4種校長会インタビュー④北海道特別支援学校長会・五十嵐利裕氏 適切な学校経営を推進 組織として力量高める体制を(関係団体 2015-07-27付)
北海道特別支援学校長会・五十嵐利裕会長
―本道の特別支援教育の歴史と課題
本年度、道特別支援学校長会の第三十六代会長になった。特別支援教育を推進する者として、今ある特別支援教育は、先達が社会の中で築いてきた実践史の上にあることをあらためて思う。本道の特別支援教育は、全国と同様に視覚障害、聴覚障害のある児童生徒に対する取組から始まっており、現在の函館盲学校、函館聾学校は前身が明治二十八年に設立され、ことしで百二十年の歴史をもっている。
本会が設立されたのは昭和三十八年だが、当時、道内には公立、私立合わせて盲学校六校、聾学校七校、養護学校は知的障害校が二校、肢体不自由校が一校、病弱校が一校という状況だった。
それが本年度は、分校を含んで国公立特別支援学校は六十五校となっており、そのうちの三校は複数障害に対応している。大幅に増えたのは知的障害特別支援学校で、小・中学部のある義務校は二十三校、高等部の単置校は二十校で、計四十三校となっている。今後も二十八年度、二十九年度と義務校の分離新設や高等部単置校の開校が予定されている。肢体不自由特別支援学校は十校、病弱特別支援学校も四校と増えてきたが、視覚障害特別支援学校、聴覚障害特別支援学校の児童生徒数は減少傾向で、学校の統廃合が行われている。
広域の北海道で、道教委は身近な地域で専門的な教育を受けられるように条件整備に取り組んでいる。校長会では、障害種別の専門性について、学校が増えるにしても減るにしても、ともに課題と認識し、専門性を維持向上させなければならないと考えている。
―国の特別支援教育をめぐる動向
特別支援教育は、国の障害者施策と密接にかかわりながら進められている。近年、障害者にかかる様々な法改正が行われてきた。これは、国が障害者権利条約に平成十九年に署名し、昨年一月の批准に至る一連の取組である。
私たちは、条約は憲法のもとに一般的な国内法に優先することをあらためて認識することが重要である。
障害者権利条約では、例えば、合理的配慮の否定を含む障害に基づくあらゆる差別を禁止し、障害者が社会に参加し包容されることを促進し、条約の実施を監視する枠組みを設置することなどが規定されており、これらを踏まえて法改正が行われている。
特別支援教育において、二十四年に中教審初等中等教育分科会から報告された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」は、このあとに続く教育施策の根拠とも言える報告であり、国の特別支援教育の方向性を理解する上で熟知しなければならない。
共生社会の形成に向け、障害者権利条約に基づくインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の着実な推進、就学相談・就学先決定の在り方、合理的配慮と基礎的環境整備、多様な学びの場の整備と学校間連携などが示され、これらについては二十五年の学校教育法施行令改正による就学の仕組みの改正や、同年に成立し二十八年施行の障害者差別解消法による差別的取扱いや合理的配慮の不提供の禁止などとつながっている。
これらは学校教育だけではなく社会全体での取組であり、特に、合理的配慮については新しい概念であり個への配慮であることから、今後、実際的場面を通して考え方を整理し、適切に取り組まなければならない。
―本道の特別支援教育をめぐる動向
多様な学びの場としての特別支援学校は、職業教育を行う特別支援学校高等部卒業生について、二十七年三月末時点での就労状況をみると、病弱を除く四障害種で計二百二十一人の就職希望に対して二百十九人、九九・一%が就職決定または内定している。これは、各校のキャリア教育・進路指導の成果と自負するものだが、知的障害特別支援学校高等部生の増加を考えると、生徒の幅広いニーズに応える現場実習先の開拓や就労の場などの進路先の確保は重要な課題となっている。
つぎに、障害種別に現状や課題を紹介する。
