少子化進む本道教育の未来へ 遠隔授業、地学協働が鍵 道教委・倉本教育長が退任会見
(道・道教委 2024-06-04付)

倉本教育長退任会見
倉本教育長退任会見

 5月31日付で退任した倉本博史前道教委教育長は同日、道庁別館で記者会見を行った。少子化が進む本道教育の未来を考える上で、T―baseによる遠隔授業や地学協働の可能性に触れ「引き続き道教委の総力を挙げ、新しい教育長のもとで取り組んでいただきたい」と語った。不足する教員の確保に向けては、若年層を含む幅広い層に対する教職の魅力発信と働きやすい環境の整備が重要とし、関係各課・大学と連携した取組を一層推進するよう期待した。

 倉本教育長の在任期間は3年6月1日~ことし5月31日までの3年間。新型コロナウイルス感染症流行下における対応に始まり、道教育推進計画など各種計画の策定、5年度全国高校総合体育大会(インターハイ)の開催などに尽力。

 昨年夏に道内では熱中症警戒アラートが全域に発表される事態となり、秋には鈴木直道知事と共に文部科学省を訪れ、冷房設備整備の財政支援を求める緊急要請を実施。夏季休業期間の延長や熱中症の危機管理マニュアルの改訂などソフト・ハード両面の暑さ対策を進めた。

 会見で倉本教育長は任期の3年間を振り返り、コロナ禍においては「教職員、保護者、地域の尽力によって感染防止対策と学びを止めない取組を両立させながら進めることができた」と関係者に感謝の意を示した。

 少子化と小規模校化が進む本道教育の未来を考える上で、T―base(道高校遠隔授業配信センター)による遠隔授業が持つ可能性に触れ「引き続き道教委の総力を挙げて取り組んでほしい」と述べたほか、地域において多様な体験機会を提供する地学協働やコミュニティ・スクールなど地域連携による取組の展開に期待した。

 教員のなり手不足を解消するため、関係各課や教員養成大学との連携体制を一層進めることに期待。高校生を対象とする「未来の教員育成プログラム」1期生の多くが志望大学に合格したことに喜びを語り「教員が本当にやりがいのある仕事であることを多くの人に実感してもらえれば」と述べた。

 暑さ対策では、道総研の北方建築総合研究所の協力のもと、簡易型クーラーの効果的な使用方法を学校現場に普及していく考えを表明。担任教員のみならず、多角的な視点で子どもたちの変化を見取る情報共有体制を整備するため、ICTを活用していじめを把握する体制づくりを後押しする必要性にも言及した。

 道立高校の教育活動に係る調査報告書(3日付2面既報)を踏まえ、教員一人ひとりの専門性の向上と校内体制の整備が急務とし「道内の道立学校いずれも対応していかなくてはならない課題」と指摘。生徒・保護者との合理的配慮に関する合意形成の重要性を周知・徹底するとともに、特別支援教育・障がいに関する理解を深めていく取組を進める必要性を示した。

 退任会見の詳細はつぎのとおり。

 教育長になりあっという間に3年間が過ぎたという思いを持っている。在任期間を振り返ると、新型コロナウイルス感染症の流行下での対応がまず思い出される。教職員、保護者の皆さま、地域の方々の尽力によって、感染防止対策と学びを止めない取組を両立させながら進めることができたと思っている。

 コロナ禍においては前例がなく初めて経験することも多かったが、これからの学校運営に必要な環境整備として、学校現場の尽力をいただきながら、1人1台端末の導入、ICTの活用による授業改善、校務の効率化などを少し前進させることができる契機にもなった。

 昨年5月の5類感染症への移行によって、学校では入学式、卒業式、学校祭、修学旅行などの行事が従来の形で実施できるようになり、昨年7、8月にかけては本道で36年ぶりとなる全国高校総合体育大会(インターハイ)が開催された。

 5類移行後の新たな課題としては昨年夏の猛暑が記憶に新しいが、子どもたちの命と健康を守るため、夏季・冬季休業を合わせた総日数の変更などのソフト面の対策とともに、ハード面では公立学校における空調機器の整備を計画的に進めることとした。

 このほかにも、学力・体力の向上やいじめ・不登校対策、学校における働き方改革、教員の確保、ICT環境の充実、部活動の地域移行の推進、インクルーシブ教育の推進など様々な課題があるが、後任の中島俊明教育長のもと、引き続き取り組むことになるのでよろしくお願いしたい。

▼人口減少時代の教育

 この3年間で一貫して取り組んできたことの一つは、人口減少時代における教育の在り方をどうしていくかということ。本当に多くの職員と議論し、いろいろな取組を試みてきた。

 学校は今、小規模化が本当に進んでいる。教員体制も厳しく集団の中で学ぶことに制約が出てくる懸念もある。加配措置などによって1人の教員が複数の小規模校を指導するなど対策を進めているが、つぎへとつながると思っているのがT―base、遠隔授業配信センターである。

 私の前任、前々任、さらにその前から関係職員が苦労して検討・準備してくれたと思うが、この3年間で遠隔授業を実施し、全国からの関心も集まっている。小規模校であっても「地元で夢をつかめる」教育の実現に一定程度貢献できたと思っている。こういった遠隔授業の取組や小規模化する学校間の連携について、引き続き道教委の総力を挙げて新しい教育長のもとで取り組んでいただきたいと思う。

