教職員の協力を高める学校づくり〈№124〉 教職員や学校を守るために 過剰な苦情や不当な要求への対応①
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-10-05付)

 学校現場では、保護者や地域からの過剰な苦情や不当な要求が大きな問題となっており、中教審は働き方改革を含め現場にとって大きな負担ともなっているとし、その解決に向けたモデル事業を令和6年度から開始するとしました。

 文部科学省は、学校だけでは解決が難しいケースを支援しようと、退職した校長・教頭、さらに警察OBを「学校問題解決支援コーディネーター」として新たに教育委員会に配置するモデル事業を、来年度から始める方針を固めました。

 このコーディネーターはスクールカウンセラーや弁護士らと共に、チームで学校や保護者から直接相談を受け付け、両者から事情を聞いて解決策の整理や提示をしたり、専門家を派遣し助言したりすることを想定しています。

 都道府県教委のコーディネーターは学校を訪問する巡回相談会や研修会も行うとし、文科省はモデル事業を47の市区町村と10の都道府県の教育委員会で始めるとして、関連費2億円を来年度予算概算要求に盛り込んでいます。

 モデル事業でありながらもようやく学校現場の窮状を理解し、過剰な苦情や不当な要求をする保護者や地域の方への対応に、国が踏み込んでいただいたことにありがたく感じています。

 私自身、前年度から「保護者との信頼関係を築く関わり」と題した研修会に招聘される機会が増え、本コラムでも「保護者との信頼関係を築く対応」(教職員の協力を高める学校づくり№57~66、令和3年)を記述しました。

 特定の保護者や地域の方とはいえ、学校現場への過剰な苦情、執拗に不当な要求が繰り返されることによって、教職員がメンタルヘルスを著しく損ない心療内科に通院、さらには休職を余儀なくされるなど生々しい相談を受ける機会が多くなりました。

 このような保護者や地域の方々の多くは学校への意見や要望、改善を求める内容とは違い、相手の側に立つことをせず、教師を精神的に追い込むような言動で満足感や優越感を得るなど人格にゆがみが生じていると感じる方や、神経症的傾向(不機嫌で情動の安定性と衝動の制御の程度や心理的ストレスの管理能力も低く、不平不満の傾向から「情緒不安定」)を垣間見ることができます。

 また該当する多くの方は、一般に近隣とのトラブルが多く、地域社会や職場で孤立しているなど対人関係やコミュニケーションに問題を抱えている傾向があります。

 残念ながら、このような保護者や地域の方に対しても一様に「保護者や地域の方に寄り添い、その立場に立って傾聴するように」などと間違った助言を受け、真摯に保護者や地域の方に向き合おうとしても、電話や来校の都度、感情的に「マスコミに取り上げてもらう」「〇〇議員に問題にしてもらう」「弁護士に相談し訴える」など、当初の発言内容を次第にエスカレートさせます。

 また自身の感情的論調に刺激され激高してますますヒートアップ、挙げ句の果てにはSNSなどの媒体で学校や教師の批判を拡散、甚だしい人権侵害であるビデオカメラを持ち込み録画、同調者と思われる方を集い数人で来校、学校の教育そのものを否定、おおよそあり得ないような不適切な発言や不当な要求をする方々もいます。

 その結果、該当の教師ばかりではなく学校全体が疲弊し、適切な教育活動そのものに影響を与えてしまっています。

 さらに当初の子どもへの対応の問題から次第に変化し、学校や教師の存在そのものまで否定して無理難題を突きつけるなど、まるで自身の欲求不満のはけ口のようにしているとしか思えない方もいます。

 このような状況を招かないための予防的知識と対応を中心に、中教審の特別部会でのタイトルを受け「過剰な苦情や不当な要求への対応」と題し、8回シリーズで執筆します。

〈引用文献〉

▽事例解説教育対象暴力~教育現場でのクレーム対応(近畿弁護士会連合会民事介入暴力・弁護士業務妨害対策委員会、ぎょうせい)

▽実践事例からみるスクールロイヤーの実務(石坂浩・鬼澤秀昌、日本法令)

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

◆きょうから新章

 本紙連載中の「教職員の協力を高める学校づくり」は、新たな章に入ります。テーマは「過剰な苦情や不当な要求への対応」。中教審の特別部会が8月にまとめた教員の働き方改革に関する緊急提言では、長時間労働や授業時数の是正、行事の在り方の見直しなどのほか、保護者や地域住民からの過剰な苦情や不当な要求について、教員個人が対応するのではなく学校が組織としてそれに当たるとともに、教育委員会など行政による支援の必要性が盛り込まれました。

 再生数を稼ぎたいユーチューバーらを引き連れ、大勢で学校に乗り込む様子が動画配信サイトにあふれる昨今、教職員ひいては子どもたちを預かる学校を守るために、新章では初期対応の6原則、保護者と教員の関係性の違いによる対応、対応の認識と捉え方などについて、学校が求められている「法令を背景とした毅然たる態度とは」という問いを明らかにすべく、豊富な具体例と共に分かりやすく解説します。

(教職員の協力を高める学校づくり 2023-10-05付)

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