謹賀新年 新春インタビュー 北教組 山谷一夫中央執行委員長に聞く
(関係団体 2025-01-01付)

P26・山谷委員長
北教組・山谷委員長

 ―教員の担い手不足に対する国・道の対応と、それに対する受け止めをお聞かせください

 昨年高知県で行われた教員採用試験の合格者280人のうち、約7割に当たる204人が辞退したとする衝撃的なニュースがありました。全国の多くの県で教員採用試験の低倍率化に歯止めがかかっておらず、2023年度は過去最低を更新し平均3・4倍にまで低下しました(札幌市を除く北海道小学校1・3倍、中学校2・3倍)。

 この要因は、まぎれもなく教職員の過酷な時間外勤務の常態化にあり、学校が「ブラックな職場」であることが広く世間一般に認知されたことによるものです。

 教員の仕事は、子どもたちの未来を拓く素晴らしい仕事です。子どもたちの育ちを間近で見ることができ、子どもたちと一緒に笑ったり泣いたりできることが何よりもモチベーションになっています。にもかかわらず、日本の教育現場は「やりがい搾取」がはびこり、教職員を疲弊のどん底に陥れる極めて残念な状況にあると言わざるを得ません。

 文部科学省や道教委は、教員採用試験の実施時期や内容の変更、教職員の魅力発信などの対処療法的な手法ではなく、真正面から業務削減や定数改善等を行ない超勤・多忙化解消に取り組むべきです。そうでなければ担い手不足の問題は一向に解決しないと思います。

 次に、本来充足されるべき教員定数に満たないで年度当初から欠員が生じ、それに産休・育休・病休などによってさらに欠員が生じ、その不補充がどんどん拡大していなどの状況が多くの都道府県で生じています。全国教頭会の調査では、24年度当初に20・9%の小・中学校で欠員が生じており、危機的状況です。

 文科省はこれに対し、「採用人数が多かった頃に採用された世代の大量退職、それに伴う大量採用の傾向が続いている。これによって、若手の教師が増加したことに伴い、産前産後休業・育児休業取得者が増加した。さらに、近年の特別支援学級の見込み以上の増加等も重なり、臨時講師の需要が増加している。一方で、公立学校の教員採用選考試験において、教員採用数の拡大に伴い、臨時講師を続けながら採用選考に再チャレンジしてきた受験者の多くが正規教員として採用されたことで、講師名簿登録者が減少していることなどによって、臨時講師の確保が難しい状況となっている(引用は中教審答申であるが、これは文科省の考えそのもの)」と、需要・供給のバランスの問題としていますが、これは明らかに問題の本質を隠しています。

 端的に言えば、欠員不補充の構造的要因は、学校のブラック化に加えて、文科省・県教委がこれまで定数の全てを正規の職員で満たさずに、非正規職員をその調整弁としてきたことにあります。

 ただし、北海道は非正規教職員の処遇を正規職員と同じにしてきたことで、深刻な問題ではあるものの、他県であるような壊滅的な状況は回避できています。

 いずれにしても、この問題は超勤・多忙化解消以前の問題で、子どもたちのゆたかな学びの保障を阻害していることから看過できるものではありません。

 ―超勤多忙化の現状と教育条件・勤務条件の改善について伺います

 教職員の過酷な長時間労働の常態化の抜本的解消には①基礎定数増による教職員定数改善②現行「学習指導要領」の内容削減とそれに基づく年間の標準授業時数の削減による業務削減―が必要不可欠であり、また、長時間労働抑制に向けた法的な措置として「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、給特法)」の廃止・抜本的な見直しが必要であると考えます。加えて、中学校・高校においては、平日を含めた部活動の社会教育への移行が必要と考えます。

 こうした考えのもと、今論争となっている財務省案と文科省案について評価すれば、どちらも教職調整額の引き上げ方法・割合に力点が置かれている点で不可です。

 財務省案は「一定期間ごとに時間外在校等時間縮減を確認した上で、翌年度の教職調整額を段階的に引上げ数年かけて教職調整額を4%から10%にする」とするものです。財務省案の根底には、文科省の進めてきた働き方改革が効果をあげていないことから「給与を上げても働き方が変わらなかったら、職場の魅力は上がらず、教員不足も解消されない」とする考えがあるようです。

 この考え方は正しいのですが、教員を増やさずに、あるいは、一人当たりの業務量を減らさずに、時間外在校等時間を減らすのは困難です。また、時間外在校等時間が減らなければ教職調整額は変わらないことになることから、各級の教育委員会が表面上の時間外在校等時間を下げることに躍起になれば、持ち帰り残業や残業隠しなどの問題が生じるだけです。

