新春インタビュー 札幌市教委 長谷川雅英教育長に聞く(札幌市 2021-01-01付)
札幌市教委・長谷川雅英教育長
新年を迎え、札幌市教委の長谷川雅英教育長に市内教育の現状や課題、新型コロナウイルス感染症への対応、国が進めるGIGAスクール構想における方向性などを聞いた。
◆夜間中学 生徒の多様性尊重
―札幌市の教育の現状と課題、今後の対応について
昨年、新型コロナウイルス感染症対策のため、長期にわたる臨時休業や分散登校など、これまでに経験したことのない対応を余儀なくされた。学校を支えていただいている多くの皆さんには、子どもたちの学びを継続できるよう、様々な面で学校運営に力添えいただいたことにあらためて心からお礼申し上げる。
札幌市においては、子どもたちの心身のケアに取り組むとともに、放課後等における学習サポートの支援や、感染症対策による学級閉鎖時において、インターネット環境がない家庭に端末を貸し出すなど、オンラインによる学習支援の環境整備などを行っている。
今後も、冬季に流行する季節性インフルエンザ対策も見据えながら、各学校において、引き続き、健康管理や手洗い、咳エチケットなどの感染対策を一層徹底しながら、豊かな学びを継続できるよう取り組んでいく。
教員の長時間労働については、かねてから解決すべき課題と考えているが、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、学校では、日常的な消毒作業等の感染症対策のための取組が求められており、教員の負担は例年より増している。
一方で、感染の拡大によって一斉休業を行ったことで、これまで行ってきた行事や業務等の見直しを行わなければならない状況となり、教員の働き方を見直すきっかけにもなったと考えている。
昨年6月、学校における業務改善の取組の方向性を示し、教員の長時間労働解消を目指すため、「学校における働き方改革に向けて(指針)」を策定し、「勤務時間を意識した働き方」「学校行事・業務の見直し」「チーム学校の体制整備」の3つを重点取組項目として掲げた。
教育委員会として、この指針を実効性のあるものとするべく「教育課程」「学校施設」「業務効率」の3つのテーマごとにワーキンググループを設置して検討を進めている。
具体的には、教員の意識改革に向けた研修等の実施、学校における徴収業務の見直し、働き方改革に資する優れた学校の取組に対する表彰制度の創設など、既存の枠にとらわれることなく、幅広い検討を行い、鋭意取組を進めていく考えである。
続いて、令和4年度に開校を目指している公立夜間中学についてであるが、先月に設置基本方針案を公表した。
昨年の1、2月にはアンケート調査を実施し、調査結果からは、高齢の方だけではなく、不登校経験者や外国籍の方といった幅広い世代などにも、それぞれ一定のニーズがあることが分かった。
また、世代などによって、公立夜間中学に求める内容が多様であることも分かった。そのため、基本方針では、それぞれのニーズに合った学びが実現できるように、目指す姿を「生徒の誰もが安心して、学びの主役となれる多様性を尊重する学校」とした。
その実現に向け、公立夜間中学として全国に先駆けて専属の学校長を配置し、校長のリーダーシップのもと、教職員が一丸となって、生徒一人ひとりの状況に応じた学びを充実させることで、誰一人取り残すことのない、学ぶ喜びに満ちた学校を創り上げていきたい。
札幌市に設置される予定の公立夜間中学は、東北以北において初めてとなる。開校まで、あと1年と少しとなった。
ことしは市民説明会を開くなど、札幌市ならではの公立夜間中学をしっかりと周知し、生徒募集を開始したい。この学校を必要とする生徒のためにも、望ましい学校づくりに努めていく。
最後になるが、教育センター教育相談室では、主に不登校や発達の心配にかかる相談を行ってきた。近年は相談件数が増加しており、複数の施設で対応できるよう整備・拡充を進めてきた。
一方、これまで各学校で行われてきた帰国・外国人児童生徒の日本語や日本の学校への適応に関する相談については、今後ますます増えていくことが予想され、相談体制を整えることが求められている。
また、日本語の習得が進まない背景には、集中力や理解力など子どもの発達面での特性が関連していることがあり、このような子どもの困りの複雑化・多様化した状況に対応するため、4年度に、現在の教育相談室を発展させ、学びの支援総合センターを開設させるべく準備を進めている。
ここでは、従来の不登校や発達にかかる相談に加え、日本語の困りに対するアセスメント機能や支援機関との連携を強化し、総合的に対応できる相談窓口としての役割を担うことを目指しており、相談や支援の充実に努めることによって、困りを感じていた子どもたちが安心して学校生活を送ることができるよう、相談機関としての質的な向上を図ってまいりたい。
◆コーディネーター配置拡充
―小・中学校の学習指導要領が改訂され、2年度から小学校で、3年度から中学校で全面実施される。市教委として、今後どのように取り組んでいくか
