末松文部科学大臣 年頭所感 教育は成長・革新の源泉(国 2022-01-07付)
末松信介文部科学大臣の令和4年年頭所感の概要はつぎのとおり。
【はじめに】
新型コロナウイルス感染症は世界各国においていまだ完全な収束に至っておりません。大臣就任以来、学校や研究機関など様々な現場にお伺いし、また、教師や研究者、文化芸術・スポーツ関係の皆さんの生の声を伺ってまいりました。その中であらためて実感したのは、コロナ下という大変厳しい状況の中で、各分野の皆様が多大な努力を重ねておられるということです。関係の皆さんの努力にあらためて敬意を表します。
今なお予断を許さない状況が続きますが、文部科学省としては、皆さんの声を真摯に受け止め、その気持ちに寄り添いながら、迅速かつきめ細かな支援に努めてまいります。
【初等中等教育】
少子化・核家族化の進展や子どもたちの多様化、デジタル化の加速度的な進展など、子どもたちや学校現場を取り巻く環境は大きく変化しています。このような中で、わが国の初等中等教育については、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、すべての子どもたちの可能性を引き出す令和の日本型学校教育、すなわち、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に実現するための取組を進めてまいります。
昨年5月、幼児教育の質の向上の観点から幼児教育スタートプランを発表しました。すべての子どもに対して学びや生活の基盤となる力を育み、小学校以上の教育にしっかりとつなげていくため、4年度から幼保小の架け橋プログラムを実施するなど、プランの具体化を進めてまいります。
いじめの重大事態への対応について様々な課題が指摘されております。文科省では、いじめ防止対策協議会を開催し、重大事態調査における初期対応や調査体制の在り方等について、本年度内を目途に提言をいただく予定です。協議会の議論の結果も踏まえ、いじめの対策に引き続き全力で取り組んでまいります。
また、医療的ケア児を含む特別支援教育を受ける児童生徒、外国人児童生徒、貧困や不登校等の困難を抱える児童生徒、特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援など、児童生徒の多様性に対応した教育を推進してまいります。
昨年3月、義務標準法が改正され、約40年ぶりに公立小学校の学級編制の標準を引き下げることとなりました。具体的には、子どもたち一人ひとりに応じたきめ細かな指導が可能となるよう、3年度から5年間かけて小学校の学級編制の標準を40人から35人に引き下げ、約1万4000人の教職員定数の改善を図ってまいります。
併せて、専門性の高い教科指導を行い教育の質の向上を図るとともに、教員の持ちコマ数軽減など学校の働き方改革を進めるため、小学校高学年における教科担任制を4年程度かけて段階的に進めることとし、4年間の改善総数は3800人程度と見込んでおります。これによって、高学年の学級担任の週当たり授業時数が3・5コマ程度軽減される見込みです。
令和の時代にあって、デジタル化の推進は、質の高い教育を実現する上で必要不可欠です。1人1台端末については、概ね全国の小・中学校における整備完了の目途がたちました。今後は、学習指導面での支援活動をさらに強化するなど、1人1台端末の積極的な利活用の促進と運用面の支援のさらなる強化に取り組んでまいります。
また、児童生徒の学びを深めるデジタル教科書については、教科書制度の在り方や技術的な課題について検討を進めているところです。本格的な導入を目指している6年度の小学校用教科書改訂までの間においても学校現場における活用が着実に進むよう、児童生徒の発達の段階を考慮しつつ、普及促進を図ってまいります。
子どもたちの学習・生活の場である学校施設については、個別最適な学びと協働的な学びの充実に向けた教育環境の向上と、安全・安心を実現する老朽化対策の一体的な整備を推進してまいります。
学校現場の先生方には、日々、子どもたちの学びの保障と感染予防の両立に向けて使命感をもって取り組んでいただいております。