 文科省案は、教職調整額を13%に引き上げ大幅な処遇改善で教員のなり手を増やそうとするものです。文科省は「(時間外在校等時間縮減を)給与上のインセンティブとして設定することで必要な教育指導が行われなくなる」として財務省を批判しています。しかし、文科省案も処遇改善だけで、定数改善もわずかであり、実効ある業務削減策は全く示していません。

 両省とも最も大事にされるべき現場教職員の切実な声を全く受け止めていないことが最大の問題です。

 財務省案は「授業以外の業務削減を徹底」としていますが、小学校では一人当たりの持ち授業時数の過多が超過勤務の最大の要因であり、中学校では部活動指導が超過勤務の最大の要因です。従って、これらにメスをいれないで抜本的な業務削減はあり得ません。文科省案もまた、授業時数や学習内容の削減に踏み込もうとしていません。

 また、文科省が一層進めるとしている「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づいた市町村教委や現場段階での業務削減については、現実的に無理があるから2019年の提起から3年間でわずかな改善にしか至らなかったのであり、このことは今後においても同様で効果は期待できません。

 現在、小学校の実態は「日本型学校教育」を前提に、所定の勤務時間7時間45分(465分)のうち、登校から下校までの約7時間30分程度(450分)が、1日の日課(時程表)に基づいて教員の業務が進められるため、個人による業務の削減・改善の余地はほとんどありません。所定の勤務時間のうち、日課(時程表)に拘束されない時間は、休憩時間を除くと15分程度しかなく、この時間の中で、教職員の本来業務である授業準備、教材研究、テストの採点、宿題・ノートの点検など、日常的に不可欠な業務ですら全て行うことは不可能であり、本来業務自体が所定の勤務時間外に行わざるを得なくなっているのが現状です。

 それ以外にも調査・報告や会議、保護者対応などの業務があり、中学校・高校ではさらに部活動が加わります。

 このように、子どもたちへの教育を行う上で必要不可欠、かつ、直ちに取りかからなければならない業務に日々追われているのが現実であり、「教員の業務はどこまでを職務とするかの線引きが難しい」とする議論すら、現状では実態と乖離(かいり)したものと言わざるを得ません。

 学校現場が求める業務削減は、現行「学習指導要領」の内容削減とそれに基づく年間の標準授業時数の削減に尽きるのです。

 また、中学校・高校では部活動が超勤多忙化の大きな要因になっています。しかし、部活動の地域移行についても、各市町村に丸投げ状態になっています。これでは、もともと地域移行に向けた素地が整っている市町村や競技等では一定程度進捗が期待できるかもしれませんが、それ以外の地域・競技等へと波及することはほとんどないと思います。もともと素地が整っている地域をモデル地域として、そのノウハウの共有を図ろうとする現在のやり方自体に無理があります。

 やはり、文科省・スポーツ庁・文化庁など、国が十分な予算を確保した上で、国主導で各地域において全ての地域に地域移行を進める部署を組織し、指導者も確保して移行を進めるのでなければ、一向に進みません。

 ―いじめ・不登校の要因と対策について伺います

 文科省によると、23年度の不登校の子どもの数は11年連続で増加し34万6482人となり、過去最高の数値を記録しました。いじめ認知件数も過去最多の73万2568件となり、前年度から5万620件(7・4%)増加し、そのうち重大事態も42・1%増の1306件と過去最多となりました。加えて、子どもの暴力行為も10万8987件と過去最多となっています。

 このように不登校数・いじめ認知件数ともに増加に歯止めがかからないことは異常な事態であり、現在の日本の教育システムそのものにほころびが生じていると感じています。

 不登校数およびいじめ認知数については、子どもの数の減少もあることから、千人当たりの数で分析する必要があり、かつ、長いスパンでの推移をみることが大切だと思っています。

 不登校については、「1991年~2001年までは小学校は千人当たり5人以下で微増、中学校は千人当たり約10人程度から約2・5倍の約30人弱に増加」「2002年~2012年まではわずかな増減はあるものの小中共にほぼ現状維持」「2013年から2023年までの間の10年で小学校は約2倍になり60人に1人、中学校は2倍以上になり17人に1人にまで急上昇」となっています。

 いじめ認知件数については、「1986年~1993年までは横ばいで小中共に千人当たり5件以下」「1994年のいじめの定義変更で小中共に一時的に増えるが全体として2005年までは緩やかに低下傾向」「2006年の再定義変更で小学校では千人当たり約15件を超え、中学校では千人当たり約10件となるが、2011年までは減少傾向」「2012年から2023年までの間の11年で小学校は約8倍以上、中学校でも約6倍に急上昇」となっています。

 こうしてみると、不登校数といじめ認知件数双方の推移に、一定の相関関係があることが分かります。「2002年から2012年までは不登校は現状維持で、いじめ認知件数は定義変更での増加は一時的にみられるものの減少傾向となり一定程度落ちついている」「2013年以降は不登校・いじめ認知件数ともに急増」という相関です。

