教職員の協力を高める学校づくり〈№132〉 共感し無条件に肯定する 教師力を高める傾聴と話す力①(教職員の協力を高める学校づくり 2024-02-09付)
「教師力を高める傾聴と話す力」と題し、今号と次号は傾聴の大切さと進め方を記述します。
教職員の皆さんとの研修会の中で「普段から児童生徒の話を丁寧に傾聴しています」と聞きますが、「傾聴とは教師が聴きたいことを聴くのではなく、児童生徒が聴いてほしいことや、分かってほしいことを受容的に聴くことです」と説明しています。
それは児童生徒が「先生は私を大切にしてくれている」という思いが伝わっているかどうかであり、いわば児童や生徒の側に立った聴き方を言います。このような聴き方により、多くの話を引き出し親密感が増し、信頼関係を築くことにつながります。
傾聴の原点は来談者中心療法(クライエント中心療法)を提唱したアメリカの著名な心理学者カール・ロジャースの非指示的カウンセリング理論(説得や助言、指導を行わず、積極的にクライエントの話に耳を傾け、共感、繰り返し、明確化などを行っていくカウンセリングで、クライエントの主体性を大切にし、自らが気付き、自らが立て直すことができるという考え)が基本となっており、相手の立場に立っての対話を基本原則として相手の話を聴くだけではなく、相手の気持ちや思いを理解し、受け止めることが大切としています。
しかしクライエントの主体性を重視する来談者中心療法そのものは、クライエント本人には元々自己を治癒し、自己実現に向かい成長していく力があると考えているため、受け身に物事を捉える人やアドバイスを求める人、うまく自分のことを語ることができない人には向きません。
さらに、その理論をそのまま用いるのは幼児や小中学生には難しい面があります。しかし傾聴の技法は教育相談の場として活用でき、傾聴のメリットであるラポール形成(信頼関係を構築する)により、先生は私のことを理解してくれる、この先生なら悩みや不安を打ち明けることができる、など心が通い合う関係を築くことができ、結果として自分の気持ちに気付き、自分を否定することなく、ありのままの自分を受け入れていこうとする自己受容が生じます。
カール・ロジャースは相手の立場に立って対話するための「傾聴」の3原則をつぎのように示しました。
まずは相手の気持ちや感情を理解し、受け止め、相手が話す内容に対して、自分自身の経験や感情を重ね合わせるのではなく、相手の立場に立ち、児童生徒がどう感じているかを理解する「共感」が大切と述べています。
特に共感のためには、相手の言葉や表情、態度を注意深く観察し相手が話す内容に対して「〇〇君はこう感じているのですか?」などと推測せず、ありのまま聴くようにします。このように相手の立場に立って、共感し話を聴くことで表現しやすくなり、自分自身の気持ちにも気付きやすくなります。
つぎに、話す内容は自分自身の偏見や先入観を持たず、常にオープンな姿勢で接し、児童生徒が話す内容に対して否定的な反応を示すのではなく、積極的に受け止める「無条件に肯定」することを述べています。教師が児童生徒の意見や感情に否定的な反応を示すと、自分自身を否定されたように感じ、自己開示や問題解決への積極性を失わせるからです。
三つ目は自己一致です。自己一致とは自分自身と相手の考えや感情と照らし合わせ、相手の話す内容を受け入れ、理解しようとすることであり、話が分かりにくい時は「もう一度お話ししてください」などと伝え、真意を確認するようにすると説明しています。
傾聴の3原則を概説しましたが、どうしても教師は「指導」が頭をよぎり、話を聴く際に、児童生徒の話を最後まで聴くことができずに発言を遮り、説諭し否定するなどに陥りがちですが、傾聴の原則を再確認され「聴く」大切さを意識していただければと思います。
〈参考文献〉
▽カール・ロジャース カウンセリングの原点(諸富祥彦、角川選書、2021)
▽プロカウンセラーの共感の技術(杉原保史、創元社、2015)
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2024-02-09付)
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