こうした中、学校における働き方改革をさらに進めていくことは重要であり、国・学校・教育委員会があらゆる手立てを尽くして成果を出していけるよう、引き続き、教職員定数の改善や教員業務支援員をはじめとする支援スタッフの配置支援など、文科省が先頭に立って取り組んでまいります。
また、4年度には平成28年度以来となる勤務実態調査を実施し、その結果等を踏まえ、給特法等の法制的な枠組みを含めた教師の処遇の在り方などの検討を行ってまいります。
教師の資質・能力の向上も喫緊の課題です。中央教育審議会における議論も踏まえ、現職研修の充実や教員免許更新制の発展的解消等を図ることとしており、本年の通常国会における法改正などに向けて準備を早急に進めてまいります。
児童生徒を守り育てる立場にある教師が、児童生徒に対して性暴力などを行うことは決してあってはなりません。昨年成立した教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律を踏まえ、児童生徒を性暴力等から守る取組を進めてまいります。また、4月から成年年齢が18歳に引き下げられることに伴い、若年者の消費者被害防止等の取組を推進してまいります。
【高等教育】
大学や高等専門学校においては、全国で新型コロナウイルス感染症への対応が進められる中で遠隔授業の実施にいち早く取り組むなど、学びを止めないための工夫がなされてきました。コロナ下にあっても質の高い学修機会を確保することは大学等の高等教育機関の使命です。感染対策を講じつつ、学生が納得する対応・工夫を行っていただくことが求められております。
文科省としては、各大学等における取組の参考となるような好事例の収集・発信を行いつつ、引き続き対面授業と遠隔授業を組み合わせた質の高い学修機会の確保を促してまいります。
直前に迫った4年度の大学入学者選抜についても、大学入学共通テストでは全都道府県に追試験の試験場を設置するとともに、個別学力検査での受験機会の確保を大学関係者に求めるなど、受験生第一の立場に立って受験機会の確保や感染症対策を進めてまいりました。受験生の皆さんがいかんなくその実力を発揮できるよう願っております。
Society5・0に向けた人材育成やイノベーション創出の基盤として、大学等への期待は高まるばかりです。文科省としては、基盤的経費を安定的に確保しつつ、教育、研究、ガバナンスの一体的改革を推進し、高等教育の質の向上と教育研究基盤の強化を図ってまいります。
特に、わが国の公教育を支える私立学校が社会の信頼を得て一層発展していくため、学校法人の沿革や多様性にも配慮しつつ、かつ社会の要請にも応え得る、実効性ある改革を推進することが必要です。これまでの不祥事事案も踏まえつつ、改革を実現するための法案の速やかな提出に向けて最大限努力してまいります。
【教育無償化・負担軽減】
家庭の経済事情に左右されることなく、誰もが希望する質の高い教育を受けられるよう、幼児期から高等教育段階までの切れ目ない形での教育の無償化・負担軽減を着実に実施する必要があります。幼児教育・保育の無償化、私立高校授業料の実質無償化、高等教育の修学支援新制度の円滑な実施に全力で取り組むとともに、新型コロナウイルス感染症による影響を受けた学生を含め、引き続き、学生等が進学・修学を断念するようなことがないよう、必要な支援措置を講じてまいります。
【教育未来創造会議】
昨年12月、内閣総理大臣を議長とする教育未来創造会議の開催が閣議決定されました。高等教育をはじめとする教育の在り方や、教育と社会との接続の多様化・柔軟化の推進について議論を進めてまいります。
【科学技術イノベーション】
岸田政権の成長戦略の第一の柱は科学技術イノベーションです。
わが国の成長とイノベーションの創出に向け、大学の研究力の強化が極めて重要です。世界最高水準の研究大学を形成するため、10兆円規模の大学ファンドの創設に目途をつけました。本年3月までにファンドの運用を開始し、大学の研究基盤への長期的・安定的な支援に向けた道筋を整備してまいります。
併せて、わが国の大学全体における研究力の強化に向けて、大学ファンドのみならず、地域中核大学や特定分野の強みをもつ大学が特色ある強みを最大限発展させるための政策パッケージについても取りまとめてまいります。
