新春インタビュー 道教委・倉本博史教育長に聞く 魅力ある高校づくり 地域一体で推進 全高校生が主役のインターハイに
(道・道教委 2023-01-01付)

倉本教委長インタビュー
倉本教委長インタビュー

 新年を迎え、道教委の倉本博史教育長に魅力ある高校づくり、地学協働、新たな教育推進計画など、教育課題への今後の対応を聞いた。

―魅力ある高校づくりに向けた今後の取組の方向性をお聞かせください。

 人口減少や少子化は全国的な流れですが、特に北海道は広域分散型の構造から高校の小規模化が進む状況にあります。地域における就学の機会を確保していくためには、地域の方々と一体となってこれからの高校の在り方を考え、魅力や特色のある高校づくりを進めていくことが求められています。

 そのためのポイントの一つは普通科改革です。各高校で普通科の担う役割は異なります。生徒や地域の状況に応じて魅力や特色を出すことが非常に重要です。4年度から国の「普通科改革支援事業」の指定を受け、釧路湖陵高校は学際領域、大樹高校は地域社会を学ぶ学科の設置に向けた検討を進めています。6年度に新しい学科をつくっていければと思っています。

 二つ目はT―baseによる遠隔授業の配信です。地域連携特例校や離島の学校を対象に教育課程の充実を図るため、前年度から授業配信を進めてきており、来年度で全ての学年が対象となります。年間計画や時間割の編成などの課題を整理し、これまで対象外だった小規模の学校への拡大や、長期休業期間の進学講習など取組のさらなる発展へ検討を進めたい。

 三つ目は高校配置の在り方です。どの地域に住んでいても学びの質や選択肢が確保されることが大切ですが、本道では8割以上の市町村に高校が1校またはない状況にあり、市町村単位で学びの選択を確保することが難しくなってきています。年度内に「これからの高校づくりに関する指針」を改定し、一定の圏域において、高校の在り方について地域の人たちと考える仕組みを整備し、地域と一体となって魅力ある高校をつくっていきたいと思っています。

―地学協働の今後の方向性をお聞かせください。

 社会の中で生きる力を育むには個別最適な学びはもちろん重要ですが、様々な人たちとの協働的な学びも大切です。しかし学校の小規模化と児童生徒数の減少によって集団での学びに制約が出ることもあり、学校が地域の様々な人たちと連携・協働して学びの場をつくる地学協働の取組は、これからの北海道にとって一層重要になると思います。

 道教委は3年度から「北海道CLASSプロジェクト」を開始しました。地元企業とのコラボレーションによる商品開発や地域課題の解決に向けたアイデアの提案など様々な活動が行われています。地学協働の優れた取組を全道の高校から募り、4年度末に表彰・発表する場を設けようと思っています。

 また、保護者や地域の関係者の意見を学校経営に反映する意味では、地域の方々が学校経営に参加するコミュニティ・スクール(CS)は非常に重要な仕組みと思っています。道内の小・中学校のCSの導入率は全国平均を上回る一方で高校ではやや遅れている現状にあります。今後は小規模校も含めて道立学校におけるCSの拡大も進めていきたいと思います。

―来年度から開始となる新たな教育推進計画についてお聞かせください。

 今後5年間の北海道の教育施策の方向性を示す重要な計画です。自立と共生を基本理念に「子どもたち一人一人の可能性を引き出す教育の推進」「学びの機会を保障し質を高める環境の確立」「地域と歩む持続可能な教育の実現」の3つの柱と22の施策からなる素案を取りまとめています。道議会での議論を踏まえ年度内に成案化したいと思っています。

 少子化、人口減少、デジタル化の進展など変化の激しい時代だからこそ、子どもたちが将来に夢や目標を持ち、その実現に向けて挑戦する力、様々な困難を乗り越え、豊かな人生を切り拓く力を身に付け、多様な人たちと協働して持続可能な地域のつくり手に成長する、そうした力を育んでほしいとの思いのもと各般の施策を地域と連携しながら取組を進めていきたいと思っています。