新型コロナウイルスの感染拡大以降、先行きのみえない状況が続く中、札幌市立学校においては、この間、校長先生方のリーダーシップと教職員の創意工夫によって、一つ一つの教育活動の意義や目標をとらえ直し、授業や行事等の実施方法を工夫したり、場合によっては延期や中止を決断したりするなど、この状況に柔軟に対処いただいている。
コロナ禍においても、新学習指導要領に示された「知識および技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の育成すべき3つの資質・能力を着実に育むためには、学校が目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくカリキュラム・マネジメントがこれまで以上に重要となる。
各学校がカリキュラム・マネジメントを行う上で、特に大切な視点が2つあると考える。
1つ目は、小中一貫した教育の推進である。
先が見通せない社会で生きて働く資質・能力を義務教育段階で身に付けさせるためには、小学校と中学校の教職員が校種の違いを超えて互いの教育活動を理解し合い、9年間の見通しをもって教育活動を一貫させていく必要がある。
札幌市においては、昨年2月に市小中一貫した教育基本方針を策定し、中学校区を基本とした2~5校程度の小・中学校をパートナー校として指定した。
本年度、その半数に当たる48中学校区に小中一貫した教育コーディネーターを配置して、管理職同士の打ち合わせやパートナー校合同の研修会を企画・運営し、9年間の子どもの学びをつなぐ小中一貫した教育を推進してきている。
4月からは、すべてのパートナー校へとコーディネーターの配置を拡充し、小・中学校の教職員が互いに顔の見える関係を構築するとともに、課題探究的な学習と継続した子ども理解を2つの柱とした、札幌ならではの小中一貫した教育の一層の推進を図っていく。
2つ目は、ICTの活用である。
4月以降、全児童生徒が活用する1人1台端末は、これまで札幌市が子どもの学ぶ力を高めるために進めてきた課題探究的な学習の一層の推進の一助となるものと考えている。
本年度中にすべての小・中学校に整備が完了する予定であるタブレット端末は、授業の場面において、例えば、児童生徒が学習の課題を自ら把握すること、課題の解決に向けた見通しをもつこと、仲間と協働的に課題の解決に向かい多面的・多角的に考察すること、振り返りから学びのよさを実感することなど、探究的な学びをより一層推進するためのツールとなるものである。
札幌市においては、すでに昨年10月から、小学校、中学校、高校各1校ずつを1人1台端末導入にかかるモデル校に指定して効果的な活用方法の開発に向けて研究を進めてきており、その成果は『GIGAスクール通信』として随時発信している。
また、現在、中学校の学習指導要領全面実施に向け『札幌市教育課程編成の手引―中学校編』を作成中であり、新しく採択した中学校の教科書に沿った年間指導計画例などを示すほか、各教科等におけるICTを活用した実践例も多く掲載し、2月末には学校に配布する予定である。
教育現場にとって、1人1台端末の導入は大きな変革ではあるが、教職員や児童生徒が端末を使いこなし、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら問題を解決する資質や能力等の学ぶ力を着実に育成していきたいと考えている。
3年も、依然として感染症の状況は先の見通せない状況であるが、そのような中においても新学習指導要領の趣旨を踏まえつつ、子どもの学びを止めることなく教育の質を維持し、“自立した札幌人”の育成に向けて力強く進んでいく所存である。
◆ICTで途切れのない学び
―国のGIGAスクール構想の方向性
GIGAスクール構想は、児童生徒1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することによって、新しい時代の教育に必要な、子どもたち一人ひとりの個別最適化と、創造性を育む教育を実現するとされている。
例えば、一人ひとりの考えを互いにリアルタイムで共有し、意見交換する協働的な学びや、離れた場所にいる専門家と話をするなど、学習の幅を広げる遠隔教育等が可能になる。
市では、札幌開成中等教育学校において平成27年度から校内全域の無線LAN環境による1人1台タブレット端末の活用を始めており、インターネット上での調べ学習や、生徒同士のグループワークが活発になるなど、タブレット端末がいつでもどこでも利用可能となったことで、自由かつ主体的に学習に取り組む姿勢や、プレゼンテーション能力等が培われてきている。また、タブレット端末は、臨時休業等の緊急時や、登校が困難な子どもの家庭学習にも活用できる。
市では、昨年の新型コロナウイルス感染症の影響による一斉休業の際、学習支援として、ホームページに定期的に学習課題を掲載するなど、ICTを活用した学習サポートを実施した。
