道教組・道高教組が「学テ」に見解 人間的自立促す教育を 〝競争社会の縮図〟と批判
(関係団体 2016-10-05付)

道教組・道高教組が「学テ」に見解

 道教組(川村安浩執行委員長)と道高教組(國田昌男中央執行委員長)は九月三十日、全国学力・学習状況調査結果公表に対し、「毎年、巨額の費用をつぎ込んだ〝全国一斉学力テスト〟による平均点競争・県別順位争いを改め、人間的自立を促す教育を大切にしよう」と呼びかける見解を発表した。調査によって、「本来、人間的成長が期待されるべき学校を、息苦しい競争社会の縮図と化している」などと批判し、「〝人格の完成〟を目指した教育、〝学問の自由を尊重し、実生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献する〟教育に直ちに方針を転換すべき」と訴えている。

 見解の内容はつぎのとおり。

          ◇          ◇          ◇

1 子ども・教員を「学力」競争に追い込む文科省・道教委は、人間的成長が期待される学校を息苦しい競争社会にかえている

 文部科学省は九月二十九日、全国の小学校六年生と中学校三年生を対象に実施した全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。全国的には、地域間格差が一段と縮小し、一方で知識の「活用力」は依然として課題が残ったとしている。

 道教委の柴田達夫教育長は今回の結果を受け、「二十八年度全国学力・学習状況の本道の状況については、全国の平均正答率との差が小学校国語B、算数A、中学校数学A、Bの四教科で縮まり、特に中学校の数学においては、全国平均との差が一ポイント未満となるなど改善の傾向がみられるものの、すべての教科において、全国平均に届いていない状況にあることから、教育委員会や学校、家庭、地域の連携した取組によって、北海道の子どもたちの力をより一層発揮させる必要があると受け止めている」とのコメントを発表した。

 これは、文科省・道教委による学力観によって、点数主義偏重の「学力」競争に拍車がかかる中、全道の教員や子どもたちを追い込んできた結果と言える。

 児童生徒の質問紙調査では、「国語の勉強が好きな児童生徒の割合」は、小学校六年生で三・三ポイント、中学校三年生で一・八ポイント昨年より低下し、「算数・数学の好きな児童生徒の割合」は、小学校六年生で〇・四ポイント、中学校三年生で〇・九ポイント低下している。このように、勉強が好きな児童生徒の割合が低くなっていることから、学力テスト対策の授業が抱える問題を露呈しているとも言える。「学力テスト」が求める、早く、正確に、回答することが授業の中で優先され、本来、人間的成長が期待されるべき学校を、息苦しい競争社会の縮図と化していると言える。

2 「全国平均以上を目指す」道教委は、学校・教員・子どもたちをさらなる学力競争に追い込み、本来楽しいはずの授業を「学力テスト対策」に貶めてはならない

 文科省・道教委による「学力テスト」競争が苛烈になり、全道でチャレンジテストによる習熟、過去問対策が増え、本来楽しいはずの授業、知的好奇心のわく授業が、学力テスト対策のため、つまらない授業になっていないだろうか。子どもも家庭も、そして、教員も、学力テスト対策に追い込まれ、学ぶこと自体を楽しみ、人間的かかわりを紡ぐ、生きいきとした学校生活に陰りが生じていると言っても過言ではない。

 また、柴田教育長は「二十九年度には、すべての教科で全国平均以上となるよう目標の実現に向けて取り組んでいく」とのコメントを発し、来年度に向け、全道の子ども、教員、保護者をさらに追い込むことを表明したとも受け取られる。

 二〇一一年以降の「平均正答率で全国平均以上にする」という方針の具体化として、各学校にチャレンジテストの強制、過去問の活用、宿題を増やすことの指示、家庭学習時間を増やすこと、早寝・早起き・朝ごはん、テレビの時間を減らすことなどを求め、子ども、保護者、教員にテスト対策や、家庭の事情などお構いなしに一方的な生活習慣を押しつけている。日本の過度な競争主義に対し、国連子どもの権利委員会は数度にわたり、問題点を指摘しているのは周知のとおりである。

 このような文科省や道教委の姿勢のもと、ことしも全道の子どもや家庭、教師たちは「学力テスト」に臨まなければならなかった。

3 学校別の結果公表が増えると、学校の序列化や過度な競争に拍車がかかる

 私たちは、真に平和で民主的な社会を築くためには、何よりもすべての子ども・青年に、市民として主体的に行動する「生きる力」「確かな学力」を身に付けることが必要と考えている。

 彼らに保障する力の領域について、私たちは、つぎのように議論をした。①読み・理解する力と論理的に考え正しく表現する能力および基礎的な計算能力②自然・社会および歴史に関する基本的な事実についての科学的認識③基本的人権、主権者としての国民の権利と民族の尊厳についての認識④人類の生存と平和・地球環境についての認識⑤健康で文化的な生活および出産・育児に関する知識・技術⑥人類の価値ある文化遺産に関する知識⑦スポーツや芸術についての基本的な認識と実践力⑧民主主義についての認識と自治の力⑨生産と労働についての基本的な知識と技術・技能。

 これらの領域の内容を「国民的教養」として、すべての子ども・青年に保障すべきである。

 学力テストは本来、子どもの理解やつまずきを指導者が把握し、指導法の改善に役立てるべきもので、まして、数値で計れるものと、そうでないものがあることは周知であり、数値で計測可能な結果の順位が、子どもたちの人間的成長を表すものでないことは、教育の原理に基づいて考えれば明らかである。

 二〇一四年度から、文科省が自治体の判断による学校別成績の公表を認めることにした。北海道においても、いくつかの教育委員会が公表し、まさに学校間の序列化につながる。

 「学力テスト」の順位を意識した学校生活は、子どもと子ども、子どもと教師、教師と教師、そして、家庭との豊かなかかわりを奪うばかりでなく、行事や総合的な学習の時間の削減など豊かな学びを創造する学習の機会をも奪うことになりかねない。子どもや家庭、学校と教師を果てしない競争教育に駆り立てる「学力テスト」の在り方は直ちに見直されるべきである。

4 財界の求める競争主義、「全国一斉学力テスト」の弊害を改め、子どもたちの学ぶ意欲・能力・個性を引き出し、「人間的な自立」を促す教育を大切にしよう

 グローバル人材を求める財界の根強い要請に沿って、競争主義で勝ち抜いた一部のエリートを中心とした社会、弱者冷遇の新自由主義的社会の形成に政府は躍起になっている。

 こうした社会だからこそ、「学力テスト」は、学校と教員を点数偏重主義に一層駆り立てるシステムとなり、早期に「エリート」を選別するために機能していると言える。こうした過度な競争主義によって、子どもたちの学ぶ意欲ばかりか、個性や発達にまで、歪みが生じてきていることは、多々指摘されているとおりである。

 文科省は昨年、全教(全日本教職員組合)の申し入れに対し、「全国的な学力の把握は数%の実施で可能」と回答している。毎年、巨額の費用を投じて、同じような傾向を把握するため、全員参加の「全国一斉学力テスト」は直ちに中止すべきである。

 文科省・道教委は、子どもと教師、保護者に過度のストレスをかける政策から、「人格の完成」を目指した教育、「学問の自由を尊重し、実生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献する」教育に直ちに方針を転換すべきである。

(関係団体 2016-10-05付)

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