学ぶ意味 創造できる子を 道教育大学附属釧路小が研究発表会(学校 2015-08-19付)
道教育大附属釧路小研究発表会
【釧路発】道教育大学附属釧路小学校(村山昌央校長)は七月下旬、同校を会場に小中連携の教育研究発表会を開催した。道内外から四百人の教育関係者が参加。研究主題「自ら学ぶ意味を創造できる児童・生徒の育成~〝興味の質の高まり〟から〝学んだよさの実感〟へ」のもと、十一授業を公開した。このうち、五年二組の体育「ボール運動〝ベースボール型〟」(中村謙太教諭、児童数三十三人)では、子どもがチームの課題に気付き、チームの特徴に応じて、作戦を立てたり、練習内容を選んだりすることができるよう学習を展開した=写真=。
本年度は小中連携五カ年計画の二年次。各教科等の学習において、「状況的興味の喚起・維持」「個人的興味の出現」「発達した個人的興味の出現」を促すために手立てを講じていくことにより、子どもが興味の質を高めながら、気付き、知識、技能を獲得し、最終的に学ぶ意味を創造(=自律性を高める)していくことができるとの研究仮説を立て、研究主題に迫った。
公開授業のうち、五年二組の体育「クリケットブラスト」は、十時間扱いの七時間目。中村教諭は全体研究とのかかわりから、手立て(一)として「運動との出会いの工夫」、手立て(二)として「学習課題に気づかせ、自己の能力に適した解決方法を選択させる」、手立て(三)として「学習の成果を感じることができる評価の工夫」を掲げ、本時は(二)、(三)を意識した授業を展開した。
授業では、チームの課題解決を目指し、意図的な動きができるようチーム練習をさせたあと、ゲームに入り、後半ではチームごとに課題解決に向けた動きができたか話し合わせていた。
このあと、開会式と全体会に続き、十一の分科会を実施。授業者は共同研究者の教育大釧路校教員とともに発表に臨み、道教委や釧路市教委、学校長の助言を交えながら参加者は授業の進め方を考えた。
最後は、一般財団法人教育調査研究所の寺崎千秋研究部長が「自ら学ぶ意味の創造とアクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント」と題して講演。これからの授業は、「与えて・させて・見回る指導」から「聞いて・助けて・任せて・見守る学習支援」が大切であるとポイントを示したあと、教師のかかわり方・姿として、「ティーチャー」から「ファシリテーター、コーチャー、カウンセラー、コーディネーター、ディベロッパー、マネージャー」になるべきとアドバイスした。
◆興味の質的向上が自律性高める―2年次の研究
道教育大附属釧路小の本年度研究概要はつぎのとおり。
▼研究主題について
附属釧路小学校・中学校では昨年度より、五年計画で小中連携による研究を行うこととした。本年度はその二年次目にあたる。
我々が設定した研究主題は、「自ら学ぶ意味を創造できる児童・生徒の育成」である。
この「自ら学ぶ意味を創造できる」とは、内発的動機付けのように、学ぶことそのものが目的であり、自律的である状態は、ある意味理想的であると言うことができるが、統合的動機付けや同一化的動機付けのように、学ぶことがほかの目的に対する手段であっても、自律的になされている状態であれば、肯定的にとらえるべきだと考える。
このように、学ぶことが自律的になされている姿を、学ぶ意味を創造しているとみなすこととした。
▼自律性について
つぎに、「自律」についてである。自律とは、「やるべきこと」と「やりたいこと」の葛藤を現実原則にしたがって調整・統合することであるととらえている。一方、「やるべきこと」だけに縛られたり、「やりたいこと」だけに流されたりしているのは、「他律」であると考える。その「自律的に学んでいる姿」を目指すために、自律性を各教科等の学びの中で高めていくことが必要になる。
第二期教育振興基本計画で示されている三つのキーワードとの関連から考えてみると、「やるべきこと」を自分でこなすためにも、一人ひとりが役割が違うことを自覚しながら実行するためにも、「やるべきこと」だけに縛られず、「やりたいこと」だけに流されないように折り合いを付けていかなければ、つまり、自律性を発揮していかなければ、その先の「創造」は生み出されないであろうと言うことができる。ここでいう「創造」とは、一単位時間や単元の中で子どもたちが獲得していく「気付き・知識・技能」を示している。
研究主題「自ら学ぶ意味を創造できる児童・生徒の育成」とのかかわりから考えてみると、「自律性」を高めていくことによって、「学ぶ意味を創造する姿」につながっていくととらえている。
