教職員の協力を高める学校づくり〈№123〉 個別重要課題への関わり 生徒指導提要の改訂を読む⑥(教職員の協力を高める学校づくり 2023-09-22付)
生徒指導提要シリーズ最終号では、法制度や社会環境の変化による「個別の重要課題や、その状況に応じた関わり」として、第Ⅱ部の第12章、第13章に改訂後、新たに明記された章の概要を説明します。
第Ⅱ部の第12章では「性的マイノリティ」に関する課題と対応を記述しています。平成27年4月30日、文部科学省から「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」が発出され、性同一性障がいに係る児童生徒については、その心情等に十分配慮した対応をするよう要請が行われました。
性的マイノリティーに関する大きな課題は、当事者が社会の中で偏見の目にさらされるなどの差別を受けてきたことであり、日頃から児童生徒が相談しやすい環境を整え、学校内外の連携に基づく「支援チーム」をつくり、ケース会議などのチーム支援会議を適時開催しながら対応を進めるよう明記しています。
第13章では「多様な背景を持つ児童生徒への指導」として、13・1に「発達障害に関する理解と対応」として、発達障害者支援法(平成16年法第167号)をもとに、発達障がいのある児童生徒の場合は、不安や悩みを身近な人に伝えて理解してもらうことや、課題解決のために援助を求めることが苦手なため、自己解決能力が育ちにくいところがあると記述しています。
また集団でうまく適応できていない児童生徒の中には、こうした課題を共通に抱えている場合も多いと思われるため、児童生徒が抱えている悩みや課題を真摯に受け止め、いつでも相談できる人や場所を校内に確保することが求められているとしています。さらに必要に応じて関係機関と連携し、個別の教育支援計画を立案し活用することを重視しています。
13・2では「精神疾患に関する理解と対応」として、日頃から保健所、保健センターなどの地域の関係機関とのネットワークを築いておくことが求められます。
この章では主な精神疾患の例を挙げていますが、多くの精神疾患は、不安、抑うつ気分、不眠などから始まるとし、これらは思春期であれ、大人であれ「よくありがちな」症状とも言えます。
しかし、そのまま対処せずにいると、次第に個々の疾患に特徴的な症状へと発展する恐れもあるため、こうした症状を「よくあること」として見過ごさず、改善すべきこととして、生活リズムや生活環境の改善等に配慮するなどして、適切に対応することが望まれるとしています。
13・3の「健康課題に関する理解と対応」では、文部科学省「現代的健康課題を抱える子供たちへの支援~養護教諭の役割を中心として」(平成29年)で、養護教諭の位置付けが明記され、養護教諭を生徒指導部会の構成メンバーとして位置付け、生徒指導主事と養護教諭との密接な連携を図ることが不可欠としています。
養護教諭は職務の特質を生かし様々な健康課題を抱える児童生徒が、どの学校においても課題解決に向けた支援を確実に受けられるように、養護教諭が中心となって情報を収集し、組織的な支援に取り組む重要性を示しています。
その中でも特に多様化・複雑化する健康課題の解決に向けて、養護教諭は日常的に他の教職員と連携することが求められています。さらに児童生徒の心身の健康課題の背景は多様化しており、課題の把握に当たっては、一人の情報では不十分であるため、学級・ホームルーム担任や養護教諭をはじめとする関係者間で情報交換を行い、児童生徒を多面的に理解した上で、課題の本質(医学的要因・心理社会的要因・環境要因)を捉えていく必要があるとしています。
13・4の「支援を要する家庭状況」としては、「児童の権利に関する条約」や「児童福祉法」を背景に、積極的に困難を抱える児童生徒の発見に努め、適切に支援し、あるいは支援できる機関や仕組みにつなげるとしています。
また学校が家庭を支援するに当たっては、その多様性を認め、あくまでも家庭と協働して児童生徒の教育に当たるという姿勢で臨むことが必要とし、なすべき役割を理解し、学校単独で抱え込まない家庭支援が求められるとしています。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-09-22付)
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