教職員の協力を高める学校づくり〈№133〉 子と同じ言葉を繰り返す 教師力を高める傾聴と話す力②
(教職員の協力を高める学校づくり 2024-02-21付)

 「先生が私の話を最後まで真剣に聴いてアドバイスしてくれた」「私が失敗した時でも先生は怖い顔をして叱ることなく、話を聴いてくれたので自分から反省の言葉を言えた」「先生は毎日忙しいと分かっているが、僕のために時間を割き熱心に話を聴いてくれてうれしかった」

 「話の内容が整理できないで困っている時、〇〇については〇〇と感じたのかな?と言ってくれて話しやすかった」「先生はゆっくり落ち着いた雰囲気で、うなずきながら話を聴いてくれた」など、教師が児童生徒の側に立つ場合、先生に話をして良かったという実例を聞きます。

 しかし前記の実例の聴き方が逆であったら、児童生徒はどのように感じるでしょうか。

 実例でお分かりのように傾聴とは単に話を聴くだけではなく「〇〇さんを大切に思っているよ」と相手に伝わることであり、児童生徒はこのように耳を傾けてくれる教師に感謝、尊敬し、信頼関係を築くことができるのではないでしょうか。

 様々な機会で児童生徒との信頼関係を高めることが基本とされていますが、私は教師力を高める基本要素は、聴く力にあると考えています。

 研修会でこのような話をすると「時間がない」「働き方改革で時間が取れない」との話を聞きますが、時間がない場合は「あす〇時からであれば時間が取れるよ」と指定してはどうでしょうか。

 また学校教育の働き方改革の意義は、児童生徒と接する時間を切り取ることが目的ではなく、ほかの業務の簡素化を図りながら児童生徒と接する時間を確保することにあると理解しています。

 つぎに児童生徒との傾聴の実例について記述します。

 面談の初期段階では―

 ①リラックスさせるため本題から始めるのではなく、日常的な活動の様子について「〇〇の時はよくやってくれたね。とても助かったよ」など肯定的な話から始める

 ②児童生徒の話にうなずき(うなずきは傾聴のエンジン)笑顔や明るい顔、声のトーンなどを工夫し、話しやすい雰囲気づくりを心がける

 ③児童生徒が下を見たまま話し、不安や葛藤が見られた場合は直接前に座るのではなく、斜めや横並びなど座る位置を工夫し、リラックスさせるようにする。よく見られる足や腕を組みながら聴く上目目線の聴き方では心を開くことができません

 ④児童生徒の発言に、前号で説明しましたように、どのような内容であっても否定や遮ることなく、そのような状況に置かれている心情や、そうしなければならない状況をくみ取りながら話を聴く(共感)

 ⑤つぶやいた言葉を含め、教師は児童生徒が言った同じ言葉を繰り返すようにする。特に感情に触れた発言を教師が繰り返すと、先生は私の気持ちを分かろうとしてくれているという実感が持てるようになります

 ⑥児童生徒が言葉として表現できない感情を「〇〇ように感じていたんだね」と心の整理を手助けする

 ⑦話の内容が不十分な場合は、開かれた質問(オープン・クエスチョン、答えを5W1Hで引き出す質問)や閉ざされた質問(クローズド・クエスチョン、イエスかノーあるいは簡単な一言)によって話の内容を明確にする

 ⑧面談のゴールは「これからどうすればいいと思う」と自律心を高め、教師の支援が必要と感じた場合は「〇〇君が行った行為は、先生はとてもうれしい」「〇〇さんは失敗したと思っているけれど、〇〇はとても良かったね」などと勇気づける(児童生徒が失敗した行為に対して、与える側への関心を持ち、ありのままに共感し今後の自分の成長や進歩に意識が向くようにし、困難を克服する活力を与える「アドラー心理学・勇気づけ」)―ようにします。

〈参考文献〉

▽マイクロカウンセリング技法(福原眞知子、風間書房、2007)

▽プロカウンセラーの共感の技術(杉原保史、創元社、2015)

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

(教職員の協力を高める学校づくり 2024-02-21付)

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