北海道通信『日刊教育版』座談会〈上〉 教育界のリーダーが語り合う新しい教育へのアプローチ
(関係団体 2017-10-25付)

座談会角野会長
道小学校長会・角野会長

 北海道通信『日刊教育版』は、道小学校長会、道中学校長会、道高校長協会、道特別支援学校長会の四種校長会長を招き、道通ビルで二十九年度教育座談会を開いた。テーマは「新しい教育へのアプローチ」。新学習指導要領の実施を前に、新しい教育に求められる学校の在り方をどうとらえ、どう構築していくのかを、①これまでの教育の成果と課題②新しい教育に求められる学校の在り方③新しい教育に向けての具体的な取組―の三点を柱として、議論していただいた。三回にわたり、連載する。

◆出席者

▼北海道小学校長会会長 角野誠氏(札幌市立幌南小学校長)

▼北海道中学校長会会長 古谷雅幸氏(札幌市立中の島中学校長)

▼北海道高等学校長協会会長 川口淳氏(北海道札幌南高校長)

▼北海道特別支援学校長会会長 宮崎真彰氏(北海道真駒内養護学校長)

▼司会 ㈱北海道通信社参与 山内秀治

◆テーマ①これまでの教育の成果と課題

▼司会 各学校には、新しい教育に向けて、これまで進めてきた教育の成果や課題および中央教育審議会の答申や新しい学習指導要領の告示などの国の教育の動向・課題を踏まえ、社会に開かれた教育課程の実現や、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善、カリキュラム・マネジメントを通した教育活動や組織運営などの改善、「チームとしての学校」の構築に一体的に取り組むことが求められています。

 そのために、今後、各学校においては育成すべき児童生徒像を踏まえ、これから求められる学校の在り方について学校経営や教育課程、教育活動、教職員などの視点から明らかにし、その実現に向けた具体的な取組を進めていく必要があります。

 これらの課題を解明するために、弊社主催の座談会の共通した趣旨である「新しい教育課題の解明に向けた座談内容を北海道の教育関係者に発信し、それぞれの取組に生かしていただく」という目的を継続し、今回は「新しい教育へのアプローチ」をテーマに座談会を開催することにしました。

 柱1は「これまでの教育の成果と課題」について、これまで各校種で取り組まれてこられた成果と課題を、国や北海道の教育課題等に照らして、学校経営や教育課程、教育活動、児童生徒の実態、教職員などの視点から、話し合いをしていただきたいと思います。

▼角野 成果を三点、課題を二点お話します。

 成果の一つ目は授業です。   

 日本の教師は、長年にわたり全体指導と個別指導のバランスを考えながら授業を構築してきた結果、世界的な学力調査において優秀な成績を収めてきたと考えています。特に、一斉指導による効率的な指導が日本の教育レベルを高レベルに保ってきたと言えるのではないかと思います。

 二つ目は、研修の在り方です。

アメリカに「医者はベッドで育つ」という格言があるそうですが、それに例えるならば「教師は学校で育つ」と言えます。日本の教師は、同じ学校の同僚から授業の在り方はもちろんのこと、学級経営や生徒指導、保護者との対応の在り方など、多くのことを学ぶ仕組みになっています。これは職人芸とも言える指導技術ではないかと思います。

 また、教師が任意で加入する民間教育団体は、教師の専門性を高める大きな役割を果たしてきたと思います。民間教育団体に加入している教員は、校内はもとより、それぞれの地域のリーダーとなり、教科等の研究の牽引役を果たしてきました。熱心な教師ほど、身銭を切って研究大会に参加したり、教育書を購入したりしながら力量を高めようと努力してきたと思います。

 三つ目は、地域コミュニティの核としての学校です。

 小学校の行事として長年にわたり続いている運動会や学習発表会などは、学校はもちろんのこと、地域と保護者が一体となり、子どもの育ちを確かめ合う場となっています。地域の活性化に果たしてきた役割には大きいものがあると思います。

 地域における学校は、子どもの教育活動を推進することを基本としていますが、保護者によるPTA活動、地域に施設を開放する少年団活動・社会教育など、地域のスポーツや文化活動を進行してきた重要な場であると思います。近年は、自然災害の際の避難所として利用されることも見逃せなくなっていると思います。

