苫小牧市 6年度教育行政執行方針 子の命守ること最優先に 新たに不登校対策研究委(市町村 2024-04-02付)
福原教育長
【苫小牧発】苫小牧市教委の福原功教育長は、市議会定例会で6年度教育行政執行方針を説明した。昨年12月に改定した「市いじめ防止基本方針」をもとに「先行きの見えない不安や葛藤を抱える子どもたち、何よりも、その命を守ることを最優先に取り組む」としたほか「教育委員会内に教員で構成する仮称・不登校対策研究委員会を立ち上げ、支援体制を強化する」「ALTの指導力向上や外国との交流活動等を企画調整する外国語教育推進アドバイザーを新たに配置する」などの考えを示した。
執行方針の概要はつぎのとおり。
はじめに
少子高齢化の進行や物価高騰の影響など先行きの見えない社会において、多くの市民が、子どもを産み育てることへの不安、負担を感じていることと思う。子育て世代への支援は市全体の課題であり、あらためて教育行政の役割の大きさを感じている。
子どもたちが苫小牧を知り、愛着を育む「ふるさと教育」、個々の可能性を伸ばし、夢や希望を広げる「キャリア教育」、中学生の放課後を充実させる「部活動の地域移行」、いずれも学校だけの問題ではなく、地域社会全体で子どもを育てる気運を醸成しなければならない。
新しい教育の姿をしっかりと見据え、未来に向けて、市民の皆さまとともに大きく踏み出す決意を持って、教育行政を推進していく。
方針1 社会で生きる学びの推進
▼確かな学力の育成
子どもたち一人ひとりが自立的に学びを深めていくために、全国学力・学習状況調査等の分析を踏まえた学力向上策を推進し、授業改善を図っていく。
まず、子どもたちが主体的に学ぶために「見通す、決定する、協働する、振り返る」それぞれの場面を適切に位置付けた授業の構築に努めていく。
また、学習の基盤となる「学びに向かう力」や「安心して学ぶことができる学級風土」が醸成されるよう、「こころの授業」の実施など、地域人材を活用した道徳教育の一層の充実を図っていく。
▼これからの時代に求められる資質・能力の育成
教育効果の高い情報や活用法を「ICT活用Leaf」や情報共有動画サイト「Tomatube」により発信することで、教職員のスキルアップを継続し、子どもたちが学習ツールとしての活用場面と機能選択を適切に判断・実行しながら、協働的に探究し続ける学習の実現に努めていく。
また、外国語指導助手(ALT)の指導力向上や外国との交流活動等を企画調整する外国語教育推進アドバイザーを新たに配置し、英語教育や国際理解教育を推進していく。
▼多様な価値を尊重する豊かな心の育成
全ての子どもたちに対し、「あいさつ、声かけ、励まし、称賛」など、個々の良さや可能性を伸ばす生徒指導を通して、自発的・主体的な成長を促す教育を推進していく。
また、「市いじめ防止基本方針」に基づき「いじめ見逃しゼロ」とともに、いじめを「しない、させない、許さない」心情と、自他の命や安全を最優先に考えて行動する力が身に付くよう、豊かな心と感性を育む教育の充実に努めていく。
さらに、多様性や異なる価値観が尊重され、誰一人として生きづらさを感じることのないよう、人権教育や性教育の創意工夫を図っていく。
▼体力向上・健康教育の充実
体育専科教員等の優れた授業実践を共有し、教師個々の指導技術の向上を図ることで、全ての子どもたちが運動の楽しさを十二分に味わい「できた、上達した」喜びを実感しながら、新たな挑戦意欲を高める体育授業の充実に努める。
また、情報機器利用のガイドラインを作成し、スマートフォン等の適切な利用について親子で学び、理解を深める機会を設定するなど、望ましい生活習慣の確立に向け、家庭と連携した取組を進めていく。
さらに、食に関する指導の全体計画に基づき、望ましい食習慣の形成に努めるとともに、学校給食において、地場産物の活用や地域と密着した食育を推進していく。
▼特別支援教育の充実
特別な支援が必要な子どもたちが、共生社会において自立した生活を送る上で必要な資質・能力を育むために、交流および共同学習のさらなる充実に努めるなど、インクルーシブ教育を推進していく。
また、障がいに応じた多様な学びの場の提供や、ICTを活用した効果的な学習活動など、教育的ニーズに応じた支援に努めていく。
方針2 学校・家庭・地域の思いをつむぐ体制の確立
▼学校段階間の連携・接続の推進
個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実による授業改善、不登校児童生徒に対する支援など、各中学校区エリアにおける重点的な課題を解決し、全てのエリアにおいて目指す15歳の姿が具現化されるよう、系統的な教育活動の一層の充実を図っていく。
また、幼稚園等との多様な交流・体験活動の推進や、高校と連携した学力向上の取組、主体的な進路選択に向けた取組の強化など、学びの連続性を踏まえた学校段階間の円滑な接続を図っていく。
▼不登校児童生徒への支援の充実
子どもたちが自ら考え、自己決定しながら、仲間と共感的に学ぶことを通して、自己存在感や有用感を感じ、自分の居場所として安心して生活できる学級づくりや魅力ある学校づくりを進めていく。
