武藤文科省教育課程課長が講演 デジタルで子の学び支援 紋別市教委 活用能力が必要(市町村 2024-10-18付)
紋別市教委講演会武藤課長
【網走発】紋別市教委は文部科学省初等中等教育局の武藤久慶教育課程課長を招いて7日、市民会館で教職員等向け講演会を開いた。武藤課長は「なぜ令和の教育改革なのか、教育DXなのか? 次期教育課程を展望しつつ、今取り組むべきこと」と題して講演。変化の激しい時代に生きる多様な子どもたちの学びを支援するため、デジタル機器やコンテンツが効果的なツールとなり得ることから、学校、教員にはそれらを有効に活用できる力が求められていることを訴えた。
武藤課長は「学習指導要領前文では、一人ひとりの子どもが自分の良さや可能性を認識する、他者を価値のある存在として尊重する、多様な人々と協働する、変化を乗り越える、持続可能な社会の創り手を育てることが書いてある」と説明。
その上で「教育改革の背景 6つの外的トレンド」「データで見る我が国の教育と社会」「令和の日本型学校教育」「日常的な活用を実現している学校の様子から」の4部および補論として「GIGAで力が付くのか」「GIGAの裏で心配なこと」「質を伴う効率化のインパクト」に分けて論を進めた。
【教育改革の背景 6つの外的トレンド】
①人口減少・少子高齢化②グローバル化③多様性&包摂の重視④デジタル化(Society5・0)⑤変化の激しい不確実性の時代⑥人生100年時代―の6点を提示。
2050年までに日本の人口が約1億人、生産年齢人口が約5割まで減少する見込みであり、3世代同居の減少、核家族やひとり親世帯の増加もあり「子どもの周りの子どもが少ない、子どもの周りの大人も少ない」状況になる。その中で、多様な他者と協働するような子どもを育てることが困難なため、異学年の子ども、教職員や地域住民といった大人と触れ合える学校の果たす役割が大きくなり「意図的に子どもと子ども、異年齢の子ども、子どもと先生、子どもと外の人との関係を意図的にデザインしていく必要がある」と指摘。その際にデジタル機器やネットワーク等を有効に活用する必要性を挙げた。
67年には日本の人口の1割が外国人と欧米並みの割合になることが見込まれ「子どもたちが社会に出た時、自分と異なる常識、宗教、価値観を持った人と対話しながら課題解決していかなければならなくなっている」と指摘。経済界で、異なる価値やサービスを持った人と組んで新しいものを作る動きが加速化しているほか、政策面でもSDGsで目標4「質の高い教育をみんなに」が掲げられていることを踏まえ、それらに迫るためにもデジタルが有効であると説明した。
あらゆるところにAIやロボティックスが行き渡っていく社会において、教育関係者は、そのような社会、技術の担い手を育てると同時に、技術を賢く使っていく使い手を育てる必要があると訴えた。
技術や知識の激しい変化を上回るスピードで人に投資しないと、知識が陳腐化してしまうこと、機械など有形資産の陳腐化が年率10%に対して人的な資本の価値は年率40%で失われるとの分析があることを紹介したほか「知も猛烈な勢いで塗り変わる」状況を解説。
変化が激しい時代に人生100年時代を迎えている中、健康寿命が長くなって働く期間が長くなること、終身雇用が崩れて欧米型のマルチステージの時代に入り、学んだあと働いて、また学び直して働くことなどを通し人生を豊かにしていく生涯モデルに移行しつつある。若者も転職が当たり前という意識に変わっていることを認識する必要があることも説明した。
その上で、生涯にわたって学び続ける資質・能力を子どもに身に付けさせる必要があり、教師がいなくても学ぶ経験・習慣が大事になるとした。
【データで見る我が国の教育と社会】
PISA2022の結果から、日本が全分野で世界トップ級となった一方、課題として、デジタルが学びに使われず遊びに使われている傾向を挙げた。「このまま放っておけば、自分が好むような情報ばかりがタイムラインで流れてきて、子どもたちは多様な意見や見解から離れていく状況になる」と警鐘を鳴らし「ICTを学びの道具にしていくこと、賢い付き合い方を教えることが大事」とした。
子どもたちを学びに誘うデジタルコンテンツが多くあり、それらを活用する必要性も挙げた。
PISAの結果で、日本は自律学習に自信がない子どもが多かったことを説明。時代の変化が激しく、何回も転職したり、学び直したりしなければならないことが想定される中、不安要素になっているとした。
18歳の政治、選挙、社会問題に対する当事者意識が著しく低いとの調査結果も重要な課題として紹介。
併せて、これからの教育では自己決定する力、自分の興味・関心を伸ばしていくことに比重を置く必要があることを挙げた。
高度経済成長期には、みんなと同じことができることや言われたことができることが大事とされたが、正解主義に陥り、自分で課題を見つけ、解決する力の育成が不十分だったのではないか、みんなで同じことを同じようにすることを過度に要求する面が見られ、同調圧力を生み出して、いじめや生きづらさにつながっていたのではないかと問題提起。
人と同じことができることよりも、人と違うことができることの方が価値がある時代になってきている中で、正解主義や同調圧力がやや強すぎる面が時代の流れと齟齬を来している傾向を危惧した。
学校を取り巻く状況に目を向け、要保護・準要保護の援助率が高いこと、不登校や通級指導、暴力行為が急増していること、虐待が多いと解説した。子どもたちの理解度や学力がバラバラなこと、家庭の貧困が学力に影響していることをデータで紹介。子どもたちの認知特性は様々であることから、デジタルを活用して子どもたちの可能性を伸ばす必要性を強調した。
