新春インタビュー 北教組・木下真一中央執行委員長に聞く
(関係団体 2022-01-01付)

北教組・インタビュー
北教組・木下真一中央執行委員長

◆超勤・多忙化解消へ働きかけ強く

 ―学校現場の超勤多忙化の現状と教育条件・勤務条件改善に向けた北教組の取組についてお聞かせください。

 私たち教職員は、日々、子どもたちのよろこびや嬉しさで輝く笑顔に励まされ、時間は限られている中で自らの生活の犠牲を前提に教育研究・実践励んでいます。多くの校長・教育委員会の方々も何とか超勤を減らしたいとして努力していますが、教職員個人や地方教育行政の力では限界があることが明らかになっています。

 私たち北教組は、個々人の勤務労働条件を守ることが大切であるとの考えはこれまで以上に強くなっています。さらに、教員不足など学校教育の行く末を案じてしまう現状があることから、教育関係者だけではなく、地域・保護者の皆さんにも協力をいただき、何とか改善しなければならないと考えています。

 そのため、北教組は昨年も9月期に勤務実態記録に取り組み、全道の教職員の勤務実態を明らかにするとともに、一昨年実施した同様の調査と比較を行い、改正給特法・条例施行後の超勤多忙化解消に必要な改善点を明らかにすることとしました。

 札幌市を除き6000人を超える組合員・教職員に協力を得ました。感謝です。組合員もそうではない方も業務が錯綜(さくそう)する中で協力いただいたことは、ゆとりのあるその中で、教育実践を行いたいとの強い気持ちの表れとして重く受け止めなければなりません。

 さて、結果ですが、私たちは超勤時間、休憩時間中業務、持ち帰り業務の3つについて記録しています。この3つの合計ですと、改正給特法・条例に基づく時間外在校等時間上限の月45時間については、小学校46・1%、中学校50・4%が上限を超え、持ち帰り仕事も合わせると小学校62・8%、中学校59・5%が超えている実態にあります。

 さらに、過労死レベル(月80時間以上の超過勤務)を超えた割合は、小学校・中学校合わせると7・7%、持ち帰り仕事を含めると20・2%にもなっています。2021年9月は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言中でしたので、部活動・学校行事に大きな制限があり、20年度と比べると時間外在校等時間・上限超えの割合は減っているものの依然として約半数が上限を超えています。

 感染症が収束に向かうことを願っていますが、抜本的対策・法改正を国レベルで実施しなければいけません。道教委の北海道公立学校職員の過重労働による健康障害防止対策取扱要領はありますが、2割が過労死ライン超えということは、教職員を守り切れていない、教育実践に影響を与えていることははっきりしています。

 また、時間外在校等時間には、休憩時間や週休日・休日に採点業務や部活動などの校務を行った時間は含まれていますが、多くの学校では把握されていません。そのため、教育委員会・校長が集計している時間外在校等時間は実態と異なっています。

 ある市町村が設置する出退勤管理システムに休憩時間の業務が反映されているかどうかについては、「されている」11校、「されていない」28校と同じ自治体の中でも学校間に認識の差がはっきり出ていることにも理由があると考えられます。

 学校・教育現場からの声はどうなっているかといえば、昨年10月下旬に開催された教育研究集会において、全道各地の働き方改革の実態が報告されています。

 その中で、やはり組合員の皆さんからは、新型コロナウイルス感染症によって19年度末からの全国一斉休校、20年度開始早々の北海道緊急事態宣言を受けての休校措置、その後の各地での分散登校、通常登校と学校が徐々に再開されていきましたが、学校・教職員が初めて遭遇する多くの感染症対策などが大変な中で、学校行事の中止・延期、前年度の教育内容の積み残しを含めた学びの保障など、様々な問題を抱える取組が報告されました。

 特に、教育現場で「働き方改革」が叫ばれるようになって時間がかなり経過しており、「改革のゴールはいまだみえず」「何のために改革を進めていくのか」「改革の目指すところはどこなのか」といったことがはっきりしないままに、形だけの改革となっているのではないかとの声が多くありました。

 「勤務時間管理は行われているが、何にどれくらい時間がかかっているのか正確に把握されていない」とか、「管理職から週に11時間(月上限45時間)しか残業はできませんと言われた」「とにかく早く帰れと言われ大幅に持ち帰り仕事が増えた」などの深刻な実態もありました。一部であっても、このような実態によって、地域の保護者に与える教育全体のイメージにも影響します。

 さらに、若い教職員の中には「仕事が遅いのは自分のせい」と自責の念にかられ精神的負担が増大しているとの声もあり、SNSが発達している中で教職を希望する学生にも影響を与えかねない問題も顕在化しつつもります。

 私たち北教組は、こうした実態を改善するために声を上げ続けていく必要があります。過密化する教育課程と一人当たりの持ち授業時時間数の増加がやはり根本にあると思います。