 では、比較的落ち着いていたと言える2002年から2011年の時期はどういう時期だったのでしょうか。この時期は「学習指導要領」の第6回の全面改訂(小中共に2002年実施)によって、学習内容が厳選され、いわゆるゆとり教育が最も推し進められた時期です。

 一方、2012年以降は「学習指導要領」の第7回全面改訂(小学校2011年実施、中学校2012年実施)によって、脱ゆとりが叫ばれ、学習内容・授業時数ともに大幅に増加し、小学校外国語導入が行われました。

 私は、不登校数といじめ認知件数の増減と「学習指導要領」の内容との間に明確に因果関係があると思っています。昨今、詰め込みすぎの教育課程が「カリキュラム・オーバーロード」として問題になっています。分かりやすい例が小学校で、ほとんどの学校で2年生でも6時間授業があり、4年生以上の時間割が毎日6時間になっており「子どもは疲れきってもたない」「集中力を欠き、子どものイライラが増えている」などの現場の先生方の声を聞くようになりました。それだけでなく、学習内容も高度化しています。

 今必要なことは、子どもたちにとって「授業時数や学習内容が負担となっていないか」「学年に即したものとなっているか」などについて検証し、子どもの側に立った教育課程とすることだと思います。教育課程の見直しなしに、不登校数やいじめ認知件数の改善はないと思っています。

 そのため、日々子どもたちと向き合っている現場教職員からの提起が必要です。北教組として子どもたちの実態に即した教育課程の在り方を提起していこうと考えています。

 同時に学校を過度の競争的環境から解き放ち、子どもたちの気付き・発見を最大限尊重する学びの場へと変えて行くことが、我々の責務だと考えています。

 ―将来を担う子どもたちへの期待はありますか

 まず、学校だけが全てとは言いませんが、教育の機会均等の確保の観点から、現在の不登校の子どもたちが不安なく通うことができるような学校に変えるべきです。そのためには、授業展開まで画一的に押しつけるなど、現在の大綱的基準をはるかに逸脱した「学習指導要領」体制から脱却し、真のカリキュラム編成権を学校に取り戻すとともに、自発的・創造的な教育が行えるよう最大限の裁量を現場教職員に取り戻すことが肝要です。

 また、○○学校スタンダードなどとした学習規律や理不尽な校則から子どもたちを解放し、一人ひとりの個性を尊重し、ありのままの子どもを受け入れる学校とすることが大切です。

 私は、現在学校に通うことができないでいる子どもたちの中に、優れた能力や発想を持った子どもが数多く存在していると思っています。また、現在の硬直化した「学習指導要領」体制による学校は、不登校の子どもたちに限らず、子どもたちの意欲や発想・才能の開花を押しつぶしている側面が多分にあると思っています。

 ICT技術が不可逆的に発展する中、子どもたちは、興味さえあればユーチューブなどで、スポーツ・楽器の弾き方・ダンス、・ゲームのプログラミング・デザイン・数式の計算・生物の生態、科学の法則など様々なことを、自分が子どもの頃には考えられないような形で学ぶことができます。こういう状況だからこそ学校は、知識の詰め込みをやめ、学ぶことの楽しさこそをじっくりと体感させる場とすべきです。その上で、創造性や豊かな発想力・表現力を育てる場とすべきです。

 また、いくらDXやAIの技術が発展したとしても、人と人との関係性の構築が不必要にあることはありません。したがって、学校は、人と人との関わりや協働性を実体験によって失敗を繰り返す中で学び育てる場とすべきです。加えて、2000年代後半から教育においても台頭してきた効率的に成果を追及する新自由主義的な価値観から脱却し、子どもたちに遊ぶ時間や「無駄な時間」など、子どもでいられる時間を保障すべきです。

 現代の若者はコスパ・タイパを求めるあまり、逆に人生において大切なものを得る機会が少ないように感じます。何より、学校と塾に多くの時間をとられ、忙し過ぎます。

 北教組は、ほころびが生じはじめている現在の日本の教育システムそのものを根本的に見直すよう、粘り強く運動を進めていきたいと思います。北教組学校改革・教育課程自主編成推進委員会は「『自分らしく』『よりよく生きる』学びのための18の提言(2021年1月発行)」の中で、我々が目指すべき「学び」を提起しています。しかし、こうした教育実践を阻害しているのがカリキュラム・オーバーロードをもたらしている現行「学習指導要領」体制と教職員の超勤・多忙化です。

 まずは、教職員の超勤・多忙化を解消するとともに、子どもたちの実態に即した教育課程を提起できるよう、2025年度も一歩ずつ着実に取組を進めていきます。

(関係団体 2025-01-01付)

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