Z世代の特性を分析して「みんなで一緒に同じことを同じように同じベースで全ての子どもたちに届けるという一斉指導の足場が弱っている」ことから「一斉指導自体の在り方を工夫したり、違うやり方を組み合わせていったりするなど、いろいろな対応が求められてくる」とし、そうしなければ、子どもたちが学習の仕方を一定程度獲得できないまま社会に送り出す心配があることも触れた。
小学校も中学校も、1学級の中で特異な才能のある子ども、発達障がいの可能性のある子ども、不登校・不登校傾向のある子どもなど多様な子どもがいる中、これまでどおりのやり方で誰一人取り残さないことができるのかと問いかけた。
全国データを自校に当てはめるとどうなるのかを確認することで、学校や授業の改善のベースになるとした。教員の時間外労働は減少してきたが、依然、高水準にあるとし「学校のアップデートは働き方改革と両立しなければならない」と述べた。
【令和の日本型学校教育】
令和の日本型学校教育では「今の学習指導要領を着実に実装していくこと、働き方改革、GIGAスクールを三位一体的に進めていくことで、今までの課題は乗り越え、良さを受け継ぎながら、つぎの教育をつくっていく」と説明した。
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実がポイントであるとし、その実現に向けデジタルの活用が効果的であることを解説。使い方次第で有効なツールになることを示した。
【日常的な活用を実現している学校の様子から】
日本各地の学校におけるデジタル活用例を紹介。休校ではなくても授業を日常的に中継している学校、保健室登校や病院で療養中の子どもに授業を中継して学びを保障している学校、外国籍の子どもに翻訳機能や読み上げ機能を使って学べるようにしている学校、実物投影機の画面を1人1台端末に中継し大きく見せて分かりやすくしている学校の事例を挙げた。
また、無償のものも含めて学習支援アプリが多数あり、それらを活用することで救われる子どもがいるのではないかとした。
テクノロジーの本質は能力の拡張という観点に立ってGIGAスクールやアプリを見直すことで、子どもたちがもっと学べるようにするよう呼びかけた。
端末機器は、教師のための教具であると同時に、学習者のための文房具でもあることを勘案しながら使わせる必要も指摘。デジタル教材が充実している中で「令和の教育改革の鍵は、自前主義から脱却すること。子どもは多様になっているので、どういうデジタル教材があるのか、子どもたちの可能性を高められる材料があるのかを知って、先生方の引き出しにしておく能力が大事」と訴えた。
さらに様々な実践事例を紹介し「実践を抽象化し、高いレベルで理解していくことが大事」とした。
【補論 GIGAで力が付くのか】
GIGAで力が付くのかという疑問に対して「個別最適な学び、協働的な学びを具体的に充実させて、主体的・対話的で深い学びを行い、資質・能力につなげていくという大きな構造があり、これに迫っていくためのパワフルなツールがGIGA。それは手段であって目的ではない」という理解が必要であることを指摘。
「主体的・対話的で深い学びの視点で授業改善を行っている学校は、ICTを使っている傾向がある」「主体的で深い学びに取り組む子どもほど、ICTは役立つと思っている」ことを紹介し「主体的・対話的で深い学びにつながるような形で使われたり、子どもが文房具としての端末によって学びやすくなったり、合理的配慮の基盤が整ってきたりする中で、最終的には学力調査の平均正答率が高くなっている」と解説した。
GIGAは手段であって目的ではないことの一方でGIGAという手段が手段として機能するためには、端末活用に慣れさせること自体を目的にした指導も現実的には必要とした。
また、ICTの利用頻度が高い子どもほどその効果を実感している、ICTの効力感を持つ子どもは自己有用感、幸福感、自分と異なる意見への受容性が高いというデータが出ていること、そして、その傾向は経済的に困難な状況にある子どもたちに顕著に出ていることを説明した。
【補論 GIGAの裏で心配なこと】
最近、教員が教えなくてもいいという声が出ていることを懸念。「先生たちから手厚い指導を受けている子どもほどICT機器の効果の実感が高い」とのデータを示し、指導に当たっては、1人で全てをやろうとするのではなく、ベテランと若手、異なる得意分野がある教員同士がチームとなり、助け合いながら指導する発想が大事と助言した。
子どもが端末を使い活字で入力したものが一見、立派に見えるが、内容が伴っていない場合があることを指摘し、教員がそれを見極め適切に指導、支援する必要があることを挙げた。
また、子どもたちが自分でやりやすい方法で学ぶことは、学びの第一歩としていいことだが、その方法が通用しない場合もあることから「子どもたちがそれぞれの学びを、学ぶ方法も含めてアップデートしていくような指導が大事」とした。
【補論 質を伴う効率化のインパクト】
「ICTを使って効率的にできる部分は効率的にやって、さらに質を確保しながら効率化することの先に見えてくるカリキュラム改革がある」とし、実践事例を紹介。「学校の裁量を拡大し、先生方の教育活動に余白を見いだし、その余白が子どもたちの教育の充実につながる方法をこれから検討していきたいと思うが、その前提はDXによる効率化ではないか」と述べた。
端末の更新時期を迎え、スムーズに更新できず使用されなくなると「今まで学びやすくなっていた子どもが学びにくくなる。これは学習権の後退であり絶対に起こしてはいけない」と強調。「私たちも一生懸命頑張って、現場の声に耳を傾け改善していきたいので、ぜひうまく使っていただき、先生がより働きやすくなり、子どもがより学びやすくなるような状況をつくっていきたい」と述べた。
(市町村 2024-10-18付)
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