教職員の協力を高める学校づくり〈№114〉 学校のリーガルリスクマネジメント③ 安全配慮義務と注意義務(教職員の協力を高める学校づくり 2023-05-12付)
今号は教育活動を推進するに当たり、つぎの基本的理解によって進めなければならない「学校の安全配慮義務と注意義務」について記載します。
この基本的事項は学校の法的責任の根拠となるべき原則です。
▼危険回避義務と危険予知義務
危険回避義務とは、あらかじめ教育活動を進める上で、危険な状況を回避する処置を十分に果たすことができたかどうかであり、危険予知義務とは、事故が起きることをあらかじめ予見できたかどうかを問うものです。
具体例を挙げると、理科の実験でビーカーなどの必要な器具を扱う場合の手順と取り扱いへの諸注意を説明し徹底されていたかどうか。さらに教職員は児童生徒の実験の様子を注意深く留意し、破裂などが生じないよう目配りをしていたかどうか。
同様に他の授業において通常の授業を進めることが困難とならないよう日常の施設・設備の安全点検や、活動の手順が徹底され危機を回避する手だてが図られていたかどうか。
また校外学習などでは現地までの道順、障害物、天候不良に伴う避難場所の確保、スズメバチなどの害虫被害からの回避、救急搬送体制の確立など、学校の安全配慮義務と注意義務を果たすことが求められています。
特に最近は北海道でも温暖化の影響によってグラウンドでの体育の時間などで熱中症が発生しています。熱中症の予防のため水筒を各自用意させるなど、危険回避義務がなされていたかどうか。
本州のある事例では、体育の時間、意識がもうろうとなり体調が悪くなった生徒に対して救急車による救急搬送を依頼せずに、日陰で休むよう指示し、その後死亡し危険回避義務と危険予知義務の安全配慮義務違反として厳しく問われた判例もあります。
また一般に活動の事前、活動中は児童生徒の健康観察をしますが、活動事後がなされず、校庭や帰宅中に体調不良で歩くことができず、通りがかりの人に助けを求めたとの事例もあります。
▼児童生徒の保護監督義務
学校生活の中で生じる危険から児童生徒の生命および健康などを保護すべき義務、その安全に配慮すべき義務を学校(教職員)が負っている根拠となる義務です。
教職員の過失を問われた判例として、体育の授業中に同級生の行為が原因で重症を負った事案(高松高裁昭和56年10月27日判決)の概要を記述します。
ある高校で体育の授業を終え、後片付けをしていた時に被害生徒を複数人で体操マットによってサンドイッチ状に挟み、上から踏みつけるなどしたため、その生徒が頸髄損傷などの重症を負い1年3ヵ月の入院が必要となりました。
この高校では、これまでにも授業終了時に今回と同様の行為が数回にわたり発生しましたが、教職員はこのことに気が付いていなかったのか、これまで特別に注意し叱責したなどの確認が十分でありませんでした。
その結果、加害生徒のほかに教員の過失も認定され、国家賠償法に基づき県に対して1968万円の支払いを命じる判決が言い渡されました。
▼保護者への通知義務
事故発生の場合は、早急に被害児童生徒の安全確保や救護をいかに迅速かつ適切に行えるかどうかが重要であるとともに「学校事故対応に関する指針」(文部科学省)に基づく事故発生後の取組の流れとして、事故発生後、応急手当ての実施と速やかな被害児童生徒等の保護者への連絡が明記されています。
また事故発生後は、保護者の心情に配慮しながら丁寧なコミュニケーションを心がけ、保護者との継続的な関係性を構築することが重要です。
〈参考文献〉
▽「学校事故対応に関する指針」に基づく適切な事故対応について(通知)(文科省)
▽教職員支援機構・校内研修シリーズ№44(高崎経済大講師・高崎市教委教育長、飯野眞幸)
▽スクールロイヤー~学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170(神内聡、日本加除出版)
▽法学六法20(信山社出版)
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-05-12付)
その他の記事( 教職員の協力を高める学校づくり)
教職員の協力を高める学校づくり〈№126〉 プラス1の原則と電話対応 過剰な苦情や不当な要求への対応③
今号は前号に引き続き、学校や教師に意見や要望、改善などを求める方の感情をエスカレートさせることがないようにするための基本的対応について記述します。 対応の原則5として、学校が確認した事...(2023-11-01) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№124〉 教職員や学校を守るために 過剰な苦情や不当な要求への対応①
学校現場では、保護者や地域からの過剰な苦情や不当な要求が大きな問題となっており、中教審は働き方改革を含め現場にとって大きな負担ともなっているとし、その解決に向けたモデル事業を令和6年度から...(2023-10-05) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№123〉 個別重要課題への関わり 生徒指導提要の改訂を読む⑥
生徒指導提要シリーズ最終号では、法制度や社会環境の変化による「個別の重要課題や、その状況に応じた関わり」として、第Ⅱ部の第12章、第13章に改訂後、新たに明記された章の概要を説明します。 ...(2023-09-22) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№122〉 「改善させる」から「育む」へ 生徒指導提要の改訂を読む⑤
「生徒指導提要」改訂版の19ページには、生徒指導を組織的・計画的に進めるために「2軸3類4層」の重層的支援構造モデルが特徴的に示されています。 2軸の常態的・先行的(プロアクティブ)生...(2023-09-08) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№121〉 子ども第一主義の学校へ 生徒指導提要の改訂を読む④
第10章「不登校」ではその背景にある要因を多面的かつ的確に把握し、早期に適切な支援につなげるに基づく個に応じた具体的な支援を行い、スクールカウンセラー(SC)、スクールソシャルワーカー(S...(2023-08-25) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№113〉 学校のリーガルリスクマネジメント② 保護者の“不安”を解消する
保護者対応の相談で最も多いのが、感情の起伏が激しく否定的観念によって一方的に教職員を非難、中傷する保護者の存在です。 当然ながら保護者の感情に呼応し教職員自ら感情的になるのは問題外です...(2023-04-27) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№110〉 いじめ問題再考⑤ 子に寄り添う教師と学校
今号では、いじめに対応する教師について記述します。 いじめは児童生徒の問題と解釈できますが、子どもたちを取り巻く親や教師の姿勢が重視されます。それは単に厳しい、優しいなどの二極論ではな...(2023-03-13) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№120〉 自ら守ろうとする校則か 生徒指導提要の改訂を読む③
今号から生徒指導提要の第I部「生徒指導の基本的進め方」にある特筆すべき内容について記述します。 働き方改革の要請や教員不足の問題、ベテラン教員の大量退職と若手教員の増加などによる学校の...(2023-08-10) 全て読む
高める学校づくり 教職員の協力を 〈№119〉 児童生徒理解が大前提に 生徒指導提要の改訂を読む②
改訂となった生徒指導提要の第I部は「生徒指導の基本的進め方」と題して、第1章「生徒指導」、第2章「生徒指導と教育課程」、第3章「チーム学校による生徒指導体制」からなっています。第Ⅱ部は「個...(2023-07-28) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№118〉 チーム学校で臨む指導改善 生徒指導提要の改訂を読む①
本紙の読者の皆さまから「生徒指導提要の改訂」について概説してほしいとの依頼があり、重責を感じながらも「生徒指導提要の改訂を読む」と題し私見を加え、6号シリーズでその要点を記述します。 ...(2023-07-14) 全て読む