教職員の協力を高める学校づくり〈№134〉 話す力を日常的に鍛える 教師力を高める傾聴と話す力③(教職員の協力を高める学校づくり 2024-03-08付)
「教師力を高める傾聴と話す力」①②では、傾聴の大切さと進め方を記述しました。今号と次号は教師に求められる対話力である「話す力」について執筆します。
コミュニケーション心理学では、傾聴や話すことを含めコミュニケーションの定義を「知識などの単なる情報だけではなく、情緒や意図など何らかの特別な意味を持った情報を伝え合うこと」としています。
また一方からもう一方へ情報を伝達し、それによって何らかの影響を相手に及ぼす相互作用をもたらしながら、話題を共有しながらコミュニケーションが展開されます。
しかし「児童生徒は教師の言うことを聞くものだ」「児童生徒は教師の言ったとおりに活動すべきだ」「教師の言うことを聞かない児童生徒は問題だ」など、知らず知らずのうちに教師がこのような状況に陥っているならば、コミュニケーションが適切に図られません。
つまり教師が児童生徒に向けて話をすれば伝わると考えるのではなく、どう話をすると伝わるのかを考えなければ、話すことにはなりません。
ところがどうでしょうか。教師の話し方や説明が不十分であるにもかかわらず、聞く側の児童生徒に問題があるかのように残念な発言を度々聞くことがあります。児童生徒によっては教師の話を「〇〇はこうすればいいのではないか」と推測し行動に移すことができますが、察することができない児童生徒は叱責の対象となります。これは生徒指導の場面だけではなく、学習指導の場面で見られ結果的に学力にも大きな影響を及ぼします。
ご存じのように、プレシンギュラリティ(加速進化の法則によって人工知能が人間の知能を超えるシンギュラリティが訪れる前の過渡期のことを指し、この時期は科学技術の発展が加速し、人間の生活が従来の枠を超えて変化を始める時期とされ、2030年には人工知能が人間の知能に到達することを言う〈レイ・カーツワイル〉)を間近に控えている今日、今以上に児童生徒と教師の話す内容が共有されなければならず、特に授業では一方的な知識の伝達による古典的とも言える授業展開では、未来をたくましく切り拓く生きる力を育むことはできないとされています。
このように教師の話す力は極めて重要な教育要素と言えます。教師の話す力は、教師の職務や専門性にとって重要な要素として①聴く力②質問力(活動への理解度を質問によって理解し、効果的に活動を進めるスキル)③説明力(情報を分かりやすく説明するスキル)④フィードバック提供力(自分の誤りから学べるようサポートする)⑤エンゲージメント促進力(活動に興味・関心を持たせるスキル)⑥エンパシー(安心して活動ができる感情やニーズを理解する共感力)⑦個別的コミュニケーション(個々に応じたコミュニケーションスキル)⑧グループコミュニケーション(学級全体やグループで協力・協調を促進させ学習環境を高めるスキルでありファシリテート力とも)―など多岐にわたるため、初任者研修やほかの研修の段階のみで身に付けることは難しく、日常的な教育実践の中から学び続けることが前提です。
文部科学省は、教師個人と学校組織に求められる力の基本的考え方を「教師に求められる資質・能力の再整理」として示していますが、その中で、教員育成指標の内容を定める際の七つの観点の中心課題として、教職を担うに当たり必要となる素養として聴く、話す力としてのコミュニケーション能力を高めることが重要であるとしています。
〈参考文献〉
▽プロカウンセラーの共感の技術(杉原保史、創元社、2015
▽コミュニケーションの社会心理学(岡本真一郎、ナカニシヤ出版、2023)
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2024-03-08付)
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