 続いて課題です。二点ほどお話させていただきます。 

 一つ目は、教育問題の多様化・複雑化です。  

 いじめ・不登校などの生徒指導上の問題への対応、貧困・児童虐待などの課題を抱えた家庭への対応、特別な教育的支援を必要とする児童への対応、保護者へのきめ細かな対応など、様々な課題が山積しています。さらには、子どもと向き合う時間の確保や時間外勤務等の縮減、教職員定数の改善、服務規律の徹底なども喫緊の課題となっています。

 二つ目は教育現場の多忙化です。

 道小では、教育の質を高めるためには「授業改善」こそが重要であると主張してきましたが、教材研究のための時間が十分確保できないという問題があります。学校現場の工夫や努力は、ほぼ限界に達しており、教職員定数の改善が強く望まれると、いろいろな会議で言われています。

▼古谷 道中は、結成七十年の節目のときを迎えていますが、結成以来「校長の職能向上」と「北海道の中学校教育の振興」を目的として活動を続けてきました。

 そのときどきの課題と真摯に向き合いながら「社会で自立して生きていく上で必要な学力・体力の向上」や「豊かな心の育成」、そして「いじめ・不登校への対応」は、ここ数年、特に力を入れて取り組んできました。

 ことし十年目を迎えた「全国学力・学習状況調査」では、中学校は確実に全国平均に近づいてきており、私自身は、ほぼ全国水準に到達していると感じています。これは、校長会の使命でもある「教育の質の向上」を図るために、各学校で校長がリーダーシップをとり、地道に取り組んできた成果であると自信をもって言うことができると思います。

 道中では、全国大会が開催された年以外は、毎年研究大会を開催しています。ことしは千歳で大会が開催されました。その中の五つの分科会では、各地区から共同研究した研究内容が提言され、それをもとにしてグループ討議などの研究協議を行いました。

 ここで強調したいことは、それぞれの提言内容が一人の校長の実践ではなく、全道に二十地区ある各地区校長会での共同研究の成果であるということなのです。

 道中は、全日本中学校長会による「全日中教育ビジョン 学校からの教育改革」の内容を踏まえながら、活動方針などに反映して活動してきています。新学習指導要領が示されたこれからも、その姿勢を変えることなく取り組んでいきたいと考えています。

 北海道の最大の特徴は、小規模の学校が広域にあり分散していることです。人口減少が進む中、中学校の統廃合も進んでおり、二十五年度には六百二十四人いた会員が本年度は五百八十六人となり、ここ五年間で三十八校も減少しています。

 そうした中で、教員の資質向上のための研修体制をどう構築するかが大きな課題となっています。また、免許外で指導しなければならない教員が多くいることも、学ぶ権利をもつ生徒にとって権利が保障されていないという現状にもなっていると言えます。

 現行学習指導要領の実施によって、中学校は放課後の時間が少なくなりました。その上、冬季の臨時休校に備えた授業時数の確保などもあり、放課後の時間はますます少なくなり、教員の自校研修の機会は失われてきていると言えます。併せて、部活動の指導に割かれる時間も多く、教員の時間外勤務の縮減は喫緊の課題となっていると思っています。

▼川口 本道の高校教育について、これまでの取組などを含めて三点挙げてみたいと思います。

 一つ目は、「多様化への対応」ということが挙げられます。

 近年は高校への進学率が高くなっており、様々な資質・能力をもった生徒が高校に入学しています。

 このようなことを背景に、高校には普通科と専門学科がありましたが、これに加えて総合学科が設置されました。さらに、中高一貫教育、普通科単位制、北海道独自のフィールド制など、様々なタイプの高校が設置され、生徒が自分に合った学校を選択できるようになりました。

 また、生徒の学習ニーズも様々であり、学校独自で学校設定教科を設定するなど、それぞれの学校で選択科目を幅広く設定しています。

 資格・検定を学校外の学修として単位認定する制度を活用している学校もあり、資格・検定に向けた学習を取り入れているところです。このような取組によって、生徒の興味・関心や進路希望などに対応してきていると思います。

 二つ目は、「生きる力の育成」ということが挙げられます。

 確かな学力の向上では、教科に関する様々な研究会や研修会などがありますし、国や道の研究指定で、学力向上にかかる事業があります。それを活用し、指導内容や方法の工夫がなされています。特に研究指定校では、学習指導の充実だけではなく、教育活動の活性化も図られていると感じています。また、授業評価やシラバスを効果的に活用することで、授業の工夫改善に結びついています。