では、義務教育九年間の中で「自律性」をどのようにとらえ、高めていくことができるのか、そのイメージをつぎのように整理することとした。
小学校低学年では「やれること」を増やしていき、中学年ではその土台の上に自分の「やれること」を自覚できるようにし、高学年・中学校では自分が「やるべきこと」に納得し、その中から「やりたいこと」を見つけられるようにしていきたいと考えている。
自律性をこのようにとらえ、九年間の中で系統立てて育んでいくこととした。
▼小中連携のポイント
二年次目の研究を進めるにあたり、まず我々が着手したことは、「自律性のイメージ」を各教科等で目指すべき子どもの姿と照らし合わせながら設定することである。
そして、それらの姿を引き出していくために、有効であろう手立てを授業を通して模索していくことにした。
各教科等でイメージする目指すべき子どもの姿は、当然それぞれの発達段階において、最終的に目指す子どもの姿が異なってくる。また、それらの姿を引き出すために有効であろう手立ても異なってくる。
そして、それぞれの段階で目指す子どもの姿と、有効である手立てを明らかにしていくためには、どこかひと学年での実践・検証だけでは当然不十分となり、本研究においては「各自律性の段階」での実践、検証が必要となってくる。
そこで、五年計画の二年次目にあたる本年度と次年度三年次目は、小学校中学校が各教科担当者間で設定した「自律性のイメージ」のもと、それぞれの子どもの実態を加味しながら研究を進め、それら三年次目までに得ることができた成果を「九年間の系統」として整理し、四年次目に合同で発信していくという見通しにすることとした。
▼小学校一年次目の成果と課題
ここからは、本研究主題のもと、小学校として昨年度から取り組んできたこと、それらを踏まえて二年次目にあたる本年度取り組んできていることについて説明する。
まず、一年次目の研究から見えてきた成果と課題についてである。
一年次目の研究では、自律性を育んでいくための手立ての視点として、①「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」の調整を促すための工夫②「言語化」③「きょうどう」―の三つを設定した。はじめは、この三つが独立し、並列に存在するものととらえていたが、研究を進めていく中で、①「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」の調整を促すための工夫、という視点の中に、「言語化」も「きょうどう」も存在しうるものであるということが明らかになってきた。
また、先ほど述べたとおり、発達段階によって手立てが違うであろうということや、今後何を、どのように検証していくべきなのかを、明らかにすることができたことも大きな成果だととらえている。
一方、課題としては、手立ての視点「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」の調整を促すための工夫が、如何に子どもを学習内容に納得させたり、興味を持たせたりすることが大切であると考えるあまり、教師が「やるべきこと」に縛られた単元構想をイメージしてしまったり、講じる手立てが単元序盤に偏りがちになってしまった、ということが挙げられる。
また、言語化ときょうどうのおさえが各教科等によって異なるものとなってしまい、二年次目の研究を進めるにあたり、「言語化」と「きょうどう」は、手立てを講じる場や対象が「個」なのか「集団」なのかを基準として整理することとした。
ただ、一般的に「言語化」や「きょうどう」として挙げることができる「自己評価や相互評価」「教師のフィードバック」「集団思考の場」「ワークシートの活用」などは、すでに様々な先行研究の中でその有効性が明らかであり、一般化されていることから、それら一つ一つを取り上げて検証することは行わないこととした。
▼児童の実態
つぎに、アンケート調査によって見えてきた本校児童の実態である。本校では昨年度から、本研究とのかかわりにおいて「自律性にかかわるアンケート調査」を年二回行うこととした。先ほど、本研究で目指す子ども像について説明したが、本研究では、「学ぶことが自律的になされていく子ども」を目指している。
そこで、有機的統合理論の中で整理されている動機付けの四つの段階、「内的」「同一化的」「取り入れ的」「外的」をもとに、子どもがどのような動機付けで学んでいるのかをアンケート項目としてそれぞれ四つずつ具体化し、その変容を中期的スパンで検証していくこととした。
