文科省 紋別市教委が実績報告書 学校図書館振興調査研究 授業での活用 2.5倍に
(市町村 2021-04-08付)

 【網走発】紋別市教委は、文部科学省委託「学校図書館の振興に向けた調査研究」の実績報告書をまとめた。南丘小学校を学校図書館推進協力校とし、「情報活用に関する指導の体系化」「学校司書の常駐化」「コミュニティ・スクールの導入による学校図書館支援」の3点について取組を推進。図書貸出数が前年度比51%増の4898冊、学校図書館を授業で活用した回数が146%増の202回となるなどの成果が表れた。報告書の概要はつぎのとおり。

【事業の趣旨および概要】

 人口集積が低く、民間の営利事業が成立しづらい北海道においては、首都圏などと比べ、子どもの学習の機会や学力について、保護者や行政に依存する割合が高い。このため、保護者の所得や地域の教育環境の差が子どもの学力や学ぶ意欲にも、より大きな影響を与えていると考えられる。

 オホーツク管内にある紋別市は、平成元年にJRが廃止となり、地域振興のために誘致した私立大学も撤退。将来人口予測では今後20年余りで人口が半減するとされ、同じ管内にある他市と比べても最も厳しい予測となっている。

 こうした中、全国学力・学習状況調査結果では、市の平均正答率は道内の市の中で最低水準にあり、定住促進の障害や転勤族の単身赴任につながっているとの指摘もある。このため、将来の地域を担う人材育成の観点から、地域の教育環境の改善や児童生徒の学力向上は、喫緊の課題となっている。

 一方、本事業の推進協力校である南丘小学校は、過去3年間、学力向上や不登校・問題行動等に対応するため、学校図書館の整備・活用を学校経営の主軸とし、諸課題の包括的解決を図ってきた。その結果、全国学力・学習状況調査では市内小・中学校9校のうち、唯一、全国平均を上回る結果を出している。

 南丘小では、平成30年度には文科省「学校図書館ガイドラインを踏まえた学校図書館の利活用にかかる調査研究事業」の「取組開発型」、また、翌令和元年度には、児童の進学先となる紋別中学校を連携校に加え、事業の「取組拡充型」の指定を受け、学校図書館管理システムを導入、台帳の電子化を図り、蔵書や利用の実態を数値で把握できるようにするとともに、読書活動の推進や授業での学校図書館の活用を進めてきた。

 2年度には、学校司書を常駐させるとともに、蔵書の増加・更新を進め、学習・情報センター機能を充実させ、情報活用教育に関する教育課程を見直し、調べ方・学び方を身に付けさせる指導を行った。また、コミュニティ・スクールを導入し、学校図書館にコミュニティルームを併設することで、学校図書館を核にした地域との協働による教育づくりを推進する。

 これらの取組を行う中で、引き続き学校図書館ガイドラインに沿った学校図書館の整備・利活用を進め、学校図書館長(校長)、司書教諭、学校司書、ボランティアの業務分担、心の居場所としての空間デザイン等を行い、市における学校図書館整備の在り方や活用法の研究・普及を図る。

【実績等の概要】

▼企画運営委員会における討議事項

▽内容

・企画運営委員会の趣旨・目的、事業の実施体制

・市教委と市立図書館の支援体制

・南丘小図書館の現状および課題

・事業実施内容

▽事業への反映実績

・学校見学会の実施(学校課題の包括的解決、子どもの学びや教員の働き方の変容)

・学校司書の情報管理(学校司書の役割、学校運営への参画)

・巡回学校司書の体制(学校司書の研修、中学校の活用推進)

・コミュニティ・スクール(学校図書館への地域参加促進)

・授業への利活用(主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善)

・分類別蔵書構成(不足区分の冊数増、相互貸借の促進)

▽事業成果および課題の検証・分析の実績

・学校図書館利用の増加(図書貸出数、授業で活用した回数)

・言語能力の向上(学力調査、学校評価、アンケート)

・働き方改革の推進(レファレンス件数)

【事業開始当初に設定した課題および本事業の目的】

▼課題

▽資料に関して

・図書標準が未達成。2年1月末現在75・3%(88・4%に改善)

・分類ごとの偏りが著しい。9類が多く、0類が特に少ない。調べ方の指導が困難(SLA標準配分比率をもとに学校図書館カルテを作成し、偏りを是正)

・蔵書の鮮度が低い。児童に誤った情報を与える(192冊廃棄)

・調べ学習など、資料が学習課題の解決に対応できない(ポプラディア、統計資料、地域資料の発注、授業支援図書の更新)

・新聞・雑誌の購入費が公費で賄われていない。PTA予算から支出(新聞は公費化)