 豊かな人間性の育成では、いじめへの対応についてですが、各学校がいじめ防止基本方針に基づいて定期的に調査を行うなど、防止に向けた取組や起こった場合の早期対応に努めています。

 また、生徒が望ましい人間関係を構築するために特別活動やボランティア活動に取り組んできています。

さらに、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの協力を得て、教育相談の充実を図ってきています。

 三つ目は、「信頼される学校づくり」が挙げられます。

 学校の教育活動については、ホームページや学校だよりなどを利用して、情報を広く提供することに努めており、学校評議員会や学校評価の実施が制度化され、教育活動の工夫改善に役立ててきたと思います。

 また、インターンシップや職業学科での課題研究、地域で活躍されている方々の進路講話などは、地域社会から協力を得ていることが多く、学校と地域の双方向の連携が一層進められていると感じています。

 こうした取組が生徒にとっても、社会に貢献するという意識を醸成することを含めて、キャリア教育の推進にも結びついています。

 特に、総合学科には「産業社会と人間」という科目があります。そこでの学習内容は、自己の在り方や生き方を考えるモデルとなっていると考えています。

▼宮崎 これまでの教育の成果と課題について、特別支援教育の体制整備と質の充実などについてお話をしたいと思います。成果として三点あります。

 一つ目は、特別支援教育への転換から十年目の節目を迎え、学校数が増加したことです。

 この間、特別支援学校の学校数は六十二校から七十二校へと増加しました。児童生徒数は、一・三倍となりました。中でも、高等部のみを設置する知的障がい単置校は十一校から二十二校へと二倍になっています。

 この傾向は、全国的にも同様で、特別支援教育の対象児童生徒数は、特別支援学校で一・三倍、小・中学校の特別支援学級数は二・三倍、通級による指導では二・三倍となっています。

 背景には、支援の必要な児童生徒への気づきや、一人ひとりに応じた教育を特別支援教育のより専門的な指導の場に求める傾向があるとされていますが、本道においては、身近な地域で専門的な教育を受けられる体制整備の一つの形だととらえています。

 特別支援教育の成果の一つとして、就労実績という視点でみますと、就職希望者の就職内定率は全障がい種を合わせて一〇〇%、卒業者の三〇・六%が就職をしていて、職業教育を担う特別支援学校高等部に限ると四三・六%が雇用契約を結ぶ就職をしています。年々これは増加傾向にあります。

 二つ目は、特別支援学校におけるセンター的機能についてです。

 二十七年度実績では、外部からの来校相談、訪問・助言相談ともに四千件を超えています。また、特別支援教育パートナー・ティーチャー派遣事業では、十九年の事業実施以来、増加し続けており、二十七年度実績では九百十六校で二千七百七十三人に実施しています。これは五年前と比較すると一・五倍であります。いずれも特別支援学校は、各地域での特別支援教育の推進に寄与していると考えています。

 今後の課題は、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じた指導や支援の充実と、地域が一体となった特別支援教育の質的充実を図っていく必要があると考えています。

 一つは、教育的ニーズに応えていくためには、通常学級の教員も含めて専門性の向上が不可欠であり、特別支援学校教諭免許状の保有率向上を図ることが必要です。

 これについては、二十九年度全国八〇・二%の保有率ですが、北海道は九二%の保有率です。三十二年度をめどに一〇〇%を目指していますが、保有率の向上が必要です。

 また、管内、校内を含めて研修を充実していくことが必要です。重度・重複化、多様化への対応として、他機関や専門家との連携・活用を図っていく必要があります。特に盲学校、聾学校は全道域をカバーしていることから、特別支援学校間の連携、センター的機能の一層の発揮が重要と考えています。

 二つ目です。

 この十年を振り返り、推進状況に地域差がみられます。各地域には連携協議会が設置されていますが、十分に機能していない状況もあります。

 各地域、圏域においては、インクルーシブ教育システムの理念や切れ目のない一貫した指導の推進、連続性のある多様な学びの場を確保する視点をもって、基礎的環境の整備を図っていく必要があると考えています。そのため、市町村の特別支援連携協議会の充実に向けた支援が今後も重要と考えています。

▼司会 ただいま四校種の会長さんから、それぞれの校種の立場や、四校種のつながりを見据えての発言がありました。補足と質問、意見があればお願いします。

▼角野 ここ十数年の間に、新たな制度が多々導入されていると思います。中堅教諭等資質向上研修、五年・十五年の経験者研修、教員免許更新制、学校職員人事評価制度、小学校外国語の導入等による授業時数増など、負担が大きくなっていると思います。

