【解説】記号接地 教員への支援を
(解説 2025-09-09付)

 6年度全国学力調査経年変化分析調査では、調査以来初めて小中4教科の学力のスコアが低下した。分数・小数・整数といった算数の重要な概念を理解できない割合が上昇していることを示すデータもあり、学力格差拡大の兆候が見られている。

 中教審の審議の過程では、こうした状況の背景に「記号接地」の課題が挙がった。実体験を通じて抽象的概念を理解し、推論するプロセスを経て初めて「生きた知識」として活用することができる。しかし発達には個人差があり、必要な時間も大きく異なる。小学校のはじめに算数につまずいた場合の影響は長期に及び、学習性無力感を抱えることになる。

 認知科学の専門家である慶應義塾大学名誉教授の今井むつみ委員は、中核概念の「記号接地」を全ての児童生徒に保障するため、教育課程の柔軟化が必要と指摘する。「基礎・基盤の概念をしっかり接地させた上で、児童生徒の興味・目標・習熟度に合わせた学習プログラムを教師が設計できることが重要。調整授業時数制度によって、裁量的な時間をこうした学習に使う制度設計を進めてほしい」と期待する。

 次期学習指導要領に向けたキーワードには「学習指導要領の構造化」「柔軟な教育課程編成の実現」「デジタル学習基盤の整備」など様々あるが、「多様化する児童生徒に、深い学びを実現する」という一つの目標に結び付いている。

 今井委員は、記号接地を全ての児童生徒に保障するためには「教員への支援」が最も重要と強調する。「子どもが生きた知識を身に付けるための支援方法を探究する時間や理論的な裏付けが必要。学習指導要領が目指す“深い学び”や“多様性包摂”の重要性を、教員自身が“記号接地”することが求められる」と訴える。

(解説 2025-09-09付)

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