえ、各校のスタートカリキュラム充実を目指して市スタートカリキュラムハンドブックを作成。3月に完成し、市内全小学校と幼児教育施設に配布した。
幼児教育施設の視点を取り入れており、各校のスタートカリキュラムをより児童に寄り添った内容とする指針となることを期待している。
このほか、保護者向けのパンフレット「小学校ってどんなところ?」を作成。登校2日目の流れや給食、就学までの幼小のつながり、就学前の準備など、保護者が不安に思うポイントをピックアップして写真とともに紹介している。
今後、4月をめどに幼児教育施設に設置して、4年度に就学する子をもつ保護者の就学への不安が軽減できるよう啓発する。
幼小連携・接続推進コーディネーターを務める小瀬知里教諭は、事業の成果として「幼小連携・接続の大切さについて教員等の中で共有できた」と振り返る。しかし「事業終了後は各校・園をつなぐコーディネーターがいなくなり、推進は各学校に委ねられることになる」と、次年度以降の取組の継続を課題に挙げている。
今後は、幼小合同研修会を継続して行うなど、共に研究・研修する体制づくりを模索。また、ハンドブックを参考にしながら各校において幼小交流を年間指導計画に位置付けたり、校内研修における1年生の授業公開で幼児教育施設の職員の参観を呼びかけたりするなどの取組が図られることを期待している。
市教委の杉村卓哉氏も、2年間の取組で「これまで以上に幼小の壁が少なくなってきた」と実感。
今後は、幼小接続推進協議会を数年ごとに開催し、ハンドブックの評価・改善に努めていくとともに、こども未来課と連携しながら幼保小の交流の機会をつくっていくとしている。
(市町村 2021-03-31付)
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