―全国学力・学習状況調査の分析結果で明らかになった成果と課題、学力向上に向けた今後の取組の方向性をお聞かせください。

 4年度の調査では小学校の3教科とも全国との差が縮まり、特に小学校の理科、中学校の国語、理科はほぼ全国と同水準となりました。この間コロナ禍で学校現場が、感染対策と学びの保障に本当に苦労して頂いてきたことの成果が現れていると思います。一方、記述式問題の正答率や思考・判断・表現する力、授業以外の学習時間の少なさ、SNS・動画視聴・ゲームの時間の長さなどの課題も依然としてあります。

 4年度から新たに学力向上推進課を設置しましたが、子どもたちがこれからの社会の中で生きる力のもとになる確かな学力を育むためには、小中高の12年間を見通した取組が大切です。4年度学力調査の報告書では、国立教育政策研究所の元学力調査官の方々に本道の児童生徒の解答状況を分析していただき、今後の授業改善の方向性を執筆してもらいました。ぜひ、学校の授業で参考にしてほしいと思います。

 高校入試の学力検査についても義務教育段階の課題を踏まえ改善を図っていきます。報告書では学力検査の結果を踏まえた、中学校や高校における授業の在り方を記載しています。これらを活用し切れ目のない学力向上を図りたいと思います。

―教員確保の取組をお聞かせください。

 教員不足は全国的課題ですが、北海道はとりわけ危機の中にあると言ってもいい状況です。

 教員採用選考検査の工夫や登録者へのきめ細かなフォローも大切ですが、根本的な解決には志望者を増やす必要性があります。

 そのためには、学校における働き方改革はもちろん、若い段階から教員の魅力をしっかりとPRして教員に関心を持ってもらうことが大事と思っています。

 教育実習を経て志望意識が一層向上する人も多い一方、自信を失う人も少なからずいます。

 教育実習の前段階からへき地・小規模校で教育現場を体験する「草の根教育実習」は2年度から実施していますが、今後も続けていきたいと思っています。

 高校段階の取組では3年度から教員養成セミナーを実施しています。オンラインで現職教員の方と教職養成大学の学生に参加してもらい、情報交換や意見交換する場を設けるもので4年度は計5回、延べ1100人の高校生が参加する予定です。

 さらに4年度は道教育大学の協力のもと、高校生に教員の基礎を学んでもらう「みらいの教員育成プログラム」を札幌北陵高校で開始しました。

 5年度は札幌以外の地域にも対象校を増やし意欲ある教員を少しでも確保できるよう努めたいと思います。

―教員免許制度が廃止となり、5年度から新たな研修制度が始まります。新たな教師の学びについてお聞かせください。

 「学び続ける教員」の姿というのは今後も変わらない部分です。特に変化の激しい時代ですから、主体的かつ不断な自己研鑚は非常に重要で後押しをしていきたい。

 これまでもキャリアステージに応じた研修や各段階で必要な研修を行っており、教員が自分の資質・能力の状況等を分析する「自己診断シート」や、多様な研修の情報を整理・一覧化することで個々の教員に必要な研修を選ぶことができる支援ツール「研修Linkナビ」の作成にも取り組んできました。

 今後は教員のニーズに応じた研修や効率的に学ぶ観点から選択型の研修、オンライン研修やオンデマンド教材などを一層充実させていきたいと思っています。

 鍵になるのは、管理職が教員とコミュニケーションを取って効果的な研修を行うことです。受講奨励の進め方や考え方、年間スケジュールを手引として取りまとめ、年度内に各学校に示す予定です。4月からの円滑な実施へ様々なツールを効果的に使って支援していきたいと思います。

―学校における働き方改革の今後の取組の方向性をお聞かせください。

 これまで学校における働き方改革の手引『Road』の作成・周知やスクールサポートスタッフ、スクールロイヤーなどの体制整備を進め、調査業務の見直しなどに取り組んできており、引き続き進めたいと思っています。

