新春インタビュー 道教委・中島教育長に聞く
(道・道教委 2025-01-01付)

P4・道教委教育長インタビュー
道教委・中島教育長

 新年を迎え、道教委の中島俊明教育長に魅力ある高校づくりや学力向上など様々な教育課題に向けた今後の対応を聞いた。

―魅力ある高校づくりに向けた今後の取組の方向性をお聞かせください。

 広域な本道で小規模校に質の高い授業を提供していくため、遠隔授業の推進は重要と考えています。北海道高等学校遠隔授業配信センター(T―base)は、道内のどの地域に住んでいても自らの可能性を最大限に伸ばすことのできる多様で質の高い教育環境を提供するため令和3年度に開設しましたが、本年度は道立高校の全ての地域連携校29校と離島の学校2校の延べ861人の生徒を対象に、数学や英語などで習熟に応じた授業、理科や公民、芸術など専門性のある多様な選択科目など8教科29科目で延べ250時間配信しています。引き続き授業内容の質的向上を図るとともに、必要な配信環境を整備するなどして遠隔授業のさらなる充実に努めていきます。

 科学技術が急速に発展する中、文理の枠にとらわれず、様々な情報を活用・統合し、課題の発見・解決や社会的価値の創造に結び付ける資質・能力の育成も求められています。高校では各教科での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な教育を推進しています。 道教委は探究的な学びを通じて資質・能力を育成するため、令和4~6年度の3年間でS―TEAM教育推進事業に取り組んできました。アンケートでは9割以上の生徒が問題解決能力や言語能力、情報活用能力が高まったと回答しており、学びに向かう意欲の向上や資質・能力の伸長につながったものと考えています。

 令和7年度以降、現在行っている探究的な学びを一層推進し、高校生が将来の夢や目標を持ち、失敗を恐れずに困難なことに挑戦し、地域や社会への貢献を考え行動できる資質・能力を育む事業の展開を検討しています。

―全国学力・学習状況調査の成果と課題を伺います。

 令和6年度の調査は中学校の国語は全国の平均正答率とほぼ同水準、小学校の国語と中学校の数学は全国平均との差が縮まるといった改善傾向が見られました。

 市町村教委や学校による主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善などの取組によって学習指導の充実や学習状況の改善といった成果が表れてきています。

 一方、深い理解を伴う知識の習得と活用、自分の考えを伝えるための書き表し方に課題が見られるほか、授業以外で勉強をする時間が短い傾向も見られています。

 今後本道の子どもたちに様々な社会的変化を乗り越えることができる資質・能力を身に付けさせていくためには、小中高の接続を意識した学校種段階における授業の充実や望ましい学習習慣の確立が必要と考えています。

 北海道版結果報告書では、ICTの効果的な活用を通じた「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実による授業改善や授業と関連を図った家庭学習の定着の方策などを掲載しており、学力向上に向けた取組を一層推進したいと思います。

―地学協働の推進の方策を伺います。

 地学協働は幅広い地域住民等の参画を得て地域全体で子どもたちの学びや成長を支え、地域の将来を担う人材の育成を図るとともに、地域住民のつながりを深め「学校を核とした地域づくり」を推進する重要な取組です。

 本年度から実施している北海道MA+CHプロジェクトでは、14管内の指定校が地域と学校の連携・協働体制を強化しながら地域と学校が共に学ぶ取組を進めています。

 例えば松前高校では、町や大学、民間企業と連携して町のデジタルマップを作成し、利用者がスマホで観光情報を入手できるようになり、町の活性化に資する活動を行っています。

 このように、高校生が地域に関わりながら主体的に学ぶことで、自分の進路や社会貢献について考えるきっかけになるなど地学協働の学びによる成果が出てきています。

 今後は指定校の取組の成果を研修会での事例発表や広報などによって全道に普及し、将来にわたり地域への愛情や誇りを持ち、地域に主体的に向き合う本道の未来を創る人材の育成に向けて取り組んでいきます。

―部活動の地域移行の今後についてお聞かせください。

 部活動の地域移行の取組が円滑に進むよう、道教委は令和5~7年度までの3年間を計画期間とする北海道部活動の地域移行に関する推進計画を策定し、取組を進めてきました。道内では約4割の市町村が休日における地域クラブ活動を実施し、約8割の市町村で地域や関係者との共通理解を図る協議の場を設置するなど地域移行に向けた検討や実証事業が進められています。一方、運営団体・実施主体の運営財源や指導者の確保、近隣市町村との連携などの課題も挙げられています。

