札幌市教委 教育現場で対応模索 心の健康観察アプリ運用始まる 子の“声なき声”逃さない 安らぎある学校へ試行錯誤
(札幌市 2024-10-31付)

修正「心の健康観察」アプリ
話したいボタン

 教員と話をしたい時にボタンを押し、日々の心身状態が可視化できる心の健康観察アプリ「シャボテンログ」。札幌市立学校で2学期から本格運用が始まった。表面化しにくい子どもたちのSOSを瞬時に把握できる利点がある一方で、デジタルのみで子どもの変容を見取ることは難しいという声も聞こえる。児童生徒の“声なき声”を見逃さないために、教育現場では自校の実態に即した望ましい対応を模索している。

◆未然防止に手応え

 札幌市教委が本年度から導入したシャボテンログは、児童生徒が登校後、1人1台端末でその日の体調や心身の状況について適切な表現を入力するアプリ。悩み事を誰かに相談したい場合は「話したいボタン」を押し、担任や養護教諭など、児童生徒が相談しやすい教職員に打ち明けることができる。

 児童生徒の入力状況について、市教委は毎日複数の教員で確認することを推奨している。

 ある小学校の教頭は「これまで体調不良の様子などは見た目や雰囲気のみでしか判断がつかなかった。担任外の教職員の気付きもあり、気分がすぐれない状況が続いている児童に対し“どうしたの”と声をかけることで、悩みを打ち明けてくれたケースがある」と早期発見への効果を期待する。

 一方、データで表れる子どもたちの姿に戸惑いを感じる教員も少なくない。特に小学校では導入当初、話したいボタンを押す児童が多く、実際は「間違えて押しただけだった」「“呼んだけどすぐに来ない”と言われてしまった」など対応に追われる現場もあったという。

◆従来ツールと併用 子どもの実態把握

 担任とのコミュニケーションの一環として取り組んでいた「一言日記」や「連絡帳」は、1人1台端末の導入に伴い、紙媒体からデジタルに移行した。こうした取組も従来型の「心の健康観察」として各校で活用されていたツールの一つと言える。

 例えば、市立美香保中学校(伊達峰史校長)では、アプリと学校独自の取組を併用することで生徒の実態把握に努めている。3年度に表計算シートで作成した「ログブック」は一言日記や学習の目標、スクリーンタイムなど生活規律や学習状況が記入でき、教師が生徒の入力内容に必要に応じてコメントを返すことができる仕様。学年の実態に合わせて随時見直しを図っており、生徒自身が自己を客観視し、生活をコントロールする力を身に付ける取組の一助としている。

 伊藤雄一主幹教諭は「話したいボタンを押してすぐに話したい子と心の整理がつかず、ボタンを押せない子がいると思う。コメントのやりとりは生徒のペースに合わせて心に寄り添う有効な手だて」と話す。従来から続けていたツールとアプリの併用は「生徒が続けやすいやり方で、見えない部分のコミュニケーションを図る支援の一つ」とみる。

◆子と向き合う時間 確保へ体制整備を

 ある関係者は「話したいボタンを押す前に、児童生徒のささいな変化に気付くことが教師としての使命」と訴える。ただ、教育課題の多様化・複雑化、教員不足等によって、児童生徒一人ひとりと向き合う時間の確保が難しいのが昨今の教育現場の実情だ。

 市学校教育の重点である「子どもの声を聴く」。実現に向けては、日頃からのコミュニケーションが不可欠となる。本年度、市の全国学力・学習状況調査の児童生徒質問紙調査で「学校に行くのは楽しいと思う」と回答した児童生徒の割合は8割を超えた。一方で「楽しくない」と感じている児童生徒も一定数在籍していることは事実の裏返しとも取れる。

 今月行われた市小学校長会の研究大会では「子ども一人ひとりが“大切にされている”と実感できる心理的安全性の高い学校経営が、誰一人取り残さない学びの保障につながる」との提言があった。

 持続可能ないじめ・不登校対策には、デジタルの気軽なコミュニケーション手段だけではなく、教師にしかできない心の通った支援も欠かせない。双方のメリットを有効活用し、児童生徒の「本音」と向き合う時間を確保する体制の充実が求められる。

(札幌市 2024-10-31付)

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