教職員の協力を高める学校づくり〈№117〉 判例から学ぶリスク回避 学校のリーガルリスクマネジメント⑥(教職員の協力を高める学校づくり 2023-06-28付)
今号は、教育活動のリスク回避の羅針盤とも言える判例について概説します。判例はリスク回避の特効薬であるとも言われています(教職員支援機構・校内研修シリーズ№44、高崎経済大学講師・高崎市教委教育長、飯野眞幸)。
▼判例① 学級担任の注意義務
学級担任は、担任する学級の生徒の学校生活全般について指導監督することを本務としており、指導が生徒の健康管理に及ぶことは当然であるから、日頃から生徒および保護者との連絡を密接にし、あるいは自ら生徒の健康診断の結果等を点検して特別な疾患を有することが判明した生徒については、その情報を学校全体の管理指導責任者である学校長、生徒の健康管理を本務とする養護教諭等に対して確実に伝達し、生徒、保護者および関係各教諭ら間の意思疎通を通じて教育カリキュラムを選定できる措置を講じ、生徒本人にも十分理解させた上で、適切な指導を行うべき注意義務を負う。(大阪地裁H7判決)
担任の注意義務に関わる判決であり、担任は担当する児童生徒の学校生活全般についての指導を監督するのが本務であると規定され、児童生徒の健康や生活状況について学校で共有し展開されていかなければならないとされています。
この判例は、学級担任と教科担任の連携がうまくいかず、保護者から激しい運動を控えてもらいたいとの申し入れが学級担任へあったにもかかわらず、教科担任が持久走をさせ子どもが亡くなったという事案です。
▼判例② 学校のいじめ防止義務
学校側は日頃から生徒の動静を観察し、生徒やその家族から暴力行為(いじめ)についての具体的な申告があった場合はもちろん、そのような具体的な申告がない場合であってもあらゆる機会を捉えて暴力行為等が行われているかどうかについて細心の注意を払い、暴力行為等の存在がうかがわれる場合にはその実態を調査し、表面的な判定で一過性のものと決め付けずに、実態に応じた適切な防止措置を取る義務がある。(同)
いじめに係る判決であり、学校がいじめを察知できない場合についても、学校は「いじめがあるのではないか」いう前提で十分に対応しなければならないと戒めた判決です。
この判決も判例①と同様に、学校全体で注意深く子どもたちを観察し、学校全体で共有しながら対応を図る重要性を述べています。
▼判例③ 校長の事故・事件未然防止義務
校長は学校の代表者としていじめ、暴力、犯罪、事故等学校内における事件や事故を未然に防止すべき義務があるのみならず、これらの事故が一度発生した場合には、事実関係を調査した上で、必要に応じて児童の保護者らにその調査結果を報告するなどの措置を取る義務があると言うべきである。(同)
ある小学校での集団暴行に対して、担任や学校の対応に問題があったという訴訟です。校長の職務とは何か。さらに保護者の立場で問題を解決しなければならないとの判決であり、この判決は全ての学校が教訓としなければならない内容と言えます。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-06-28付)
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