 昨年8月は安平町で総合型地域スポーツクラブに自動販売機の売り上げの一部を寄付する取組を始めました。11月には市町村の広域連携に関するセミナーを開催するなど支援の充実に取り組んでいます。

 今後もこうした取組に加え、地域の実情に応じた助言を行う部活動の在り方検討支援アドバイザーの派遣、ほっかいどう部活動・地域クラブ活動サポーターバンクによる指導者の確保などの取組を通じ、部活動の地域移行が着実に進むよう取り組んでいきます。

―教員の確保に向けた方向性についてお聞かせください。

 教員の確保に向けた様々な取組を進めている中、昨年実施した教員採用選考検査では検査日が他府県と重なったことなども影響し、受検者が過去最少(2351人)と現状の厳しさを改めて痛感しています。一方、新たに実施した民間企業等での勤務経験者を対象とするセカンドキャリア特別選考では75人が出願、教員免許を持たない11人を含む45人が登録となり、潜在的な教員志願者の存在に手応えを感じています。

 高校生を対象としたみらいの教員育成プログラム、大学生を対象とした草の根教育実習では参加者が年々増加し「教員になりたい思いが強くなった」という声も聞こえており、将来の職業として教員はまだまだ魅力のある存在であることも感じています。

 現在国では教員の処遇改善や学校運営体制の充実など教員確保に向けた取組が進められていますが、そうした動きに合わせて「学校の先生になりたい」という思いを将来につなげていくことができるよう、プログラムをはじめとした教員志願者の裾野を広げる取組の一層の充実と合わせて、働き方改革の着実な推進による教職の魅力化にしっかりと取り組んでいきます。子どもたちにとって身近な教員が生き生きと働き、その姿が子どもたちにとってあこがれの職業になっていく、学校現場をそうした好循環が生まれる職場にしていきたいと考えています。

―教育DXの推進についてお聞かせください。

 これまで当たり前と考えられてきた業務や習慣について、デジタル化を前提に見直すデジタル・トランスフォーメーション(DX)の重要性が高まっています。社会の在り方が大きく変わりつつある中、学校教育においても教職員の働き方や学習指導・学校経営の大きな変革に向けた教育DXを推進する必要があります。

 そのため道教委では昨年11月に教育DX推進会議を設置し、道教委関係課のほか、高校長協会や特別支援学校長会など学校現場の関係団体にも参加いただき、教育DXの実現に向けた取組の在り方について、庁内横断的に検討を進めています。次世代校務システムの検討や教員のICT活用指導力の向上、ICTを活用した学びの保障などを糸口としながら、令和7年度上半期までをめどに方向性を取りまとめる予定です。

 本年度の高校入試からは出願手続の一部電子化を行い、受検者はオンラインでの入力が可能となっています。願書作成に係る受検者の負担軽減や、中学校や高校での事務処理の効率化などの成果があるものと考えており、本年度の実施状況をもとに必要な出願手続の改善に取り組んでいきます。

―いじめ・不登校対策の今後の方向性をお聞かせください。

 国の令和5年度調査ではいじめの認知件数、重大事態の発生件数、不登校児童生徒数がいずれも過去最多となり、特にいじめが重大事態に至った事案が増加したことは極めて憂慮すべき状況と受け止めています。いじめの認知件数は法におけるいじめの定義や積極的な認知に対する理解の広がり、アンケートや教育相談の充実などが要因として挙げられます。不登校児童生徒数に関しては、児童生徒の休養の必要性を明示した教育機会確保法の趣旨の浸透、特別な配慮を必要とする児童生徒に対する適切な指導や必要な支援に課題があったことなどが考えられます。

 道教委としては、児童生徒の気持ちを理解し、寄り添いつつ、早期発見と迅速な組織的対応が行われることを基本として、市町村教育委員会や関係団体と連携した取組を進めます。その上で、スクールカウンセラー等の派遣や緊急支援チームによるいじめ問題への対応、不登校対策プランに掲げる校内教育支援センターの設置促進などの取組を通して、いじめ問題への対応や不登校児童生徒への支援体制を一層充実させ、全ての児童生徒が安心して生活し、学ぶことができる環境づくりの支援に取り組んでいきます。