 また、長年の課題であるいじめ、不登校問題に加えて、最近では情報モラル教育、小学校ではアレルギー対応など、今日的課題への対策にも追われているのが現状であると思います。

 今、働き方改革と言われていますが、様々な教育改革の話と別々に論議されています。改革・改善について別個に論議されていることが課題であり、併せて話し合いが進めばよいと思います。

▼川口 課題について二点挙げさせていただきます。

 一点目は、情報化への対応です。インターネットの普及が急速に進んでいて、ICTを活用した効果的な指導が必要と考えています。一方で、ネットの普及によって様々なトラブルが起こることが考えられ、こうしたことへのしっかりした対応が必要になってくると考えています。

 また、インターネットの普及にかかわることかもしれませんが、本道の高校生の約半数が読書をしていないという調査結果があります。思考力・判断力・表現力を身に付けるには、言語能力の育成は欠かせないことから、読書活動の推進が課題になってくると考えています。

 二点目は、少子化への対応です。

 これは喫緊の課題で、平成に入ってから、高校に入学する生徒数が年々減少してきています。中学校卒業者数は昭和の終わりに比べ半減しました。このことによって、学校の小規模校化が進み、多様な教育課程の編成が難しい状況になっています。

▼宮崎 高等部の就職状況については、四〇%台を維持していますが、障がい者の雇用率と比例していて、法的に障害者法定雇用率の引き上げに伴い、就職率も高くなる状況にあります。また、地域性が大変大きく、高校にも関連がありますが、就労を継続することが大変難しいという、現代の子どもたちの志向も含めて感じています。

 特別支援学校では、ミスマッチで離職をするというより、生徒の特性を理解して担当している方の支援が途切れたり、配置が替わったりするなど、環境の変化が大きく影響しています。

 今後は小学校、中学校、高校のキャリア教育と連動することが重要であると感じています。

▼古谷 部活動について話をします。

 私自身、部活動に長年携わってきましたが、先日新聞に、静岡市では部活動実施日を平日は火・水・金曜日と、土・日いずれか一日の四日間に決めるという記事が掲載されていました。

部活動は、生徒たちの自主的な活動に、教員がほぼボランティアでかかわる活動だと思っています。教員の勤務時間の縮減はもちろん大切なのですが、その視点のみで話が進んでいて、果たしてそれでよいのかという疑問を私は感じています。

 社会全体として部活動の在り方について議論することはもちろん大切だと思いますが、「部活動をやりたい」という生徒たちの思いもかなえてあげられるシステムを構築していかなければ、課題は解決しないと感じています。今後、部活動の時間が少なくなってきて、「それなら部活動をやらない」という流れにはならないようにすることが、大きな課題であると思います。

▼司会 ありがとうございます。補足、課題をいただきましたが、ご質問があればお願いします。

▼古谷 先ほど、川口会長、宮崎会長から研修の話が話題になりましたが、高校や特別支援学校での教員の校内研修の仕方について、具体的に知りたいので、情報をお願いします。

▼川口 高校の校内研修については、各学校で年に数回くらいテーマを決めて計画的に行っており、外部講師による講演の場合もあります。

 本校でも先日、研修でテーマについてグループ協議を取り入れました。課題解決に向けて意見が出されたところです。

 また、まとまった時間を設定する以外にも、伝えたいことなどを、朝の打ち合わせの短い時間に、配布した資料を配って説明するなどで、情報の共有を図っている場合もあります。

▼宮崎  校内研修については、特別支援学校にも研究部が校務分掌として、あります。

 月に二回程度、定期的に研究日が設定され、学校課題に対応した研究を進めています。それから、夏季休業、冬季休業の研修については、各障がい種で専門的な研修を学校単位で進めています。また、管内、全道域でも呼びかけてやっています。

 肢体不自由校長会では「専門性向上セミナー」を主催し、国内から著名な方を招いて実施しているほか、各学校、圏域で活躍している職員を講師に招くなど、大きく二本の柱で進めています。

▼司会 ありがとうございました。

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座談会古谷会長
道中学校長会・古谷会長
座談会川口会長
道高校長協会・川口会長
座談会宮崎会長
道特別支援学校長会・宮崎会長

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