 学習指導要領でみると、小学校6年生の標準授業時数は1998年が945時間、現行は1015時間と増えており、20年前と比較して1人当たりの持ち授業時数が増加しました。時間外在校等時間も北教組調査で2001年の37時間00分から、21年は46時間27分と大幅に増えています。

 子どもたちの教育課程、いわゆる日課と、教職員の所定の勤務時間がほぼ一致している中で、教材研究・打ち合わせ・保護者対応など必要不可欠な業務を終えることはほぼ不可能で、そのため勤務時間外・休憩時間・持ち帰りでの業務が余儀なくされています。組合員からは、「日課表に拘束されない時間を一日最低2時間つくってほしい」「勤務時間に収まらない業務の削減してほしい」との声が圧倒的です。言い換えれば、業務量と教職員定数のミスマッチ解消が不可欠と言えます。

 そのため、労働基準法適用除外を認める給特法の廃止・見直し、義務標準法改正、年間標準時数削減のための学習指導要領などの改定、教育課程を過密化させる教育施策の転換、部活動の社会教育への移行を目指して、北教組は今後も取組を続けていきます。

 いずれも国による法改正、制度設計が不可欠なので、連合にも協力していただき市町村教委・道教委を通して国に要請することを求めるとともに、組織推薦議員に強力に働きかけていく決意です。

◆子の実態即した教育課程を

 ―新学習指導要領全面実施における現場実態と施策に対する考え・取組をお聞かせください。

 先ほども申し上げていますが、教育課程の過密化が一番の問題だと考えています。2020年度、本道では新型コロナウイルス感染症対策のため臨時休業が続きましたが、道内では多くの市町村・学校で国が示した教育課程基準の緩和策を超過した過密な教育課程が組まれていました。

 17年に学校教育法施行規則の改正によって標準時数が増えました。これと一体的に、定数改善がほとんど進んでいない状況で、新学習指導要領のアクティブ・ラーニングや主体的・対話的で深い学びが導入されたことから、私たちとして、子どもたちの主体的な学習が保障されているかを十分に検証することがこれからも必要だと思っています。

 なぜかと言うと、国が定めた教育課程基準の問題とともに、「〇〇小学校スタンダード」と言われる生活と学習の画一化が進んでいることと、テスト対策に偏った点数学力向上のための授業が子どもたちの学習

の中心となってはいないかということが、学校現場からの実感として指摘されていることによるものです。

 北教組として、こうした実態にもとづき子どもたちへの弊害を改善するために取り組んできたのが「自主編成」と言われるものです。

 現学習指導要領と教育課程の考え方において、子どもの理解がどう保障されるかのとらえ方が希薄かなと思いますし、目標の在り方に議論を集中させ、目標の束を子どもたちに押しつけてはいないかという心配もあります。あくまでも、教育課程を考えるとき「子どもの実態はどうか」「どんな子どもに育てるか」「何をどれだけ学習するか」の3者のバランスが必要で、これが教育の原理だと思っています。

 ですから、大綱的基準である学習指導要領が変わっても、検証しながら、教育研究を行いながら、子どもの実態に基づいた教育課程の編成を個々が行っていくことが必要ですし、北教組としても組織的な研究のイニシアチブをとっていくことが長い歴史の中で責務だと感じています。

 ―コロナ禍における感染症対策と学びの保障についてお聞かせください。

 組合員から、様々な状況が報告されています。新型コロナウイルス感染症にほんろうされた2年間について、「小学校高学年を担当して協力体制をつくりながら工夫・手探りの連続でした」「子どもも教員も柔軟な発想を心がけていましたが、日々対応に追われて大変な日々でした」「寮生にとって密は学校だけでなく寄宿舎でも、食堂・洗面所・廊下ときりがなく、知恵を出し合いながら対策した」「運動会が短縮日程となり、運動が苦手なうちの子は弁当の時間が唯一の楽しみだったから寂しい」など、子どもたちに寄り添う様々な実態が報告されています。

 しかし、一方で、感染者の判明を受けて教職員が学校でのPCR検査の補助を行い、医療関係者は防護服だったが、教職員は日常の服装で嫌がる子どもを抑えることを要請された場面もあったなど、行政側が錯綜(さくそう)していたにせよ、子どもたちや教職員を感染の危険から守るためのさらなる対応が必要であることも明らかになりました。今後も、新型コロナ感染症が収束していない中で、消毒作業、感染対策を踏まえた教育活動、オンラインによる学習など様々なことが学校現場に降りてきており、いまだ現場は非常に苦労、奮闘しています。

