札幌市小学校長会4年度研究成果 第11回 人材育成部・下
(札幌市 2023-08-29付)

▼働き方改革の3つの関わり

 最初は各校での事例をもとに「働き方改革をいかに進めるか」を考えようと、それぞれの取組を交流し、その実効性等について協議してきた。そこから“改革”の実現に向けた、校長の役割と指導性について、一般化を図ること、各校における取組の実効性の向上を図ることを目指して研究を進めてきた。

 実際の事例をみていくと、本市や全国での先行事例も参考にし、数多くの工夫された取組がなされてきていることが分かった。そこで、各事例から成果や課題を捉え、また「可視化、効率化、システム化」の視点で事例の分類や考察を行いながら、働き方改革を推進する校長の関わりについて、大きく3つに整理した。

▽その1 改革の目的や必要性を発信し、定着を図る校長の関わり

 「学校経営方針への明示」を柱に「グランドデザインの作成」「会議での方針説明」など職員に向けた発信、意識化とともに、保護者や地域へ向けても周知・説明していく取組がこれに当たる。改革を進めるため、職員だけではなく広く関係の人々にも目的や必要性の理解と定着を図り、取組への協力を得ることが校長としての大切な役割と捉えた。

・事例紹介

 教師一人ひとりの授業力の向上を学校経営の柱の一つに掲げたA小学校では「時間」は学校の資源と押さえ、学校経営方針に働き方改革の取組によって時間を生み出し授業力向上を目指すことを示し、業務改善に取り組むことの必要性を説いた。具体的には「日課の工夫」「会議の厳選と運営の工夫」によって、授業づくりの時間等を確保した。このことによって、日々の授業の質が向上し、子どもの学びが充実することで、学級が安定し、教師にも意欲の向上や充実感の高まりなどが見られるようになってきた。

▽その2 改革を組織的に推進するシステムを構築する校長の関わり

 われわれ校長は、改革の方針にのっとって、学校を組織的に動かしていくことが必要である。そのために、自校の働き方における改善点や改革の道筋、改善のための具体的な場や方法について示したり、改善を実現するための組織、体制づくりを行ったりすることで、リーダーシップを発揮していく。また、自ら発案したり実行したりするだけではなく、職員と共に考え、発想を生かして具体化を図るなど、教職員の主体性や創造性の発揮を促すことも、重要な役割と考えた。

 事例からは、環境整備における可視化の工夫や会議や意思決定システムの簡素化、ICT活用や設備・機器の導入による業務効率化の工夫等が改革に有効であることも確認でき、これらの視点で計画化や具体化を進めることも校長の関わりとして重要であると言える。

・事例紹介

 過重傾向にあるカリキュラムを整理し、教職員が「本業」に打ち込める環境をつくるとともに、行事実施の時数配分の根拠を明示し、打ち合わせの効率化と教育課程の「ゆらぎ」の解消を図るため、教育課程の規準となる「フォーマット」を作成したB小学校では、教育課程編成の規準が明確となり、業務の効率化が図られた。

 ICTの活用によって、教育相談資料の全学級での共通化と電子化を図ったC小学校では、キャリアやスキルの異なる学級担任が、共通の方法で保護者と面談を行うことができ、加えて懇談資料作成に関わる時間的・精神的な負担軽減を図ることができた。

▽その3 改革の取組を評価し、フィードバックする校長の関わり

 まず学校評価に位置付け、全体で各取組の達成状況や成果を確かめ、課題をつぎの取組につなげていく。個々人に向けては、人事評価シートを活用した面談や日常の関わりの中で、本人には見えづらい変容や改善の状況、児童と関わる時間や指導力向上につながっている事例などをフィードバックし、改革の意義や仕事のやりがいの実感につなげていくことが、つぎの取組への意欲を高めると考えた。

・事例紹介

 職員の実情に沿った働き方改革の方針や体制づくりに生かすため、D小学校では年度末に0次面談を行って、職員の状況を掌握し、業務効率化をねらった学担校務分掌組織づくりを行った。

 「働き方改革」をより自分事として考えられるよう、E小学校では、期首面談時に「時間ができたらどうしたい?」と、投げかけ方を工夫し、教職員が自分の働き方やワーク・ライフ・バランスを見直すきっかけをつくった。

▼働き方改革推進チェックシート

 これまでの研究の成果を還元する取組として、市内各校での働き方改革を進めるベースとなったり、改革の達成状況等を測れたりできるものとして「働き方改革推進チェックシート」を作成した。

 このシートは、前述の校長の関わりを3本柱に、それぞれにおけるねらい、実際に行う手だて、評価項目で構成し、働き方改革の年度計画作りに生かしたり、取組の進捗状況の確認や、一定期間での評価に用いたりできるように1枚のシートにまとめたものである。各校の実態に応じて修正を加えながら使っていただき、働き方改革推進の一助となることを期待している。

▼働き方改革の今後に向けて

 本市では、校長のリーダーシップのもと、各校で工夫した取組が進められており、一つ一つの業務改善の積み重ねや市共通の施策によって、学校全体や職員一人ひとりの業務時間の短縮、時間外勤務の縮減が図られてきていると押さえられる。

 一方で、早朝、休日出勤の増加や改革に前向きではなかったり、個別の事情を抱えたりしている職員にいかに関わるか、また、改革の取組の継続性をいかに担保するかなどの課題も見えてきた。

 全国的に深刻な「教員のなり手不足」問題の解消のためにも「ゆとり」「やりがい」のある学校づくりは待ったなしの課題である。一学校では解決が難しい「教員の定数改善」や「学校が担うべき業務の見直し」などでは、校長会としての組織的な取組も重要であると考える。

 何より「教員の資質向上、子どもと向き合う時間を生み出す」というこの改革の目的を教職員と常に確認し、保護者、地域への一層の理解を図りながら、校長として、働き方改革の実効性を高めていきたい。

【研究のまとめ】

 2年間の研究で、各校での様々な事例を聞き、それぞれの先進的な取組に触れることが数多くあった。研究を進めていく中で、働き方改革によって生み出された時間が人材育成の基盤となっているということをあらためて確認することができた。

 人材育成においては、新たな研修制度の導入、教員志望者の減少、定年延長によるモチベーション向上への取組など、様々な課題が山積している。今後も、個へ、そして集団への不断のアプローチを続け研究を進めなければと感じている。

 働き方改革においては、裁量時間の増加などの数値化しやすいものばかりではなく、職員の満足度や教育的成果という評価軸で取組を見つめ直していくことも大切なことである。

 ワーク・ライフ・バランスを考えながら人材育成の取組を充実させていくことは難しい面もあるが、今後も「人材育成」を核に、学校経営における校長の役割と指導性について研究の深化、充実を図っていきたい。

(連載終わり)

(札幌市 2023-08-29付)

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