 人口が減少し、子どもが大人になるまでに出会う人数が減っている。子どもが多様な経験をすることは非常に重要だが、地域において多様な経験の幅が減り、学校でも同級生の数が減ることで、経験を十分に積み重ねていくことができない懸念がある。

 そうした中、少しずつだが地学協働、コミュニティ・スクールの取組も少しずつ広がっている。導入当初は大変な思いもあったようだが、地域の方々から様々な支援をいただき、学校運営の円滑化や業務改善につながったという話もある。子どもたちが地域で学び、学校の中だけではできない経験を提供することはとても重要であり、こうした地域連携の取組の広がりは今後につながると思っている。

▼教員不足への対応

 先日、7年度の教職員の採用選考検査の出願者数を発表したが、大変厳しい状況である。これは採用段階の取組だけで対応できる課題ではない。まずは教員を目指す人を増やさなくてはならない。大学生だけではなく、中学生・高校生を含む多くの若い人に教員を目指してもらう取組を行わなくてはならない。

 また、教員を目指す人が安心して北海道の教職を選んでもらう取組、存分に能力を発揮してやりがいを実感してもらえる環境の整備や取組を一体的に進めることが必要だ。そのためには道教委の様々な課が連携しなければならないし、教員養成系の大学との連携体制も必要になる。少しずつだが連携体制もできつつあり、一層取組を進めていただきたいと思っている。

 4年度から道教育大学と連携して未来の教員育成プログラムを始めている。これは高校生段階から教員を目指そうとする生徒に教員の基礎を学んでもらおうという取組で、札幌北陵高校の1期生がこの春に卒業した。多くの生徒が目指す教員養成大学に合格できたと聞いて本当にうれしく思っている。こういったことを少しずつ積み重ね、教員が本当にやりがいのある仕事であることを多くの人に実感してもらえればと思う。

▼暑さ対策

 暑さ対策に関しては準備をしただけでこれから(の話)になる。空調設備をどうやって使っていくかは試行錯誤となるだろう。現在、道総研の北方建築総合研究所に簡易型クーラーの効果的な使用方法について指導いただいており、より効果的な使用方法も含めて学校現場に普及していきたい。

 部活動も含めて夏の間は様々な試合や大会があるが、暑いからといって単純に中止することは難しい。生徒の期待や進学の材料などもあり、学校の体育の授業と同列に考えることはできないが、やるからには体制を整備しなければならない。現在中体連、高体連などとも協議しているが、どういう形で判断するかについても協議を深めていかなければならない。

 学校の夏休みの延長が可能となったが、涼しい地域もあるので学校によって対応は異なるだろう。クールシェアといった取組もあるが、地域全体の暑さ対策にわれわれも連携・参加して取り組んでいく必要があると思う。

▼いじめ問題

 いじめ問題は決してあってはならないことであり、少しでも減らさなければならない。いじめの認知件数は増加しているが、まずは把握することがスタート地点であり、一定程度増えていることは決して悪いことではないが、どの時点でいじめと判断するかはとても難しい。いじめ防止対策推進法ではいじめを受けた側が傷ついたと思えばいじめになるが、ふざけ合っているようで傷付いていること、嫌な思いをしても自分で乗り越えていることもあり、外から見て必ずしも分からないこともある。

 もっと難しいのはSNSによるいじめだ。学校や大人が分からずに進行して大きくなることがある。担任の先生だけではなく様々な目で多角的・総合的に察知しなくてはらないが、それがとても困難であり、子どもたちの変化の中、ヤングケアラーや不登校の端緒が見つかることもある。教員は子どもの様々な変化を身近にキャッチする立場だが、1人だけではなく情報を共有していくことが重要だ。

 そのため、働き方改革や校務システムの改善など様々な施策によっていじめを把握できる体制づくりを後押ししなければならないし、学校全体で取り組むことが大事なことだと思う。

▼道立高校の教育活動に係る調査報告書

 当該の生徒、そして保護者の方に心配をおかけしたことを心からおわびしたい。今回の調査報告書では、事実関係の解明、問題点の指摘、原因の分析、再発防止策まで取りまとめをしていただいた。特別支援教育に関しては特定の教員に依存し、方針の決定や取組のチェックなど組織的な対応が不備であったことも背景あるいは原因として指摘されている。

 やはり、教員一人ひとりの専門性の向上と校内体制の整備、これが急務だということを実感した。まずは当該校において提言いただいた再発防止を徹底する。

 併せてこのことは当該校のみならず、道内の道立学校いずれも対応していかなくてはならない課題と思っている。道立学校に在籍する障がいのある生徒の皆さんが充実した学校生活を送っていけることができるよう、まずは合理的配慮に関するリーフレットを作成し、生徒、保護者そして学校の関係者が合意形成することの重要性を周知徹底していきたいと思う。

 また、校内体制の見直しを図るため、各学校に特別支援教育コーディネーター、あるいは管理職を対象とした研修を実施する。管理職をはじめとした教職員の特別支援教育や障がいに関する理解を深めていかなくてはならない。

(道・道教委 2024-06-04付)

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