インタビュー 4種校長会長に聞く④ 長期的展望に立った在り方模索 持続可能な学校経営へ 北海道特別支援学校長会会長 四木定宏氏(関係団体 2024-06-28付)
4種校長会長インタビュー④道特長四木校長
―会長としての抱負
特別支援学校長会は、前年度、創立から60年目の節目の年を迎えた。これまで、特殊教育から特別支援教育へと、障がいのある方への教育の考え方が大きく転換する中、小・中学校や高校等とも連携しながら、本会は本道の特別支援教育の推進に重要な役割を担ってきた。
本会としては、今後も安定的で持続可能な学校経営(ウェルビーングに満ちあふれた学校づくり)と本道の特別支援教育のさらなる充実に向けて、道教委ならびに特別支援教育センターとの密接な連携のもと、校長の資質・能力の向上、後継者の育成、校長会の組織強化に会を挙げて取り組んでいきたいと考える。
5年3月に「特別支援教育に関する基本方針」(道教委)が改定されてから、1年余りが過ぎた。本会は、各特別支援学校における障がい種ごとの専門性や、地域の特徴を踏まえたセンター的役割などの強みに基づいて、本道の特別支援教育をリードしてきた。また、その進捗状況をモニターし、施策要望として道教委に伝えるという使命を担っている。
現在、道教委では、特別支援学校の在り方検討ワーキンググループ会議を開催し、今後の特別支援学校の在り方について検討するとともに、文部科学省事業の「インクルーシブ学校運営モデル事業」として、本道の特徴を踏まえたインクルーシブ教育システムの在り方について、特別支援学校2校で実践検証に取り組んでいる。
本会としても、道教委や小・中学校および高校等と連携して、長期的な展望に立って本道の特徴を踏まえた特別支援教育の在り方を模索していきたい。
―特別支援学校長会の抱える課題と対策
▼各障がい種の教育について
視覚障がい教育では、札幌視覚支援学校、函館盲学校、旭川盲学校、帯広盲学校の4校が緊密に連携し、全道の視覚障がい教育の充実に向けた取組を進めている。専門性向上のための研修として、4校の全教職員が参加するオンライン研究サークルを計画的に実施し、指導力の向上に努めている。前年度から進めてきた「動画による研修配信」の拡大を図り、いつでも視覚障がい教育の専門分野を学ぶことができる体制の整備を進める。
また、就学前の幼児と保護者を対象にした相談とオンライン交流会、小・中学校等に在籍する視覚に障がいのある児童生徒を対象とした教育相談を行い、安心して学校生活を送ることができるよう支援に努める。
本年度、初の取組として、高等部専攻科によるマッサージの学習成果発表を道庁で行うほか、北海道マラソンでボランティアマッサージを実施するなど、積極的な理解・啓発活動によって、国家資格が取得できる高度な専門教育機関としての認知を高めていく。
聴覚障がい教育では、聾学校7校(釧路鶴野支援学校を含む)が連携し、聴覚障がいのある幼児児童生徒に、社会自立に必要となる資質・能力の育成や自己実現を図るための教育に取り組んでいる。聾学校に在籍する児童等の障がいの多様化が進んでいることを踏まえ、医療、保健、行政などの関係機関と連携を密にし、多面的に児童等を捉えながら、一人ひとりの教育的ニーズに応じた効果的・効率的な指導や支援となるように努めていく。
また、各校は、地域において聴覚障がい教育のセンター的機能を担っていることを踏まえ、パートナー・ティーチャー派遣事業のほか、地域における聴覚障がいのある乳幼児の早期支援の実現に向けて、地域の保健機関等と連携し、移動療育や職員研修などの支援を進める。
聴覚障がい教育校では、思考力や言語力などの資質・能力の育成およびコミュニケーションが確実に図られるよう、障がいの状態等に応じて手話、音声、文字、指文字等を適切に活用した指導を一層充実させる。ICTを活用するなどして、道内外の聾学校や地域の学校との交流および共同学習を進めるなど、在籍数の少人数化に対応した教育を推進する。
また、予測困難な社会で生徒が自立した生活を送ることができるよう、多様化する進路に備えたキャリア教育のさらなる充実を図る。
教職員の資質・能力の向上では、道聴覚障害教育研究会が中心となって、教員のニーズを踏まえた研究や研修を進めるなど、教職員の聴覚障がい教育の専門性の向上を図りながら、増加する人工内耳装用児や重複障がい児の指導など、多様な教育的ニーズに対応できるよう努めていく。
知的障がい教育では、学校卒業後の自立と社会参加を目指す教育を進めているが、全国的にも課題となっている狭あい化への対応や、児童生徒の障がいの多様化に対応するための教育課程の改善・充実が喫緊の課題となっている。
特に自立活動については、各校で教育活動の一層の充実を図っていく必要があると考える。また、各校が実践を重ねてきたICT機器の効果的な活用も含め、GIGAスクール構想の実現に向け、全ての児童生徒の学習保障に積極的に努めていく。