双方向型のオンラインツールによるテレビ会議では、家庭で過ごす時間が長かった子どもたちが、教員や友人との対話を通じて、あらためて人とのかかわりの大切さを実感したほか、学ぶ意欲の向上にもつながるなどの効果があった。
そして8月には、家庭に通信機器がない家庭向けに約4000台のタブレット端末とモバイルルーターを整備し、その後の臨時休業の際にも活用している。
こうしたICTを活用した支援は、長期療養や基礎疾患によって登校できない状況にある子どもたちにとっても、途切れのない学びを実現する上で有効であると考えている。
このたびのGIGAスクール構想では、令和2年度に、校内通信ネットワーク環境や児童生徒用タブレット端末の整備を行う場合、国庫補助の対象となることから、こうした活用を全小・中学校に普及できるよい機会となる。
ただし、単に環境整備を行うだけでは活用は進まない。市では、タブレット端末が学校で活用されるため、主に3つの取組を行う。
1点目は、モデル校における実践研究である。
小学校・中学校・高校各1校をモデル校とし、昨年10月から、授業以外の日常的な生活場面における活用も試行しているほか、児童生徒がタブレット端末を使用する際のルール、活用を促進するための校内組織や研修の行い方などについて研究を進めている。
研究成果については、今年度内に作成するタブレット端末活用のガイドラインに反映させるとともに、年度末に全学校を対象とした1人1台端末の導入に向けた説明会を予定しており、その中で、モデル校による実践発表も行い、広く共有する。
2点目は、ICT活用推進担当者を中心とした推進体制の構築である。
具体的には、各校で校内での旗振り役となるICT活用推進担当者を選んでもらい、すべての学校の担当者を対象とした研修を実施する。
研修では、教育現場において有効とされる学習用ツールの操作および活用方法を学ぶ。担当者がこの研修で学んだ内容について、校内研修等で普及させることによって、すべての教職員が新たなICT環境の活用について理解を深め、積極的に取り組む環境を整える。
3点目は、GIGAスクールサポーターの派遣である。
これは、すべての児童生徒が1人1台の端末を活用する学習環境や、今回導入するタブレット端末およびソフトウェアの操作については、学校にとって初めての経験であるため、ICTに関する専門性を有する外部の人材を各学校に派遣するものである。
具体的な支援としては、この1月から各学校を訪問し、教員向けに、基本的操作およびソフトウェアの活用方法について、ICT活用推進担当者と共に、校内研修によって普及を図るほか、個別の相談対応などを行う。
タブレット端末は、あくまで黒板やノート、鉛筆と同様、“道具”の1つであると認識しており、これらの取組を通じて有効に活用していくことが、重要と考えている。
市としては、これまでの教育実践の蓄積とICTを効果的に組み合わせることによって、学習活動の一層の充実を図ることを目指したい。
◆「まほうのかいわ」合言葉に
―学校や関係機関、保護者、子どもたちに向けたメッセージ
昨年は、コロナ禍で大変な年ではあったが、勇気づけられる、とてもうれしいニュースがいくつもあった。中でも、水泳の池江璃花子選手が、白血病を克服し、8月に行われた東京都の大会で、1年7ヵ月ぶりにレース復帰を果たした。また、9月の全米オープンテニスでは、しばらく不調が続いていた大坂なおみ選手が、2度目の優勝を飾った。
そして、11月、宇宙飛行士の野口聡一さんを乗せたアメリカの民間宇宙船クールドラゴンが、見事、打ち上げに成功した。この宇宙船は、新型コロナウイルスなど、様々な困難な状況に打ち勝つという意味も込めて、英語で「回復力」を意味する「レジリエンス」と命名された。
教育の現場においても、このレジリエンスは重要視されており、このような時期だからこそ、子どもたちには、困難な状況や逆境に陥っても、しなやかに受け止め、回復する力、逆境に負けない力をしっかりと育み、自分たちが感じたこと、考えたこと、学んだことを大切にして、それぞれの目標や夢について考えてもらいたい。
また、保護者には、学校と連携を図りながら、子どもたちの学校生活を支えていただいた「学ぶ力」育成に向けたポイントを示した「まほうのかいわ」を合言葉に、目標や夢に向かって挑戦する子どもたちに寄り添い、背中を押していただければと思う。
学校においては、新型コロナウイルス感染症も含め、様々な対応が求められる中、教職員が情熱をもって子どもたちと向き合っていただいていることにあらためて心から感謝申し上げる。今後も、家庭や地域の方々とともに、子どもたちの豊かな学びを継続できるよう、引き続き、取り組んでいただきたい。
最後に、札幌のすべての学校・園が、そして、このまちが、たくさんの子どもたちの笑顔であふれるよう、皆さんと一緒に頑張りたいと思っているので、引き続き変わらぬ理解と協力をお願いする。
(札幌市 2021-01-01付)
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