札幌市の長谷川雅英教育長 新任インタビュー “チーム教育委員会”で全力尽くす 学校・園の独自性十分生かして
(市町村 2018-07-05付)

札幌市教委・長谷川雅英教育長インタビュー
インタビューに答える札幌市教委の長谷川雅英教育長

 五月二十五日付で、長谷川雅英氏が札幌市教委教育長に就任した。本紙では、長谷川教育長に、就任の抱負や教育方針についてインタビューした。長谷川教育長は、子どもたちに対し「しっかり学び、しっかり遊び、しっかり食べて、学ぶ力や豊かな心、健やかな身体を伸び伸びと育んでほしい」と期待。外国語活動や道徳教育の充実、子どもたちの発達の支援など、新学習指導要領に関する方針を示したほか「札幌のまちがたくさんの子どもの笑顔であふれるよう、市教委が一丸となって、まさに“チーム教育委員会”として全力を尽くしていく」と意気込みを語った。

―教育長就任に当たって、抱負をお聞かせください

 今日、少子高齢化の進行、グローバル化・情報化の進展など、社会情勢が大きく変化し、先行きが不透明な時代となっている。

 札幌の子どもたちが将来、厳しい状況に置かれても、しなやかに、たくましく生きていけるよう、市教委では、札幌の教育が目指す人間像として「自立した札幌人」を掲げ、様々な教育施策に取り組んでいる。

 また、いじめや不登校、ひきこもりの対応のほか、障がいのある子どもたちへのサポートが重要。こうした困りを抱えた子どもたちに対する支援を早期に、迅速に行っていくため、市教委はもとより、これまで以上に家庭や地域、関係機関と連携を密にし、取組を進めていく。

 さらには、学校が抱える課題が複雑化・多様化する中、教員の負担を軽減するとともに、子どもと向き合う時間を確保していかなければならない。様々なスタッフの配置やネットワークなども含め、チーム学校の在り方、その真価が、今、問われていると思う。

 札幌のまちが、たくさんの子どもの笑顔であふれるよう、市教委が一丸となって、まさに「チーム教育委員会」として、全力を尽くしていく。

―教育推進の目標「未来を切り拓く人間性豊かで創造性あふれる自立した札幌人」について、考えや各学校・園に呼びかけたいことは

 この目標の実現に向けて、「自ら学び、共に生きる力を培う学びの推進」「多様な学びを支える環境の充実」「市民ぐるみで支え合う仕組みづくり」の三つの基本的方向性を大切にしながら教育政策を展開していく。

 また、この目標をしっかりと理解した上で、そこにつなげていくために、各学校・園において「今、何をなさなければいけないのか」をしっかりと考えてもらいたい。

 各学校・園の自主性、独自性を十分に生かし、市教委と学校・園だけでなく、家庭や地域などと連携を密にしながら、この目標の実現に向けて取組を進めていく必要がある。

―新学習指導要領に関する考えをお聞かせください

 学習指導要領には、学校教育を通じて育む「生きる力」について、その資質・能力を明確にし、教科などを学ぶ意義を大切にしつつ、横断的な視点で育んでいくこと、社会とのつながりや各学校の特色づくり、子どもたち一人ひとりの豊かな学びの実現に向けた教育改善の軸としての役割がある。

 今回の学習指導要領の改訂では、教育内容の主な改善事項のほか、重要事項の中に「外国語教育の充実」「道徳教育の充実」「子どもたちの発達の支援」が位置付けられている。

 小学校外国語に対する取組について。

 子どもが外国語でコミュニケーションすることの楽しさを感じられるよう、必要な教員研修を行うなど、円滑な教科化への準備を進めている。

 時数増への対応については、市小学校長会とも連携しながら、円滑な実施に向け、札幌における小学校外国語の指導時数の目安を示している。教科化に向けては、各小学校において英語専門教師を位置付けている。

 併せて、指導者となる教員に向けては、移行期間における小学校教育課程編成の手引を作成したほか、移行期間における指導時期や指導内容についても、指導資料を作成・配布した。

 道徳に対する取組について。

 小学校においては本年度から、中学校においては来年度から「特別の教科 道徳」が始まり、教科書を使った学習や、適切な評価を行っていくことが求められる。

 道徳科の確実な実施に向け、教員向けの研修を充実させているほか、授業の進め方に関する資料を作成し配布するなどして、各学校を支援していく。

 具体的には、毎年二回、各学校における担当者を集め、「考え、議論する道徳」の授業構築や、適切な評価などについて研修を行い、各学校での適切な取組を推進している。

 また、採択した教科書に基づき、授業の進め方に関する資料を全学年の全授業について作成・配布し、道徳科の適切な学習が構築されるよう取り組むとともに、小・中学校各五校を推進校に指定し、教科書(中学校においては読み物資料)を活用した道徳科の授業を公開している。

