教職員の協力を高める学校づくり〈№131〉 法令背景にした態度で臨む 過剰な苦情や不当な要求への対応⑧(教職員の協力を高める学校づくり 2024-01-26付)
過剰な苦情や不当な要求をする保護者や地域の方に対して、早く問題を解決しようとして、その場しのぎで具体的な対応策を提示することなく「これからしっかり見守っていきます」「今後そのようなことが起こることがないようにします」などの発言や安易な妥協は決してしてはなりません。
また相手の強弁によって法的に問題があると理解しても、その要求に応じたりしてはなりません。
特に過剰な苦情や不当な要求をする保護者らは、学校や地教委が要求に応じたことで成功体験を積み、別件でも不当な要求を突き付け、他の保護者の相談内容に同調し付き添い過激な発言をし、校種が変わっても同様の行為に及ぶ実例が多く見られます(学年が進み新たな担任への攻撃や、例えば中学校や高校でも同様の行為に及ぶ)。
このような方への対応例を説明すると、大声を上げ怒鳴り散らしている場合は①対応者から、静かに話すように2、3回注意を促す②対応者の注意に応じない場合は「これ以上は話し合うことができませんのでお引き取りください」(退出しない場合は不退去罪)など退室するよう注意を促す③注意にもかかわらず、退出せず大声を出したりする場合、職員を呼び、なおも退去しない場合は、警察(警察署生活安全課)へ通報する―ようにします。法に従い対応するとの共通認識と意思決定を、事前に教職員間に説き理解を得る必要があります。
1回目、2回目の面談で激高し、机をたたく、大声で威嚇し暴言を吐く(脅迫罪、威力業務妨害罪)など、次回も同様の行為に及ぶ恐れがある場合は、事前に警察(警察署生活安全課)へ相手の氏名、年齢、住所を含めどのような状況であるのか、またどのような発言がなされたのかを時系列にまとめた文書を提出し、2回目、3回目の前に面談時間を告げ、学校の要請によって児童生徒や教職員の安全の確保のため警察へ連絡し、学校に直ちに来校いただくよう依頼します。
また警察への要請の必要性を感じない場合でも、警察には状況を説明し、今後想定される対応について助言を受けるよう連携を十分に図ります。
またこのような方との協議の前に「〇〇さんも学校側も法に触れる言動を共に控えながら協議を進めていきたいと思いますがよろしいですか。もし法に触れる言動がなされた場合は、警察に通報させていただきます」と説明し協議に入ります。
机をたたく、大声で威嚇し暴言を吐くことはなくとも、感情的な論調で不当な要求を繰り返し、問題の解決を妨げるような発言がみられる方の特徴は、主観的に物事を捉え深読みしネガティブな思考を深め、毎回妄想とも取れるような発言や要求を激化させ「もし〇〇であれば学校はどうするのだ」「今後何かあったらどうする」などの発言をする特徴があります。
繰り返し同じような話をされる方には「前回(先ほど)も同様のお話をお聞きしました」と述べ話題を変換します。
さらに「もし〇〇になれば学校はどうするのだ」「今後何かあったらどうする」の問いには「学校には具体的にどのようなことを望んでいるのですか」「何かあったらどうするとは、どのような意味ですか」に続けて「それは学校に対する脅しですか」と述べ、「〇〇さんは学校の対応について非難を繰り返されていますが、教職員は子どもたちのために懸命に努力していることを知っていますか」「それでは具体的にどのように教職員が努力しているのかお話しください」など、学校に対して否定的意見を肯定的に変換させ、学校の教育活動を理解していただくようにします。
不当な要求などを曖昧にするのではなく「法令上、応じることはできません」などとはっきり断ることが必要です。
いずれにしても、わが国の教育界の歴史として、過剰な苦情や不当な要求をする保護者や地域の方に対して「うまくやる」ことが暗黙知とされてきましたが、今はそれが通用する時代ではありません。
学校リーダーのうまくやろうとする意識が高ければ高いほど、教職員はメンタルを損ない教育の場は疲弊します。
教育関係者の皆さんには、法令を理解し毅然とした対応を進められることを期待します。
〈参考文献〉
▽事例解説教育対象暴力~教育現場でのクレーム対応(近畿弁護士会連合会民事介入暴力・弁護士業務妨害対策委員会、ぎょうせい)
▽実践事例からみるスクールロイヤーの実務(石坂浩・鬼澤秀昌、日本法令)
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2024-01-26付)
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