アンケート結果を分析すると、どの学年を見ても「内的」と「同一化的」の「内発的動機付け」の割合が高く、学年が上がるにつれて「内的」よりも「同一化的」の割合が高くなっていくこと、そして外的や取り入れ的の「外発的動機付け」の割合が低くなっていくことが明らかになった。
また、それぞれの項目に「一」、つまり「全くあてはまらない」と回答している児童の割合を整理していくと、「内的」「同一化的」の二つ目に設定している「難しいことにチャレンジすることが楽しいから」「自分の行きたい中学・高校・大学などに進むために必要だから」という質問項目に、「全くあてはまらない」と回答している児童がどの学年においても三〇%から五〇%いることが分かった。
なぜ、このような結果になったのか、「自ら学ぶ意欲の発達モデル」のグラフをもとに分析すると、「自己実現のために自ら学ぶ」という意欲は、小学校高学年あたりから中学生にかけて高まっていくものであり、そう考えると、このアンケート項目の結果は、モデルと合致しており、現段階で課題として取り上げる必要はないと考えることができる。
一方、「おもしろいから自ら学ぶ」という意欲は、小学校段階では「内的や同一化的」の内発的動機付けが高い時期であることを示しており、アンケート項目の数値には改善の余地があると考えることができる。
また、当然「本研究テーマ」との関連から見ても、内的や同一化的、などの内発的動機付けを高めていくことを目的としており、本研究テーマが本校児童の実態と合致しているととらえることができる。
▼二年次目副主題「興味の質の高まり」について
それでは、ここからは一年次の成果と課題、児童の実態を踏まえ、二年次目の研究においてどのような視点に主眼を置き、研究を進めてきたのかについて説明する。
新たな学習を進めていく中で、子どもが「なぜ今それを学ばなければいけないのか」「学ぶことが必要なのか」感じることができたとしても、その感覚は、本当の意味で「学ぶ意味を創造できた」と言うことはできないと考えている。本当の意味での「学ぶ意味を創造する」とは、その学習が終了したときになし得るものであり、そのためには、単元の序盤においてもつことができた興味を維持したり、単元の終盤において学習に含まれている価値を自覚したりすることによって、「学んだ良さ」を子ども自身が実感することが必要であると考えた。そうすることによって、子どもは「自分ができるようになったことを自覚」し、つまりそれは「自分の成長を実感」し、「つぎの学習への意欲・動機付けの向上」へとつながっていくのである。
そこで、我々が着目したのが「興味発達の四段階モデル」というものである。これは「興味研究」という分野の中で、学習において興味がどのような役割を果たし、動機付け機能を有しているのかをモデルとして整理したものである。
このモデルの四つの段階は、はじめは外的な要因によってもつことができた興味が、課題の提示やその意味、他者とのかかわりによって維持され、次第に新たな知識を獲得したり、その学習課題に含まれている価値を自覚したりしながら、自分なりの課題をもつことができ、その自分なりの課題を解決することによって、さらに新たな知識を獲得したり、自分の学びを振り返ったり、価値付たりすることができ、つぎの新たな学習へのさらなる意欲、動機付けへとつながっていく、ということを示している。
つまり、「状況的興味」を「個人的興味」へ、「個人的興味」を「発達した個人的興味」へと質的に高めていくことが新たな学習への動機付けを高めていくこと、自律性を高めていくことになり、そのためには、情緒面の高まりだけではなく、その学習の中で獲得しなければならない気づきや知識・技能を獲得していくことが必要である、ということをも示しているととらえることができる。
▼自己肯定感と自己効力感
学習の過程で興味の質を高めながら、「新たな知識・技能を獲得したり」、「自分の学びを振り返ったり、価値付けたり」、「新たな学習への意欲、動機付けを高めたり」していくためには、その学びの結果として、どのような肯定的感情を得ることができたのかということを重視していく必要がある。
本研究主題、そしてアンケート調査から見えてきた「本校児童の実態」と照らし合わせて考えても、このことは合致しているととらえることができる。
それでは、どのような学習過程を踏んでいくことが、自己肯定感を高めていくことにつながるのか。人が課題に積極的に取り組むためには、その活動に興味をもつだけではなく、その活動をうまく遂行できるという自信をもつことが必要であり、ある課題に直面した時に、期待される結果を自分の知識や技能などによって、とらえることができるという自信や見通しをもつことが大切だと言われている。それが「自己効力感」と呼ばれている力である。