▽施設に関して(11月学校図書館リフォーム完了。情報活用に関する年間指導計画の整備)

・学校図書館のスペースが狭い。図書標準を達成しようとすると書架が不足する

・パソコン室と離れており、メディアセンターとしての一貫した情報活用教育が困難

・学習スペースが狭い。隣の図工室を調べ学習用ワークスペースに使用

・くつろぎのスペースがない

▽人的資源に関して(学校司書常駐化)

・学校司書が配置されていない。市立図書館の巡回司書が週1回程度来校。2年度から学校司書常駐予定

・保護者による読み聞かせボランティアの活動が自分の子どもの卒業などによる会員減少のため休止に

・司書教諭は発令されているが、専任ではない。2年度は担任業務との兼務

▽利用に関して(学校司書常駐化によって利用増)

・開館時間が限られ、利用の妨げになっている。週3回、中休み・昼休み開館

・貸し出し冊数の個人差・学年差が大きい

・授業での学校図書館の利用が増えてきてはいるものの、一部の教科領域に限られる

・家庭における読書に結び付いていない

▼目的

▽学校司書の常駐や蔵書の増加・更新によって学習・情報センターとしての機能を充実させる

▽情報活用教育に関する教育課程を見直し、調べ方・学び方を身に付けさせる指導の充実を図る

▽学校図書館にコミュニティルームを併設し、学校図書館を核とした地域との協働による教育づくりを推進する

▽市における学校図書館整備の在り方や活用法の研究・普及を図る

【実施内容(実績)】

▼情報活用に関する指導の体系化

▽情報活用教育に関する年間指導計画の作成

▽学校図書館経営計画に基づいた授業における学校図書館の利用促進

▽学習に必要な資料の収集

▼学校司書の常駐化

▽学校司書を常駐させ、児童の在校時間中の開館時間を大幅に拡大、読書活動の一層の推進

▽新しい年間指導計画を踏まえたパスファインダーの作成 資料の収集整理

▽レファレンスの実施による学習支援

▽近隣校・市立図書館との資料の相互貸借に関する実務

▽学校図書館見学会の実施 保護者・地域向けの説明会・支援要請

▽児童会と連携した学校図書館関連企画の実施 図書館祭り、校内放送での本や新聞の活用等

▼コミュニティ・スクール導入による学校図書館支援

▽学校図書館のスペース拡大。学校図書館・廊下・階段・階下教室を含めた空間を扉で仕切り、分離する。その中にコミュニティルームを設け、地域のサロン、読み聞かせ、絵本・低学年向け図書コーナー、ボランティア等活動の場とする

▽地元建設会社の指導に基づく農園活動の実施、その売上金による資料の充実

▽地元バス会社との共催による読書感想画コンクール「走る作品展」の実施、読書の動機付け(入賞作品を路線バスの広告スペースに展示する)

▽隣接高校総合ビジネス科課題研究として「読書通帳」デザイン依頼

【事業実施によって得られた効果・成果】

▼直接効果

▽授業における学校図書館の利用の増加

▽児童の読書量の増加

▽学校図書館に関する地域住民等の参加の増加

▼間接効果(結果として期待されること)

▽授業の質の向上(主体的・対話的で深い学びの実現)、全国水準の学力維持

▽心の教育の充実(言語能力の向上、相互理解の促進によるいじめ・不登校・問題行動の防止)

▽学校教育への保護者・地域住民の理解促進、教員の超過勤務の縮減(学校司書配置による資料収集等の時間の短縮)

【子どもの読書活動に関する測定指標・測定方法・結果】

▼従前から測定している指標

▽図書貸出数=元年度3240冊→2年度(3年2月末現在)4898冊(51%増加)

▽学校図書館を授業で活用した回数=30年度41回→元年度82回→2年度(3年2月末現在)202回(146%増加)

▽家庭における不読率=29年度33%→30年度33%→元年度27%→2年度24%(3%減少)

▽1日の平均読書時間=元年度21分→2年度26分(20%増加)

▼新たに測定する指標

▽学年別月平均貸出冊数=実施後目標低学年20冊・中学年10冊・高学年5冊→2年度(3年1月末現在)低学年124冊・中学年58冊・高学年40冊

▽4年生以上で新聞を読む児童の割合=実施後目標毎日読む30%・週1~2回読む60%→2年度(3年2月末現在)毎日読む11%・週1~2回読む55%

【事業成果の普及】

▼報告書の配布

・配布先=市内小・中学校、高校、オホーツク教育局、網走地方研修センター、各市町村教委・公共図書館、道立図書館

▼市のホームページへの掲載

(市町村 2021-04-08付)

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