教職員の協力を高める学校づくり〈№140〉 今、学校は危機の連続下に 学校安全と危機管理意識と遂行力①(教職員の協力を高める学校づくり 2024-06-14付)
ことしもまた酷暑と言われる時季になりました。北海道といえども教室へのクーラーの設置が求められていますが、マスコミでも昨年、熱中症による児童生徒の救急搬送が社会的ニュースとして連日のように取り上げられていました。
ご存じのように市町村単位で児童生徒の安全確保のため、夏季休業日の延長や臨時休業日を設定するなどの対応が求められ、本年度から夏季休業日の日数を変更した市町村も多いようです。
道内の公立学校では5年度、熱中症およびその疑いで保健室を利用した児童生徒数は約8000人となっており、その中で救急搬送された事案が4件となっています。
もはや北海道は本州と比較しても涼しいという言葉が全く当てはまらない状況となっています。
道教委では、昨年5月12日付で「学校における熱中症対策」を通知し、熱中症についての「危機管理マニュアル」および「学校における熱中症対策に係る重点項目チェックリスト」を作成し各学校に送付しています。
熱中症にかかわらず人的にも物的にも学校は危機の連続の中にあります。学校教育は社会的に貢献できる人格の育成などを目指していますが、同様に学校には児童生徒に安全を付与し、尊い命を守る学校安全と危機管理意識とその遂行能力が求められます。
あってはならない学校事故の背景には、教育現場での様々な業務によるストレスや精神的な負担がかかり、危機意識に留意する余裕がないことが要因の一つと言われ、働き方改革の重要性が述べられています。
また生徒の問題、保護者とのコミュニケーション、職員室の同僚性の問題などがストレスの要因となり、これが危機管理に影響を与えているとも言われています。さらにメンタルヘルスが低下し業務負担が過重になると、危機管理に十分な時間やエネルギーを割く余裕がなくなるとも言われています。
過去にも取り上げましたが、教育活動全般に慣れが生じ、その様子が常態化すると危機管理を重視しなくなり「他の教員もそうだから」「他の学年でもそうだから」「大丈夫だろう」といった心に隙が生じ、結果として所属する教職員の危機管理意識が低下してしまうことを指摘させていただきました。
さらに日常の教育活動を進める中で、危機意識が話題にされないなど、学校の安全計画を見直すなどの研修の機会を持ち、あらためて危機に対する能力を保持し高めるよう、年間計画の中に位置付けるなどの機会が設けられていない学校が問題視されています。
いずれにしてもこれらの要因が複雑に絡み合い、教職員の危機管理意識や遂行能力の低下につながる可能性があります。
学校安全や危機管理の遂行は学校の管理職だけではできません。毎日、児童生徒と向き合っている教職員の皆さんの周りに学校事故は潜んでいます。読者の皆さんの所属する学校では、危機管理が十分機能していでしょうか。
一昨年12月に改訂された生徒指導提要では、ややもすれば事後対応が中心の生徒指導でしたが、事故が起きることがないよう予防・予見することが重視されています。
今号から「学校安全と危機管理危意識と遂行力」シリーズとして、具体例を挙げながら4回掲載しますので拝読いただければ幸いです。
〈参考文献〉
▽学校安全と危機管理・三訂版(渡邉正樹、伊佐野龍司、桜井愛子、大修館、2020)
▽リスクコミュニケーション~多様化する危機を乗り越える(福田充、平凡社、2022)
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2024-06-14付)
その他の記事( 教職員の協力を高める学校づくり)
教職員の協力を高める学校づくり〈№145〉 他の教科等の学びで活用 ディープラーニングのすすめ②
前号ではディープラーニング(深層学習)そのものについて概説しましたが、今号から、どのように授業過程を編成し進めるのかを、学習理論によって概説します。 小・中・高の校種を問わず学習指導要...(2024-08-23) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№144〉 深い学びの先にあるもの ディープラーニングのすすめ①
私は年間3~5回程度、わが国の教育をリードされている教育関係者や教育学者、教育心理学者との懇談にズームで参加し、社会の進展に伴う教育の変遷や教育課題について、様々な情報交換をさせていただい...(2024-08-09) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№143〉 熱中症から子どもを守る 学校安全と危機管理意識と遂行力④
今号では、熱中症に係る危機管理について記述します。 熱中症はかって関東以南の問題でしたが、北海道においても30度を超える状況の長時間化と範囲の拡大、熱帯夜の出現日数の増加といった高温化...(2024-07-26) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№142〉 法令に基づく危機管理とは 学校安全と危機管理意識と遂行力③
今号は、学校の危機管理に関する法令に基づく内容について記述します。 学校の危機管理には、災害発生時の避難手順、救助活動への協力、避難所の運営などの災害対応に関する法令、緊急時に迅速に警...(2024-07-12) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№141〉 教育文化等アップデートを 学校安全と危機管理意識と遂行力②
今号は、教師の安心や慢心とも言える心理状態や、危機管理意識の低下さらに危機管理の遂行能力の減退について記載します。 まず言えることは、学校管理職やそれ以外のスクールリーダーが、日常から...(2024-06-28) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№139〉 男性優位では決してない 女性管理職が創造する学校④
前回までに女性管理職の優位性および強く望まれる背景を述べました。今回は管理職に就くための課題と対応を記述します。 当然のように、学校管理職は1学級の指導のみならず、学校全体の管理・運営...(2024-05-24) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№137〉 対人関係能力に高い優位性 女性管理職が創造する学校②
アメリカの未来学者でありAIの世界的権威であるレイ・カーツルワイルは、シンギュラリティ論(GNR論・技術的特異点)について、2030年には人工知能が人間の知能と並び、2045年には人間を超...(2024-04-26) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№136〉 横たわるジェンダー問題 女性管理職が創造する学校①
今号から4回にわたり「女性管理職が創造する学校」と題して記述します。 昨年暮れに空知女性管理職の会・樹輪の会(会長・菊地佳子岩見沢市立清園中校長)の「女性管理職の時代」と題した講演会に...(2024-04-12) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№135〉 身に付けたい柔軟な姿勢 教師力を高める傾聴と話す力④
今号では、前号で概説した教師に求められる話す力の基本について記述します。 核家族化が進む現代は、家庭や地域社会での教育力が以前よりも低下している反面、前シリーズに掲載した「過剰な苦情や...(2024-03-21) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№133〉 子と同じ言葉を繰り返す 教師力を高める傾聴と話す力②
「先生が私の話を最後まで真剣に聴いてアドバイスしてくれた」「私が失敗した時でも先生は怖い顔をして叱ることなく、話を聴いてくれたので自分から反省の言葉を言えた」「先生は毎日忙しいと分かってい...(2024-02-21) 全て読む