知的障がい教育校は、道内の特別支援学校で最も学校数が多く、広域に点在することから、各学校の課題の集約や情報提供を迅速に行い、これまで培ってきた知的障がい教育の知見を継承しつつ、様々な環境の中でも教育効果を上げる方法や、行事の持ち方などについて交流するなど、昨年以上に学校同士の連携強化を図っていく。
肢体不自由教育では、道立7校と札幌市立2校で、子どもたちの自己実現や可能性を広げる教育を進めている。幼児児童生徒の障がいの状態の重度・重複化、多様化を踏まえ、高等部卒業後の地域等における豊かな生活につなげることを目指し、自立活動の指導の充実や、ICT機器やオンラインを活用した教育活動を積極的に進めてきた。また、肢体不自由教育校と病弱教育校合同のスポーツ大会(オンライン開催)等にも取り組んでいる。
教職員の専門性や資質の向上に向けては、北海道肢体不自由教育研究大会をはじめ各種研修会を開催し、実践交流や実技研修などを取り入れた研修の充実を図るなどして、教職員の主体的な学びに結び付けていく。併せて、各校がセンター的機能を発揮し、小・中学校や他障がい種校と連携しながら肢体不自由教育の充実を図っていく。
病弱教育では、道立2校(うち分校1校)と札幌市立1校において、一人ひとりの病気や障がいに応じたきめ細かな教育を進めている。北海道医療センターに隣接する手稲養護学校三角山分校と市立札幌山の手支援学校では、ICTを活用した交流学習を進めるなど、互いの教育実践を生かしながら成果を上げている。
また、関係機関との連携・協力のもと、合同遠隔授業やオンライン見学体験、就労体験実習等について、地域はもとより全国に対象を広げて内容の充実を図っている。手稲養護学校三角山分校は、札幌市内の医療機関に入院している児童生徒を対象とした訪問教育の拠点校としての役割を担っている。病弱教育校3校が連携して教育実践を深めるとともに、教職員の研修機会を設けたり積極的な情報発信を行ったりするなど、本道の病弱教育の充実を図っていく。
―本年度の重点
▼働き方改革の推進
今、社会はVUCAの時代を迎えている。このような状況において、持続可能な学校経営を進めるためには、しっかりとした組織づくりを進めることが重要である。
そのためには、各特別支援学校の特性や特徴に応じた教職員の働き方を探求する必要がある。教員が本来の業務に向き合えるよう、チーム学校の考え方に基づき、療育や心理の専門家、スクールロイヤーなどの外部専門家との連携を推進したり、教員業務支援員等の支援スタッフの活用を推進したりする。
また、副校長・教頭の働き方の改善は、安定的な学校経営を行う上で最重要課題と捉えている。本年度、特別支援学校3校で「副校長・教頭マネジメント支援員」を活用した副校長・教頭の働き方改革に取り組んでおり、その成果に期待する。
働き方改革では、上限時間の順守を目的にしがちであるが、単に時間外在校等時間や仕事量の縮減を図るのではなく、副校長・教頭自身がコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを意識した働き方の質的な改革に取り組み、ワーク・ライフ・バランスの向上を実感できるよう支援する。
▼同僚性を生かした組織強化
今、学校現場では、主体的・対話的で深い学びの実現、ICT等を活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実、学校DXの推進、いじめの根絶、生徒の心と体の健康の維持、危機管理体制の構築、コミュニティ・スクールを生かした地域と共にある学校づくり、信頼される学校づくり、全ての教職員がやりがいと幸せを感じられる働き方改革の推進など、多くの課題に待ったなしで対応することが求められている。
加えて、特別支援学校においては、スクールバスの安定運行や学校給食の提供、食物アレルギーへの対応や医療的ケアの安全な実施、そして在籍数の少人数化や狭あい化への対応など、出口の見えにくい課題も多い。今の時代、学校経営は荒波を航海する舟のようである。
校長は、これらの課題に正対し、教職員や関係者と共に課題解決に向き合っているが、時には何を信じ、どこに向かい、どのように学校経営のかじ取りをすれば良いのか判断に迷うこともある。
毛利元就は三本の矢の教えを説き、赤穂には四十七士がいたが、本会には62人の同士がいる。校長会の会員同士が同僚性に基づいた有機的な結び付きを深めて、おのおのの校長の強みを生かしてみんなで複雑化する教育課題に向き合うことによって、単独ではなしえないような結果や、得がたい成果を上げることができるものと考える。
これからも、全会員が大同団結して本道の特別支援教育の充実に向かってまい進したいと考える。
昭和63年道教育大旭川分校卒。平成2年帯広聾を振り出しに、19年特セン情報教育室長、20年同聴覚・言語障害教育室長、23年東川養護教頭、25年釧路聾教頭、釧路鶴野支援教頭、27年札幌聾教頭、30年旭川聾校長を経て、令和4年から札幌聾校長。
昭和39年9月10日生まれ、59歳。岡山県出身。
(関係団体 2024-06-28付)
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