また、教育委員会内に教員で構成する「仮称・不登校対策研究委員会」を立ち上げ、有識者の助言を受けながら、不登校の未然防止、初期対応や自立支援など、児童生徒や保護者の心に寄り添う支援体制を強化するほか、家庭へのサポートと連携・協働の在り方に関する研究成果の啓発を図っていく。
▼学校と地域の連携・協働の推進
子どもたちが地域と主体的に関わり、活動できる環境整備と教育活動を生み出すために、コミュニティ・スクールの優れた実践成果を各学校に周知していく。
また、ゼロカーボンシティを目指す取組やふるさと教育の推進など、子どもたちが苫小牧の魅力を再発見し、持続可能かつ発展的なまちづくりへの貢献意欲を高める活動を地域社会と連携して進めていく。
さらに、社会的な体験活動や職業体験など、子どもたちの自立に向けた基盤となる能力や態度を育てるための取組を民間企業等と連携して進めていく。
部活動地域移行については「とまこまい型部活動地域移行ビジョン」のもと、10年度の完全移行を見据えた段階的な取組を関係機関、団体等と連携して推進していく。
▼学びのセーフティネットの構築
ヤングケアラーや児童虐待など、児童生徒が抱える多様な悩みの早期発見・早期対応に努めるとともに、家庭への経済的支援や相談体制の強化のため、関係機関との連携による包括的支援の整備を進めていく。
保護者の負担軽減については、市と連携して、中学校の制服等購入支援に取り組むほか、教材等の見直しや提出書類の簡略化など各学校において工夫していく。
▼教育環境・学校施設・設備の充実
樽前小学校、大成小学校の改築や、植苗小中学校の大規模改修事業などの老朽化対策のほか、移動式クーラーを普通教室等に配備し、学校施設の安全確保を図るとともに、子どもたちの学習環境の向上に努めていく。
また、学校規模適正化の取組として、勇払地区における将来の学校の在り方について協議を進め、具体的な方針を策定していく。
さらに、給食残さをバイオガス発電に活用する取組を新たに実施し、再資源化とともに、温室効果ガスの排出量削減に努めていく。
方針3 すべての人が学び続け活躍できる社会の実現
▼主体的に生涯学習を続け、郷土の発展を支えるひとづくり
市民一人ひとりのライフステージにふさわしい学習機会の充実のため「セカンドブック事業」や「ナナカマド教室」「障がい者学習支援事業」などの取組を継続していく。
また「第5次市子どもの読書活動推進計画」に基づき、学校図書館の活用促進や授業前の「あさどく(朝読)」に加えて、家庭での「うちどく(家読)」の推進など、様々な角度から働きかけを強化し、子どもが本を読む機会の拡大を図っていく。
▼いつでも、誰とでも学べる環境づくり
市民の学習活動の支援のため「生涯学習だより」などによる情報提供を推進するほか、企業や高等教育機関などとの連携・協働により、多様で質の高い学びの環境を提供していく。
中央図書館においては、読み聞かせや子育てタイム、医学講座、郷土セミナー等、各世代のニーズに対応した取組を継続するとともに、電子図書を含めた蔵書の整備など図書館機能の一層の充実に努めていく。
また、新たなニーズに対応するため、外部施設等に図書館職員を派遣し、読み聞かせを行う「出張〓図書館」を実施するなど、より身近な地域で本に触れるサービスにも取り組む。
科学センターにおいては、宇宙ステーション「ミール」をはじめとした科学展示のほか、天文普及、科学体験事業を継続して実施し、子どもたちの科学に対する興味・関心を育てる。
また、市民・学校・関係団体と連携し、生涯にわたり科学を学べる施設として機能充実に努めるとともに、移転改築に向けた検討を進めていく。
▼文化・芸術がいつも身近にあるまちづくり
苫小牧出身の脚本家・演出家・水谷龍二氏の芝居公演やPMFオーケストラの演奏会を開催するほか、小中学生を対象とした「ジュニアミュージッククリニック」や「樽前アートスクール」などの体験型事業、「市民文化祭」や「苫小牧アートフェスティバル」などの参加型事業によって、広く市民が文化芸術に親しみつつ、芸術家が活躍できる場の提供に努めていく。
美術博物館においては、江戸時代から受け継がれてきた九谷赤絵の世界をテーマにした特別展「九谷赤絵の極致」を開催する。
また、郷土の自然や生物多様性を感じられる「足元から見つける、まちの自然」、森をイメージした会場で自然や空間をモチーフにした作品を紹介する「ボン・ヴォヤージュ」などの企画展を開催し、文化的な素養や郷土への愛着と誇りを高め、豊かな感性を育む機会の充実を図っていく。
むすび
昨年12月、「市いじめ防止基本方針」を改定した。
先行きの見えない不安や葛藤を抱える子どもたち、何よりも、その命を守ることを最優先とし、取り組むこととしている。家族との日常、友達との学校生活の中で、生涯学ぶことの喜び、大切さをともに感じ、楽しく過ごしてほしい。
友達の個性を認め、自分の個性を信じ、夢に向かって強く生きる力を身に付けてほしい。
そのために学校内外の協働のさらなる深化を図り、地域社会全体で子どもたちの今日を支え、未来へとつないでいきたい。
「全ては子どもたちのために」。私たちは、全ての市民とともに「未来の社会をつくるひとづくり」の実現に向けて全力を尽くしていく。
(市町村 2024-04-02付)
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