 特別支援教育に対する取組について。

 「共生社会」の実現に向けて、障がいのある子どもの自立と社会参加を目指し、可能な限り障がいのない子どもとともに学ぶことに配慮している。

 また、特別な教育的支援を必要とする子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援を行っている。

 具体的には、小・中学校の通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対して、学びのサポーターが学校生活や学習の支援を行っている。

 また、市立豊成養護学校や市立北翔養護学校では、看護師を配置し、医療的ケアが必要な児童生徒にも対応している。

―教育課題と感じていることをお聞かせください

 子どもたちを取り巻く状況や保護者・社会からの要望が多様化・複雑化する中で、教員の職務は多岐にわたっていることに加え、教育が直面する課題も多種多様となり、教員にも様々な対応が求められているなど、時間的・精神的負担が増大している。教員が子どもと向き合う時間を確保できるよう、必要な取組を行っていきたい。

 昨年十二月に文部科学省が取りまとめた学校における働き方改革に関する緊急対策では、学校や教員が担ってきた業務を再検討し、地域・保護者との連携強化や、教員の勤務時間に関する意識改革などのため、勤務時間把握の必要性が掲げられている。

 また、部活動については、外部人材を積極的に活用することや、適切な在り方について検討するよう記されている。

 市教委としては、すでに様々な部門で外部人材を活用するとともに、部活動についても、休養日を週二日設けることを基本とした活動基準を設定するなど、取組を進めている。

 今後も事務局全体が一丸となって、この課題解決に向けて取り組んでいきたい。

▽困りを抱えた子どもへの対応

 いじめや不登校などの対応や、障がいのある子どもたちへのサポートも重要。こうした困りを抱えた子どもたちに対する支援を関係機関と横断的に進めていくことが必要と考えている。

 いじめの問題は、決して許されるべきものではない。しかし、子どもたちが人間性・社会性を身に付けていく成長の過程において、すべての子どもに起こり得る問題でもある。すべての教職員の力を結集し、みんなが全力で取り組んでいかなければならない。

 具体的には、本年度スクールソーシャルワーカーを拡充し、これまでの十人から十七人に増員した。そのうち五人は巡回型のSSWとして小学校を巡回し、困りを抱える子どもや家庭を早期に把握し、支援につなげる取組を始めた。

 また、ネットパトロールに加え、子どもが安全にインターネットを利用できるよう取組を進めるほか、北海道大学との自殺予防対策共同研究事業の成果をガイドブックにまとめるなどして教職員の啓発を行う。

―子どもたちに期待すること、伝えたいことは

 子どもたちには、厳しい状況に置かれても、しなやかにたくましく生きていける力を身に付けてもらいたい。

 市も含め、日本の子どもは諸外国の子どもに比べて、自己肯定感が低いと言われている。「いいぞ、自分」という気持ち、自分が大切だと思える心をもってほしい。

 また、「困りごとがあっても、相談しない」子どもたちが少なからずいる。「自分は決して一人じゃない、周りには助けてくれる人がたくさんいる」ということに気づいてほしい。そして、一人で抱え込まず、我慢しないで相談できる勇気をもってほしいと思う。

 自然の豊かなこの札幌のまちで、しっかり学び、しっかり遊び、しっかり食べて、「学ぶ力」「豊かな心」「健やかな身体」を伸び伸びと育んでほしい。

―モットーや仕事をする上で大切にしていることは

 「凡事徹底。平凡を非凡に極める」。平凡なことを徹底して行うためには、物事を常に追求し続けていかなくてはならない。与えられた仕事を漫然と進めるのではなく、その内容や方法について、本当に必要なのか、このままでいいのか、もっといいものはないのか、常に「なぜ」ということを頭に置きながら、職務に当たることを心がけている。

 そして何よりも、明るい職場づくりを大切にしている。

 子どもたちの笑顔のためには、家族、教職員の笑顔が欠くことができない。そのためには、各学校・園を支える市教委全体が笑顔に包まれていなくてはならないと思っている。

―ありがとうございました

 長谷川 雅英氏(はせがわ・まさひで)

 昭和58年中央大商学部卒。平成18年東区市民部札苗まちづくりセンター所長、20年保健福祉局保健福祉部高齢福祉課長、23年教育委員会生涯学習部総務課長、25年総務局行政部連絡調整担当部長、27年教育委員会生涯学習部長、28年保健福祉局障がい保健福祉担当局長、29年保健福祉局長、30年教育委員会教育次長を歴任した。昭和33年8月28日生まれ、59歳。札幌市出身。

(市町村 2018-07-05付)

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