つまり、学習の結果として自己肯定感を高めていくためには、その過程で自己効力感を発揮したり、高めたりしていくことが重要である、ととらえることができる。
この考えをもとに、学習と、学びの過程でどのように「自己効力感」「自己肯定感」を高めていくのか、子どもが学習に取り組む際、課題に対して「この方法でやってみよう」「これだったらできそうだ」という見通しや自信、つまり自己効力感を発揮し、課題の解決、目標の達成に向けて、課題解決方法の選択・適用をしながら、「この方法でできそうだな」「少しずつできるようになってきたぞ」と学習活動に取組み、その結果、「こういうことだったんだ」と学習課題に含まれる価値を自覚し、「できるまで頑張って良かった」と、自己肯定感を高めることができ、さらに、つぎの新たな学習対象と出会う際に、過去に発揮した「自己効力感」をより高めながら課題に向き合っていくことができると考えることができる。
当然、この過程において失敗をしたり、繰り返し考えたり、試したりしながら再吟味していくことにもなる。
▼「興味の質の高まり」と「自己肯定感・自己効力感」を関連付ける
今まで説明してきた「興味の質の高まり」と「自己効力感・自己肯定感」の考え方を、つぎの二つのパターンに整理することができた。
一つ目は、「単元、題材を通して一つの課題に取り組む」または、「一単位時間ごとに新たな課題と出合い、つまり課題が毎時間、更新されていく」ケース。二つ目は、「単元、題材の中で『興味の質』を高めながら課題の更新が繰り返される」ケースである。
一つ目のパターンは、例えば算数科である。算数の学習では、基本的に毎時間新たな学習課題が提示される。そして、その時間で「結果」として獲得することができた「知識や技能」を用いて、つぎの時間の新たな学習課題に向き合っていくことになる。
二つ目のパターンは、例えば理科である。理科の学習では、日常とのかかわりの中から問題を焦点化し、予想・仮説のもと、実験に取り組む。その実験で得ることができた結果をもとに、条件を変え再度実験に取り組んでいくことで、初めに得ることができた知識がより一般化されたものへと変容していく。
各教科等の特性に応じて、どちらのパターンで考えていくのか、整理し取り組むこととした。
▼研究の視点の具体
以上のことを踏まえて、本年度の研究の視点を、自律性を高めるための視点として「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」の調整を促すための工夫があり、それを一つの単元・題材において具体化したものとして「状況的興味の喚起・維持を促すために」「個人的興味の出現を促すために」「発達した個人的興味の出現を促すために」「言語化」「きょうどう」とすることとした。なお、「言語化」と「きょうどう」については、先ほど述べたとおり、検証の視点としては設定していない。
▼単元・題材の基本イメージ
最後に、単元、題材の基本イメージである。「状況的興味の喚起・維持を促すために」では、新たな学びに興味をもつことができるようにすること、その興味を維持できるようにすること、「個人的興味の出現を促すために」では、維持できた興味を土台として、その子自身が課題を自覚しながら学んでいくことができるようにすること、「発達した個人的興味の出現を促すために」では、解決できた自己の課題を生かして学習に取り組むことで、学ぶ良さを実感したり、自分の成長を実感したりしていくことができるようにすること、を手立ての具体を考える際の視点として設定した。
興味の質を高めながら、気付き・知識・技能を獲得し、その過程で自己効力感を発揮したり、高めたりしながら自己肯定感を高め、それが「学ぶ意味の創造」=(つまり)「自律性の高まり」に直結すると考えている。
▼研究仮説
以上のことから、本年度の研究仮説を各教科等の学習において、「状況的興味の喚起・維持を促すために」「個人的興味の出現を促すために」「発達した個人的興味の出現を促すために」手立てを講じていくことにより、子どもが興味の質を高めながら、気付き、知識、技能を獲得し、最終的に学ぶ意味を創造(自律性を高める)していくことができるであろうと、設定することとした。
(学校 2015-08-19付)
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