高める学校づくり 教職員の協力を 〈№119〉 児童生徒理解が大前提に 生徒指導提要の改訂を読む②
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-07-28付)

 改訂となった生徒指導提要の第I部は「生徒指導の基本的進め方」と題して、第1章「生徒指導」、第2章「生徒指導と教育課程」、第3章「チーム学校による生徒指導体制」からなっています。第Ⅱ部は「個別の課題に対する生徒指導」として、第4章「いじめ」、第5章「暴力行為」、第6章「少年非行」、第7章「児童虐待」、第8章「自殺」、第9章「中途退学」、第10章「不登校」、第11章「インターネット・携帯電話に関わる問題」、第12章「性に関する課題」、第13章「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」と場面ごとの課題に対応できるよう作成しています。

 また生徒指導提要の改訂に伴う基本的な考えの第一として、生徒指導は「成長を促す指導」「予防的な指導」「課題解決的な指導」の3つに分けることができると記述しています。

 改訂の内容を読み解いていくと第一の特徴は、いじめや不登校等の生徒指導上の課題を課題解決的な指導だけではなく、成長を促す指導や予防的な指導をあらためて認識することを重視しています。また問題行動の発生を未然に防止し、全ての児童生徒が自ら現在や将来における自己実現を図っていくための能力の育成を目指すため、学校におけるあらゆる場面を通じて積極的に生徒指導を行っていくことが重要であると記述しています。

 どちらかと言うと、受け身型で問題が起きてからの対応・対処が中心となっていた生徒指導の在り方を、個々の児童生徒や学級集団などの成長を促し、予防的で積極的な生徒指導の展開を今まで以上に重視するよう方針として述べています。

 当然、成長を促し予防的で積極的な生徒指導を展開するためには、児童生徒の言い分を聞かず一方的に指導するのではなく、児童生徒の話に耳を傾けながら日常的なコミュニケーションを通して行動の中に見られる個性や能力、ストレスに感じていることなどを的確につかみ取る努力が必要であり、どのような個性や能力を持ち、どのような特徴や傾向を示しているかを教職員が十分に理解して対応に当たる「児童生徒理解」が今まで以上に意識されなければなりません。

 第二としては、第2部「個別の課題に対する生徒指導」の各章の記述にあるように、児童生徒の人権を守ることの大切さを強調しています。子どもが一人の人間として基本的人権を有し、行使する権利を保障するための条約である児童の権利条約(児童とは18歳未満の全ての者と定義されています。1989年の第44回国連総会で採択され、日本では90年に署名、94年に批准、効力が生じています)の児童権利4原則である①命が守られ成長できる権利②能力を伸ばし教育を受けられ育つ権利③差別をされ虐待を受けない守られる権利④自分の意見を自由に述べることができる権利―を背景に生徒指導を再構成し、社会的話題となっている校則の見直し、いじめや虐待、近年のインターネットの権利侵害、性的マイノリティーへの支援策など、児童生徒への人権意識を高め守る意義と対応を明示しています。

 第三の強調点は「チーム学校」です。より困難度を増している生徒指導上の課題に対応するためには、教職員が心理や福祉などの専門家や関係機関、地域と連携し、チームとして課題解決に取り組むことを必要としています。

 児童生徒の問題行動の背景には、心の問題とともに家庭、友人関係、地域、学校など児童生徒の置かれている環境の問題が投影されており、複雑に絡み合っていることから、より効果的に対応していくためには教職員に加え、心理の専門家であるスクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)を活用して様々な情報を整理統合し、アセスメントやプランニングをした上で、チームで問題を抱えた児童生徒の支援を行うことが重要である(文部科学省「チームとしての学校が求められる背景」)と学校運営の在り方を示しています。

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

(教職員の協力を高める学校づくり 2023-07-28付)

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