科学技術イノベーションの担い手は人であり、特に、博士後期課程学生を含む若手研究者への支援の強化が重要です。博士後期課程学生が生活面での心配をすることなく研究に打ち込めるよう、第6期科学技術・イノベーション基本計画の目標値である約2万2500人への生活費相当額の支援実現を目指すとともに、博士人材が幅広く活躍できるキャリアパスの整備に取り組んでまいります。
また、世界と戦える優秀な若手研究者の育成や、若手を中心とした多様な研究者が自由で挑戦的な研究に腰を据えて取り組めるような研究支援の充実にも取り組んでまいります。
さらに、社会変革や社会課題解決につながる産学官連携によるオープンイノベーションを推進するとともに、大学発スタートアップ創出に対する支援についても強化していきます。
【スポーツ】
東京オリンピック競技大会では日本選手団が過去最多となる金メダル数・総メダル数を獲得し、パラリンピック競技大会でも過去最多に迫る総メダル数を獲得するなど、アスリートの活躍が人々に夢や希望、感動を届けてくれました。
スポーツには、国民一人ひとりの人生を豊かにするのみならず、社会を変え、未来を創り上げる力があります。コロナ下においても安全・安心にスポーツ活動を実施・継続するための環境整備やデジタル技術の活用等も視野に入れつつ、アスリートの国際競技力の向上やセカンドキャリア形成支援、学校体育・運動部活動改革等による子どものスポーツ機会の充実、スポーツ団体のガバナンス改革・経営力強化、インテグリティ(高潔性)の確保等を進めてまいります。
また、スポーツを通じた健康増進や経済活性化、地域振興や共生社会の実現に取り組むとともに、東京大会後のレガシーを継続・発展させるための第3期スポーツ基本計画を本年度中に策定します。
【文化芸術】
文化芸術は、人々の創造性を育み、その生活を豊かにするとともに、文化GDPの拡大、文化による地方創生の実現、わが国の誇る文化コンテンツの海外発信など、無限の可能性を秘めた、世界に誇るべき重要な資源です。困難な状況にある今こそ、人々の心を癒やし、勇気づける文化や芸術の力が必要不可欠です。このため、ウィズコロナの時代における文化芸術関係団体による積極的な活動への支援、文化施設による感染予防や新たな取組への支援をはじめ、文化芸術活動の再開・継続・発展への支援を行ってまいりました。
今後も、こうした支援に加え、インバウンド観光需要の回復に向けた基盤の整備や国内観光需要の喚起にも資するよう、日本博を引き続き推進するとともに、日本遺産をはじめとした地域の文化資源を磨き上げ、文化施設の機能強化、地域一体となった文化観光の推進への支援、子どもたちの文化芸術体験の推進、文化財の匠プロジェクトの推進、食文化の振興等を通じて、伝統文化から現代芸術まで幅広い文化芸術による国づくりをオールジャパンで推進し、日本文化の魅力を積極的に国内外へ発信してまいります。
さらに本年は、博物館が社会・地域から求められる役割を果たせるようにするための制度改正や、日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みづくりなど、日本語教育の推進に向けてしっかりと取り組んでまいります。
【終わりに】
昨年10月の大臣就任時に「子どもは国の宝、国の礎」であると申し上げました。岸田総理も先の臨時国会の所信表明演説において、「国の礎は“人”である」「人への分配は“コスト”ではなく未来への“投資”」と述べています。
文科省が担当する教育や科学技術、スポーツ、文化芸術という行政分野は、人を教え育み、英知や表現力・創造力を最大限引き出すことによって国民の皆さんの人生を幸福で豊かなものにし、人々の絆を深め、わが国のソフトパワーを高める、また、成長とイノベーションの源泉となる、極めて重要な行政分野です。
私としても、ウィズコロナ・ポストコロナの社会を見据えつつ、現場からいただく声にしっかりと耳を傾け、文部科学行政が直面する様々な課題に対して果敢に取り組んでまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
(国 2022-01-07付)
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