―被災地域への学校支援の方向性をお聞かせください。

 大規模な災害が発生した場合、多くの学校が地域の避難所として使用されます。教育活動の再開は地域が日常を取り戻し、災害からの復旧復興への第一歩となるため早期の再開が重要と考えています。

 胆振東部地震の際は兵庫県の教職員等で構成された震災・学校支援チームによる学校再開への支援をいただきましたが、本道では本年度、兵庫県の取組を参考に従前から実施してきた災害時の対応や心のケアなどの研修を充実させ、人材育成の強化を図るとともに、被災地へ教職員等を派遣するための制度を整備しました。

 昨年10月には北海道災害時学校支援チームとして構成員23人の登録を行い、1月に予定している2回目の応用研修修了後に追加登録を見込んでいます。今後も支援チームの構成員となる人材育成に取り組み、体制拡充を図っていきます。研修修了者には身に付けた知識等を被災地の学校再開だけではなく、所属校の防災教育の充実などにも生かし、安全で安心な学校づくりを推進することも期待しています。

―特別支援教育の充実の方向性をお聞かせください。

 道教委が前年度実施した調査によると、特別な教育的支援を必要とする本道の児童生徒は小学校で9・9%、中学校で3・7%。この数値は年々上昇し、個々の教育的ニーズに応えるため、全ての教員に特別支援教育に関する専門性向上が求められています。

 道教委は本年度から初任者、中堅教員、新任管理職を対象とした研修において、障がい特性の理解や全ての児童生徒に分かりやすい授業づくりなど、特別支援教育に関わる内容を計画的に位置付けており、全ての教員が必要な知識を身に付け、日常の授業実践に生かすことができるよう取り組んでいます。

 また、全ての学校における特別支援教育に関する校内支援体制を強化するため管理職を対象とした研修会を3回実施したほか、学校で中心的な役割を担う特別支援教育コーディネーター対象の研修会を新たに実施しました。

 さらに、インクルーシブ教育システムの推進に向けた国のモデル事業として二つの事業に取り組んでいます。

 一つ目は通級指導で、各管内に配置した巡回指導リーダー教員が自校のほか近隣校も巡回し、対象児童生徒の指導を行っています。

 二つ目は交流及び共同学習に関する事業です。七飯養護学校と七飯中学校、中札内高等養護学校と更別農業高校の2地域4校を指定し、教員等が連携して、障がいの有無にかかわらず参加できる授業づくりや支援体制構築に向けた研究を行っています。

 今後も研修内容や機会をさらに充実させ、こうした取組を広く発信し、全ての教員の特別支援教育に関する専門性向上を推進していきます。

―北海道教育の将来展望や将来を担う子どもたちへの期待を伺います。

 これからの教育のキーワードの一つは「地域との連携」だと思っています。人口減少が確実に進む中、地域学習や地域資源を活用した学びを通して子どもたちが「地元に貢献したい」「地元のために何かしたい」という気持ちをもつ。それが地域の持続的な発展につながると思っています。

 本道の豊かで美しい自然環境、安全・安心な食、豊富で多様なエネルギー資源に加え、独自の歴史・文化、気候風土など、豊かな資源を活用したふるさと教育や職業教育、体験活動等を通し、子どもたちが持つ無限の可能性を引き出し、一人ひとりが自分の良さや可能性を認識でき、ふるさと北海道に対する誇りや愛着を持ち続け、北海道の未来を切り拓く人材を育成していくことが必要です。

 今後ますます進むであろう技術革新もあいまって、変動性や不確実性、複雑性の高い時代が到来しています。

 そのような中、これからの未来を担う子どもたちが輝かしい未来を築くため、自ら行動する力や他者を思いやる心、協力して問題を解決する力などを身に付け、自信を持って自らの夢や目標に向かって進んでいくことを期待しています。

 多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない教育を進めるため、学校・家庭・地域・行政が連携し、互いに協力し合いながら、より良い教育環境の整備に引き続き取り組んでいきます。

―ありがとうございました。

(道・道教委 2025-01-01付)

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