 学びの保障についてですが、やはり現場教職員にとってみれば、子どもたちが登校しなければコミュニケーションを取りながら学習活動を行うことが困難なケースが多くなります。当初、登校できなくても学習面の保障を何とかしようとしてできたのは、プリント配布と家庭訪問・電話での対話ぐらいでした。GIGAスクール構想が前倒しされ、1人1台のiPad配布が進んだ自治体では、メールやチャット、オンライン動画でコミュニケーションができるようになっているようです。

 これは、学びの保障のための一つの道具であり、有効であれば苦労してでも教職員は使うべきでありますが、使うことが目的ではないので、これからも教職員の声をよく聞き、実態に合わせた改善を進めていってほしいと思っています。

 やはり、新型コロナウイルス感染症などなく、対面でゆとりのある教育活動ができるのが一番です。

◆変化に対応できる組織へ

 ―いじめ、不登校、自殺増加の要因と対応、貧困と格差の是正に向けた今後の取組についてお聞かせください。

 まず、いじめ、不登校、自殺がなぜ起こるのか、なぜ増えるのかを考えなくてはなりません。私たちがよく言うことは、子どもたち一人ひとりが自分らしさを認められているか、自己肯定感をもてているか、学校や社会に生きづらさを感じていないかということです。これは、学校や教室が子どもたちの居場所となっているかということです。

 できることばかりを追い求め、能力主義に走って点数が優先されてしまうと居場所を失ってしまう子どもが増え、「クラスが嫌い」「悩みを聞いてくれない」などのストレスが蓄積されて、学校に行けなくなることにつながる可能性になります。

 そして、社会全体が子どもたちを平等に守り支えるという安心感が失われると、つらい思いをする弱者への共感ではなく、弱者を叩く弱者が出てしまい、いじめが増加する傾向があると。さらに、自らの存在価値を放棄してしまう自死につながるようになる。苦しい生活から抜け出せない構造の社会、その不平等が人間への尊敬や敬意を奪う社会となってはいないか心配しています。

 私たちは、企業が上手に時代に適応して順応する人間を求めているように感じています。しかし、弱肉強食の社会を生き抜く子どもではなく、「これはおかしいんじゃないか」という常識が働く子どもを育てるのが学校の役割と責任だと思っています。今の新自由主義にだまされない、自ら見て、聞いて、考えて普通の暮らしができる子どもを育てるのが私たちの考えです。

 貧困と格差の問題は新型コロナウイルス感染症によって一層拡大しています。その是正に向けては、教育予算の拡充を北教組・日教組は様々な場面で求めていますが、やはり、2008年の骨太の方針のもと、「GDP比に占める教育予算をせめて国際水準並みに」という文部科学省の要求さえ「無意味」の三文字で拒否した財務省の姿勢が変わらないことには、教育予算は増えない、経済効率ばかりを求める社会は変わらないと思っています。

 ―2022年度に向けた北教組運動の在り方、組織拡大の取組についてお聞かせください。

北教組は、昨年6月開催の第132回定期大会において、「魅力ある北教組運動をすすめるために」を柱に据えて議論を進めました。その中で、「教え子を再び戦場に送らない!」の不滅のスローガンのもと、北海道の教育を担っていく若い組合員のために、運動体として一定の影響力を発揮できる組織人員を何としても維持し、一丸となって全力で組織強化・拡大にとりくまなければならないことを確認しました。

 そして、若い組合員にとっても魅力ある組織とするため、「共感できる運動方針と具体的とりくみ」「仲間とのつながり、やりがいを実感できる活動」「多忙化を極める現場実態への配慮」を重点に、運動を再構築していかなければならないとの意見が多数ありました。

 これまでの具体的運動の中心であった方針は堅持しつつも、当面、「組織拡大および超勤・多忙化解消、諸権利定着・拡大」を最重点課題とし、「すべての運動・とりくみを組織拡大につなげる」「現場実態を考慮し、着実にできる運動を展開する」など、運動の焦点化・効率化を図り、変化にもしなやかに対応できる組織を目指すこととしました。

 教育実践では、子どもたちの人権・個性を尊重し、子どもを中心に据えた学校づくり、授業づくりを目指して、教育研究活動を進め、教育研究の重要性を若い組合員とともに確認しあい、若い世代のニーズや意見を踏まえた取組を取り入れ、日常業務や授業実践にかかわる組合員の苦悩に寄り添う運動に重点にすべきとの結論にも至りました。

 こうした議論を受けて、新年度はホームページやSNSなど様々なツールを用いた情報発信に努めて組合活動の見える化を進め、若い組合員が学ぶ機会をつくり、組合活動の魅力を未組織者に自分の言葉で伝え、女性参画の割合を高め、組織強化・拡大につなげていく取組に力を入れています。これからも、教育の充実にむけて一人でも多くの仲間と語ることを目指して運動を進めていきます。

―ありがとうございました。

(関係団体 2022-01-01付)

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