教職員の協力を高める学校づくり〈№125〉 重視すべき初期対応の原則 過剰な苦情や不当な要求への対応②
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-10-20付)

 当然のように、学校や教師に対して意見を述べる保護者や地域の方の全てが、過剰な苦情や不当な要求をするわけではありません。経験上、学校や教師による不適切と思われる対応に保護者らが憤慨し、結果として難しい状況に陥る場合が多くあります。

 今号と次号では、学校や教師に意見や要望、改善などを求める方の感情をエスカレートさせることがないようにするため、あらためて基本的対応について記述します(詳細は、教職員の協力を高める学校づくり〓57~66「保護者との信頼関係を築く対応」、令和3年)。

 まず何よりも重視しなければならないのは「初期対応」です。保護者や地域の方の感情を害するような初期対応が、以降の対応を極めて難しい状況に陥らせてしまう要因となる事例が最も多いと言えます。

 保護者や地域の方からの苦情は、冷静に話を聞きその内容を正確に把握することを最優先し、感情的な物言いに引き込まれ発言してはならない言葉を並べ、批判や中傷の応酬となってしまった事例が多く見られますので、つぎのような内容を原則とします。

 対応の原則1として、傾聴と主訴を捉えるようにし安易で曖昧な回答を避けなければなりません。①傾聴とは、相手が感情的な物言いであってもその背景にある理由や願いを推測的に「そうですね」「お気持ちはよく理解できます」「そう感じられたのですね」など相づちを打ちながら不安や困り感、感情を害したところを繰り返し要約し、心の安定を図るようにします。②主訴を捉えるとは、保護者の感情に巻き込まれることなく「どのようなことについて、どのような状況にあり、それをどう捉えているのか、何を願っているのか」を把握し、その発言の背景にある意味を聴き取るようにします。③安易で曖昧な回答を避けるとは、安易な謝罪はせず、事実関係を明確にしないまま自身の見解を述べ、安直に具体的な対応を提示することなく、管理職や他の教職員と共に協議し対応すると告げるようにします。

 対応の原則2として、保護者や地域からの苦情や要求は、学年主任や生徒指導部長、管理職に速やかに報告します。残念な事例として、管理職へ報告せず、机を並べている教員に、苦情を述べた保護者や地域の方の批判を中心に雑談し、その場しのぎの曖昧な対応を繰り返した結果、苦情の原因そのものよりも学校の対応の遅れが保護者や地域の方から強い不信感を招き、地教委を巻き込んだ大きな問題となりました。

 管理職は大きな問題となって初めてその事実を知り、以降の対応に大変苦慮し学校に対して強い不信感を持たれてしまいました。特に苦情等を直接受けた教職員は、問題を一人で抱え込まないようにし、管理職は危機管理意識を持ち事実関係を確実に把握し、この先、事態がどのように進展するのかを判断します。

 対応の原則3は、事実確認です。事実確認は苦情を受けた教師の主観ではなく①いつ、どこで何があったのか②誰が関わっていたのか③問題の原因は何か④その結果、どのような状況になったのか―を明らかにします。

 対応の原則4として、保護者や地域の方の苦情と学校で確認した事実を整理し、問題を長期化・困難化させないためには、問題の状況に応じ、管理職や生徒指導部長、学年主任、学年のメンバーらで情報を共有し、対応の方針を決定します。

 また実際の対応を行う以外の教職員にも方針を示し、教員間で共通認識を持ち、対応する教師をバックアップする体制を築くことが重要です(学校によっては、一部の教師にしか問題を開示せず、方針が不明で対応のみを特定の教職員へ依頼し副校長・教頭などの管理職が対応の協議に出席しないまま進められる場合が見られますが、これでは対応の方針が不明確で対処が中心となり、バックアップ体制が築かれません。学校全体の危機管理意識を高めることにも至りません)。

 さらに重視すべきことは教育行政機関(小・中学校は地教委)に第1報を入れ、方針と対応策を示すとともに、場合によってはスクールロイヤーなどに相談するようにします。対応の原則3に示したように、必ず正確な記録を時系列(時間の経過とともに変化していく状況を観測し、その内容を時間の順序に従って整理・配列したもの)で作成し蓄積しておきます。

〈参考文献〉

▽事例解説教育対象暴力~教育現場でのクレーム対応(近畿弁護士会連合会民事介入暴力・弁護士業務妨害対策委員会、ぎょうせい)

▽実践事例からみるスクールロイヤーの実務(石坂浩・鬼澤秀昌、日本法令)

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

(教職員の協力を高める学校づくり 2023-10-20付)

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