 時間外在校等時間は少しずつ減少しているものの、依然として教員の業務平準化や教頭の負担などの課題もあります。

 学校における働き方改革は、教員が児童生徒と向き合う時間を確保するため人的・物的資源をどのように投入するかという学校運営(マネジメント)そのものという考えをさらに浸透させていきたい。5年度早々に取りまとめる時間外業務の実態調査結果を活用し必要な取組を加速させていきたいと思います。

―部活動の地域移行についてお聞かせください。

 部活動は生徒がスポーツや文化・芸術に親しむ機会の提供、自己肯定感の向上など大きな意義を持った活動です。

 しかし生徒や部活動の数が減少し、指導や大会運営に携わる教員の負担もある中、学校だけで継続的に支えることは限界と思っています。部活動の意義をできるだけ損なわず、いかに持続可能な環境をつくっていくかがこれからの大きなテーマです。その観点から部活動の地域移行という問題を捉えなくてはなりません。

 国は来年度から3年間を地域移行の改革集中期間として示し、道内でも各地で検討が始まっていますが、受け皿や指導する人材の確保、財源、保護者の負担などまだまだ懸念や課題も多い状況です。

 複数の自治体が共同で受け皿を整備する際の調整の場、指導者となる人材バンクの整備、財源確保の先行事例の収集・提供など地域の取組を支援したいと思っています。「北海道の部活動の地域移行に関する推進計画(仮称)」を年度内にまとめ、市町村と共に取組を進めていければと思います。

―いじめ・不登校対策の取組の方向性をお聞かせください。

 いじめ対応では積極的認知と早期の組織的対応が不可欠であり、そのためには各学校でいじめ防止対策推進法に基づく取組の徹底が前提になります。

 道教委は4年度にいじめ問題の対応のフローチャートや分析シートをまとめたガイドブック「コンパス」を作成して学校に周知しました。タブレットから相談できる「おなやみポスト」も開設したことで早期の発見や把握を図っていきたい。

 弁護士や臨床心理士など専門家で構成する緊急支援チームを学校・教育委員会に派遣できる体制も整備しました。いじめ防止基本方針を年度内に改定し、市町村教委と一体となっていじめ根絶に向けた取組を進めていきたい。

 不登校には様々な要因がありますが、可能な限り早く察知して早期に対応することが何よりも重要です。4年度は1人1台端末を使ったアセスメントシートの試行を複数の学校で行いましたが、今後、さらに取組が広がるよう検討したいと思います。

 関係者の連絡協議会の場で地域や教育支援センターの取組状況、効果があった実践事例などを共有し、不登校の児童生徒を少しでも減らす取組を進めていきたい。

―5年度インターハイ開催に向けた思いをお聞かせください。

 道内では28競技31種目が開催され、全国から約3万人の高校生が訪れる大きな大会となります。大会の運営やサポートなど様々な面で高校生が関与する高校生活動では、学校周辺の美化活動や来道者へのおもてなしなどアイデアを持ち寄って準備を進めています。機運醸成に向けたPR活動は大きな柱で、冬フェスや雪まつりでインターハイ開催を周知する予定です。

 自治体、教育委員会、教職員、生徒が一体となり、全ての高校生が主役となる大会となるよう準備を進めていきたい。

―新年に当たり、北海道教育の将来展望についてお願いします。

 本道には広域分散ゆえの移動距離の長さや積雪の多さなど厳しい面もありますが、それだからこそ地域ごとに異なる特色があります。北海道こそ、子どもたちが楽しく学び、社会の中で生きていく力を育む絶好のフィールドであると思っています。

 これまで以上に学校と地域の連携を強化し、暮らし、資源、文化、産業を教材として生かすことができれば、子どもたちが生涯にわたって学び続ける意欲を持つ、そんな教育を実現できる地域となります。学校の卒業後も地域で学ぶ楽しさを知り、学び続ける大人が増えるということが、学校や地域の活性化にとって非常に大事だと思います。

 学校教育と社会教育、それぞれの現場で北海道の強みを生かすことができれば、他の地域にない特色や魅力を持つ教育が実現できる。それを信じ、これからも努力していきたいと思います。

―ありがとうございました。

(道・道教委 2023-01-01付)

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