視覚障害教育では、札幌視覚支援学校が開校した。幼稚部から小・中・高等部、専攻科および附属理療研修センターを有し、視覚障害のある幼児児童生徒への一貫した教育を行うほか、関係機関との連携によって視覚障害教育の専門性の維持向上を図り、本道の盲学校や弱視特別支援学級等を支援することによって、本道における視覚障害教育の拠点となる役割を担っている。
聴覚障害教育では、数年は在籍者数の減少傾向が続くと予想されるが、各校において学習形態や指導内容を工夫・充実し、従来と変わらず学力の向上に重点を置いて取り組んでいる。また、手話活用能力や聴覚障害教育の専門性向上、増加する人工内耳や重複障害幼児児童生徒への効果的な指導、乳幼児療育事業をはじめとする教育相談・支援、進学・就職指導を含めたキャリア教育等の充実にも引き続き力を入れている。
知的障害教育では、高等支援学校の新設が続いている。中学校からの入学者がほとんどであることから、高等支援学校・高等養護学校における教育相談が中学校との連携のもとに円滑に行えること、本人・保護者にとって適切な進路指導となることが重要と考えている。また、設置する学科や入学者選考検査など、高等支援学校の在り方について道教委で検討が進められおり、校長会としても積極的にかかわっている。
肢体不自由教育では、児童生徒の実態の重度・重複化、多様化や他障害種別の特別支援学校にも在籍する医療的ケアを必要とする児童生徒の増加に伴い、教育課程の改善充実は特に重要な課題となっている。このため、夏季休業中の「道肢体不自由教育専門性向上セミナー」や秋の「道肢体不自由教育研究協議会」において各校の実践を交流するなど、実践研究を通した改善充実に努めている。
病弱教育では、全国と同様に、慢性疾患に代わり心身症など行動障害のある児童生徒の在籍率の増加傾向がみられる。この中には、発達障害のある児童生徒が二次障害として不登校や心身症になり、入院するケースが増えてきている。特に、医療との連携が必要な障害種であり柔軟で弾力的な教育体制が必要であるが、併設する病院の方針転換や存続によって、病弱特別支援学校の存在自体が検討される状況も生じている。
―適切な学校経営は
本年度になってからも、学校の様々な危機管理、教職員のメンタルヘルスや時間外勤務縮減にかかる新たな取組など、校長としての適切な判断が求められている。そのような中で、特別支援学校の校長は、これからの三年間で半数以上が定年退職するなど、管理職の大幅な交代期を迎えている。
校長会では道教委に対して、調査研究に基づいた施策提言を行っているが、本年度は「ミドルリーダー、管理職等の育成に向けた計画的、継続的な取組」を提言の一つにするとともに、校長会として、各支部および校長のネットワークの活性化に努めている。適切な学校経営を進めるために、情報交換・共有を密にし、人が変わっても組織として力量を高める体制づくりが急務と考えている。
また、ミドルリーダーの育成については、昨年度、校長会石狩支部が近隣支部にも呼びかけて「教育課程セミナー」を開催した。本年度はオホーツクなど他支部にも広がりをみせている。
―最後に一言
次期学習指導要領の改訂に向けた動きをみると、「何を教えるか」から「何ができるようになるか」へと重点を移し、そのために「何を学ぶか」「どのように学ぶか」をも変えようという教育観・能力観の転換と言われている。これは、個別の教育支援計画、個別の指導計画を作成し、学校の教育課程のもとに個の教育的ニーズに応じた教育を進める特別支援教育の考えと重なるものである。
また、ことし六月に、小中一貫教育を行うことができる改正学校教育法が成立したが、小・中学部をもつ特別支援学校として、この「義務教育学校」の動きを注視しながら、さらに学校経営の充実に努めたい。
「特殊教育は教育の原点」ということをよく言われたが、特殊教育の歴史を引き継ぐ特別支援教育の良さを生かし、幼稚園、小学校、中学校、高校等との連携を深め、すべての学校において、障害のある幼児児童生徒の教育をさらに充実していきたい。
(いがらし・としひろ)
昭和54年道教育大旭川分校卒業。
平成21年小樽高等支援学校長、24年教育指導監を経て、26年星置養護学校長。
昭和31年4月19日生まれ、59歳。当麻町出身。
(関係団体 2015-07-27付)
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